俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩

第58話 聖戦に向けて


 ◆◆◆◆◆◆

 準備は整った。
 王女たちはそれぞれ魔力を最大限まで活かすために瞑想を始めたようだ。

 と、言うのもそれぞれの場所に行って結界の中でそれぞれのやり方で瞑想を行うらしい。
 カノンは隣の部屋で、アリアはまたその隣の部屋で、テルは病院の屋上で、アイネはなぜか多目的トイレの中らしい。

 俺はと言うと、特に何もすることがないのでフーガとメロと適当な話をしていた。
 サリエリは外を眺めながら敵が襲ってくるのを警戒している様子で、エータはテルについて行ったらしい。

 ……俺はカノンの邪魔をしたくないからついては行かないが。

「季本さん。おそらくですが敵側は戦力を拡大してくると思っています」

 フーガはそういうとメロを自分の膝の上に座らせる。
 仲睦まじい兄妹の二人だが、それは義理である。

「敵って……。どんな奴らが来るんですか?」

「……覚えていないんでしたね。午後6時23分……頃に魔王軍の幹部により天変地異が起きるのはもう言いましたね。奴らは無慈悲にも生命のことを微塵も関心がありません」

「……なんでそんなバケモンが急に攻めてくるんだよ、ありえねぇ……」

 俺はフーガの喋る言葉を今だに信じられずにいた。
 毎回その話を聞いても信じられないと同じリアクションをした。
 何度も何度も未来で起こることを聞かされるたびに『これってさ、結構仕組まれたドッキリなんじゃないか』って思ってしまう。
 それと、王女たちの瞑想やフーガの真剣な表情を見る限りそれはないだろう。

 ……俺の子供を巡って戦争とか……。

 バカだろ、世界。

 ◆◆◆◆◆◆

「……と言うわけです。とりあえず、私が知っている状況だけでもお話ししました。あと45分。それまでに彼女たちの結界が作ることができれば生命の死滅は避けられるかもしれませんね」

「……信じられねぇが、信じるしかないよな。てかよ、俺らの世界で暴れんなよな!」

「わ、私はもう彼らとは関係ないですよ! すでに魔王軍から脱退してるのですから! ねぇ、メロ!」

 フーガは自分の足にまたがるメロの頭を撫でると、彼女はにっしと笑って手を気持ちよさそうにする。

「そうですよ、季本っ! 前にも言いましたが、私はもうカマキリの姿にはなれませんからね。でも、お兄ちゃんは完全に皮を捨て切ったわけではないので戦えることには戦えるのですが……」

「私が仮に魔人の姿になったとしても、魔力はたかが知れています。チャルダッシュや他の魔人は赤い月の力の加護を得ていくらでも強くなれます。しかし、私はもう魔王様の加護は捨ててしまって受けることはできないのです。……要はメロと私は戦力外だと言うことです。」

 フーガはメロを撫で続けると、違和感を感じたのか彼女は撫でる手を掴む。

「お兄ちゃん……」

 すると、外を見ていたサリエリがこちらの話に入って来る。

 紳士の格好で気品のあるサリエリは、どうやら俺の体に隠れていたらしい。
 そして、俺が事故で死にかけた時に救ってくれた命の恩人らしい。
 そんな風には見えないが……。

「まぁ、これからの戦争で人間が生きるか魔人が勝つか決まるだろうな。安心しな、俺は人間側に立つ。奴らのやり方はいつまでたっても気に食わんからな」

 サリエリは俺の方に歩いて来ると、トンと胸を叩く。

「俺らも戦わなければならん時が来るだろう。フーガが言ったように俺はリュートの中に居るからこそ使える魔法が沢山ある。魔力が足りないのは奴らも同じさ。だから暁月の日に攻めてくんだよ。魔物が一番力を引き出せる日、皆既月食の日・『怒りの日』だ」

「……戦えるさ、俺はもう4回も王女たちとエッチしてんだ。魔力の蓄積量はエゲツないってカノンが言ってたぜ」

 俺はサリエリの胸を真似るように突く。
 ガチガチの装甲のように硬い筋肉は、人間ではない殻のような何かであることがわかった。

「戯けたことを、奴らは暁月の浮かぶ日は何百倍も魔力が上がるんだぞ?! 地の利のない、圧倒的に劣勢な状況って事だ。リュートが油断するだけで形勢が大逆転することだって多いにあり得るんだ。奢りが戦場の中で1番の敵であることを忘れんじゃねぇ」

「……心得とくぜ、サンキュなサリエリ」

「まぁ、任せな。救ってやる側の方が俺は天職でな」

 サリエリはニッと笑うと、俺もそれに笑みで返す。
 これから起きるのは戦争だ。
 俺は彼女を守るため、世界を守るために戦うことを選んだ。
 ただの好奇心だけでここまで本気にはなれないだろう、それはただ単に戦闘本能に火が付いたからではない。
 愛する顔が浮かぶからだと言えばあまりにも臭すぎるかい?
 まぁ、そういうことだ。

 俺はサリエリから離れると、天変地異の前兆のように地面が揺さぶられる。
 轟音とともにガラスの割れる音や悲鳴が聞こえてくるっ!
 地鳴りが俺たちの脳に響くと、ふらつく足を思い切り地面に叩きつける。

「な、何だっ!」

 俺とフーガとメロは立ち上がり戦闘態勢を取る。

「もう敵が攻めてくるだなんて! まだ時間は有り余ってるはず!」

 フーガはメロを抱きしめると、メロは少しだけ目を潤ませる。
 俺の前に立つサリエリは顔に手を当てると、かなり深いため息をつく。

「……やはりやめておけばよかった気がする」

 サリエリはそう呟くと、緑色の結界を何重にも張る。
 3枚、4枚、5枚、6枚……。

「いいや、あともう1枚張っとく方がいいか?」

 サリエリの人間だと思えないほど長い指を振った瞬間、俺らの目の前が真っ白になる!
 ドアが砕け散り、結界の外側で粉々になっていく!
 すると、いきなり鋭い刃がサリエリの結界に食い込むと、いとも簡単に砕けていく!

「なななっ、この魔力はまさか……! サリエリ! なぜ彼女を呼んだんですか!」

「こいつが俺の知り合いの中で一番戦力になりそうだったからだよ! こっちに来たばかりの新人だ!」

 どんどんサリエリの結界が砕けていく!
 2枚、3枚、4枚!

「おい、サリエリっ! 仲間なのにどうして攻撃してくるんだよっ!」

「攻撃じゃねぇよ、リュート! こいつなりの挨拶さ!」

 そして、向こう側から大きなことが聞こえてくる!

「やっほぉぉぉ! ひっさしぶりだねぇ、上半身さんっ!」

 甲高い声が結界の中に響き渡る。
 サリエリはその言葉を聞くと、冗談交じりに答える。

「俺の下半身の調子はどうだ? ちゃんと生きてるんだろうな?」

「いいやっ! 半分くらいスライスして一階に置いて来ちゃったぁ! あとで拾いにいくねっ!」

 5枚、6枚!

 そして最後の結界に鋭い剣が突き刺さる!

 ガツンッ! ガツガツガツンッ!

 最後の結界に大量の剣が突き刺さると、ギリギリのところでそれらは全て止まった。

「……いつから6枚目を割れるようになったんだ?」

「しーらないっ! 下半身さんに鍛えられてたから強くなったんでしょ!」

「ここ一週間で得られる力じゃないだろ。やはりお前は鬼才だな」

 サリエリはニヤけながら結界を剥がす。
 剣たちは結界が無くなっても宙に浮いたままで、煙の奥に吸い込まれるように消えていった。

「これから戦争だぞ、お前に特攻を任せていいか?」

 サリエリはズボンのポケットに手を突っ込むと、煙が一瞬で晴れる!

 くるくると回転する10本ほどの剣が煙を吸い込んで、後ろに吐き出す。
 右手に持った真っ黒な指揮棒、長いピンク色の髪、春だというのに三重のコートを着た胸の大きな女の子。
 指揮棒を振るうと、剣は踊るように彼女の周りを回転しだす。
 これが彼女なりの挨拶だ!

「元っ! 魔王軍幹部にして最強の特攻隊にして最強の魔法の使い手っ! 名前は『エピソード』! 特技は『剣の舞』だよっ! よろしくねぇ!」

 指揮棒をポーチにシュッと直すと、剣たちは一瞬で地面に円を書きながら突き刺さる。

「……エピソード。あとで修理代は払えよ?」

 サリエリはニコニコしながら桃色の長い髪をグッと引っ張る。

「いたたたた! カッコよかったでしょ、上半身さん!」

「サリエリだって言ってんだろ!」

 俺は目の前に広がるカオス空間に目を細めた。
 桃色の髪の毛の少女がこれからの助っ人だって?

 心強いじゃねぇか……!
 この子の力を借りれば、魔王軍なんか簡単にぶっ飛ばせるだろ!
 まぁ、力は借りても修理代は絶対貸さないけどな!

 ……なぁ、サリエリとエピソード、俺の方を見ないでくれよ、払えるわけねぇだろ!

 △▽△▽△▽

「そろそろワールド様が来られるぞ、準備はいいな?レクイエム」

「ああ、問題ないぞ、チャルダッシュ」

「……本当に仲良いね、君たち。反吐が出そうだよ、どうせ友情なんて脳の電気信号なのに、どうしてそんなに好意とか信頼とかを重んじるかね?」

「……ファンタジア。お前にはわからないよ、守るものがあるからこれから戦うんだろ? お前を呼んだのはこの戦争に勝つためだ。わかったか? ファンタジア」

「ったく、しつこいのは嫌いだなぁ。そういえば、ここに来てから数時間だけでちょっとだけこの世界が気に入っちゃったよ。この『メガネ』って文化、なかなか良いじゃないか。君たちの顔がはっきり見えるよ。きひひひっ」

「チャルダッシュ、そいつに話しかけちゃダメ。幻想に囚われた怪物にまともな話なんてできるわけないじゃない」

「ほぉ、なかなか言うじゃないか、レクイエム。それにしても実に君は美しい。昔から君のその大きな胸と尻に興味があってね。僕の『幻想即興曲』を聞けばイけるところまでイけるぞ? どうだ? 僕とキマらないかい? きひひひっ、きひひひひっ!!」 

 つづく。

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