幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
116話 ホモじゃないノーマル
「おう2人とも良い所に来たな。……シンシアは大丈夫なのか? サラさん……もういないんだろ?」
2人で父親の部屋に行くと、何やら荷物の整理をしていた。しかし元気そうなシンシアを見て、無理していないかと聞いてきた。
「大丈夫。皆がいるから」
「……そうか。お前ならもっと悲しむと思ったんだがな……いや、悲しんでくれた方がサラさんも喜ぶだろうに」
「あっははは、いつまでも悲しんでたら生活に支障が出るよ」
実際にシンシアはもうそんなにサラがいなくなった事に対し悲しんではいない。これから何をしていくのか。それが大事だと考えている。
こう考えるようになれたのはアマデオのお陰だろう。しかし恋愛感情とは違う。
「変わったな、シンシア」
「急に変わったから変なキノコでも食べたのかって心配したんだよ。私」
「姉ちゃんまで……俺だって成長するんだよ! 不老だけど」
不老というのは若い状態を維持しつつ身体が衰えない事だ。つまりは誰よりも若く、長生きして人生経験を詰むことができる。
これはデメリットのようにも感じるが、シンシアにとっては好きなだけ時間を使えるというメリットだらけである。その為大魔道士という夢を持っているのだ。
「それじゃあ早速だけど2人に頼みたい事がある」
父さんは荷物を部屋の隅に置いて立ち上がった。その荷物は関係ないらしい。
「ルーさんと一緒に街に買い物に行ってほしい」
「街……って事は結界の外に出るのか?」
今まで施設周辺しか歩いた事が無かったシンシアだ。外の世界には興味がある。
「そういえば2人には言ってなかったな。ここ、実はロシアなんだ」
「ロシッ……」
「「ロシア!?」」
ロシアっていうと、あの恐怖という感情が欠如した恐ろしい人々が住んでるあのロシア? っていうかここ地球!?
「くれぐれも結界の外で魔法は使わないようにな」
「ま、待て待て!ロシアって事は日本にも帰れるのか!?」
日本に帰れるのなら日本に帰ってみたい。地震の後どうなっているのか気になる。
「残念だが、結界の外には1時間しか出ることができない。僕はこの世界の人間だから大丈夫だけど、シンシアもコリンも異世界人だ」
たったの1時間か……日本に帰るのは不可能なんだな。
シンシアはガッカリしつつも、ロシアに買い物に行く事にワクワクしていた。
「分かった。何を買ってくればいいんだ?」
「金は渡す。それで色んな食料を買ってきてくれ。出発の明日の朝になるが、それまでゆっくりしているといい」
「言語とかは勿論ルーさんが話してくれるのよね?」
「ああ、ルーさんはああ見えて頭が良い」
そう言われて素直に信じる程俺達は頭が悪くない。結構バカそうに見えてしまうから心配だ。
「了解、じゃあゆっくり過ごすよ」
◆◇◆◇◆
姉と部屋に帰っていると、アマデオと会ってしまった。
「あ、シンシアちゃん」
「っ……おはよう」
反射的に目を逸らしてしまう。それに顔が熱くなってきて、シンシアは自分の謎の感情に動揺しつつなんとかその場から逃げようと早歩きになる。
部屋に帰ると、姉が早速シンシアをベッドに押し倒した。
「まだあの子の事好きなの?」
「うっ……好きじゃ……ないから……」
男に対して"好き"という感情を持つのはおかしい。シンシアは必死に首を横に振って否定する。
しかし姉はそんなシンシアを蔑むような目で見てきた。
「アンタやっぱりホモなんじゃないの」
「違うっ!!」
「じゃあさ……"お姉ちゃん大好き"って言ってよ」
「えっ……?」
姉ちゃんはそんなキャラだったのか、とビックリして姉の顔をみつめると、恥ずかしそうにしながらも不機嫌な顔を見せた。
「何?」
「姉ちゃんって俺に好かれたいのか?」
「……当たり前でしょ」
ということは、姉ちゃんはアマデオに嫉妬してるって事なのか。凄く怖いから分からなかった。
「でも姉ちゃん怖いから好きになれない」
「はあっ!? あ、アンタ生意気な事言うわね……」
「そういう所も怖いよ。俺もっと優しい女の子が好きだ」
そういうと、姉ちゃんはハッとして少し落ち着いた。
「そ、そう……アンタの好みのタイプ教えてくれない?」
「そうだな〜……」
それからシンシアは、自分の好きな女の子のタイプについて語った。
それはアマデオに対する感情を忘れる為でもあり、自分は男好きじゃないと言い聞かせる為でもあった。
◆◇◆◇◆
「ふぅ〜ん……優しくて自分の居場所を作ってくれて、全てを受け入れてくれる……面白くて筋肉もある人……ね」
「姉ちゃん筋肉あるから性格だけだな」
しかし姉ちゃんはあまり嬉しそうな表情をしなかった。
「アンタのタイプって、女の子が理想の男を語る時の内容と似てるのよね」
「えっ……俺別に……」
そう思ってその理想のタイプを思い浮かべた時、何故かアマデオの顔が思い浮かんできた。
「今アイツの事思い浮かべたでしょ」
「勘が鋭いな……っていやいや! 思い浮かべてない! 俺男好きじゃないから!!」
しかし姉の嫉妬の目は鋭かった。
睨まれるだけでシンシアは段々と威勢が弱くなり、どんどん小動物のように小さくなる。
「はぁ……もう1回認めちゃった方が良いと思うわ」
「な、何言ってるんだよ」
「あの子の事が好きなのは誰が見ても分かるのよ。自分に嘘つかずに認めなさい」
自分に嘘なんて……確かに付いてるかもしれないけど、自分が男を好きになったなんて死んでも認めたくない。
「女になったんだから、男を好きになるのは当たり前なのよ?」
「……そう……なのか?」
「おかしい事でもなんでもないの。逆に男を好きにならない方がおかしいのよ」
男を……好きにならない方がおかしい……? 俺はおかしいのか? いや……アマデオの事が好きならおかしくないのか。
「……じゃあ俺……アマデオの事好きなのか」
その時、姉はニヤリと笑った。
「認めたわねっ!!」
「なっ!? 今の嘘だったのか!?」
「へぇ〜? アンタあいつの事好きなんだぁ〜? 可愛いね〜?」
「うっ……だ、騙したなっ!?」
それからシンシアは姉にどんどん恥ずかしい事を言われて、精神的にかなりのダメージを受けてしまった。
1時間以上はオモチャにされていただろう。
認めたくない事を、自ら口にした事で完璧に認めてしまい本当にアマデオの事を意識してしまうようになってしまった。
「ぐすんっ……」
「よしよし。シンシアちゃんはホモ」
「違うもん……ホモじゃないもん……」
「じゃあ誰が好きなの……?」
「……アマデオ…………ノーマルだもん……」
「違うよ。シンシアちゃんの中身は高校生の男の子だよね? そんなシンシアちゃんが小学5年生くらいの男の子を好きになっちゃった。ホモだね」
「うわぁぁぁぁぁあん!!!」
恥ずかしくて死にそうだ。
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