ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

ガチですやん

「おっ、ハクア。起きたっすね」

「ちょうど良かったの」

 倒れた後の経緯を聞いているとシーナとムニの二人がやって来た。

「おっ、ヤホー」

「シ、シャルナルア様、ムルシエニ様!?」

「めんどくさいから別に畏まらなくていいの」

 シーナのムニの二人を見たアトゥイが名前のようなものを叫んで礼を取る。

「ああ、さっきの二人の名前か」

「そっすよ。そういやハクアには正式なのは言ってなかったっすね。私がシャルナ二アでムニがムルシエーニっすよ」

「へー」

「うわっ、聞いといて心底興味なさそう」

「いやだって、どんな名前だろうと変わらんし」

 そう言うと、何故か二人は私らしいと嬉しそうにする。

 そもそも今更正式名称が出てきても、小説だったら読者さんが混乱するだろう。それくらい名前は重要なのだ。

「そんな事よりも、二人って様付けされる感じだったんだね?」


「私らけっこう偉いんっすよ」

「ハクアも少しは敬ってもいいの」

「まじかよ。じゃあそんなお二人に私如き下賎な人間の手料理なんざ食わせらんねえから今度から用意しないわ」

「いやっすねハクア。私らの仲じゃないっすか、こんなの本気で言ってるわけないっすよ」

「ハクア、これは冗談なの。ドラゴンジョークなの」

 見事な手のひら返し。二人のこういう所、とても好感持てるむしろ大好きである。
 そんな二人と私のやり取りを見て、口をあんぐりと開けているアトゥイがとても印象的だった。

「それでなんか用事あったの? ちょうど良いって言ってたし」

「ああ、それなんっすけどね。ちょっと今回の事で召集がかかっててハクアを───てか、当事者を迎えに来たんっすよ」

 シーナの言葉を聞いてアトゥイがビクリと体を震わせる。

 恐らくは私にとって不利益な展開になると思ったのだろう。

「うん。断る」

 そんなアトゥイの肩に手を置き、ニコリと笑いかけると簡潔に断った。

「な、なな……」

 そんな事をするとは思わなかったのだろう。顔を青くしてまるでムンクの叫びのような反応をしている。

 アトゥイが先程から百面相をしていて面白い。

「いやいや、そんな事言わずに来て欲しいっす」

「いやだって、絶対面倒くさそうだし。私はまだ起きてない、変わらず寝ていたとお伝えください」

「残念。水龍王様に寝てたらベッドごと持って来いって言われてるの」

「なん……だと……!?」

 これ、起きてない可能性を考慮に入れてると言うよりは、私の言動を先読みした牽制ですやん。


「因みに行かなかったら?」

「あらあらうふふって笑っていたの……」

 少し青ざめ、腕を抱えながら震えた声で言うムニ。

 ガチですやん。

「で、どうするっすか?」

「行きます。って訳で」

「あっ、ハクア待───」

「アイタァーー!」

 どうせ行くなら早く行った方が良いだろうと早速行動を開始した私だが、歩く程には回復していないので、土魔法で車椅子を作ろうとした。
 しかしどういう訳か、魔法を使ったと同時に体を落雷の如き電流が駆け巡った。

「はぁ、無茶をするからだ」

「いや、無茶ってただもの作ろうとしただけ……」

「それが無茶なんだ」

 なんとか根性で目的の物は作ったが、そんな私にアトゥイは呆れながら言い放つ。

「お前は少し前まで体の内外がボロボロだったんだ。たった一日でここまで回復していたのは驚いたが、それでもまだ力を行使するには早すぎる」

「そうなん?」

 見た感じ外傷は治ってるから油断したが、どうやらそういう事らしい。

 とはいえやってしまったものはしょうがない。

 段差などに強く乗り心地を追求するため、小さいタイヤを左右に十個付け、それぞれが独立した動きを出来るようにし、常に一定の高さを保てるようにした特製車椅子に乗り込む。

「よし。とりあえずGO」

 えっ? タイヤが小さい理由の一つは自走する気がないからですよ?

「はいはい。じゃあ行くっすよ」

 と、いう訳で私はシーナに押して貰いながら目的の場所に向かった。

 だって場所知らないし。

「それにしてもハクアは相変わらず面白いモノを作るの」

 道中そう言って私の上に乗っかってきたムニの柔らかさに包まれながら、特になんのイベントもなく目的地に辿り着いた。

 二人は道中、ちょいちょい私に何かを聞きたそうにしては止めてを繰り返していた。恐らくは今回の戦いの中で披露した変身と技について聞きたいのだろう。
 だが、それを聞かないのはアトゥイが居るからか、どうやら本格的に覗かれていた事は隠されているらしい。

 やはり私が勝手にアトゥイに教えなかったのは正解だったようだ。

「んじゃ、後は頼むっす」

「は、はい!」

「乗り心地良かったの」

 いやいやこちらこそ乗られ心地良かったです。知ってた? 地竜って柔らかいんだぜ。

 目的地であるレリウスが試合を行った会場に辿り着くと、シーナはずっと黙ったまま後を着いてきたアトゥイに私を託し、ずっと乗っていたムニと一緒に入口前で別れた。

「んじゃ。行こうか」

「ああ……」

 アトゥイの表情が硬い。

 うーん。教えたいけど勝手な事しない方がいいしなぁ。しかも教えたとしてもそれを証明する手段もないしなぁ。困った。

 と、考えていても自走している訳ではないので、強制的にステージが置かれていた広場へ。

「あるじー!」

「おっとと、うん。ユエも元気そうだね」

 ユエを撫でながら前を見る。そこにはやはりあの時の全メンバーが揃っていた。しかもステージを取り囲む観客席は満員御礼状態だ。

 こちらを見て好意的な雰囲気を滲ませる者。

 見なかった事にしようとする者。

 バツが悪そうに顔を逸らす者。

 そして───

「ふっ、諸悪の根源が随分と遅いご登場だな」

「貴様……」

「アトゥイ、どーどー。ユエもね?」

「グルルルル」

 ニタニタと下卑た笑いを向ける者がいる。

 しかしユエよ。君それじゃあ鬼っ子じゃなくてワンコと同じだよ……いや、いいかも?

 ユエに犬耳とシッポを完備して想像する。

 女の子座りでこちらを見上げながら寂しそうに潤む瞳。そして首には体格に合わないごつくて大きな首輪。そんな状態でくぅーん。なんて鳴かれたらもうね。もうね!

 大事なのはサイズの合わないごつくて大きな首輪。これ以外は認めない! そうする事でユエの中の仔犬感が引き出されるのですよ! いける。商品化出来る。むしろ私が欲しい! 

 頭の中でそんなことを考えながら、いちいち構っていてもしょうがないので無視をする。

 というか忙しい。

 だがその態度に腹を立てたのか前の方から一気に殺気が膨れ上がる。

「皆、よく集まった」

 しかし、それを制するようなタイミングで龍神の声が掛かった。

 いや、実際に制したのだろう。

 その声に一斉にひざまずいたアトゥイ達は見えなかっただろうが、目が合った私にはニヤリと笑いやがった。

 会場を見渡せばミコトやおばあちゃん達もこちらを楽しそうに見学している。

 完全な見世物になっとる。

 事情を知らないのはこのステージに集められた攻略メンバーのみ。

 こうして、いい大人達の全員を巻き込んだ茶番劇が幕を開けたのだった。

 ……帰っていいかな?

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