俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩

第56話 サキュバスの誘惑

 
 ◆◆◆◆◆◆

 ガチャン。

 カノンとイチャイチャしてたベッドの上にアリアを座らせる。
 少しだけ硬直した彼女の表情を写し取る俺の瞳、怯えているのが分かる。

「アリア、無理はしなくていいんだぞ?」

「だ、大丈夫ですわ。お気になさらずに来てくださいまし」

 アリアは靴を脱ぐと、ベッドに横たわる。
 彼女の金色の髪の毛が暗い部屋の中でキラキラと光り輝き、俺の心を強く魅了した。

 何故だろう、彼女と一緒にいるとカノンのことを忘れそうになってしまう。
 魔性の如き強いオーラを感じ取ると、それに負けまいと頭をブンブンと振ってみる。
 正気を保て、俺!
 このままじゃアリアに襲いかかってもおかしくないぞ!

「……、私の体が欲しくなるのですね、リュート様」

 アリアは起き上がり、立ち竦む俺の目を見つめる。
 綺麗な瞳で見つめないでくれ、本当に気が狂いそうなんだ……。

 すでにパンパンに腫れあがる俺の宝物庫。
 アリアがベッドの上にいる、この状況だけでも俺の全ての感情を刺激してこの後の展開を期待させた。

「す、すまないアリア……頭が痛くなってきた……!」

 俺は頭を抱えてアリアの姿を目に入れないようにする。
 すると、アリアは俯きながら小さく呟く。

「……私、サキュバスとヴァンパイアの雑種ですの」

「……えっ?」

「きっと私の事を犯したい、奪いたいって思ってしまうのでしょう?」

 アリアはスッとパンティーを脱ぐ。
 そして、スカートから黒い一本の尻尾が現れた。
 ヌルヌルとアリアのお尻から取り出された尻尾が俺の目の前に現れると、『触ってみます?』って感じでゆらゆらと揺れる。
 俺はそのアリアの誘いに乗せられ、黒々としたハート型の尻尾に手を触れてみる。

「ひゃんっ!」

 尻尾に触れた途端、アリアは喘ぐ。
 聞いたことがある、サキュバスの尻尾は性感帯である事を。
 俺は初めて触る部位をまるで女の子のお肉を摩るように触れてみる。

「……あっ、あぁっ! リュート様っ! こ、これがサキュバスである証拠ですのっ!」

 アリアの尻尾が逃げようとするから、俺はすぐにそれから手を離す。
 彼女のつま先がぴくんぴくんと痙攣している。
 限界まで伸ばされた足でどれだけ感じていたかが分かった。

「……サキュバスだからアリアへの思いが制御できないってのか?」

「そ、そうですの。この体質のせいで私はいつも男の人から追われる身だったんですのよ?」

 アリアはそういうと、ニッと笑う。
 右の唇から飛び出したのは長い長い牙。
 その姿で連想させるのは、アリアが言っていたヴァンパイアだ。

「これが、ヴァンパイアである証拠ですの。どうです? この姿を見ても私が怖くありません?」

 アリアは尻尾をクルクルと巻いたり振ったりする。
 アリアがさっきからブルブル震えているのは俺が怖いからじゃない、彼女自身の体質を嫌悪されるのが怖いのだ。
 と、俺は思った。

「……別に? 俺は気にしないけど、アリアはそれがバレたら怖がられると思ったのか?」

「あ、当たり前でしょう! 汚れた血ですのよ?! 二種の化け物の雑種だなんて、神が許すわけありませんわ! 私は実験で産まれた玩具と同じ存在ですの! それを隠して隠して生きてきたのに……!」

 アリアはポロポロと涙を流し始めると、ベッドにそれらを落としていく。
 鋭い牙が彼女の恐ろしさを掻き立てて、彼女の尻尾が愛おしさを感じさせる。
 異様な組み合わせによって、アリアは毎日迫害される日々を送っていたのだろうか。
 彼女の涙でそれを全て悟った。

 アリアは他人と過ごすことが苦手なんじゃない、他人と過ごす事を遠ざけないといけないと思っているんだ。

「でも、俺はアリアのことが好きだぞ? 怖いとか思ったことないぜ? ヴァンパイアだからなんだ? サキュバスだからなんだ? 俺はそんなことどうでもいい。俺は今、アリアのことを見てんだ」

「ど、どうでもいいって! 私がこの体質でどれだけ忌み嫌われてきたか分かってそんなこと言ってるんですの?!」

 アリアは立ち上がって俺の胸ぐらを掴む!
 頭にきた金髪の女性は怒りに任せて牙をバッとむき出しにする。
 ギラリとした彼女の目、牙、思いが俺の瞳に突き刺さる。

 ぎゅっ。

 俺は金色の髪の毛を撫でながら彼女の全てを抱き上げる。
 尻尾がペチペチと腕に当たったのが分かる。

「りゅ、リュート様……」

「俺はアリアのことが好きだって事。それはヴァンパイアだからって憐れみじゃないし、サキュバスだからって魅了されたわけでもねぇよ。アリアの全部が俺は好きなんだって」

 また、告白みたいなこと言っちまった。
 俺が言いたいのはこんなことじゃないのに。

「……リュート様は本当に私の全てを知って幻滅してませんの?」

「幻滅どころか、可愛いやつだなって思ったぜ?」

「そ、そんなことはありませんわっ! 私の事を知らないからそんなこと言えるんですの!」

 アリアは俺を突き飛ばそうと腕をのばした!
 俺はその反動に負けじと思い切りベッドの方に突き飛ばした!

「きゃっ!」

 アリアはベッドの方に倒れると、俺の胸ぐらを再び掴む。
 俺たちはベッドに吸い込まれるように横たわると、彼女と間近で目が合う。

「……じゃあさ、アリアの全部を教えてくれよ。それで俺がアリアが怖いか怖くないか判断する。で、どうだ?」

 アリアは俺の瞳を見つめると、すぐに目をそらす。
 彼女はサキュバスらしからぬ赤面の仕方をしながらポツリと呟く。

「嫌いに……なりますのよ? きっと……」

「ったく、考えすぎたって!」

「でも……でもぉ……! 本当の私を知ったら必ず……!!」

 アリアは卑屈を極めたのか、どんな励ましでも受け付けなくなっていた。
 言われ慣れてしまったのだろう、そういう甘い声で何度襲われかけたのだろうか。

 俺は震えて動かなくなったアリアの頰に手を当てて、プルプルした唇を上にあげた。
 可愛らしいアリアの八重歯が光る。
 拒絶しているのだ、触れて欲しいくせに。

 そして俺は大きく息を吸い込んで、二人きりの空間を震わせた。

「俺は! カノンとのセックスを想像しながらオナったことあるぞぉぉぉぉぉぉ!」

「?!」

 アリアは肩をびくりとあげると、震えが一瞬で止まる。

「それと、パソコンにエロ画像を2000枚以上隠してるぞぉぉ! それと、AVよりエロアニメの方が好きだぁぁぁ!」

 アリアは変な顔をしながら涙を流し始める。
 何がしたいのか本当にわからなくなった時の女の子の顔で見つめられると辛くなるんだなって思った。

「俺が隠してたことだよ。こんなこと、他人に知られたらドン引きされるだろ。でも、アリアが誰にも言えないヒミツを教えてくれたから教えてやったんだよ。どうだ、幻滅したか?」

 アリアは意味のわからない顔から急に笑顔になった。
 その割に止まらない涙は俺が怖かったからか?

「……幻滅……しませんわ、だって、それがリュート様ですものね……!」

「そ、そうか、ならよかったよ。とりあえずそう言うこった。アリアがコンプレックスに感じてることも、意外と受け入れられるってことだ。特に、俺なんか好きだぜ? ヴァンパイアとかサキュバスの属性ってやつ! デリカシー無し男が言うけど、萌え萌えだぞっ!」

 俺はアリアの流れ出る涙を人差し指で拭き取る。
 乙女なんだ、アリアは。

「本当、リュート様って変なお方ですわ。私、初めて可愛いって言われましたのよ?」

「おっ、それはそれは嬉しいなぁ。アリアの初めてになれて」

「ほんと、リュート様ってアホですのね」

「なっ、なんだとっ!」

 アリアに笑顔が戻った。
 こんな臭い言葉でも、俺が言いたいことは伝わったのか。

「やっぱり、リュート様はどの男性よりも素敵な方ですわ。私の中身まで好きになってくれる方なんていないですもの……!」

 アリアは俺の顔を見つめながら顔を赤くする。
 俺は何もためらわずにアリアにキスをした。

 アリアはもっと幸せになるべきだ。
 生まれてしまった事を後悔させたくないんだ。
 だから、俺はアリアに自信を持って欲しい。

『アリアだからこそ好きになれた』

 そう、外見なんてどうでもいい。
 悩んでいるからこそ救われるべきだ。

「アリア。尻尾、貸してごらん?」

「……激しく擦っちゃダメですわよ?」

 アリアの尻尾がスルスルと俺の前に現れる。
 俺はそれをゆっくり握る。

 さぁ、アリア。

 俺なりのやり方で幸せにするからな?

 ******
 ……。
 ******

 アリアはエッチしたことを忘れてしまうのだ。
 俺が励ました事、アリアの事を信頼している事、人間をもっと信用していい事。
 それが何よりも一番歯痒かった。

「アリア!」

 彼女の乳がボインと揺れる。
 頰に俺は手を触れると、最後のキスをした。
 クチュッと音がなると、俺の唇からアリアの舌が離れる。

「俺の言った事、忘れたらダメだぜ?」

「……カノンの魔法で全部忘れてしまいますわ、きっと。でも、今のうちに言っておきますわ。リュート様が私の中身が好きだと言ってくれた事、本当に嬉しかったですわ」

 そして、八重歯をむき出しにしながらニヤッと笑う。

「リュート様なら、にっこり笑っても大丈夫だって! 尖った歯を見られても拒絶されないって! 私、笑っていいんですのね!」

 初めて見たアリアの満面の笑み。
 そうか、アリアがなかなか人前で笑わないのは、そういう理由だったのか。

「笑った方が、アリアは可愛いよ。八重歯が尖ってるからって拒絶する奴なんてこの世界にはいないから安心してくれ。八重歯、萌え萌えだぜっ!」

 アリアの満面の笑みを俺は脳内に刻んでおくことにした。
 写真では残せない、アリアの素敵な生き生きとした表情。
 これは、俺とアリアの間だけの宝物にしておきたいのだ、誰にも干渉されない記憶の中で。

「リュート様、私が記憶を消された後もいつものように接してくれると嬉しいですわ!」

「当たり前だろっ!」

 全裸の男女がベッドの上でこんなにもラフな話ができるだろうか。
 それは彼女が異世界から来た特別枠の人間だからかもしれない。
 そして、彼女の胸の中に秘められた悩みや傷が尊いものだと気付いてしまったからなのかもしれない。
 人間が怖いだなんて思わせない。
 もう一度言おう、彼女は幸せになるべきだ。

 俺は彼女のピンク色の輪っかに唇をつけた。
 舌でその突起をプルプルと擦って吸い付くと、サキュバスの鳴き声が薄暗い空間の中に響き渡る。
 もう残り時間は1分を切った。

 ◆◆◆◆◆◆

「...。」

「はい、終わったわよアリア。どう? 記憶は全部消えたかしら」

 カノンの手がアリアの頭の前から降ろされると、金髪の少女はキョロキョロと後ろを振り返る。

「っ! 本当に何も覚えてませんわ! もう終わったんですの?!」

「そ、終わったのよ。アリアったら、入って来た時は相当ダダこねて大変だったのよ?! 記憶を消す約束は守れって言っても全然聞かないし!」

「う、嘘ですの! そんな子供みたいなこと言うわけありませんわ! そうでしょう! リュート様!」

 なんだか聞いたことがあるフレーズだな。

 俺は頭をぽりぽり掻きながら返答を考えた。

「んいや、結構抵抗してたな」

「ななな、なんてことですのっ! お恥ずかしいところをお見せして申し訳ございません皆様!」

 アリアはペコペコと頭を下げる。
 暗い顔をした彼女は頭を抱えながらため息をつく。

 やはり、全て忘れてしまったようだ。
 俺はアリアに近寄って、ほっぺをギュッと摘んでみる!
 すると、アリアはすぐに周りの目を気にして両手を口の前に持っていく。

「ちょ、リュート様っ! そんなことしないでくださいまし!」

 八重歯を見られまいとする彼女なりの抵抗のようだ。
 唇をキュッと締めて心の窓も閉め切ってしまう。
 その姿を見ると、俺はあの時のように息を大きく吸い込んだ。

「俺は! 笑ってる時のアリアが好きだぁ!」

 俺の声がアリアの鼓膜に響くと、途端に彼女の頰が真っ赤になる。

「ちょっ、リュート! アンタ何言ってんのよ! ほんと、毎回毎回女の子に影響されてんじゃないわよ!」

 カノンが張り手をかまそうと右手を大きく振り上げると、アリアは俺の前にすっと出てくる。

「リュート様を責めないでください! 私がそう言えって言ったんですの!」

「な、何なのよアリア! 調子乗ってんの?! あなたには彼氏がいるでしょ! リュートまで取ろうっての?!」

 カノンはアリアの服を掴んで揺さぶる。
 アリアはされるがままで、カノンの揺れに抵抗することがなかった。

「や、やめろよお前ら!」

「リュートは黙ってて! そもそも彼氏がいるくせになんでリュートとエッチしようとするのよ! ここに来たのがわかった時から思ってた! 大好きな彼を置き去りにして子作りしに来ただなんて滑稽な話があるわけないでしょ! 彼氏思いのアリアはどこに行っちゃったのよ!」

 俺はアリアとカノンの間に入って喧嘩を止めようとしたその時、金髪がふわりと空に舞った。

「ウィルヘルミは死にましたわっ!」

 アリアがカノンの胸にポンと手を置いた。
 ガラスがカタカタと鳴る。
 それは魔物の鳴き声による振動とみて間違いないだろう。

「あっ、アリア……泣いてるの?」

 カノンはアリアの服から手を離すと修羅場になった空間の中に一滴の雫が落ちた。

「……ウィルヘルミ、私と結婚する予定だったお方は亡くなりましたわ。カノンは知らなかったんですのね」

「そ、そんな、ウィルお兄さんが死んでただなんて……!」

 カノンは手を口元に当てる。
 信じられないのだろうか、手を抑えながらアリアを眺める。
 アリアもポロポロと涙を流してカノンの震えを眺めている。

「ウィルヘルミは私を庇うために死んだんですの。だから、私はその運命を変えるためにこの次元のリュート様に会いに来たんですの。安心して、カノン。私が本当にリュート様を愛することはありませんし、リュート様にもそれは伝えた……と思いますわ。どうでしょう?」

「……あぁ、事情はエッチした後に聞いたよ。そのとき、アリアに頼まれたんだ。『俺は笑っている時のアリアが好きだ』って言って欲しいって。そう言ってくれた方がみんなに言い出せる勇気が出るって」

 アリアは俺の方を見て頷くと、零れ出る涙を両手で拭く。

「……リュート様が私に言った言葉は無口なウィルヘルミが残した最後の言葉ですの。私はもっと幸せな表情であってほしいと願ってくれた、最後の言葉。私はウィルヘルミを裏切って、この約束を忘れていたんですの」

 そして、アリアはゆっくりと口角を上げていく。

「私……! ヴァンパイアとサキュバスの雑種ですの……! こんな私でも認めてくださいますか?」

 アリアがニッと笑うと、むき出しになった二本の八重歯がギラリと部屋の中を照らし出す。
 尻尾がフリフリとお尻から現れると、目の前に先っぽを持っていく。
 このことを知っていたであろうフーガだけはその事に驚かなかったが、それ以外の人は顔を歪めて足を一歩引いた。

 禍々しく光るヴァンパイアの剣を眺め続けると、カノンはゆっくりと口を開く。

「認めるってか、だからなんだっての?」

「え……?」

 アリアはビクッと肩を浮かせる。

「別に、アリアがヴァンパイアだろうがサキュバスだろうが知ったこっちゃないわよ。まぁ、ヴァンパイアってのは少し驚いたけどね」

 カノンはそういうと、金色の髪の毛を撫でる。

「アンタは良いやつよ。まぁ、リュートをストーカーしたりするところは頂けないけど、気品あるヴァンパイアなんでしょ? 人の血を吸ったりしないなら全然怖くないっての。てか、こう言う理由でいっつも人と接する時ビクビクしてたの? アホくさ」

 カノンが鼻で笑うと、アリアは牙を唇の裏に隠す。

「で、でも! 私は忌み嫌われた種族の……!」

「あぁ、もう! 怖くない怖くない! アリアはアリアでしょうがっ! 誰もアンタのこと嫌いになったりしないわよ! ねぇ、みんな!」

 カノンは演劇を閲覧していた人々に同意を求めると、みんな揃って頷いた。

「……アリアは、アリアだよ。種族なんか関係ない」

 アイネはしっとりした目で笑う。

「サキュバスやヴァンパイアなんて、私の友達にも沢山いますよ! 大丈夫ですって!」

 メロはニヤリと笑う。

「ほら、やはり言うべきだったんですよ、春日さん。ヴァンパイアやサキュバスは気品のある美しい種族なのですから」

 フーガは片目をつぶってウインクする。

「ビクビクしてる方がおかしいぜ? 俺も吸血鬼の一種だが、迫害なんか怖くねぇよ!」

 サリエリもアイネを撫でながら笑って見せた。

「み、皆様っ……!」

 アリアはさらに大粒の涙が溢れさせる。
 と、俺は彼女の頭をポンと叩く。

「まぁ、そういうことだ! アリアっ!」

 俺は歯が全部見えるほどの満面の笑みを見せた。

「はっ……はいっ! リュート様っ!」

 アリアは俺に答えるように口角を上げて笑って見せた。

 そう、アリアはもっと幸せになるべきだ。
 こんなふうに、笑って過ごせる日が来るべきだ。

 そう願っている。
 俺も、みんなも。

 ◆◆◆◆◆◆

「さてっ! これでアイネとアリアが終わったわねっ! そしたらリュート、私ともう一回エッチしなさいね!」

「お、おう。てかカノン、楽しみにしすぎじゃないか?」

「はっ?! なに言ってんのよ! 楽しみになんかしてないんだからっ! 私みたいな美女とエッチできるって考えてるリュートの方が興奮してるじゃない!」

 俺の股間に指をさすカノン。
 そうさ、俺はカノンとのエッチを楽しみにしてるが、ここで認めるのもなんか嫌だ。

「いや、カノンこそ股を締めてどうしたんだよ? ムズムズすんのはわかるけど、そんなにしてたらだめだよなぁ?」

「う、うるさいっ! 張り手食らいたいの?!」

 カノンとの会話は楽しい。
 いつだって俺はカノンの隣にいたいと思えてくる。
 これからもこの時が続けば良いなと思える。

「……そういえばさ、テルはどこ行ったんだよ。さっきから姿が見えないけど」

 俺は次の番のテルを探すために部屋の周りを眺めるが、いつものうるさい赤髪のツインテールの子は見つからない。

「……テル、私が魔法を使った時からいない。人狼の力で隠れてると思う。私が魔法を使ったせいで……」

 アイネは少しだけ目線を落とすと、サリエリが彼女のサラサラの髪の毛を撫でる。

「過去のことは忘れるんだ、東の王女」

「うん……」

 テルがいないことによりどこか寂しげな空間に仕上がる。
 彼女がいないだけで、あんなに騒がしかった部屋が静まり返るなんて……。
 てか、人数足りなくね?

 1、2、3、4……。

「おい、そういやエータもいないじゃん」

 みんなは顔を揃える。
『よく考えたら、いないな』って顔してる。

「お、おい、なんで誰もエータがいなくなったの気づいてないんだよ」

 忽然と姿を消したエータ。
 俺はなんとなくだが心当たりがあった。
 こんなことできるやつといえば、あいつしかいないじゃねぇか。

 なぁ、そうなんだろ?

 テル。

 ★★★★★★

「い、勢いで連れて来ちゃったよ……」

 私は誰にも見られてないことをいいことに、好奇心の赴くままに行動を起こしてしまった。
 いつもお父様から悪い癖だと言われてるのに。

 目の前で気絶したままの少年が寝てる。
 私はその男の子の唇を人差し指で撫でる。

「エータ……だよね? この人」

 私はあの時に感じた柔らかさを確かめるため、実験をするためにエータを誰もいない所に連れて来てしまった。

 あの時、触れた唇。

 私はエータのそれに自分の唇を近づけていく。

「……いいよね? エータ。私のこと、好きなんでしょ?」

 つづく。

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