幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

75話 ヘレン姫の父



「シンシアちゃん、今からヘレン姫のお父さんに会いに行こうって」
「あぁごめん……」


 サラに起こされて周りを見ると、ヘレン姫とアルバが可愛い子供を見るような目でこちらを見ていた。


「なんだよ……」
「美味しい物を食べる夢でも見ていたようだな」
「覚えてない。行かないのか?」


 寝言を聞かれたようで、シンシアは仮面の中で顔を赤くしながらも気にしていない素振りで聞いた。


「シンシア殿も起きた事だし、行きましょう姫様」
「私達の恩人として伝えたらすぐに会いたいと仰ったので、きっと喜びますよ」


 ヘレン姫はウキウキしながら部屋から出ていった。


「二人共。なるべく姫様のお父様の前では行動を慎んでくれるとありがたい。恩人にこんな事を言うのもなんだが、すまないな」
「いいですよ! 気にしないでください」


 サラが言うと余計に心配なのだが、俺の前でも真面目な行動を出来るのだろうか。
 シンシアは不安を抱えながらも、すぐにヘレン姫の後ろに追いついた。


「ヘレン姫様……のお父さんはどういう人なんだ?」
「ヘレンで良いですよ。私のお父上は以前この国の国王でした」
「国王っ!? や、やっぱり姫様の親は凄い人なのか」
「よく言われますけど、実はそうでもないんです」


 ヘレン姫はシンシアの横に並んで歩きながら話を進めた。


「私のお父上は親バカというものでして、昔から子供達のお願いを聞いて何でも買ってくれるような人でした」
「子供達っていうヘレン以外にも子供が?」
「お兄様と妹がいます。私は真ん中で、今お兄様は次期国王となる為に勉強をしているんです」


 兄と妹か。


「2人ともヘレンに似て美形なんだろうな」
「ふふふっ、お兄様も妹もモテモテですよ。ですが私にはアルバがいますのでね」


 そういってヘレン姫はアルバの方を向いた。


「ヘレン姫様は男性からのお誘いを全て断っているんだ。私なんかの為に……嬉しいのだが、姫様のお父様がどう思っているのか分からないんだ」


 なるほど。だからさっきからアルバは緊張しているのか。


「いつもどんな風に話しかけられるんだ?」
「いや……話しかけられる事はない。私から話しかけても一言二言で済まされて、しっかり話したことがないのだ」


 アルバは下を向きながら、更に緊張したように拳を握った。
 ヘレン姫がアルバの事を好きだとしたら、お父さんもそれを認めてくれると思うのだがな。しっかりと話した事がないとなると……避けられているという事になる。


「難しいな」
「しかし反対するような事を言われた事がないから、これで良いのかもしれないとも思うのだが……」
「アルバは考え過ぎなんですよ。もうすぐお父上の部屋です」


 そう言われて前の方を見ると、一つだけ明らかに豪華な装飾の扉があった。ここにヘレン姫の父親がいるのだろう。


「こっちですよ」
「あれっ」


 豪華な扉の方かと思いきや、その向かい側の普通の扉だった。


「そこはお父上の大事な物がある部屋です」
「そ、そうなのか」


 そうしてヘレン姫が扉をノックした。


「お父上、連れてまいりました」
「入れ」


 中から威厳のある低い声が聞こえて、シンシアに緊張感がやってきた。
 ヘレン姫が扉をゆっくりと開く。


「っ!」


 その部屋では、大きなベッドに痩せ細った男の人が座っていた。


「お父上! 横になっていてください!」
「娘の恩人の前で寝ていられるか……その2人がそうなのだな」


 すぐにヘレン姫が横になってとお願いするが、それを断ってシンシアとサラの方を向いた。


「ふむ……その仮面を付けた少女もそうだが、隣の女。只者ではないな」
「え、えっと、この子の保護者です」


 見ただけでサラとシンシアの何かを見抜き、二人はこの人が本当に凄い人だと感じ取った。


「すまない、自己紹介をしていなかったな。私はヘレンの父のセドリックだ」
「私はサラです」
「シンシアです」


 痩せ細った見た目からは想像がつかないほどハッキリとした声と目付き。しかし無理しているのは少なからず感じ取ることが出来る。
 肩で息をして、たまに咳をしている。


「娘の命を守ってくれて感謝する。今日はゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」


 そしてセドリックはアルバの見て何か話そうと口を開いた。しかし言葉が出てこず、そのまま部屋の隅にいるメイドの方を向いた。


「この者達に食事と部屋を用意しろ。そしてヘレン、私の心配などいらん。自分の身体を最優先にするんだ」
「っ……でも……」
「しっかり休むんだ」
「……はい」


 娘思いの良い父親ではある。しかし、その寿命も残りが少ないのだろう。ヘレンの前で無理して元気な姿を見せようとしている。
 それにアルバとは本当に何も喋らない。嫌っている訳ではなさそうだが、どういう理由があるのだろうか。


「そ、それではサラさんとシンシアさん、メイドについて行って今日は部屋でゆっくり過ごしていてください」
「分かりました。失礼します」


 シンシアとサラは、部屋に残るセドリックとヘレンとアルバに一礼をして部屋から出た。


「ふぅ……緊張した」


 サラも珍しく静かにしていたし、変に息苦しかったな。


「ではサラ様とシンシア様を部屋に案内致します」
「あっ、はい」


 メイドに付いていきながらサラの方を見ると、何か考え事をしているのか真剣な表情で遠くを見つめていた。


「サラ?」
「……っう、うん? どうしたの?」


 サラがこちらに気付くと、いつものように間抜けた笑顔を見せた。


「いや、珍しく真剣な顔してたからどうしたのかなと思ってさ」
「そう? 実はセドリックさんがアルバさんと話さない理由が分かってね」
「っ! 分かったのならアルバさんに伝えた方が良いんじゃないか? 結構思い詰めてたぞ?」
「凄く簡単な理由だったから。それに伝えちゃったらセドリックさんが怒るかもしれないし」


 ……? 一体どういう事なんだ?


「後でこっそり話すね」
「あ、ああ」


 それからシンシアとサラは綺麗な部屋に案内されて、そこで料理が運ばれてくるまでセドリックさんがアルバさんに話しかけない理由をサラから聞いた。


「──なるほどね。それにアルバが気付けるかどうかだな」
「セドリックさんも可愛い所あるよね!」
「似た者同士って感じだな」


 理由を知ったシンシアは笑いながら仮面を外してリラックスした。

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