女嫌いの俺が女に転生した件。
10話 レズビアン学園長
「ここがクロアちゃんの部屋。A-975号室、覚えた?」
「一応……なんとか」
この学園にはかなりの数の部屋があるようだ。975号室、9階にある部屋でA-が付くのは帰属の部屋だかららしい。貴族と一般市民の部屋の違いはA-が付くか付かないか。
俺の部屋の横はA-が付いていない。
「一応、一つの部屋に2人が入ることになってるの」
「この後に誰か来るのか?」
「いつになるかは分からないけど、数日中には来るよ」
なるほど。とりあえずしばらくはこの部屋を自由に使ってもいいのだろう。
ベッドは2つ。それぞれ横にテーブルと魔道具のランプ、そして棚がある。
部屋の一番奥にあるベッドの横にリュックを置いて、必要な物を取り出す。
「それは……?」
「メモ。部屋番号忘れたら困るから」
テーブルの上に、白い鳥の羽根が1枚と黒いインクがある。これで字を書くのだろう。本にもそう書いてあった。
"A-975 クロアの部屋"
この世界の文字もかなり覚えた。5歳にしては凄いことだろう。
「じゃあ私は先生にクロアちゃんが来たの伝えてくるわね」
「どうして?」
「会いたいって人がいるのよ」
「そ、そうか……」
少し寝ていたかったのだが、どうやらゆっくりする暇は無さそうだ。
ティライが部屋から出ていった後、俺は部屋の中を探索した。
まず最初は大きなクローゼット。中は服を入れれるようになっていて、ホコリ一つない綺麗な空間だ。こんな場所を見ると、秘密基地を作りたくなる。
次にベッドの下。ここもホコリが全くない……凄いな。
窓からは9階から見える王国の綺麗な街並みが一望出来る。窓を開くのは危なさそうなので辞めといた。
そして、最も重要なのはベッドの寝心地だ。
「ほっ!」
ベッドに飛び乗ると、ボフンと体が跳ねた。
それでもホコリが舞うような事は一切無く、枕も丁度良い高さだ。布団はモコモコしている。
モコモコした布団は珍しいが、枕と顔の間に入れて寝るととても気持ちが良い。
「幸せ……」
このまま寝ていたいのだが、とりあえず制服に着替えた方が良い。
バッグから黒色の学園指定の制服を取り出す。
デザインが前世の制服と違って、かなりオシャンティーだ。首元には赤のリボン。縫い目も赤で統一してある。とにかく、女の子が好みそうな可愛い制服だ。
正直着たくない。
スカートもソックスも学園指定。ソックスは膝上4cmくらい。スカートは短すぎてジャンプした時にパンツが見えそうだ。
「うぅ……着ないといけないのか……」
学園指定だしなぁ……着ない訳にもいかないし。まあ他の皆もこんな制服を着てるんだろうし……着るしかない!!
ーーーーー
恥ずかしい……。ワンピースよりもスカートの中に空気が入って変な感じがする。
「クロアちゃん。失礼するよ〜」
ティライの声がして、とっさに布団で体を隠した。
「学園長のベリアストロさんです……って、もしかして着替えてた?」
「いっ、いえっ! 初めまして!」
ベリアストロと呼ばれる人物は女性。紫でフワッとした髪で、まるで日本の着物のような服を着ている。そして何故か片手には扇子。
「ふふっ、初めまして。確かに他の方よりも賢いようね」
「でしょう!? 1歳の時から一緒に居たんですけど、ずっと賢いままなんです! 甘えたりもしなくて!」
「まあ……クロアさん。ちょっといいかしら?」
「な、なんでしょう」
学園長は、さっきまで俺がいたベッドに座って、俺を横に座らせた。
色気のある雰囲気で、俺の顔を覗き込む。
「……とても美しい顔をしてるのね」
「あ、ありがとうございます」
「チュッ」
「えっ!?」
突然、俺の頬にキスをされた。
驚いて固まっていると、今度はその唇が俺の口元へと近づいてきて……。
「ちょっ、な、何なんですか!?」
俺は思わず学園長を押して、逃げてしまった。
悪いことをしてしまった気がする……でも、急に変なことしてくるのが悪い。
「あら残念」
ふっと微笑んで、学園長はティライの方へ戻っていった。
な、何だったんだ……。
「あの、が、学園長さん……?」
ティライも気になって聞いているようだ。
「……私、この際だけど言わせてもらうわね。実は同性愛者なの」
「えっ……」
「え」
「「えぇぇぇぇぇええええ!?!?」」
さっきのキスに何の意味も無かったのか!? じゃあ俺は……学園長にキスをされたって事だから……俺は学園長に気に入られた!?
「ど、どういう事ですか学園長!」
「可愛い子を見ると我慢できないのよ。そこのクロアさんは……特別以上に美しいわ」
嘘だろ……俺、女になってまでも女に好かれてしまうのかよ……。もう俺は男との友情で満足だってのに。
「クロアさんの顔を見れた事ですし、私はこれで失礼するわ」
学園長が静かに部屋から出ていくのを、俺とティライは静かに見つめるしかなかった。
「…………あっ、ク、クロアちゃん! 凄かったね!!」
顔を赤くして迫ってくるティライに、何故か俺は引いてしまった。
「学園長さんに好かれるなんて……羨ましい……」
「も、もしかしてティライも……」
「違うわよ? 私はノーマル! でも、学園長に好かれる事はとても有難い事なのだから、喜びなさい!」
「は、はい……」
喜べないよ……。
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