獣少女と共同生活!?

【夕立】

第二十一話 少女の目的

文香と別れ、帰りの電車。16時半の電車に乗り、窓の外を見ると綺麗な夕焼けが見えた。
しかし、会社付近の駅から4駅しかない為、その綺麗な夕焼けを眺められる時間は少なかった。
もう少し見ていたいと思った俺は、駅前の公園へ。あそこは木々はあるが、近くにビルなどの遮蔽物が少ない為、夕焼けなどの風景を見るにはうってつけだろう。
そして、俺は公園に寄り、以前座った場所と同じ所に座る。駅側の入り口から近く、そこそこ木々も少ない。ここならいい感じに見えるだろう。
その考えは見事的中。綺麗な夕日が沈んでいくのが見えた。
その風景を眺めていると、仕事の疲れが癒されていくようだった。

「──おや、朝倉さんじゃないですか」

幼い声だが、何処か大人びた声。俺はこの声を以前にも聞いた事がある。

「……また会ったな。指名手配さん」
「あちらの世界の方から、事情を聞いたのですか」

彼女は、優しく微笑んでいた。それと同時に、俺を寒気が襲った。
彼女は、前と同じ雰囲気ではなかった。以前より、何処か余裕があるような雰囲気があった。
次に彼女にいつ会えるか分からない。ならば、俺が聞きたい事を、今聞いてみるしかないだろう。

「単刀直入に聞きます。貴方の目的はなんですか?」
「本当に単刀直入ですね。いいでしょう。貴方にだけはお教えしましょう。その代わり、他言無用ですよ?」

そう言って、彼女はまた微笑んだ。
何故、俺にだけ教えてくれる?もしかして、何かの罠なのでは?
そんな考えが横切ったが、今は情報が少ない。少しでも情報が聞き出せるなら、聞き出しておいて損はないだろう。
俺は彼女に身体を向け、話を聞く体制になった。

「私の目標──それは、『復讐』です」
「復……讐……?」
「えぇ。私は一度、死んでいるのです」

衝撃的な発言。そして、理解が出来ない発言だった。
彼女は一度死んでいて、その復讐をしようとしている……?
いや、だから新たな世界を作るのはおかしい。何も復讐出来ていないし、何より意味がない。
すると彼女は目を閉じ、話を続けた。

「私はあの世界で見捨てられ、死んだ後魂だけとなりました。この世界で言う、幽霊みたいなものです」
「見捨てられた……?」
「えぇ。多くの暴行や、教育と称し沢山の事をされてきました。私はその事を、何度も警察や施設に話しました。が、返ってくる答えは笑い者。誰も私を救ってなどくれませんでした」

あまりにも残酷な真実。俺はその真実を知らず、彼女を危ない事をする悪だと少なからず思っていた。
彼女は詳しくは話さなかったが、両親だけならここまで心は傷つかないと思う。つまり、周りの獣達からも暴行などを受けていたと思う。
……彼女は、辛い人生を送っていたのか。

「魂だけとなった私は、あの世界に居る事すら耐えられず、何処か別の世界に行く事を決心しました。その時、18歳になったら受ける試練の日がやってきたのです」
「18歳の試練……まさか!?」

その時、みぞれの姿が脳裏に浮かんだ。
確か、みぞれがこちらの世界に来た理由。それが、18歳になったら行う試練のようなものだと本人が言っていた。
つまり、彼女の魂はその時にこちらの世界に来たのか。

「ご存知なら話が早いです。その時に私はこちらの世界に来ました。そして魂で彷徨っている時に、この身体の持ち主に出会ったのです」
「その身体、君のものじゃなかったのか」
「えぇ。この身体は本来、後数日保てばいいレベルの重症でした。彼女は両親からの虐待を受けていて、意識不明の重症だったのです」

この身体の持ち主も、彼女と同じって事か。そして、虐待が酷いレベルまで達して病院送り。虐待されたまま放置された時間が長く、肉体も精神もボロボロだったという訳か。

「私は彼女に提案しました。彼女に自由を与える代わりに、私の願いを聞いて欲しい……と」
「それが、復讐だったのか……」
「えぇ。彼女は、私の願いを聞く前から提案を了承しました。『どうせ死ぬなら、誰かの為に役に立ちたい』……と」

この身体の持ち主は、恐らく優しい子だったのだろうな……。死を直前にしても尚、誰かの為に役に立ちたいなんて普通は考えないだろう。
そして、その条件を飲んだ彼女の身体を借りて今生きている。それが今の彼女か。

「私は基本はこの身体の中で眠っています。二重人格……の様なものですね。名前もこの身体の名前を借りて名乗っています」
「そういえば、名前聞いてなかったな」
「華です。佐倉 華さくら はなと言います」

佐倉 華。それが今の彼女の名前か。
初めは巫狐さんに伝えるつもりだった。しかし、この世界の事を絡んでいてはいくら偉い人であっても動く事が出来ないだろう。
何より、俺が彼女の事をあまり広めたいとは思えない。出来れば、穏便に解決してあげたい。それが俺の今の願いだった。

「さて……。私はそろそろ帰ります。夜遅くなってしまいますので」
「……なんというか、ありがとな」
「いえいえ、私が勝手に話した事です。気にしないで下さい」

そう言って、彼女はこの場を去った。時刻は既に18時を回ろうとしていた。
俺も帰るか……。ここに居ても、何か進展がある訳じゃないしな。
……そういや、夕日あんまり見れなかったなぁ。

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