女嫌いの俺が女に転生した件。
8話 少年漫画のようなカッコいい動きは非現実的だ
朝からティライが "窓" からやってきた。
「剣術の練習するよ〜?」
「しないよ」
「え? どうして?」
もしかしてティライは知らないのか。子供を狙った誘拐事件。
「最近、外で物騒な事件が起きてるみたいだから危ないでしょ?」
「へぇ〜、庭でするくらいなら大丈夫なんじゃない?」
庭ねぇ……まあ確かに、流石に人の敷地内に入ってまで誘拐しようとする馬鹿はいないだろう。更には貴族の家に。
「じゃあ庭だけで、お願いできる?」
「任せて! クロアちゃんは私が守る!」
貴族の家の敷地内、更には家の中に窓からの不法侵入を行う教師の言葉は信用できないな。コイツが犯人じゃないの?
ーーーーー
いつもの運動用の服に着替えて庭に出ると、既にティライが準備をしていた。
「いつ見ても可愛いね。抱いていい?」
「その木は何?」
「あ、これは人に見立てて斬りつける為の物よ。ちゃんと部位ごとに印があるから、分かりやすいでしょ?」
ティライのボケに一々突っ込んでるのも面倒なので無視することにする。
「ちなみに、今日から使う剣は本物の剣だからね」
バッグから取り出された、かなり重厚感のある剣。カッコいい……。
「左手で鞘を持って右手で引き抜く。やってみて」
「分かった」
実際に持ってみると、かなりの重さがある事が分かった。まあ無意識に魔力で腕を強化するからあっという間に軽くなるんだけど。
言われたとおり、利き手の右手で引き抜く。
キーーーーン
「おお……」
金属の擦れる音が耳に響いた。
「刀身は触っちゃダメよ。怪我するから」
「それくらい分かる」
「クロアちゃんなら当然よね」
「で、これからどうしたらいい?」
剣を抜いたものの、俺はちゃんとした持ち方を知らない。その為、どこをどうやって持てば良いのかゼロから聞かないといけない。
「右手を上の方に…………そう。左手は下に……まあいいんじゃない?」
「……持ちにくい」
なんだろう……慣れないとかそういうのじゃなくて、そもそもの持ち方が俺に向いてないような……。
「ちょっと待って……」
試しに左手で持ち手の上の方を持った。右手は下に添えるだけ。
「……うん。これが持ちやすい」
「ほへぇ〜……クロアちゃん、普段は右利きなのに剣になると左利きになるんだ」
もしかするとこの体自体元々左利きなのだろう。
「じゃあ早速だけど、この木になるべく素早く攻撃を当てて。あ、連続でね」
「いまいちイメージが掴めないなぁ……」
とりあえず、胴体を正面から斬りつけて、次に頭に突きを入れてみるか。
勢いよく斜めに振り下ろした刀身の先が、木製の人形に浅い傷をつけていく。そしてすぐに頭に突き!
サクッ
刺さって抜けなくなってしまった。
「まさかいきなり突きをするとは思わなかったわ」
「ははは……」
剣技での高速攻撃といったら突きなんだが、実際にやってみると突き刺さって全然ダメなんだな……。
少しカッコよさを求めすぎたぜ。ふっ……。
「よいしょっ! あちゃ〜……ボロボロ……」
「あ……」
「まあ大丈夫でしょ!」
人形に深く突き刺さった剣は、かなりボロボロになっていて切れ味も悪そうだ。
「まあ、これで殺傷能力が無くなって安全になったんだし、結果的に良かったね」
「修理とか大丈夫なのか?」
「うん。だってこれ1銀貨の安い剣だから。あ、銀貨とか分かる?」
「分かんない」
初めて聞いたな。この世界での通貨だろう。
「えっとね。物を買う時に必要な物があって、それがこの硬貨」
そういってポケットから金色の小さなメダルを取り出した。
「銅貨、銀貨、金貨っていうのがあって。銅貨1枚で100マニーの価値。銀貨1枚1000マニー。では、金貨はどうなるでしょう」
「10000マニー?」
「正解! つまり、今の私は10000マニー持ってます!」
マニーっていうのはよく分からないが、銅貨10枚っていうより1000マニーと言った方が楽なんだろう。
つまりこの剣は銀貨1枚、1000マニーの価値しかないのか。
「クロアちゃんが王国騎士になったら、金貨が沢山手に入って高級な剣が買えるんだよ!」
「金貨が沢山…………」
諭吉が沢山あると考えると……天国だ。
「よし……やる気出た。剣術の練習続けるよ」
「じゃあ頑張ったら銅貨5枚あげるよ!」
ほお、お小遣いみたいな感じか。
「毎日よろしく」
「真面目に取り掛からなかったら銅貨5枚貰います!」
これで銅貨が毎日プラスになれば、頑張ったという証拠か。良いな。
それから俺は毎日剣術の稽古を行った。頑張ればお金が貰えるというモチベーション維持効果もあってか、段々と成長してきたのが分かる。
ーーーーー
〜3歳の誕生日。その頃には銅貨145枚集まっていた。マニー換算で14500。凄くないか?
いや、更に毎日真面目にしていたら倍の数は貰えてただろう。
「頑張って貯めたマニーで、私専用の剣を買ってきてほしい。誕生日プレゼント」
ティライに誕生日プレゼントを買ってきてもらうように頼んだのだが。
「プレゼントに自分の金を使うのは良くないよ」
だそうだ。
「じゃあ剣はプレゼント関係なく買ってきてほしい。プレゼント楽しみにしてるよ」
「本当にいいの……?」
「自分の剣があればやる気でるでしょ?」
「もっと他のに使った方が良いんじゃない?」
「大丈夫」
だって3歳の子供が14500マニー持って服買ってたらどう思う。
「クロア〜誕生日おめでとう!!」
「ありが……とっ!」
母ミリスが抱きついてこようとしてきたので、稽古で手に入れた動きで華麗に避け……。
「んっ!!」
「うぇっ……」
れなかった。
大人の意地って凄い。
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