手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第十三話 神のいたずらか

「逃げるわよ!」
「えぇ!?」


 俺の視線に気づいたのか、この爆発を起こしたであろうその少女・・は俺を見て突然そう言い出した。
 フードがとれたことで彼女の全貌が明らかになってわかったのだが、その見た目はおおよそ日本で言うところの中・高校生くらいだった。


「ほらさっさとしなさい!」
「いや、ちょっと! え!?」


 俺の背後で動揺を露わにしている勇者やその他大勢の敵モブキャラたちと同じく、全く状況を理解できてない俺に、その少女は呆れてような顔をすると俺のところまで来て手を引っ張って来た。


「って、逃がすかよ!!」


 そこまでして、ようやく現状を把握したのか、勇者が俺たちのところへ飛び込んでくる。
 今までの俺の攻撃が全く無意味だったかと思わせるくらいに、疲れやダメージを感じさせない完璧な動きだ。


「——なにっ!?」


 だがその攻撃は、又しても少女が発動した魔法によって阻まれた。
 火炎散弾ファイヤー・ショット。俺が先ほど使ったばかりの魔法を、その少女は何の前ぶりもなく、ましてやその技の名前を呼ぶことすらなく発動してみせる。しかも、俺の5倍ほどの攻撃範囲で、威力も見た感じ俺よりは上のものだ。
 一瞬、誰によって発動されたのかわからなかったが、彼女の勇者を見る血走った目と、この場の状況からして彼女以外にいないだろう。


 止むことなく連続で降り続ける火炎球に、勇者も、その手下と思われる傭兵風情も、それに対処するので精一杯の様子だ。


「今のうちに!」


 そう急かされて、俺は何が何だからわからなかったが、彼女に従って走り出した——。






「——ここまでくれば安心ね」


 魔法の効果も切れ、すぐに追いかけて来た勇者や傭兵風情たちを何とか撒きながら、俺たち二人は路地裏の一角で一旦休憩している。
 一心不乱に走り続けたのもあって俺も彼女もかなり体力を消耗した。


「……それで、君は一体何者なんだ? 上級魔法って意外と簡単に、ポンポン打てるものなのか?」
「あなたこそ何者なのよ。いきなり現れてあいつと勝手に戦い始めて……。しかもあんな簡単そうに上級魔法をつかちゃって!!」


 ようやく落ち着いたので、逃走中もずっと気になっていたことを聞いてみた。
 そう、俺が勇者に使った二つの火系の魔法、火炎砲弾ファイヤー・シェル、と火炎散弾ファイヤー・ショット。これらはあの魔道具屋で一つ100万円相当で売られていた高級品なのだ。勇者を名乗るくらいなのだから中級魔法の攻撃など効かないだろうと最初から使ったが、それでも奴には大したダメージを与えられなかった。
 でも奴と同等レベルでやりあえたのだから、それなりには強いはず。そんな魔法のしかも上位版をいとも簡単に発動してみせたのだから俺が疑問に思うのも当然だろう。
 しかし彼女から返って来たのは俺への疑問と不満だった。


「何者かと言われても……。俺の名前は山田栄一やまだえいいちで、とある理由から勇者に恨みを持っていて、やつを牢屋にぶち込んでやろうという思惑があった」
「何それ。だいたい、彼は本当に”神によってこの世界に転生させられた勇者”っていうやつなの? 私が得た情報からしてもそうみたいなんだけど」
「いや、それは俺もわからない。けど、あの強さから考えたらあながち嘘でもないかとは思う。——って奴について何か知ってるのか?!」


 何やら勇者について知っているような口ぶりだったので、てっきり、ナンパされていただけだと思い込んでいた俺は、食い入るように彼女にそう聞いた。


「まぁ私もとある理由から彼を追っていてね。彼が裏組織と繋がっていることや、神に転生させられたと自賛していることくらいなら知ってたわ」
「君はいったい——ッ!?!?」


 思わぬ発言によってより深まった彼女の謎を解き明かそうとした時、路地の向こう側から勇者と例の傭兵風情どもが一斉に飛び出して来た。


(くそっ! もう勇者に使えそうな魔法のストックは……)
 反射的に勇者を撃退しようと考えたが、そこで自身の使える有効的な魔法がもうないことに気づいて、どうしたらいいのかと焦りを覚える。


(このままじゃ避け切れない!)


 凄まじいスピードで迫ってくる勇者。
 背後は、俺の二倍はある壁によって行き止まりになっていて、逃げ場はもうない。
 そんな絶望的な状況に俺は直感的に死を感じる。


 ここで終わるのか……。






重力操作グラビティ・オペレーション


 だがその瞬間、隣にいる少女が、全くもって落ち着いた態度で勇者の方へ右腕を伸ばすと、状況は一変した。




 ゴゴゴゴゴッ!!


 そんな音を立てて背後から俺たちを避けるようにして無数の岩のようなものが飛んでいく。
 思わず後ろを振り向くと、そこにあったはずの壁が猛烈な勢いで崩れ、そしてまるで重力で引き寄せられるかの様に勇者たちの方へと向かっている。


「——回避!!」


 予期せぬ攻撃に、自身も後方へ下がりながら、勇者が手下に向けて回避を命令した。
 しかし、勇者の命令は聞き届けられるもなく、バリアの様な透明の壁・・・・を張っていた勇者とその背後にいたものたち以外は全て、その高速で飛んできた岩によって体を潰されている。


「ぐはぁああああ!!!!」


 垂直に次々と飛んでくる岩石によって盾ごと吹き飛ばされていく傭兵たち。
 そしてそんな攻撃に激しく押されながらも透明な壁によってなんとか直撃を防でいる勇者。


 俺はそんな非現実的な光景を目の当たりにしながらも、すでに意識はその光景を作り出したものへ向いていた。




「私はアミラ・パルーテナ。神について研究している者よ」


 飛んでゆく岩石が起こす風に、踊らされている髪を左手で押さえつつ、その少女は俺に暖かい微笑みを向ける。
 そんな彼女の髪は、崩れた壁から覗かせる夕日によって、白髪が綺麗なルビー色に染まっていた——。



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