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ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

剣士は笑い、鬼は愚痴

「うわ……腕斬られとる」

「だなぁ……」

「ねえねえ、私これでもアイツと付き合い長いんだけど、躊躇なく腕斬り落とすわ、その後すっげえ冷めた目で見下されるわどう思うよ?」

 私、見下されてゾクゾクするような特殊な趣味ないですわよ?

「まあ、しょうがねえだろ。それよりアレ、俺的には大分出力高い気がするんだが、なんで手も足も出ないんだ?」

「いや、出力高い言うても、大元は私だから上限の幅的に限界あるし、それ考えたらステータスが少し上回ったくらいじゃ、あの技術には子供扱いされて当然っしょ。しかも突撃馬鹿っぷりだし」

「なるほど、そういうもんか。あっ、塩もくれ」

「はいよ」

 現在私は本来戦うはずだった相手と、仲良く外の光景を観戦しながらポップコーンを食べていた。

 何故こうなったかと言えば、この私の中である精神世界に入った瞬間、目の前に現れた鬼神に似たコイツに「戦う気はない」と宣言されたからだ。

「マジで?」

 その言葉を聞いた私から出た言葉はこの一言だった。

「ああ、本気だ」

「私は楽だからいいが一応聞いとく、なんで?」

「わかっているとは思うが、俺はお前の中にある鬼の力の一部。まあ……理性のようなモノだ」

「鬼の力に理性なんざあるのか?」

「随分なもの言いだな。お前の言いたいことも分かるがな。お前の思っている通り、普通は俺のように戦わずに降参する奴は居ないだろうな」

「特別って事か?」

 私がそう聞くと目の前の鬼は首を振り否定する。

「そういう訳じゃない。まあ、お前の精神に影響を受けているという点では特別と言えなくもないがな」

 またそうやって私が関わったからみたいに言うのはやめて欲しい。いや、待てよ?

「つまりは私の影響で本来芽生えないはずの理性が芽生えたと……やはり私は理性側!」

「いや、俺の自我が目覚めたのは鬼神様に力を注がれた段階でだ」

「それが?」

「ふぅ。その段階で自分の世界───つまりお前の中が崩壊一直線だったから、闘争本能の一部が生存本能。つまり俺という制御装置を作り出したんだ」

「えっと……ご迷惑おかけしてます?」

 なんで無理矢理注がれた力の事で怒られているのだろう?

「そんな理由で、この終末世界のような場所に生まれた俺は───本来あっち側のはずなのにそれを制御する自我が生まれたという訳だ」

 人の精神世界を終末世界とか言うの良くないと思うの。いや、ここにしか居場所ない奴にはそうなのかも知れんがね? 決して私のせいじゃないんだよ?

「いや、自業自得だ」

「何故に!?」

「完全な自我が確立されたのは鬼神様が新たに力を注いだ時だが、それより前の記憶も朧気ながらあったぞ」

「ほう。つまり?」

「お前がドラゴンを食べてその力を宿したり、神の力を奪ったり、その後も色々とやってくれたお陰で、俺は闘争本能を押し退けて生存本能全開で生まれた」

「……一生懸命生きてきただけなのになぜ誰も彼もが理解してくれないのだろう?」

「めちゃくちゃだからだろ」

 と、まあ、こんなやり取りの末、今は二人で並んで外の光景をバーベキューしながら見ているしだい。

「このタレ美味いな」

「だべ。でもこの中なら私の記憶から引っ張り出せんじゃねえの?」

 違う人格とはいえ私の中に居るのだ。本体である私の記憶から味を引き出すくらいは出来るのではないのだろうか?

「いや、出来ない。俺が分かるのは記録だけ、それは俺の体験ではないからな」

「うーん。つまり本や映像で知ってても味はわからんのと一緒か」

「そんな感じだ。この肉貰うぞ……それにそもそも俺は、今お前がこうしてここに居るから喋っているが、普段は実体化もしてない、ただの力の塊だ」

「そうなの?」

「ああ、簡単に言えばお前がいる時限定の案内人という感じだな」

「へー」

 つまり現実に戻れば力を貸して貰えるとかって訳でもない……と。

「お前とコンタクトを取るには精神世界に来るしかもないのか?」

「そうだな」

「なるほど」

「それにお前の中には竜と神獣も居るだろう?」

「……マジで? 神獣は初耳なんですけど?」

「この間ので形になったと思うぞ」

「oh……まあ、それはそれでいっか」

「割り切り早いなお前」

 何故かよく言われんだけどなんでだろ?

「それより、大分やられてるね。外は」

「ああ、暴走状態にある鬼の力で無理無理回復しているが、それもそろそろだな」

「ん、じゃあそろそろか?」

「ああ、もう少しで掌握出来そうだ」

 こうして中で楽しくポップコーン食って、バーベキューしてるのも暇だからではなく立派な理由がある。

 今私の体は、ソウの力によって鬼の力が暴走している状態になっている。

 そのお陰で普段は闘争本能に押され気味の生存本能であるコイツが、私の中で自由に出来ているのだが、実はこれ一時なモノだ。

 今暴走している鬼の力の闘争本能部分が私の中に戻れば、また立場は逆転され、私の中で破壊の力が常に暴走に近い状態になる。

 それでは今までと何も変わらない。

 そこで私達は鬼の力を屈服させるのではなく、暴走状態の闘争本能を表に出し、ソウに直接痛め付けて貰うことで力を削ぎ落とし、その力を少しづつ生存本能が吸収。

 私の中での闘争本能と、生存本能の力の逆転を図っているのだ。

 そして長らく……いや、結構早かったけど、待った結果、もうそろそろ闘争本能の力を生存本能が上回る所まで来た。

「でも、その内力を取り戻したらまた逆転されんじゃねえの?」

「いや、一度覆ってしまえばそれはないな」

「そうなん?」

「ああ、俺が言うのもなんだが、闘争本能は見ての通りの猪ぶりだからな。一度格付けが済めば大人しくなる」

「……実際あのまんまなん?」

「ああ、基本的に闘争本能は理性がぶっ飛んでることが多いからな。鬼の力ともなれば破壊衝動でほとんど理性がない。だから俺のような自我があるのは稀なんだ」

「本当にレアケースなんだ。てか、なんでそんな事知ってんだ」

「……これは鬼神様の記憶だな。衝動に呑まれれば本能のまま破壊の限りを尽くす悪鬼に、自分の中の力を屈服させれば、以降は外部からの介入がない限り自由に力を使える」

「私、お前のこと屈服させてないが?」

「まあ、なんとかなるだろ」

 うーむ。こういう言葉に自分を感じる悲しさよ。

「じゃあそろそろ出る時間かね」

「待て」

「まだなんかあるの?」

「いや、出て行く前に打ち合わせはしないのか? どうせこの後あの女とやり合うんだろ?」

「ははっ」

「何かおかしなこと言ったか?」

 私の中に居て理性があるから勘違いしたが、確かにこいつは私とは違うのだと感じて思わず笑ってしまった。

「いや、そんな無駄な事はしないよ」

「無駄?」

「うん。無駄。だって私がここでどう動くか考えた所で、あっちはそれを読んで、それをまた私が読み返して行動を変える。その繰り返しを何度もやるんだもん」

 そもそもあの沖田総司を相手に、決め打ちなど出来る訳がない。

 勝つにはその場その場で常に相手の思考の隙を突くだけだ。

「何も決めない。その場のノリ、ライブでこそ勝機が掴めるんだよ。だから力を貸せとも協力しろとも言わない。負けたくないなら私の中で私を感じて合わせろよ」

「ククッ、ああ、お前はそういう奴だったな。全く困った宿主様だな。本当に」

 そんな愉しそうな鬼の声を聴きながら私はこの場を後にした。
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 何度目か分からない突撃を繰り返し、その度に体を削り取られる美鬼。

 目の前の弱々しい人間は、しかしその見た目に反して鬼おもたじろぐ程のプレッシャーを放っている。

「ガアァァア!」

 その恐怖を振り払うように、今日最速の動きで剣士に向かう美鬼。

 しかし、その全てが剣士には手に取るように見えている。

 移動する軌跡。

 この軌跡に刀を置けばこの鬼は自分の力で刺さりに来る。

 そんなつまらない行動の繰り返し。

 そう行動だ。

 これは戦闘ではない。始まる前は楽しみにしていたこの戦闘も今はただハクアの復活を待つだけの暇潰しに過ぎない。

 そうしてまた、同じように美鬼は刀に向かい───刺さらなかった。

 あるはずの手応えがない。

 そして同時に後ろから死の予感が首筋を撫でる。

「フッ!」

 真後ろに直感で刀を振るうと、そこには本能ではなく理性と不満を宿した瞳が剣士を射抜く。

「くっそ。完璧奇襲したのになんで反応するかな!?」

「ふふっ、おかえりハクちゃん」

 剣士は笑い、鬼は愚痴り、最終ラウンドが始まる。

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