幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

68話 教え子の成長



「皆! これどうっ!?」


 シンシアが仮面を額に上げたまま、自分の姿を両手を広げて見せる。


「レインコート着てるみたいで凄く可愛いよ〜!」
「そのお面もお祭りに来てる子みたい!」
「うっ……これならどう?」


 顔を見せるのはダメだと分かり、すぐに仮面とローブで顔を隠す。


「あっ、それなら結構怖いかも!」
「シンシアちゃんだって分からない人が見たら怖いかもね」
「よしっ!」
「あっ可愛い」


 ガッツポーズを組んだだけで効果を無くしてしまうのはかなり痛いが、この姿なら歩いているだけで可愛いなんて思われる事はないだろう。


「あ、そうそう。シンシアちゃんに言ってなかったわ。その仮面、ゴムで付けるから大人に変身しても使えるわよ」
「おっ! じゃあ大人用のローブと合わせれば両方で使える訳か」


 大人の時、子供の時と使い分けられるのは大きい。しかし大人になると常に魔力を消費する為、基本的に使うのは子供のままだろう。


 シンシアは上機嫌のまま仮面を額に上げて、鼻歌を歌いながら自分の席に座った。


「もう動くだけで可愛いから、可愛く思われたくないなら動かない方が良いかもよ」
「大丈夫。可愛くない動き方練習するから」


 不気味だと思われて良い。怖いと思われても良い。ただ可愛いと思われない為だけに、これは存在するのだ。


「でも家庭教師は大人の姿でするんでしょ?」
「そりゃまあ……仕事だし。怪しい見た目じゃダメだしね」
「使い道あるのかな〜」
「失礼な……旅に行く時はこれずっと装備してるんだよ」


 とにかく、この装備は常に自分のバッグの中に入れておいて損は無い。仮面も壊れる心配はないしな。


「しばらくこの格好で過ごそうかな」


 その日からシンシアは、学園にいる間仮面を額に付けたまま過ごしていた。


◆◇◆◇◆


 家庭教師の仕事の日がやってきて、シンシアは朝からバタバタと準備をしていた。


「なんで寝癖がっ!」


 大人に変身したシンシアはボサッとした寝癖が付いていて、必死に手櫛で整えている。


「仕事用の服っ! うわぁっ!!」


 寝癖を整えると自室のクローゼットを開き、中に溜まっている大量の服に押しつぶされる。以前サラがシンシアの為に買った服だ。


「コートコート……あった!」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫!」


 クラリスが心配して部屋にやってきたが、シンシアはコートに着替えるとすぐに部屋から飛び出す。


「飯!!」
「はい出来たよ〜」


 丁度サラが朝食を作り終えて、それを一気に口の中にかけ込む。


「口大きいね〜?! 1口じゃ普通食べれないよ!?」
「大丈夫!」


 再び自分の部屋に戻ると、クラリスが散らかっていた服を片付けている事など無視してバックの中に荷物を詰め込む。
 今日は宿題以外にも魔法陣についても教えるつもりなのだ。


「紙……あった! お菓子お菓子……パン」


 どんどんバックが膨らんでいき、パンパンになったところでシンシアは立ち上がる。


「よしっ! 行ってきます!! サラにもよろしく!」
「ええ、行ってらっしゃい」


 シンシアは設置型の魔法陣に触れて、あっという間にダリウス君の家の前に転移してきた。
 実は1回目の帰る時に魔法陣をこっそり設置していたのだ。誰にも見えないようにステルス化してある。


「ふぅ〜……」


 息を整えてパンを1口食べて扉をノックする。


──ガチャッ
「シンシアさん! 待ってました」


 ダリウス君のお父さんだ。


「はいふふふんはへんひにひへまひはか?」


 ダリウス君は元気にしてましたか? と言ったつもりなのだが、口の中にパンがある為上手く喋れていない。


「んぐっ……ダリウス君は元気にしてましたか?」
「あ、あぁはい! シンシアさんが来るのを楽しみに待っていましたよ!」
「それは嬉しいですね。ではお邪魔します」


 しっかりパンを飲み込み、家の中へ入る。


「もう部屋で宿題を準備して待ってますよ。昨日からずっとソワソワしてるんです」
「これで勉強を好きになってくれると良いですね」


 どうやら1回目の時でかなり距離が縮まったみたいだ。教師としてはとても嬉しい事である。


「ダリウスく〜ん、入りますよ」


 ダリウス君の部屋のドアをノックして開けると、しっかり準備して座っていた。シンシアの分のクッションまでしっかり用意してある。


「もしかしてずっと待ってました?」
「は、はい……」


 照れくさそうな顔で答えるダリウス君に、少し嬉しくなったシンシアはクッションに座って早速軽く話始める。


「あれから学校ではどうでした?」
「えっと、解けなかった問題が解けるようになってて、先生に驚かれました」
「おぉ! じゃあこの前の問題は完璧?」
「だと思います」


 自分の教え方が上手かったという事だろうか! このまま順調にダリウス君に勉強を教えていって、いつかクラスで一番頭が良い生徒にさせてみたいものだ。


「実はね、今日宿題が終わった後に他の事も教えようと思ってるの」
「?」
「魔法陣っていうんだけど、知ってる?」
「本で読んだ事なら……あります」


 それなら話は早い。


「今日から魔法陣の作り方について教えようと思って、張り切って教科書を作ってきたの」


 シンシアが笑顔でバックから分厚い教科書を取り出すと、それを見たダリウス君は目を丸くして険しい顔になった。


「あっ、安心して。学校の教科書みたいに色んな事が細かい文字で書かれてる訳じゃないから」


 そういって開いてみせると、安心したように緊張を緩めた。


「魔法陣の作り方を教えるから、頑張って宿題早く終わらせようね」
「はい」
「じゃあ早速宿題しよっか」


 シンシアはダリウス君の横に移動して、以前のように宿題を教え始めた。


◆◇◆◇◆


「最後! ここと一緒だよ」
「あっ本当だ。……終わった……!」


 前よりも解ける問題が増えており、かなり早く宿題を終わらせる事ができた。


「凄い凄い! もしかして1人でも解き方覚えてた?」
「は、はい。頑張りました」


 1人で勉強なんてシンシアは大嫌い事なのだが、自分が家庭教師をしたお陰で自分から進んで勉強するようになったと聞いたら嬉しいに決まっている。
 シンシアは自分の事のように喜んでダリウス君の背中を叩いて褒めた。


「ダリウス君凄いよ!」
「ありがとうございます……」
「私も頑張らないとな〜……、よし、ちょっと休憩しよう」


 ダリウス君が宿題を片付けている間、テーブルの上のお茶を飲んで一息付く。


「進んで勉強できるようになったんだね〜……」


 シンシアは満足そうに天井を見上げて呟いた。


「シンシアさんの教え方が上手い……からですよ」
「そう? 嬉しいなぁ〜……っ、ちょっとおトイレ」
「あっ、僕の部屋のすぐ前にあります」
「ありがとね」


 一度トイレに行って帰ってきてから、魔法陣の作り方について教えることにした。

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