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ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

これがホスピタリティ

「んっ……」

 ヤダ怖い。気絶……もとい寝起きだとしても異様な程に頭がスッキリしていて、身体の痛みもダルさもほとんど消えてる。
 なのに身体が動かしにくいとか普通に怖い。そしてこれが、あの地獄のような飲み物のおかげとは認めたくない。

 何故なら口に入れてすぐに気を失った筈なのに、今もまだアレが口から喉、食道を経由して胃に到達した感触がゾワゾワと残っているのだ。

 それに認めたらまた出てきそうだし。勘弁願いたい。

「起きたのかハクア」

 自分に掛けられた声にビクリと反応する。

 だってしょうがないだろう。二度もあんな目に会えば誰だって警戒する。

 恐る恐る目を開けると、私の顔を覗き込んでいたのは予想外にもアトゥイだった。

「おはよ。アトゥイは元気そうだね」

「ああ、お前のおかげでな。私達は消耗こそしていたが大事には至ってない」

「そかそか。それは良かった」

「で、お前は何をそんなにソワソワしてるんだ?」

「えっ、いや、なんでもないよ?」

 うん、嘘である。
 だってしょうがないじゃないか、二度だ。二度も気絶させられたものと同じコップをアトゥイが持っているのだ。
 そんな物が視界に入ったら警戒してもしょうがないじゃないか。

「それでこれは礼という訳ではないが……って、どうした?」

「いやいやなんでもないんだよ?」

 善意、善意。これは善意だから顔を引き攣らせてはイカンのだ。

「まあいい、これは私が作った霊薬だ。水龍王様に比べれば拙い物だが良かったら飲んでくれ」

「あ、ありがとう?」

 恐る恐る受け取ったコップをチラリと観察する。

 よし! 変な気配も黒いオーラも七色の光も発してない。臭い……OK、目から涙を誘発させるようなものもなし……と。

 とりあえず見た目に異常がない事は確認出来たが、まだ油断するのは早い。
 前には無味無臭で意識だけを刈り取る霊薬も存在したのだ。

 そんな訳でコップの蓋をゆっくりと開ける。

 ふむ、とりあえず危険な感じはしない。なんならけっこういい匂いがする。いやいや、まだだ、まだ油断するな。

 ふぅ……と息を吐いて、アトゥイに分からないように気合いを入れるとコップを傾ける。

「うっ……」

「ど、どうした!?」

 コップを傾け口に霊薬を含んだ瞬間、口の中に広がったのは爽やかな酸味。オレンジジュースに近しいが甘みは少なく、苦さも多少だが存在する。
 だが、七色に発光する事も、黒いオーラを発する事もなく、意識も刈り取らない普通の飲み物。

「……美味しい」

「そ、そうか? なら良かった。私の家系は霊薬作りが得意でな、効果の強い素材を入れたから味を調整して飲みやすくはしたがそれでも───って、なんで泣いてる!?」

 もう駄目だった。

 味を調整して飲みやすくと言われた瞬間に、おばあちゃんから飲まされた、数々の霊薬の思い出が口の中に蘇り自然と涙が出た。

 そうだよ、これだよ。仮にも飲み物なんだから、少し位は飲みやすさを考慮しても良いんだよ。こ、これがホスピタリティ、まごころと呼ばれる物なのか!!

 突然泣いたと思ったら、そのまま何も言わず霊薬を味わう私に狼狽するアトゥイ。それに構わず淡々と霊薬を飲みながら泣き続けると私というカオスな状況が続いた。

「全く、いきなり泣き出したから何事かと思ったぞ」

「すまない。まごころに触れて涙が溢れ出た」

 いや、マジで。制御不能な程に出ましたわ。

「いや……本当にどうした?」

 ジト目で見られるが、きっと言っても信じて貰えないからしょうがない。

 トリス達曰く、それほどおばあちゃん達、龍王と呼ばれる存在は一般には遠いらしい。

「どうしたの?」

「……ああ、いや」

 なんとも歯切れの悪い受け応え。

 いつの間にか神妙な顔で黙ってこっちを見ていたアトゥイ。問い掛けると帰って来た反応がこれだ。

「その……色々とすまなかった」

「えっと……なにが?」

 特に思い当たる節もなし。

 本当に分からないので聞き返したら、しばらく黙った後、アトゥイはぽつりぽつりと心中を吐露し始めた。

 その内容は私に対する思いと今回の事、特にあの逃げ出した奴らに対してだった。

 私に対する思い。

 それに関しては当たり前と言えば当たり前の感情だろう。レリウスの反応でわかった事ではあるが、おばあちゃんに師事すると言うのは私が考えていた以上に重い。

 それなのにぽっと出の私が、あろう事かおばあちゃん側からの提案で修行をつけて貰えば当然だ。

 まあ、修行内容は知られてないしね……。

 そしてあの私を攻撃して逃げ出したあいつら。

 どうやらアトゥイが言うには、あの後全員にあの場で何が起こったのか聞き取り調査が別々に行われたらしい。結果、奴らは今の所お咎めなしなのだそうだ。

 何故かと言うと、全てが終わり私が気絶した後、戻ってきたあいつらはあろう事か、マナビーストを倒したのは自分達だと証言しろと全員に迫ったらしい。

 私達でなくとも、本来ならば無視すればいい戯言だろう。

 だが、実際はそうはならなかった。

 理由はこうだ。

 アトゥイが言うには奴らは龍族の中でも、純血と呼ばれる人間で言う貴族に近しいものらしい。

「純血……ね」

「ああ、簡単に言えば世代を重ねた家系だな」

「世代を重ねた?」

「ああ、龍族は同じ龍族から生まれる他に、他の種族が竜へと至る事で転じるのは知ってるか?」

「うん。ああそうか、それで純血か」

「そうだ。もっと言えば竜へと至り、数世代重ねれば純血と認められるが、それまでは混ざり物と揶揄される」

「ふーん」

 龍族って言ってもその辺は人間と変わらん馬鹿みたいな思考だな。

 そしてなんとまあ、逃げ出したのは全員が純血なのだそうだ。それに引き換え、あの場に残ったのはほとんどが混ざり物と呼ばれる側。

 そうなれば奴らがふざけた事を言っても受け入れざるを得ないらしい。

 だがそれでもアトゥイを含めた何人かは私の味方をした。

 一緒に戦ったメンバー、助けた奴にもちらほらと、そして半数が奴らに従い、もう半数がこちらの味方にもなれないが、向こうにも味方せず口を閉ざしているらしい。

 そしてその証言、どちらの言葉を信じ、どちらの言葉の方が信憑性しんぴょうせいが高いかと言えば───。

「あっちってなるわけだ」

「ああ、本当にすまないよ。命を賭けて戦ったのはハクアだと言うのに……こんなことに、何が誇り高い龍族だ」

「アトゥイが気にすることじゃないよ」

 いやほんとに。

 ここまでの話でわかったが、どうやらアトゥイ達は試験が監視されていた事に気が付いていないようだ。
 得点稼ぎにやっているもんだと思ったが、どうやらあのてんやわんやは素の行動だったみたい。

 本当なら落ち込んでいるアトゥイにその事を教えてもいいが、聴取の最中からここに至るまで全員が口を閉ざしているのなら、私の判断で勝手に教えない方が良いだろう。

 それに……今回の事は、あのおばあちゃん達が観てた筈なのだ。

 そして奴らは私を殺そうとしただけならまだしも、アトゥイ達を含めた全員を見捨てて逃げ出した。

 そんな事をしたのだ。

 仮に親族が庇ったとしてもどの道奴らに先はないだろう。

 と言うか、あそこまでしたのを見られたら親族にも見捨てられる可能性の方が高い。そうなれば後は語るまでもないだろう。

「何を一人で納得してるんだ?」

「いや、怖いなぁーって」

「そうか?」

 私の言葉に首を傾げるが、どうやら気にしない事にしたようだ。

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