ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~
くそったれ!
「ユエ!」
反射的に出た言葉に全く反応はない。
それどころか、ユエを抱えるシーナの服は目に見えて血に染まり、今もまだユエから鮮血が溢れ出している。
どうして? 何故? 何が起こった?
様々な考えが浮かび思考がとりとめもなく溢れ出る。
しかしそれでも身体は最善を目指して動き出す。
近付くシーナを視界に映しながら、作業台として使ってた机の上の邪魔な物を払い除ける。
「シーナ! ユエをここに!」
頭はまだ混乱している。
それでも今はそんな事を言っている場合ではない。  
少しでも手順を間違えれば取り返しがつかなくなる。だからこそ落ち着かねばならない。
「ハクア! 済まないっす。私……回復は出来なくて」
「そんなもんいらない! 見つけて連れて来てくれただけでも十分だ!」
自分がその場で処置が出来ればと気を落とすシーナに声を掛けながら 、台の上にそっと寝かせたユエの状態を調べる。
くそったれ! 全身切り傷、打撲、裂傷、それに骨折しまくってやがる。
一番大きな袈裟斬りの傷は、見た目に反して深くないから臓器は無事だが、範囲が広すぎる!?
ユエの状態を観察しながら出来る事、出来ない事を頭の中で組み立て、トリアージしながら処置していく。
まず【結界】を私達の周りに空間を確保すると、ユエと私の二人に、クリーンの魔法で清潔な空間を確保すると同時に、傷口の消毒も行う。
次に毒を調合して麻痺毒を作りユエに飲ませ、水魔法で血液に働きかけ出血をコントロール。
その間に骨折の治療を魔法で施し、その他の傷を外科手術で処置しながら、体内に入った異物を処理する事で、弱ったユエの体力を管理しながら治療を続ける。
「よし。最後だ」
なんとか細かな全身の処置を終え、一番酷い袈裟斬りの傷に目を向ける。
ここにアクアが居れば治せるだろうが、ここまで酷いと私の回復系魔法では治せない。
だから私はアイテムに頼る。
取り出したのはヌルの作った回復薬を改良した上級の回復薬、それを更に改良する事で効果を引き上げた、市場には流せない特注品だ。
それを傷口に振り掛けながら、魔法と併用して処置を施すと、多少痕は残るが傷口自体はみるみる治っていく。
その光景を見ていた皆からも安堵のため息が漏れる……だが。
「くそっ! 時間が経ちすぎてる……」
「えっ?」
その声は誰から漏れたものか、私の言葉に困惑を含んだ声が漏れる。
目に見える傷。内側の傷も全て処置を施した。
けど……この状態で時間が経ちすぎたせいで、魂が死に向かっていっている。
ガームの姿が頭を過ぎる。
何も出来ずに立ち尽くすしかない私達、そんな無力な私達の前で、ガームに縋り付き涙を流すリンクとリンナ。
現在の状況に過去がフラッシュバックして重なる。
だけど──今度こそそんな事を認めてたまるか!
認めない。
許さない。
私から大事な物を何度も奪わせてたまるか!!
私とてあれから何もしなかった訳ではない。
あの時は確かになんの手立てもなかった。
だが今は違う。
構想は前からあった。
この世界はゲームのようでゲームとは違う。その証拠に、心臓や脳が破壊されればHPがいくらあっても、一撃で死んでしまう。
また今のユエのように、肉体が酷く損傷した状態が長引けば、体を全て治してもHPが減り続け死に至る。
延命措置は出来なくはないが、その状態を長く続ければHPの減りは加速し、そのうち回復が間に合わなくなる。
では何故それが起こるのか?
この世界の死にはいくつか段階が存在する。
まず肉体の損傷。
肉体が損傷する事でHPが減る。そうする事で体が第一段階の死に至る。
そして次に精神の死。
HPが減ると肉体が死に、次に精神であるMPが無くなり精神も死ぬ。
最後は魂の死だ。
肉体、精神が死ぬ事で魂が死に、この世界において完全な死を迎えた事になる。
魂は肉体と精神、この二つが枷となる事で、物質に宿る事が出来ているのだ。
ちなみに造られたアンデッドなどは、この終わりを迎えた肉体に他の魂を宿らせたり、擬似的な魂を宿らせたり、術者の魔力で肉体を操作したもの。
天然のアンデッドは、魂が離れた肉体にマナが溜まり動き出したもの、なんらかの要因で肉体が死んだにもかかわらず、精神が死なずに魂が残ったものだ。
そしてここで注目するのは、魂が肉体と精神が枷になっているという事だ。
それは逆に言えば肉体と精神が魂の器と言えなくもない。そうやって考えれば、私は既に似たような現象をよく知っている。
そう……それはサキュバスの吸い取っていた精気だ。
私が考えたように、仮に肉体と精神の死によって魂の器が壊れるのだとすれば、それはサキュバスの吸精行為に近いのではないか?
と、すれば、精気とは気力とMPの複合。
サキュバスの精気を吸う行為が、相手にとって魂の器を削られるものだと仮定し、逆の事をすれば魂の器を回復出来るかもしれない。
もちろんそんなもの、考えはしたが試した事はない。
この行為自体が神側の、何かしらのルールに抵触する可能性があったし、何よりも……この行為の果てに何が起きるのかが不明だからだ。
しかしそれでも研究自体は進めていた。そして私はこの里で気力とMP、つまり魔力のなんたるかを知った。
可能性は高くもないが、低いとも言えない。
ならばどんな結果になろうとも、手をこまねいているよりも遥かにマシだ。
今もまだ減り続けるHPを見ながら精神を落ち着ける。
焦るな。
少しでも集中を乱せばその時点で全てがダメになる。
呼吸を落ち着けて……自分自身を空間に溶け込ませる。
そしてその状態で、ユエの弱った気力と魔力に同化する。
ゆっくりと、焦らずに、落ち着いて……。
サキュバス達のように削るのは簡単な事ではない。しかしそれを修復するのは更に難易度が高い。
だからこそ、こんな時だからこそ焦ったらダメだ。
自分とユエの境界が曖昧になって、溶け合う感覚を感じながら、ユエの奥底に揺らめく命の灯火をイメージする。
ゆらゆらと揺れるその灯火は、今にも消えそうな程弱々しく揺らいでいる。
だが──まだ消えていない。
そのイメージのまま、少しづつその灯火に力を注いでいく。
ゆっくりと、ゆっくりと、少しづつ、少しづつ。
身体から力が抜けていく。
立っているのもやっとな程、急速に喪われる自分の中の何か。
だが、それでも構わない!
その瞬間ボウッと、イメージの中の灯火が一瞬、大きな光を生み出し、それに合わせるように全ての力を注ぎ込む。
もっと、もっと、もっとだ!
「うあぁぁあぁあ!!」
気合いの言葉を吐きながら全ての力を振り絞る。
そして──
「あっ、ユエの顔色が戻ったの!?」
「ほんとっす! 呼吸もしてるし、HPの減少も止まってるっす!」
どうやら成功したようだ。
ム二達の言葉にホッ息を吐くと、そのため息と共に立っている体力までも全て出し尽くした私は、そのまま後ろに倒れ込む。
「お疲れ様です。白亜さん」
「……テア?」
倒れ込む私を後ろから支えたテアが、優しげな声で労いの言葉をかけてくれる。
「随分と無茶をしましたね」
「ごめ。……ユエは?」
「ユエは無事だよ。ハクちゃんの治療は成功したよ」
「そ……か……」
いつの間にやらユエを診察していたソウの言葉を聞いた私は、そのまま極度の眠気に襲われ意識を手放したのだった。
反射的に出た言葉に全く反応はない。
それどころか、ユエを抱えるシーナの服は目に見えて血に染まり、今もまだユエから鮮血が溢れ出している。
どうして? 何故? 何が起こった?
様々な考えが浮かび思考がとりとめもなく溢れ出る。
しかしそれでも身体は最善を目指して動き出す。
近付くシーナを視界に映しながら、作業台として使ってた机の上の邪魔な物を払い除ける。
「シーナ! ユエをここに!」
頭はまだ混乱している。
それでも今はそんな事を言っている場合ではない。  
少しでも手順を間違えれば取り返しがつかなくなる。だからこそ落ち着かねばならない。
「ハクア! 済まないっす。私……回復は出来なくて」
「そんなもんいらない! 見つけて連れて来てくれただけでも十分だ!」
自分がその場で処置が出来ればと気を落とすシーナに声を掛けながら 、台の上にそっと寝かせたユエの状態を調べる。
くそったれ! 全身切り傷、打撲、裂傷、それに骨折しまくってやがる。
一番大きな袈裟斬りの傷は、見た目に反して深くないから臓器は無事だが、範囲が広すぎる!?
ユエの状態を観察しながら出来る事、出来ない事を頭の中で組み立て、トリアージしながら処置していく。
まず【結界】を私達の周りに空間を確保すると、ユエと私の二人に、クリーンの魔法で清潔な空間を確保すると同時に、傷口の消毒も行う。
次に毒を調合して麻痺毒を作りユエに飲ませ、水魔法で血液に働きかけ出血をコントロール。
その間に骨折の治療を魔法で施し、その他の傷を外科手術で処置しながら、体内に入った異物を処理する事で、弱ったユエの体力を管理しながら治療を続ける。
「よし。最後だ」
なんとか細かな全身の処置を終え、一番酷い袈裟斬りの傷に目を向ける。
ここにアクアが居れば治せるだろうが、ここまで酷いと私の回復系魔法では治せない。
だから私はアイテムに頼る。
取り出したのはヌルの作った回復薬を改良した上級の回復薬、それを更に改良する事で効果を引き上げた、市場には流せない特注品だ。
それを傷口に振り掛けながら、魔法と併用して処置を施すと、多少痕は残るが傷口自体はみるみる治っていく。
その光景を見ていた皆からも安堵のため息が漏れる……だが。
「くそっ! 時間が経ちすぎてる……」
「えっ?」
その声は誰から漏れたものか、私の言葉に困惑を含んだ声が漏れる。
目に見える傷。内側の傷も全て処置を施した。
けど……この状態で時間が経ちすぎたせいで、魂が死に向かっていっている。
ガームの姿が頭を過ぎる。
何も出来ずに立ち尽くすしかない私達、そんな無力な私達の前で、ガームに縋り付き涙を流すリンクとリンナ。
現在の状況に過去がフラッシュバックして重なる。
だけど──今度こそそんな事を認めてたまるか!
認めない。
許さない。
私から大事な物を何度も奪わせてたまるか!!
私とてあれから何もしなかった訳ではない。
あの時は確かになんの手立てもなかった。
だが今は違う。
構想は前からあった。
この世界はゲームのようでゲームとは違う。その証拠に、心臓や脳が破壊されればHPがいくらあっても、一撃で死んでしまう。
また今のユエのように、肉体が酷く損傷した状態が長引けば、体を全て治してもHPが減り続け死に至る。
延命措置は出来なくはないが、その状態を長く続ければHPの減りは加速し、そのうち回復が間に合わなくなる。
では何故それが起こるのか?
この世界の死にはいくつか段階が存在する。
まず肉体の損傷。
肉体が損傷する事でHPが減る。そうする事で体が第一段階の死に至る。
そして次に精神の死。
HPが減ると肉体が死に、次に精神であるMPが無くなり精神も死ぬ。
最後は魂の死だ。
肉体、精神が死ぬ事で魂が死に、この世界において完全な死を迎えた事になる。
魂は肉体と精神、この二つが枷となる事で、物質に宿る事が出来ているのだ。
ちなみに造られたアンデッドなどは、この終わりを迎えた肉体に他の魂を宿らせたり、擬似的な魂を宿らせたり、術者の魔力で肉体を操作したもの。
天然のアンデッドは、魂が離れた肉体にマナが溜まり動き出したもの、なんらかの要因で肉体が死んだにもかかわらず、精神が死なずに魂が残ったものだ。
そしてここで注目するのは、魂が肉体と精神が枷になっているという事だ。
それは逆に言えば肉体と精神が魂の器と言えなくもない。そうやって考えれば、私は既に似たような現象をよく知っている。
そう……それはサキュバスの吸い取っていた精気だ。
私が考えたように、仮に肉体と精神の死によって魂の器が壊れるのだとすれば、それはサキュバスの吸精行為に近いのではないか?
と、すれば、精気とは気力とMPの複合。
サキュバスの精気を吸う行為が、相手にとって魂の器を削られるものだと仮定し、逆の事をすれば魂の器を回復出来るかもしれない。
もちろんそんなもの、考えはしたが試した事はない。
この行為自体が神側の、何かしらのルールに抵触する可能性があったし、何よりも……この行為の果てに何が起きるのかが不明だからだ。
しかしそれでも研究自体は進めていた。そして私はこの里で気力とMP、つまり魔力のなんたるかを知った。
可能性は高くもないが、低いとも言えない。
ならばどんな結果になろうとも、手をこまねいているよりも遥かにマシだ。
今もまだ減り続けるHPを見ながら精神を落ち着ける。
焦るな。
少しでも集中を乱せばその時点で全てがダメになる。
呼吸を落ち着けて……自分自身を空間に溶け込ませる。
そしてその状態で、ユエの弱った気力と魔力に同化する。
ゆっくりと、焦らずに、落ち着いて……。
サキュバス達のように削るのは簡単な事ではない。しかしそれを修復するのは更に難易度が高い。
だからこそ、こんな時だからこそ焦ったらダメだ。
自分とユエの境界が曖昧になって、溶け合う感覚を感じながら、ユエの奥底に揺らめく命の灯火をイメージする。
ゆらゆらと揺れるその灯火は、今にも消えそうな程弱々しく揺らいでいる。
だが──まだ消えていない。
そのイメージのまま、少しづつその灯火に力を注いでいく。
ゆっくりと、ゆっくりと、少しづつ、少しづつ。
身体から力が抜けていく。
立っているのもやっとな程、急速に喪われる自分の中の何か。
だが、それでも構わない!
その瞬間ボウッと、イメージの中の灯火が一瞬、大きな光を生み出し、それに合わせるように全ての力を注ぎ込む。
もっと、もっと、もっとだ!
「うあぁぁあぁあ!!」
気合いの言葉を吐きながら全ての力を振り絞る。
そして──
「あっ、ユエの顔色が戻ったの!?」
「ほんとっす! 呼吸もしてるし、HPの減少も止まってるっす!」
どうやら成功したようだ。
ム二達の言葉にホッ息を吐くと、そのため息と共に立っている体力までも全て出し尽くした私は、そのまま後ろに倒れ込む。
「お疲れ様です。白亜さん」
「……テア?」
倒れ込む私を後ろから支えたテアが、優しげな声で労いの言葉をかけてくれる。
「随分と無茶をしましたね」
「ごめ。……ユエは?」
「ユエは無事だよ。ハクちゃんの治療は成功したよ」
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