ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~
……もう無駄か
「知っておいた方がいいって何が?」
「最初にハッキリ言うと、アカルフェルは水龍王様のご子息ではない」
「ほう」
二人から飲み物を受け取りながらそう訊ねると、シフィーは少し言いにくそうに口を開いた。
それはありふれたと言えばありふた話。
里の上役である龍王達、そのうちの一人であるおばあちゃんの息子のアークは、知っての通り邪龍へと堕ち討伐された。
そこでその責を問われたおばあちゃんは、否応なしに次代の龍王候補としてアカルフェルを育てることになったのだ。
「つまりは養子ってことか?」
「そうだな。しかも奴は水龍王様の方針に異を唱える派閥の出だ」
まあ、そうだろう。
おばあちゃんを攻撃すると言うことは、おばあちゃん自身を追い落としたいか、自分達の意見を通せる土壌を作りたいか。
今回取られたのはその後者だったという事。
次期龍王候補として、自分達の派閥を潜り込ませる事が出来るなら、効果的な一手としては悪くないだろう。
「なるほど、だから水龍王様とアカルフェルは仲が悪いんっすね」
「いや、んー、それだとなんか違和感あるんだよなぁ」
「違和感とはなんじゃ?」
「んと、おばあちゃんならそれさえも取り込んで、向こうを操ると思うんよ。それなのにただあんな関係を築くだけとか、おばあちゃんらしくないような?」
「確かにそうだけど、それもしょうがないと思うの。流石の水龍王様でも、あのアカルフェルを取り込むのは難しいの」
「まあ、確かに」
んー、私の考えすぎかな。
「いや、お前の言う通りだ」
しかしムニの言葉はトリスによって否定された。
「うん。水龍王様は当初、ハクアの言うようにアカルフェルにも平等に接した。そしてアカルフェルも他の種族を見下す傾向はあってもあそこまで酷くはなかった」
「妾達とも普通に接していたし、何よりも昔のあいつは水龍王様の元で純粋に強くなることを楽しんでいた」
二人の語るアカルフェル。
それは私達の知るものとはどこか違う、一途に強さを求める姿だった。
「んー。なんか私らの知ってるアカルフェルじゃないみたいっすね」
「つまり、その後に何かあったということじゃな」
「いいえ。何もありませんでした」
「ん? どういう事じゃ?」
「事実ですミコト様。シフィーの言う通り、アカルフェルのあの考えは何かを起因とするものではありません。妾達にも分かりませんが、ある日を境にいきなり変わったのです」
ある日を境に、それはつまり時間を掛けて変わった訳ではないと言うこと。
そしてトリスが言った通り、何か決定的に考えが変わる出来事があった訳でもないのだろう。
「なあ、それは二人が知らないだけじゃないのか?」
「それはない」
「あの頃、私もトリスもアカルフェルと一緒に水龍王様の元で修行していた。そしてあの日、一度アカルフェルは一族の集まりに出て、次の日帰って来た時にはああだった」
「……言いたくはないが、洗脳の類いではないのか?」
二人の話を聞いたミコトが険しい目つきで問う。
しかしその問に対してどちらも首を横に振る事で答えた。
「妾達も当初はそれを疑った。しかしどれだけ調べてもその痕跡は出てこなかった」
「それに、私達が見付けられなかっただけの可能性も考慮して少し調べたけど、アカルフェルの変わり様は水龍王様に反発してる一派も驚いていた」
なるほど、だから一番怪しい容疑者連中も候補から外れて行き詰ったのか。
「おばあちゃんは? その時何かを言ってなかったの?」
「そうなの。仮にトリス達でも痕跡を見付けられなかったとしても、水龍王様なら少しは手掛かりを得られたはずなの」
だが、それに対する返答もノーだ。
「いや、水龍王様も何も仰らなかった」
「うん。あっ、でもただ一言だけ『もう無駄よ』とだけ言っていた」
……もう無駄か。
「そっか」
「ハクア、何かわかったんっすか?」
「可能性はいくつかある」
一つはアカルフェルの態度から文字通り無駄だと思ったか、もう一つはおばあちゃんにも何も分からなかったか。
そして───
「そして?」
「わかったうえで何も言えなかったか」
「それはどういう意味じゃ?」
「どうもこうもない。おばあちゃん程の存在が口をつぐまなくちゃいけない事柄なんて、この世界にそう多くはないでしょ」
「……っ!? 父上か?」
「もしくは他の神とかそれに近い存在の介入だね」
まあ、一番の候補は考えたくないけどアレ系統とかなのかなぁ。
でもでも、ここまで明確に提示もないし、伏線みたいのもないのに、いきなり登場とかしたらダメだとハクアさんは思うわけですよ。
ほら、そんな事したら今まで伏線ちゃんと張れとか、読者さんも怒っちゃう展開ですのよ?
そんな訳でアレじゃないといいなぁ。いや、フリでもなんでもなく。
「しかしそうなると、アカルフェルは悪くないということになるんすか?」
「いや、そうとも限らない。なんだかんだ言っても真逆の思想を植え付けるって、どんな手段でも不具合が起こるもんだからね」
あそこまで綺麗にマッチしてるなら、元からあったものが増幅したって感じだろう。なら、遅かれ早かれこうなっていた可能性の方が高い。
「何よりも、これはあくまで二人の話を聞いた考察であって本当じゃない。なら今の私達の関係にはなんの影響もないよ」
「うーん。まあ、そうなの。ムーは普通にあいつ嫌いなの」
「まあ、私もっすけど」
「素直でよろしい」
「素直過ぎぬか?」
「いいんじゃない? 迷うより」
「まあそうだな。妾達も必要だと思ったから話しただけで、何かしろととやかく言うつもりはない」
「うん」
いやまあ、私が言うのもなんだと思うがあいつ嫌われてるなぁ。私も嫌いだからいいけど。
そんな今後の為にならない雑談を続けていると、どうやら向こうの新人教育……もとい、新たなメンバーの修行も一段落したようだ。
「ハクアちゃん」
「なあにおばあちゃん?」
「私は少し外すから少し休ませた後、あの子達に軽く組手をさせておいて貰えるかしら」
「いいけど……どれほど?」
私の問いにニコリと笑うおばあちゃん。
「怪我する程度で良いわ」
……軽い組手とは。
「あら? どうしたのハクアちゃん?」
「了解であります!」
「じゃあ、貴女達も頼んだわよ」
「「「はい!」」」
うーん。皆いい返事。
位だけで言えばシフィーもおばあちゃんと同格のはずなのに、明らかにこっちサイドで、私に習って皆と一緒に敬礼しとるし。
「と、いう訳では全員一旦休憩な」
私の言葉と共に全員がその場に崩れ落ちる。
だらしがない。私達だったらアップ程度ですよ。ここまだ地獄の入口にも立ててない場所だからね?
「どうかねアトゥイ。憧れの修行は」
「充実はしてる。その代わりこれがキツイ」
アトゥイの言うこれ。
それは新人全員の四肢に付いている黒光りする腕輪と足輪だ。
これは魔力や気の集中を阻害する効果が付いている。これを付ける事で常に負荷を掛け続けて修行してるのだ。
因みに私達は、もう既に腕輪をしても意味がないコントロールレベルなので最初からしてない。
まあ、私以外は最初していたらしいが。
そんな訳で新人は腕輪が取れるようになるのが第一段階、私達に課せられる修行を見学しつつ、その後は徐々に私達の修行に近付くらしい。
皆も早くこの地獄に届くといいなぁ。苦しみは分かち合おう。───私は絶対に嫌だが。
「そういえばハクア」 
「なに?」
息も絶え絶えといった感じのアトゥイに呼ばれ返事をする。
すると───
「お前は戦う時、いつも何考えてるんだ?」 
「おい、言い方よ」
いきなりディスられた。
「最初にハッキリ言うと、アカルフェルは水龍王様のご子息ではない」
「ほう」
二人から飲み物を受け取りながらそう訊ねると、シフィーは少し言いにくそうに口を開いた。
それはありふれたと言えばありふた話。
里の上役である龍王達、そのうちの一人であるおばあちゃんの息子のアークは、知っての通り邪龍へと堕ち討伐された。
そこでその責を問われたおばあちゃんは、否応なしに次代の龍王候補としてアカルフェルを育てることになったのだ。
「つまりは養子ってことか?」
「そうだな。しかも奴は水龍王様の方針に異を唱える派閥の出だ」
まあ、そうだろう。
おばあちゃんを攻撃すると言うことは、おばあちゃん自身を追い落としたいか、自分達の意見を通せる土壌を作りたいか。
今回取られたのはその後者だったという事。
次期龍王候補として、自分達の派閥を潜り込ませる事が出来るなら、効果的な一手としては悪くないだろう。
「なるほど、だから水龍王様とアカルフェルは仲が悪いんっすね」
「いや、んー、それだとなんか違和感あるんだよなぁ」
「違和感とはなんじゃ?」
「んと、おばあちゃんならそれさえも取り込んで、向こうを操ると思うんよ。それなのにただあんな関係を築くだけとか、おばあちゃんらしくないような?」
「確かにそうだけど、それもしょうがないと思うの。流石の水龍王様でも、あのアカルフェルを取り込むのは難しいの」
「まあ、確かに」
んー、私の考えすぎかな。
「いや、お前の言う通りだ」
しかしムニの言葉はトリスによって否定された。
「うん。水龍王様は当初、ハクアの言うようにアカルフェルにも平等に接した。そしてアカルフェルも他の種族を見下す傾向はあってもあそこまで酷くはなかった」
「妾達とも普通に接していたし、何よりも昔のあいつは水龍王様の元で純粋に強くなることを楽しんでいた」
二人の語るアカルフェル。
それは私達の知るものとはどこか違う、一途に強さを求める姿だった。
「んー。なんか私らの知ってるアカルフェルじゃないみたいっすね」
「つまり、その後に何かあったということじゃな」
「いいえ。何もありませんでした」
「ん? どういう事じゃ?」
「事実ですミコト様。シフィーの言う通り、アカルフェルのあの考えは何かを起因とするものではありません。妾達にも分かりませんが、ある日を境にいきなり変わったのです」
ある日を境に、それはつまり時間を掛けて変わった訳ではないと言うこと。
そしてトリスが言った通り、何か決定的に考えが変わる出来事があった訳でもないのだろう。
「なあ、それは二人が知らないだけじゃないのか?」
「それはない」
「あの頃、私もトリスもアカルフェルと一緒に水龍王様の元で修行していた。そしてあの日、一度アカルフェルは一族の集まりに出て、次の日帰って来た時にはああだった」
「……言いたくはないが、洗脳の類いではないのか?」
二人の話を聞いたミコトが険しい目つきで問う。
しかしその問に対してどちらも首を横に振る事で答えた。
「妾達も当初はそれを疑った。しかしどれだけ調べてもその痕跡は出てこなかった」
「それに、私達が見付けられなかっただけの可能性も考慮して少し調べたけど、アカルフェルの変わり様は水龍王様に反発してる一派も驚いていた」
なるほど、だから一番怪しい容疑者連中も候補から外れて行き詰ったのか。
「おばあちゃんは? その時何かを言ってなかったの?」
「そうなの。仮にトリス達でも痕跡を見付けられなかったとしても、水龍王様なら少しは手掛かりを得られたはずなの」
だが、それに対する返答もノーだ。
「いや、水龍王様も何も仰らなかった」
「うん。あっ、でもただ一言だけ『もう無駄よ』とだけ言っていた」
……もう無駄か。
「そっか」
「ハクア、何かわかったんっすか?」
「可能性はいくつかある」
一つはアカルフェルの態度から文字通り無駄だと思ったか、もう一つはおばあちゃんにも何も分からなかったか。
そして───
「そして?」
「わかったうえで何も言えなかったか」
「それはどういう意味じゃ?」
「どうもこうもない。おばあちゃん程の存在が口をつぐまなくちゃいけない事柄なんて、この世界にそう多くはないでしょ」
「……っ!? 父上か?」
「もしくは他の神とかそれに近い存在の介入だね」
まあ、一番の候補は考えたくないけどアレ系統とかなのかなぁ。
でもでも、ここまで明確に提示もないし、伏線みたいのもないのに、いきなり登場とかしたらダメだとハクアさんは思うわけですよ。
ほら、そんな事したら今まで伏線ちゃんと張れとか、読者さんも怒っちゃう展開ですのよ?
そんな訳でアレじゃないといいなぁ。いや、フリでもなんでもなく。
「しかしそうなると、アカルフェルは悪くないということになるんすか?」
「いや、そうとも限らない。なんだかんだ言っても真逆の思想を植え付けるって、どんな手段でも不具合が起こるもんだからね」
あそこまで綺麗にマッチしてるなら、元からあったものが増幅したって感じだろう。なら、遅かれ早かれこうなっていた可能性の方が高い。
「何よりも、これはあくまで二人の話を聞いた考察であって本当じゃない。なら今の私達の関係にはなんの影響もないよ」
「うーん。まあ、そうなの。ムーは普通にあいつ嫌いなの」
「まあ、私もっすけど」
「素直でよろしい」
「素直過ぎぬか?」
「いいんじゃない? 迷うより」
「まあそうだな。妾達も必要だと思ったから話しただけで、何かしろととやかく言うつもりはない」
「うん」
いやまあ、私が言うのもなんだと思うがあいつ嫌われてるなぁ。私も嫌いだからいいけど。
そんな今後の為にならない雑談を続けていると、どうやら向こうの新人教育……もとい、新たなメンバーの修行も一段落したようだ。
「ハクアちゃん」
「なあにおばあちゃん?」
「私は少し外すから少し休ませた後、あの子達に軽く組手をさせておいて貰えるかしら」
「いいけど……どれほど?」
私の問いにニコリと笑うおばあちゃん。
「怪我する程度で良いわ」
……軽い組手とは。
「あら? どうしたのハクアちゃん?」
「了解であります!」
「じゃあ、貴女達も頼んだわよ」
「「「はい!」」」
うーん。皆いい返事。
位だけで言えばシフィーもおばあちゃんと同格のはずなのに、明らかにこっちサイドで、私に習って皆と一緒に敬礼しとるし。
「と、いう訳では全員一旦休憩な」
私の言葉と共に全員がその場に崩れ落ちる。
だらしがない。私達だったらアップ程度ですよ。ここまだ地獄の入口にも立ててない場所だからね?
「どうかねアトゥイ。憧れの修行は」
「充実はしてる。その代わりこれがキツイ」
アトゥイの言うこれ。
それは新人全員の四肢に付いている黒光りする腕輪と足輪だ。
これは魔力や気の集中を阻害する効果が付いている。これを付ける事で常に負荷を掛け続けて修行してるのだ。
因みに私達は、もう既に腕輪をしても意味がないコントロールレベルなので最初からしてない。
まあ、私以外は最初していたらしいが。
そんな訳で新人は腕輪が取れるようになるのが第一段階、私達に課せられる修行を見学しつつ、その後は徐々に私達の修行に近付くらしい。
皆も早くこの地獄に届くといいなぁ。苦しみは分かち合おう。───私は絶対に嫌だが。
「そういえばハクア」 
「なに?」
息も絶え絶えといった感じのアトゥイに呼ばれ返事をする。
すると───
「お前は戦う時、いつも何考えてるんだ?」 
「おい、言い方よ」
いきなりディスられた。
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