女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

5話 天才とは1%の閃きがないと99%の努力は無駄



あれからなんだかんだで半年が経った。


「はぁ……」


俺の目の前でため息を吐いているのは家庭教師のティライさん。


「仕方ないじゃんか。いつまで経っても上達しないし」
「上達しないのは貴女が訓練に真面目に取り掛からないからよ? 努力しないで成長する人なんていません」
「そう言われても……」


重い剣を持ったままでは、それなりに動けるようにはなった。魔力量が増えたからだ。
しかし、適切な量に分けて魔力を使用する、という細かい訓練が難しくてモチベーションが保てない。
結局、半年経っても特に剣術の進展は無かった。


「もう魔法使いになりなさい……」
「嫌だ。騎士になる」
「じゃあ真面目に努力しなさい!」
「煩い……分かってるけど楽しくないんだよ」
「当たり前でしょ!? 命を守る為にしなければならない努力が楽しみ訳ないでしょ!?」
「そうやって叫ぶから嫌いなんだよ……」
「こんのっっっっ…………はぁ……」


俺に殴りかかろうとして、辞めた。
いくら教師だろうと、貴族の娘に手を出したら犯罪になる。軽くて奴隷。酷くて死刑。


「まあティライの気持ちも分かる……私も自分がどうして努力できないのか分からないんだ」
「……そうね……まだ半年だもの。期待し過ぎたのかもしれないわ」
「私には才能なんて無い……」


一般的に出来るようになるのは1年だ。それが半年で出来ないからって諦めるのは良くない。


「最近……お互いに疲れてるわね」
「そうだな……」


俺もティライも、まるで魂が抜けたかのようにボーッとしていた。


「…………なぁ、ティライ」
「何?」
「楽しくないのって……友達がいないからだと思うんだ」
「友達……そうね。一緒に努力する人がいないものね……」


前世で引きこもりだった俺の癖で、特に理由のない外出は控えてるんだ。友達を作ろうともしなかった俺が、考えを変えたという事はかなりキツい状況だからだ。


「……散歩しましょうか……」
「そうだな…………」


外に出れば息抜きになるだろう。


ーーーーー


私服。といってもただのワンピースで、そのまま外に出る。
 風が吹いているせいで、スカートの中がスースーして気持ち良い。パンツを脱いだら更に気持ち良さそうだな。
 ……こんな事を考えるようになったのも、かなり追い込まれてるからだろう。


 ティライさんは、仕事が休みの日も家に来てくれる。迷惑な話だが、今日は仕事が休みだから一緒に散歩できるのだ。


「どこかに友達落ちていないかなぁ〜……」
「人通りの少ない場所歩いてても誰もいないわよ」


だよなぁ……俺、人が多いところ苦手なんだよ。


「おい、バルロッテ家の娘じゃねぇか?」
「こんなところにまで来るのか」


なんていう声も、俺の耳にはこう聞こえる。


「バルロッテ家の娘がいるぞ……」
「なんでここに来たんだよ……帰れ」


まあ、これは単なる思い込みなのだが、俺はなんでもかんでもネガティブに捉えてしまう。


「……子供……いないわね」
「ほとんど家の中で勉強してるんだろう」


1歳が外に出歩いて友達探し。不自然すぎるだろ。
 それも家からはそれなりに離れた距離。それを、頭の後に手を組んでダラダラ歩いてるなんて、1歳とは思えない。


「やっぱりこの歳じゃ厳しいか……」
「何おじいさんみたいな事言ってるのよ」
「それ言うならおばあさんだろ?」
「おじいさんに見えるわ」


はいはい。そりゃ中身が男だからですよ〜っと……。
 全く……人生始まってそうそう、『つまらない世の中だ』なんて思ってしまうなんて……。


「あぁそうそう……この近くに私のお気に入りの坂があるから、そこで休みましょう」
「そうだな〜」


ーーーーー


緑の生い茂る坂。そこに横になると、とても心地良い。


「ここがお気に入り?」
「そう。ここで目を閉じて、川の流れる音や風の音を聞くの」
「……」


目を閉じると、心が浄化されるような気持ちになった。


 目を開けると、さっきまでの音を奏でていた川や、風に揺れる草木が視界に入ってきた。
 ザワザワと揺れる木…………風に揺られて……一枚一枚の葉が…………。


「っっ!!」
「ど、どうしたの?」


何かが分かった気がする。いや、何が分かったのかは分からないが、俺の中の感覚が何かを理解した。


「剣! 持ってきてる!?」
「あ、一応いつでも帰れるように持ってきてるけど……」
「貸してっ!」


すぐに剣を持って、俺は構えた。
 目を閉じて、先ほどの木を思い出す。風に揺れる一枚一枚の葉が、同じ力で揺れる。
 大きな一本の木から、無数の枝に分かれて栄養が行き渡り、綺麗な葉となって……。


「……ティライ……今の私なら行ける気がする」
「ほ、本当?」
「すぅ…………ふぅ〜…………」


深く深呼吸をして、魔力の量を調節する。


「…………はっっ!!」


足に力を入れて体重を支え、ティライさんに教わった剣術の動き。全身の筋肉を使った『剣舞』と呼ばれる動きを完璧にやってみせた。


「………………」


あれ……息が出来ない……。


バタッ
「す、凄い! けど魔力切れを起こしてる! 大変!!」


俺は魔力切れで気絶したようだ。


ーーーーー


気がつくと、俺の部屋のベッドの上に寝ていた。
 周りには母ミリスと父バルジ。そして家庭教師のティライさんが笑顔で立っていた。


「え?」
「凄いわクロア! ついに魔力コントロールをマスターしたのね!? ティライさんから聞いたわ!!」
「凄いぞ!! 凄いぞクロアッッ!!」
「あはは……苦しい……」


ミリスとバルジに抱きつかれて息苦しいが、嬉しかった。
 ティライを見ると、親指を立てて笑っていたので、俺も笑顔で返した。


ーーー


「まさか……本当に半年でここまで成長するとは……」
「ティライさん……ありがとうございます」
「いえいえ。クロア様の才能が凄いだけですよ」


いやぁ〜……やっぱり天才っていうのは、1%の閃きが無いと99%の努力は無駄なんだ、ということが分かったよ。


「でも、まだまだこれからどんどん成長します。5歳になるまで、私が一流の騎士になれるよう指導します」
「お願いしますっ!」
「本当にありがたい……」


ミリスもバルジも泣いて喜んでいる。
 俺も努力した甲斐があったもんだ……。


「クロア様。よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」


ティライに頭を撫でられても、悪い気はしなかった。

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