手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第三十六話 開幕

「なんか、女神の指輪に触れたことで、知能レベルも一緒に上がったらしくてさ。まぁ力も抑えなきゃいけなかったし、さすがに少しは疲れたけどね」


自分で知能レベルが上がったことを具体的に実感できたわけではないが、確かに以前よりは魔法も発動しやすくなったり、実践訓練時の反応速度がかなり上がった気がしていた。
そして、この鉄板の向きと速度を調節する操作に関していえば、抽象的なイメージで感覚の元に動かすわけだが、そんなにも難しいものとは感じなかったのだ。
まさに女神様万々歳である。


「…………」


それを聞いたアミラは、今まで硬直させていた体から、肩が地面についてしまうのではないかと言うほどに一気に力を抜き、口もまた、顎が重力操作で下にひっぱられたように下がっていることで大きく開いていて、とてもじゃないが元国定魔術師とは思えないような間抜けな姿だった。


「あれで力を抑えてたって……。路地裏で自称勇者に私が放った魔法と、ほぼ同等の威力だったわよ。あれは……」


アミラは紙のように重さを感じさせない動きでふらふらと左右に揺れながら、どこか虚ろな目をしてそう呟いた。


さすがに驚きすぎな気もするが……。


「いや、実際に凄いのは俺じゃなくて女神の指輪だろう……。しかし、俺しか女神の能力を手に入れられなかったのは申し訳ないな」
「本当よ! あの指輪の能力だけは複製ができないなんてね……。基本ステータスがみじんこ程度の誰かさん・・・・が持つってのは仕方がないことだけれど。だってあれがないとろくに魔法の連続攻撃もできないんだもの。その誰かさん・・・・は」


人がせっかく気を使ってやったと言うのに、恩知らずなアミラはあろうことか俺を小馬鹿してきやがった。
そのジト目の奥には、嫉妬に近いものが感じられる。


「無能力で突然、異世界に転生させられたんだぞ? 最初は言葉すら理解できずに! そういう意味では、本来、俺が手にするべきものだったと言える」
「そういえばそうだったわね……」


そう言うと、アミラはクスクスと笑い始めた。
一応、手で口を隠してはいるが、目が完全に悪意に満ちている。
俺を馬鹿にして笑っているのは間違いないな。
こいつ、一回しめたろうか。


「……なんだよ」
「今まで忘れていたけれど、あんた、一時的に釈放されただけで、今もまだ罪人なんだものね。勇者さん?」
「なっ!?」


せっかく忘れていたのに、あのちょっとぶつかっただけでブチ切れてきたクソ軍人と、例のクソ勇者への怒りの念が再び湧き上がってきやがった。
それにしてもムカつくように笑いやがるな、こいつは。
さっきまでは少しクスクスと笑ってる程度だったのに、今ではそれを隠すことを忘れてゲラゲラと笑っている。


「笑うなよ! 確かに俺は女神の部屋に不法侵入したり、あいつが大事そうにしていた指輪やパン……」
「——パン?」


——ゲフンゲフン!
おっと口が滑ってしまった。
まぁ俺はパンツなんて盗んではいないのだけれどね。


そして、幸いにして、アミラは気づいていないようだ。
『パンを盗むなんて、よっぽどお腹でも減っていたの?』と純粋に聞いてきている。
そんな。アミラじゃあるまいし。


「とにかく! 俺に酷いことをしてきた女神に仕返しとして・・・・・・盗みは犯したが、例のクソ勇者のように無関係の女性を傷つけたり、人に暴力を振るったりは——」
「どの口が言うのよ? 私の裸を見ただけでは飽き足らず、非力な女の子である私を押し倒して、いやらしい手つきでもって散々、胸を揉みしだいてきたくせに!」
「あれは事故だろ!? ってか、誰のことだよ!? 非力な女の子って!!」


俺は、なりふり構わずばかばか殴ってくる凶暴な女は知っているが、そんな奴は知らないぞ!
と言うか、揉みしだけるほどの胸はお前にはないだろうが!!


……と言ってしまったら、生きて帰る自信はないので、ここは抑えておこう。
大人の判断だ。


こうやって冷静な判断ができるようになったのも、女神の指輪による知性向上の影響か?


「失礼ね。だいたい、あんたはレディーへの扱いがなってないのよ!」
「っ!? そんなことはないはずだ」


両手を腰にあて、膨らんだ頬を前に突き出してきているアミラは、ちょっぴり可愛くは見えたが、だがしかし、俺がジェントルマンではないと言うことに納得はできない。
でも、そろそろ抗議し続けることに疲れてきたので、もういいかな、と思ってたりもする。


「いいえ、絶対にそう。私にもそうだけど、フィオーネやヤユにまで汚い言葉を使ったり、たまに暴力を振るったり、えっちなことをしたり……。もう少しなんとかならないのかしら? あんたといると私までお下品な人間だと思われるのよ! それにこの前のホテルでだって私はただ、気を使ってあげただけなのに、あんたは——」
「——敵だ」


いや、別にアミラの話が鬱陶しくて言ったわけではなく、ましてや、実はもう少し前から敵の接近は感じていたが、あえて、アミラの話の腰を折るための切り札として残しておくために言っていなかったとか、そんなことは決してない。
まだ視認はできないが、もうすぐで魔法が届く距離に奴らが接近してきたら、今、俺はそう告げたのだ。


「誤魔化すんじゃないわよ! こんなに距離があれば、あの程度の奴らならまだ——ってこれは……」
「今回のは少し違うようだな」


ようやく奴らの気配を認識できた様子のアミラは、ようやく奴らの違和感を感じ取ることができたみたいで、ようやく戦闘準備を始めた。


敵の数は約四十。
数だけで見るなら、さっきの五人を瞬殺させたあの魔法だけででも対応できそうなものだが、今回のはその〝質〟が違う。
組織ごとに動き方や、移動系・防御系魔法の使い方などが特徴的に分かれていることから、オークションの出品者側が各々独自に用意した戦闘員だと予想できる。今回のオークションでは、様々な組織が一堂に会するとは聞いていたが、ここまで組織ごとの戦闘員の色が違っているとは思わなかった。


「どうやらそうみたいね。それに人数も相当なようだわ」
「あぁ。これは骨が折れそうだ」
「そうね」


俺は2、3度、首を鳴らすと、軽く手足などの柔軟運動を始めた。
アミラの趣も、先ほどまでの幼いものとは違って、完全に戦士のそれとなっていた。


「まぁ私としては、魔力たちが自ら吸収されに来てくれて、手間が省けるんだけどね」
「お前、その言い方は……いや、なんでもない」


さすがに非人道的すぎるとは思ったが、今はそんなことで言い争いをしている場合ではなかったので中断した。
既に敵の位置は、鉄板が食い込んでいる真っ赤な壁の少し手前にまで迫っていたのだ。
先ほどの戦闘員五名とは違い、自身の体を加速させるほどで、驚くべきスピードで移動している。
ここから壁までは50メートルはあるが、敵がその角を曲がればすぐに戦闘が開始されるだろう。


俺とアミラは魔法の発動の準備を終え、奴らが来るのに備える。


「準備はいいわね?」
「もちろん」


そして、ついに敵の先頭集団、約十人ほどが一斉に角から飛び出してきた。
鬼をも泣かすような凄まじい険相の彼らは、俺たちを視認して、さらにそのスピードを速めた。


「雑魚を少し倒したくらいで調子に乗ってんじゃんーぞ」「てめぇら、生きて帰れると思うなよ」「ガキが舐めた真似してんじゃねーよ」


皆、口に出す言葉は違えど、そこに秘められた想いは同じだった。
昔の俺なら、あるいはこの殺意に押されて逃げ出していたかもしれないが、今となっては彼らが滑稽にさえ思える。
それはアミラも同じようで、今すぐにでも突進して来るであろう敵を目の前にして、彼らを鼻で笑っていた。


「じゃあ、まだまだ試したい魔法は山ほどあるし、俺はお先に失礼するよ」
「ちょっと!!」


俺はどよめくアミラの制止を無視して、先の警備員二人との戦闘時に飛ばしておいた〝もう一つの指輪〟——転移魔法の着地点——へと転移する。


「やぁ皆さん。それでは俺の実験台になってください」


満面の笑みとともに、戦闘員らの背後に転移した俺は、指の間にそれぞれ挟んだ8つの指輪を見せびらかすようにして懐から取り出し、そして魔力を込めた。


その瞬間、今までそこの喧騒を作っていた雄叫びと地面を揺らす音が一斉に止み、代わりに、耳がはちきれんばかりの悲鳴がその巨大な廊下を包んだ——。

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