獣少女と共同生活!?

【夕立】

第十六話 優しい笑み

「ふぅ……」

引っ越しして1週間程。
初めは慣れない事が多すぎて戸惑ってしまったが、たった1週間で慣れてきた。
各自の部屋があり、家具なども一式揃っているので特に何かを買いに行くわけでもない為、忙しいという訳でもない。
会社への通勤は、道は変われどほぼ同じ。若干駅に近づいたかもしれないが、対して変わった感覚がなかった。
しかし、唯一変わった事が俺にはあった。
外に出る度、あの和服の少女を探すようになっていた。
見つけたら教えてくれと巫狐さんには言われたが、俺もあの子にどうしても聞きたいことがある。
彼女は、一体何の為に禁術を行おうとしているのか?本当にその禁術を使うべきのか?
そんなお節介な事を聞きたいが為に、あの時出会った少女を探していたのだ。
会社の行きと帰りには、前に会った公園に寄って少し探し、いつも通る道や買い物先でもついつい探してしまう様に。
みぞれと秋風さんはこの事は知らされてなかった様なので、俺一人で探していることになる。
確かに、禁術の条件も分からないし、犠牲があったりするのかさえ分からない俺だが、居ても立っても居られなかった。
休日も少し散歩と称して2〜3時間ほど探してみたりもしているが、未だ少女は見つからない。
もしかすると、もう術を終了させているかもしれない。
……いや、きっと彼女には──。

「誠さん、暗い顔になってますよ」
「──ッ!?」

いきなりみぞれに話しかけられたのに驚き、椅子から思わず立ち上がってしまった。
みぞれは驚いて一歩下がるが、すぐに近づいてきた。
そして俺の頭を優しくなで、優しい笑みで話しかけてきた。

「迷ったり、考えてつまずくのは悪いことではないと思います。ですが、一人で悩んでいても辛いと思います。ですから、よければ相談したりしてくれませんか?」

その顔は、何処か母さんに似ていた。
俺は、思わずみぞれに甘えそうになった。しかし、ここで甘えたらみぞれを不安にさせてしまう。
……いや、そもそも男として格好悪いな。

「そうだな。本当にヤバくなったら甘えさせてもらおうかな」
「はい!」

そう言うと、みぞれは満足そうな表情を浮かべた。
今は言えなくても、いずれは助けてもらうかもしれない。その時は思いきり甘えさせてもらうとしよう。
まぁ、今思い悩んでいても仕方ない。見つけたら聞きたい事はあるが、まず見つからなければ意味がない。
探す……というより、居たらラッキー程度に考えて生活するとしよう。俺が悩んでいると、みぞれや秋風さんを不安にさせてしまうかもしれないしな。
巫狐さんにも、俺が探している事は伝えなくていいか。見つけたら伝えて欲しいってだけだしな。
……気持ち、切り替えるか!

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