ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

私、また騙された!

 ボシャンッ。という音ともに身体の内部へと、問答無用に水が蹂躙しに入り込んでくる。

 これはアレだね。

 金池や
 ハクア投げ込む
 水の音

 うむ。泣いていいだろうか? って、そんな場合じゃねぇや!?

 ゴボゴボと水中でもがく、もが……く?

 あれ、必要ない?

 なんと息苦しくない。と言うよりも、普通に呼吸が出来ている。

「そういやテアがそう言ってたっけ? いや、喋れもすんのかい!」

 自分の行動にセルフツッコミを入れながら深呼吸してみる。

 思い切り吸い込むと普通に水だ。しかし何故か呼吸も出来て言葉も喋れるとはこれ如何に……うん。ファンタジーだね。

 考えても分からないので考えるのをやめてファンタジーで乗りきる。とても便利な言葉と世界観である。

 しかし身体に掛かる負荷は水中なのに、まるで陸地に居るように活動出来るって、なんか頭バグりそうだな。

 まあ、この程度でバグる頭はしていないが。

 金色に見えた水の中は、中から見るとどちらかと言えば黄色に近い。

 イメージとしてはファイト一発な栄養炭酸ドリンクや、シュワシュワしてる麦のジュースのような感じだ。とても目がやられそう。

 さて、何をするんだったかな。

 逃げる事に頭をフル稼働させていたので、テアの言葉は反射で拒否ってたから思い出さねば。

 ああそうだ。なんか中心の奥深くにあるもの取ってこいって言ってたっけ?

 遂に取ってこいも、物投げるレベルじゃなくて、ダンジョンを経て水中深くになったか。次は宇宙や他世界じゃなかろうか。やだ怖い。

  スキル熟練度が一定に達しました。スキル【水中呼吸】を獲得しました。

  スキル熟練度が一定に達しました。スキル【水場適応】が【水中適応】に変化しました。

 おっと、なんか覚えたぞ?

 補助スキル【水中呼吸】
 効果:水中で呼吸が出来るようになる。

 まんまやんけ。

 補助スキル【水中適応】
 効果:水による行動制限が限りなく無くなる。

 ふむ。水の中でもいつも通り動けるって感じかな? どれ?

 試しに歩いてみると、ふわふわした感覚ではあるが普通に歩けた。次に泳いでみるとこれまた普通に……いや、水の抵抗がない分えげつないスピードが出た。

 軽く泳いだだけで原付並の速さが出たのだが……。

 まあ、何はともあれいいスキルをゲット出来た。しかしゲットするの早すぎじゃないだろうか?

 いや……そうでもないのか?

 確か熟練度は簡単な事よりも難しい事の方が上がり易いと聞いた。

 目的もなくただ切ったり焼いたりするよりも、難しいレシピに挑戦した方が【料理】スキルが生え易い。
 それと同じように、水中にずっと留まっている今は、水中で活動限界がある生物にとって、ものすごく困難な事をしているのと同じなのだろう。

 そう考えればこの早さも納得できるか。

 自分の中で疑問が解決したのでさっそく行動を開始する。

 中心近くに投げ込まれたので、そのまま真っ直ぐ下に向かって突き進み続ける。

 その間にも【水泳】と【潜水】のスキルを獲得。

 そのまま30分近く潜り続けるが未だに底が見えない。

 透き通るように綺麗な水の中は、何故か底の方も同じ色が続いてる。

 普通、どんなに透き通っていても底が見えないなら暗いはずなのにそれが無い。なのに底は全く見えないという不思議空間だ。

  称号【魚?】を獲得しました。
【魚?】の称号によりスキル【水中マスター】を獲得しました。

 ……おい。遂に称号まで人の事弄り始めやがったぞ。まあ、スキル見てみるか。

 複合型スキル【水中マスター】
 効果:水中適応、水中呼吸、水泳、潜水、その他水中での活動に補正が掛かり、行動制限がなくなる。
 水中での攻撃力、防御力アップ。

 くそう。あんなふざけた称号の癖にスキルが良いから文句言いにくい。

 しかもスキルのおかげでまたスピードが上がった。今なら本気でやればマグロともいい勝負が出来るかもしれない。

 でもあいつら止まったら死ぬスピード狂だからなぁ。頭のおかしい子とは遊んじゃいけませんって言われてるから、その機会は訪れないだろう。

 などと考えていたら下の方に何やら光が見えた気がする。

 目を凝らして更に観察するとやはり光っている。

 おそらくはあれがテアが言っていた物だろう。

 池の底と言っていたが、それが途中にあると言うのならむしろラッキーだ。

 私はスピードを更に上げて光が見える底の方へと泳ぎ続ける。


 続ける。


 続ける。 


 続け……いや、遠くない!? 見つけてから10分近く全力で泳いでるけど、全く近寄れないのですが!?

 流石におかしいので止まって考える。

 相変わらず底は見えないが、止まっている間も光の大きさは全く変わらない。

 ふむ。考えられるのは三つ、同じスピードで遠ざかっているか、もしくはあれが本物じゃないか、あとは私が同じ場所をループしてるだけってのもあるか。 

 まず同じスピードの場合。
 いずれ底に辿り着けるのなら良いが、多分それはない気がする。流石に一時間近く潜って辿り着けない事はないだろう。よってこれはなし。

 次にあれが偽物の場合だが……これも却下だ。
 上手くは言えないがあの光を見た瞬間、私の中であれは本物だという確信がある。よってこれもなしだ。

「じゃあやっぱループ系かぁ」

 そうなるとよくあるのが核がどっかにある感じだけど、その感じは全くない。

 ってことは、あれ自体がそうなのかも?

 核をなんとかしないと抜け出せないけど、核自体を目指してるからどうにもならんと……詰んでね?

 しゃあない。それなら空間ごとぶち壊すか。

 そうと決まればさっさと行動するのみ。

「【鬼珠】解放! 変幻・酒呑童子! ハァァァ!」

 今の私が制御出来る唯一の変身、酒呑童子に変身して全方位に向けて無差別に鬼力を放出する。

「…………そこか!!」

 放出した力に耐え兼ねた空間の歪み。

 その一番弱い部分に全力の一撃を加える。するとその場を中心に空間が凝縮され弾けた。

「届け!」

 弾けた瞬間、私は光に向けて一気にスピードを上げ近付き、元に戻ろうとする空間よりも早く光に手を伸ばす。

 取った!

 その甲斐あって伸ばした手の中に何かを掴んだ感触が残る。

「アイタッ!? って、あれ?」

 瞬間、一瞬の浮遊感と共に地面に放り出され尻もちをつく。

「お早いお帰りですね白亜さん」

「テア? あれ、水は?」

 声の方に振り向くと何故かテア達のすぐ近くに居た私。

 しかも今の今まであった金色の池もなくなっている。

 いや、正確には私の近くにほんの少し、雨上がりの小さい水溜まり程度に残ってる。そして私の手には金色に光る金属の様な球が握られている。

「にしても早いはないべ?」

「いや、ハクアが投げ飛ばされた思ったらそんなにしないでいきなり出て来たのじゃ」

「はい?」

 あー、なるほど空間と一緒に時間も捻れてる系だったか。

「どうやらそのようですね」

 うん。当たり前のように頭の中が読まれとる。もういいけど。

「それでその手に持ってるのがテアさんが言ってた、池の底にあった物なのハクちゃん?」

「うむ。多分そう。奥底で光ってたの無理矢理引っ掴んできた」

「ええ、合っていますよ」

 そう言って手に握っていた金属の球を見せると、テアが覗き込んで満足そうに頷く。

「しかしまぁ、結構な不思議空間の中にあったけど、結局これなんなん?」

「これは白亜さんも名前を知っている物ですよ」

「……ほう?」

 全く思い当たる物がないんだが?

「それは神珍鉄と呼ばれる物ですよ」

「……嘘つき! お猿の神様関係ないって言ったじゃんかぁーー!?」

 私、また騙された!

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