女嫌いの俺が女に転生した件。
17話 えぇ〜歓迎会当日ですけども……スゥゥ
ついに歓迎会当日。部屋のドアがノックされた。
「出てきていいよ〜」
先輩達の声。
「ソフィ、行こう」
「うんっ!」
ソフィが無理矢理手を握ってきたので、手を繋いだまま部屋の扉を開ける。
「っ! おぉ……」
「わぁ〜!」
数日前まで何も無かった廊下が、綺麗な花や飾り、カッコイイ絵などが飾ってあって豪華になっている。床も赤いカーペットになっていて、とても綺麗だ。
周りでも、部屋から外に出てきた新入生達が喜んでいる。
──ザワザワ
急に周りが静かになった。
「おはよう。クロアさんとソフィアさん」
「あ、おはようございます」
「……誰?」
「学園長のベリアストロさん。一番偉い人だよ」
「偉い人!? ど、どうしてここに?」
周りの生徒達と同じようなリアクションをしている。
「クロアさんに会いに来たのよ」
更に周りが騒がしくなった。これじゃ目立ち過ぎじゃないか……。
「あの、学園長……これから何を……?」
「本来なら新入生は先輩達と学園探検。でもクロアさんとソフィアさんは特別に、私と一緒に探検しましょう」
「探検! クロアちゃん! 探検しよっ!」
「う、うぅん……うん」
まあ前からそう言われてたし……学園長だから断る訳にもいかない。
「では行きましょうか」
「えっ……」
「わぁ〜綺麗〜……」
俺の手を握って、驚く生徒達の間をスルスルと進んでいく。ソフィアは俺の手を掴んで周りの景色を楽しんでいる。
気まずい……先輩達の目が痛い……変な風に思われてないよな。
「あ、あのっ! 学園長、これからどこに?」
「そうねぇ……私の部屋にでも行きましょうか」
生徒達がいない場所にやってきて、学園長の足が止まった。
「私にしっかり捕まってて」
「捕まって……?」
「うん!!」
"捕まって" とはどういう事だろうか……嫌な予感がする。ソフィはワクワクしながら待ってるみたいだけど。
学園長が地面を蹴って、カツンという音が響いた。
「……うわぁっ!?」
「わっ!」
その瞬間、身体の浮遊感と周りの景色がギュンと変わっていく感覚がやってきた。
気づけば、茶色と赤のシンプルな部屋の中にいた。
「おえぇっ……気持ち悪い……」
「クロアちゃん大丈夫?」
酔ったかもしれない。ソフィはよく元気でいられるな……。
「今治すわ」
学園長が俺の背中を軽く撫でただけで、気持ち悪さが嘘のように消えていった。
「す、凄い……」
「わ、私も気持ち悪い! クロアちゃん撫でてっ」
「これは魔法だから、使える人じゃないと撫でても意味無いの」
そういいながら笑顔でソフィの背中を撫でる学園長。それに対しガッカリした表情を見せた。
「ソフィ。ちゃんと礼を言うんだよ。ありがとうございます」
「っ! ありがとうございます!」
「どうも」
改めて学園長の色気というのは凄いな。『女!!』っていうフェロモンがモンモン漂ってくる。
その割には、この部屋はとてもシンプルだ。壁は全て棚になっていて、本がビッシリと詰めてある以外は普通だ。
「ここが学園長室ですか?」
「そう、基本的に私はここにいるの」
ふと、窓の外へ目をやると白い何かが動いている。
「……? ……あれは?」
「あれはただの雲よ」
「雲……雲!?」
「そう。ここはフロンガード学園で最も高い場所にあるから、雲がすぐ横を通るのよ」
この学園を作った人は一体誰なんだ……凄すぎる。それに高さの割には酸素も問題なく吸える。魔法か何かだろう。
「今日は、2人に高い場所から見下ろした王国の景色を見せようと思ったの」
「見てきていいのっ!?」
「いいですよ」
「わぁやった!!」
「ちょっ、ソフィあんまりはしゃぐなよ」
バタバタと走って窓に顔を貼り付けた。
「いいのよ。何ならクロアさん、貴女もあれくらいはしゃいでくれたら良いのに……今のままも素敵だけどね」
「辞めてください」
「ふふ、冷たいのね」
この学園長……普通に女好きがいたら一発で惚れそうだな。笑顔といい振る舞いといい、全てにおいて完璧。いやでも性格がダメだな。
「窓の外、見てきてもいいですか?」
「どうぞ」
「クロアちゃんおいで! 凄いよっ!」
ソフィの横に立って、窓から下を見下ろす。
「おっ……………………」
あまりの絶景に言葉を失ってしまった。
王国のほぼ全てを視界に収めることができ、屋根の色や建物の並び、道の続いている場所。そして俺の住んでいた家までもが、一目で見ることが出来た。
「夜に見たら綺麗だろうなぁ……」
と、無意識に口に出してしまう程だ。
「じゃあ夜にまた来る? いつでも迎えに行けるわよ」
「いいんですか?」
「ええ、クロアさんの事ならなんでも言うこと聞くわよ」
ん……今なんでもって……いやいい。夜に迎えに来てもらうか。
「じゃあ……暗くなってからお願いします」
「分かったわ」
これで今日の楽しみが増えたなぁ……。
と、更に下を眺めていると、学園の敷地まで目に入った。
ここから何でも見えるんだな。
何やらグラウンドで大勢の人が集まっているようだ。
「学園長さん。グラウンドで何かやってるんですか?」
「グラウンド? ……あっ! ほんとだ! 沢山いる! どうして?」
「生徒達がダンスを披露してるのよ。他にも歌ったり、漫才したり。色んな芸を考えてたみたいよ」
へぇ〜……この世界も案外平和なんだな。
「見に行ってみる?」
「あ、いえ。そういうのは興味無いんで」
「クロアさんの興味のある事って何があるのかしら……」
「ゲームとか……」
あ、そういえばこの世界にゲーム無いんだったな。
「ゲーム……チェス、やってみる?」
「えっ? あるんですか?」
「ええ、異世界の文化なんだけどね」
異世界の文化……やっぱり俺以外にもこの世界に転生したりしてきた人がいるのだろう。
「異世界の文化について色々と教えて貰ってもいいですか?」
「それなら、この本を読むのが早いわ」
学園長が指先で何も無い空間をなぞると、大きな本棚の中から1冊の本が出てきた。
「全ての本の位置を覚えてるんですか……」
「内容も全て覚えてるわ」
ならこの本売って金にすればいいのに。……勿体無いか。
太い本が俺の前にフワフワと浮かんでいる。
「文字は読める……わよね?」
「はい。ティライさんに教えてもらいました」
「あの人……私よりクロアさんと仲が良いのね」
「付き合い長いですからね」
「わっ! 私もクロアちゃんと仲良いもん!! ねっ!!」
「そうだね〜」
「やったぁ!!」
ずっと窓の外を眺めていたと思っていたら、いつの間にかソファの上に横に寝ていたソフィ。退屈そうに足をプラプラさせている。
「その本なぁに?」
「異世界の文化について書かれてるらしいんだ。面白そう」
「……よく分かんない」
「ちょっと座らせて」
「うんっ!」
ソファに座って、太い本を開く。
目次と思われる最初のページには、たった一行しか書かれていなかった。
──"異世界" それは、我々がいる世界とは異なる別世界である──
それは知ってる。
次のページを開くと、やっと目次が現れた。
──1p〜40p.そもそも異世界とは。41p〜113p.異世界から来た人達。114p〜131p.異文化。132p〜200p.私的考察。201p〜230p.この世界に及ぼす営業。231p〜250p.まとめ
全て読むにはかなりの時間がかかりそうだ。
「その本、貸してあげるわ」
「えっ、いいんですか?」
「全て読むには時間がかかるもの。じっくり自分のペースで読んだ方が良いわよ」
「ありがとうございます」
無くさないようにしないとな。もし無くしたら怖い……凄い顔で怒られそうだ。
「クロアちゃん、私にも構って〜!」
「分かったから……。学園長さん、この後どうするんですか?」
「2人の好きにしていいわ。下に行って皆の芸を見るのも良し、この部屋で遊んでも良し、部屋に帰っても良し」
「学園長さんは?」
「勿論、着いていくわよ」
あ、じゃあこの部屋で遊んでていいや。
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