は・み・る・な日常

リーズン

~~白亜の日常=裏側澪サイド4~~

 下駄箱から教室近くまで無理矢理白亜を連れて来た私は今、教室のドアまでの道すがら必死に深呼吸を繰り返す白亜を見て、知らずため息が漏れていた。


 先も言った様にこいつは一見完璧なのだが、白亜は自分に自信が無い。


 その理由を知っている私だが、それでもそろそろ少しは白亜に自信を持って貰いたいと思っている。


 私は・・・私自身が何よりも誰よりも認めているこいつに、少しでも良いから自分の事を好きになって貰いたいんだがな。


 白亜には年の離れた姉が居た。


 彼女は私達が小学生の頃に交通事故で無くなった。


 だが、死した後も世の中がその人を色々な言葉で表した。


 曰く天才、超人、傑物、神童、そして神の生まれ変わり・・・と。


 その美貌は誰からも認められ、その頭脳は世の中の様々な謎を解き明かし、音楽を奏でれば人々の心を揺さぶり、作り出す物は芸術品として高値で売られ、研究の分野では比喩でも何でもなく時代を進めた人間と言われていた。


 白亜はそんな姉に憧れていた。


 白亜自身、頭も良く才能が在る。


 だが、そんな白亜でも白亜の姉、士道  黒華くろかの破格の才能の前には、周りからもそして、自分自身ですら凡人としか思われなかった。


 白亜の出来る事、やれるようになった事は、その全てが過去に姉がやった事でしか無かったからだ。それは、あれから何年も経っているが変わらない。


 出来損ない、姉の劣化版それが白亜の自分に対する評価だ。


 そしてその評価は自分自身で付けただけでは無く。他ならぬ白亜の親が白亜に張り付けたレッテルだった。


 黒華の死の原因で在る交通事故を起こしたのは、身寄りの無い天涯孤独の人間だった。そしてその事故で加害者も亡くなった。


 そのせいで白亜は、大切な人間を失った悲しみや憎しみを、ぶつける相手すら同時に失った。


 そしてそれは白亜の親も一緒だった。


 元々白亜達姉妹と両親の仲は良くなかった。白亜の両親は黒華の稼ぐ多額の金を頼りきり、働く事さえしなくなったのだ。


 そして黒華と違い金を稼ぐ術を持たなかった白亜は、両親から居ない物として扱われていた。


 それを知った黒華は白亜を連れ、両親から離れ二人で暮らし始めた。


 だが、交通事故で黒華が亡くなってしまった。


 その怒りは全てが白亜へと向けられた。心無い言葉や悪意を向けられ、ただでさえ姉を無くした白亜の心を追い込んだのだ。


 正確にこいつの中で起こった事はわからない。


 だが、こいつの根底に在るのは姉の存在だ。そして、姉以外の人間を余り知らない白亜に取って、人や自分の基準も姉なのだ。


 だからこそ自信なんて持てないだろう。


 私だってあの人と自分を比べたら何もかもやる気が無くなるぞ。


 そんな事を考えながら未だに深呼吸を繰り返す白亜を見る。


 ・・・しかし、いつまで深呼吸してる積もりだ?


「お前、毎朝の事なんだから慣れろよ」


「はぁ~、テンパってるハーちゃんも可愛いです」


 瑠璃は瑠璃で緊張しまくる白亜に悶えて居た。


「で?今日こそはまともに挨拶返せるのか?もう五月だっつうに」


「・・・・大丈夫?」


「「不安しかない」」


 いや、原因は分かるけど、そろそろクラスに位馴れろよ。いや、マジで!


「ダイジョブだもん!アレでしょバルスって言えば良いんでしょ!」


「お前クラスメイトに朝の挨拶でバルスとか、喧嘩うってんのか?」


 ・・・相当テンパってるなこいつ。


「本気で混乱してますね」


「情けない」


 本格的に何とかしないと、私達が居なかったら日常生活出来るのか、こいつ?


 辿り着いたドアの前で深呼吸をしてドアを開けようとする白亜だが。


 ガララララっ!


 丁度良いタイミングでドアが開き中からクラスメイトが出てくる。


 タイミングが良いのか悪いのか。


「あっ、士道さん、安形さん、彼方さんおはよう」


「あぁ、おはよう」


「おはようございますカナミさん」


「あぅ・・お、おはようございます・・・」


 何とか挨拶を返すもかなり声が小さい。


 白亜はそそくさと机に向かい突っ伏してしまった。


 う~ん。いきなり心が折れたな。


「大丈夫ですかハーちゃん?」


「ん、平気・・・」


「机に突っ伏しながら言っても説得力が無いぞ」


 相当ショック受けてるみたいだな。


「うるさいボケ~・・・・」


「はぁ」


 ここで私がため息を吐くのはしょうがない事だろう。


 動きそうも無いので私も瑠璃も自分の机に向かい荷物を置く。


 すると丁度良く教師が入ってきてホームルームが始まった。


 ・・・・終わった頃には既に熟睡している馬鹿が居た。


 幾ら何でも早すぎるだろう・・・何しに学校まで来てるんだあの馬鹿は?



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