おかしな彼女はおかしな何かをもたらす

夕なぎ

春の風

 入学式の次の日、この日も暖かな太陽の光と干したてのフトンのような気持ちの良い匂いを全身に浴びながら学校へと登校した。

新品の上靴で、薄汚れた廊下を歩き、一階の一番奥にある自分の教室の、これまた年期の入ったドア開ける。
けれども、不思議と何もかもが目新しく映った。
僕としたことが少し緊張しているらしい。
それとも、興奮か?

別に新しい高校生活に目を輝かせている訳ではない。
断じて違う………恐らく違う。
もしもその可能性があるとしても、僕の興奮度の中の3%位しか占めないだろう。

では、何故僕の心が踊っている(フラダンス程度だが)のかと言うと、
まあ、例の少女と隣の席であり、しかも入学式の次の日だというのに日直の仕事が与えられたのだ。
勿論、日直の仕事は二人ですることになる。

とは言っても初対面で話しかけるのは中々難易度が高いなぁと思っていると僕の後方から
「あら、あら荒井君。どうして荒井君は荒井君なの?どうしてここにいるの?生きているの?」
とふざけた質問文が聞こえてきた。
小学生の頃からの知り合いである、梅道言葉(うめみちことは)だ。
この女はいつも僕をからかい、弄ぶ口調で話しかけてくる。
僕も是非ともいじり返したい所だが、汚い言葉とは裏腹に外見は黒髪ロングで清楚な感じを漂わせている。

窓から流れる春風で、僅かに輝きを帯びた黒髪がなびいて、つい見とれてしまう。

そんなことが悟られぬよう、僕もおどけながら返答した。
「僕が荒井なのは僕の父が荒井だからだ。
僕の父が荒井なのは僕の祖父が荒井だからだ。そして、僕が生きているのは僕の父がいるからだ。」
「間違っているわ、荒井君。あなたが荒井という名前なのは私があなたを荒井君だと認識しているからよ。」
このやり取りは長くなりそうだと悟ったが、このままだと何と無く負けた気がするので、
「じゃあ、僕は梅道のことを冷酷サゲスティク野郎だと認識しているから、今度からは略して冷酷ゲス野郎と呼んでやろう。」と言い返してやった、つもりだが、
「野郎ってのは男の人に対して言う言葉よ。私に対して使うのは余りにも酷すぎるわ、悲しいわ。これはもう先生に相談するしかないわね。」と軽い脅迫。
僕は直ぐに、
「それは申し訳なかったです、梅道さん。全面的に僕が悪かったです。」と形だけ謝っておいた。
面倒の種は早め早めに摘んどいた方が良いのだ。

下らない会話を終え、席に着くと、右隣の少女と目があったが、直ぐに目を反らされた。

さて、どうしようか。
どうしようか。
どう、しようか。
銅仕様か?
思考がよく分からない方向へ動き始めたとき、「皆さんこんにちは!良い天気ですね!」と能天気な声が思考を遮った。
担任の竹口先生だ。
まだ、新人らしい若い女の先生はハキハキとした口調で、常套句をまくし立てた。
「春の季節になり、暖かな気持ちと新たな前向きな気持ちが、皆さんにもあるでしょう。あなた達は高校生となり………」
しっかりと前を向き長ったるい話を聞くふりをしながら、頭の中では隣の少女へと目を向けていた。
自分でも、不思議に思う。
この僕が、他人なんてどうでもいいと心底思っているこの僕が、どうしてこうも気になるんだろう。



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