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ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

モヤモヤってなんぞ!?

「祝福……ね。邪神からの祝福とかプラスの要素見えないんだけど」

『その点は大丈夫ですよ。立場的に不利益を被るとかはありませんから』

 鬼神の言葉から若干の冷たい空気を纏う駄女神が一言告げ、黙る。
 どうやらこの事についてはあまりとやかく言わない方針のようだ。

 それを感じたのだろう鬼神がその言葉を引き継ぎ喋り始める。

「今のまま戦えば貴様の負けは目に見えている」

「それは祝福ってのを受ければ勝てるって事か?」

「保証はない。しかし可能性は増す」

 ふむ。確かにあのまま戦っても勝てるビジョンは見えなかった、鬼神の提案は渡りに船ではある。

 ──が……だ。

「それはお前になんのメリットがあるんだ?」

 神とは言っても仮にも邪神と呼ばれる鬼神。なんのメリットもなくとは考えづらい。

「ない……と、言いたいところだが己にもメリットはある」

 やっぱりか。

「この世界は酷く退屈でな。出来る事と言えばさっきも言ったように装備を作る事と、たまにそこの門を開けようとする馬鹿を躾ける事ぐらいだ。そんな中で唯一の娯楽は、眷属を通して現世を観る事だ」

「眷属を通して観れるなら祝福は必要ないんじゃないか?」

「ああ、普通はな。しかしここは幽世だ。現世でならば眷属を通して観る事は普通に出来るが、ここだと観れる時と観れない時があってな」

 うーん。つまりチャンネルの周波数が違うから、映る時と映らない時があるって事か。それで祝福を授ければその周波数が私に合うと。

「それになによりだ」

「ん?」

「ハクア。貴様は観てるとモヤモヤする」

 あれ? 何やら空気がまたおかしな方に行ってません?

「モヤモヤってなんぞ!?」

「モヤモヤはモヤモヤだ。そもそも何故貴様はそこまで育っていてそんなに脆い」

「それ私に言われましても!? むしろ私が聞きてえよ!?」

「仮にも貴様は鬼神である己の眷属に進化した。にも拘わらず容易く手折ってしまいそうな身体では、己が観ていてモヤモヤする」

 この野郎……好きで脆い訳じゃないやい! しかも駄女神まで後ろで頷いてんじゃねぇ!

 一言も発しない駄女神は鬼神の言葉に大きく頷いている。その顔はよく言ったとても言いたげだ。やかましいわ!

「己の眷属は皆、強固な肉体に他を圧倒する力を有しているはずだ。しかし貴様はどうやら違うし、それがどうにもモヤモヤする。と言うかなんでだ?」

「知るかよ私が聞きたいわ!? ちくしょう! モヤモヤとか言うからフワッとした理由かと思ったのに、結構核心ついてガシガシくる!!」

 わかってるよ。オーガレベルだって私よりもまともな奴居る事くらい! ド畜生!

「そんな訳で貴様に己の祝福を与えたい」

「結構好き勝手言ったけど着地は変わらないのな」

 私、滅多切りにされた気分なのだが……。

「くっ、まあいいや。その言い方だと祝福ってのを受ければ物理防御力上がるって事か」

「いや、上がらな──ぐはっ!?」

「は? ここまで滅多切りにしておいて上がらないって何? 殴るぞコラ」

「それは殴ってから言うセリフではないだろう!?」

 涙目で食ってかかってくるがそんなものは知らん! ふざけた事を抜かすコイツが悪い。

「くっ、貴様! さっきから己に不敬だぞ!」

『今更そんな事を言った所で治りませんよ。ハクアと付き合っていくならそこは諦めなさい』

「……神に諦めさせるとか色々とどうなんだ?」

「知らんがな」

 いや、本当に。

「で、さんざっぱら脆いだなんだと言っといて物理防御上がんないってなんなんだよ?」

「正確に言えば上げないと言うのが正しい。普通なら己の祝福で物理面全てを強化するが、今更貴様に防御力を与えてもどうにもならない。ならば貴様にあわせて攻撃と速度に補正を強くかける。そうすれば勝ちの目は出てくるだろう?」

 確かにこれだけ聞くと美味しい話だ。ただまあ……。

「で、デメリットの方は?」

 ニコリと笑って聞くと鬼神の顔がピシリと固まり、そのまま顔をゆっくりと逸らした。

「いや、わかり易過ぎだろ」

「そんな事はないぞ?」

「じゃあキリキリ吐けや」

「うっ……己の祝福は通常鬼族の長所である物理面を、短所である魔法面を削る事で補正をかける。だが貴様の場合はそれでは駄目だろう」

 そりゃそうだ。私は純粋な鬼族と違って魔法系のステータスも高い。戦闘にも組み込んでいるモノを弱体化されたら、いくら強化されてもマイナスになってしまう。

「だからだ。物魔両方の防御力を半分に削る事で物理攻撃力に1.5倍、敏捷と器用さに2倍の補正をかけるのでどうだ?」

「ふむ……随分と強力だな。だけどそんな個人的なカスタマイズなんてしていいのか?」

『大丈夫ですよ。神から与えられる祝福は個人の資質に合わせる事は多々あります。後衛に前衛のような力を与えるなんて嫌がらせにしかならない場合もあるでしょう?』

 確かに。

『それに普通の倍率はそこまで大きくならないのですが、一部の神の祝福はデメリットを設ける事で、よりメリットを強力なものにしている場合もあります。鬼神はまさにそうですね』

 これは貴女だけ特別ではないですよ。そんな言葉と共に駄女神から補足が入る。

 なるほど、私は例外としても鬼は魔法に関する能力は軒並み低いのが通例だ。短所が大きくなるが、その分長所を更に伸ばしたピーキーな強化な訳か。

「それにだ。祝福を受ければ鬼の力を更に引き出し使いこなせるようにもなるぞ。正直貴様は鬼の力を全く使いこなせていないからな。貴様の配下の小鬼共の方が使いこなせているくらいだ」

「ニャンと!?」

 えっ? 結構死ぬ思いした気がするのに、今の段階ですらユエ達よりも鬼の力を扱いきれてないの!?

「今の貴様は前よりマシになったとはいえ、鬼の力を引き出しただけだ」

「えぇ……」

 衝撃の事実なんですが……。

「それに貴様の魂は防御力に関しては何故か絶望的だ。それなりにはあった方が良いがそれなら防具やスキルに拘るべきだ」

 確かに……と、鬼神の言葉を吟味する。

 今の私ではこれから相手をしていくレベルの敵相手では、今更防御力が多少上がった所で意味が無いだろう。
 それならまだ鬼神の言うように防具やスキルに拘るべきだ。防具で固めて、スキル補正する。その上でダメージ軽減系のスキルを集める方が余程効果的だろう。

「よし。それならやってくれ」

 ぱっぱと決断すると鬼神が少し驚いた顔をする。

 いや、なんで言った本人が驚くよ。

「なに、決めるにしてももう少し逡巡すると思ったからな」

「だってお前の言う通りだし。そもそも私は自分の防御力には最初から期待なんざしてないからね」

 うん。言ってて悲しくなるわ!

「ククッ、ハッハッハッ! なるほど道理で神が見初めるはずだ。やはり貴様は面白い、己も自らが話して貴様を更に気に入ったぞハクア」

「そりゃどうも」

 邪神と呼ばれようとこうして話が通じるのなら大して関係はない。気に入ったと言われて悪い気がしないのは確かなのだ。

 ひとしきり腹を抱えて笑うと、目尻の涙を拭いながら鬼神が近寄って来る。

 見た目は少女、纏う空気は怪物そのもの、友好的な表情を浮かべ、全てを見透かすような老獪な瞳は、これまで通りじっと私の事をずっと観察している。
 内面を探るように、その視線から私の中を全て覗こうとしているのだろう。

 そんな鬼神は私の目の前でピタリと止まると、私の胸、正しくは私の核の魔石があるだろう場所に手を添えた。

「いくぞ?」

 その言葉と共に、鬼神の手から暖かい何かが流れ込んでくる。

 最初は血流に乗ってそこから徐々に流れるように、体全体へと伝わっていく。
 だが、その力が体を満たしたかと思うと、そこから更に新たな道が出来上がるように回路が築かれていく。
 徐々に徐々に、鬼神の手を中心に大樹が根を伸ばすように、体の隅々までその根が広がっていく。

「終わりだ。どうだ?」

「うん。おばあちゃんの修行でだいぶ安定したと思ってたけど、全然違ぇや。あれでもまだ全く安定してなかったのね」

「ああ、あの龍もだいぶ鬼の力を理解しているようだが、肝心の部分は理解しきれていなかったからな」

 鬼神曰く、本来なら進化と共に、鬼の力を効率良く使う為の回路が作られるはずなのだが、私にはそれがなかったのだそうだ。

 原因としてやはり急激な成長進化

 本来長い時間をかけて成長と進化をする事で、少しづつ形成される回路なのだが、通常の成長と外的要因による成長で力が急激に高まり、その辻褄を合わせる進化が起こった。
 しかもそれは一度ではなく数度に渡り、その為回路の形成が間に合わず、また中途半端に私が力を使えた為に、進化しても回路を作る事よりも、力を受け入れる事にリソースが割かれたのだそうだ。

「なるほど、大体の予想はあってたけど、足りない要素は鬼の力を効率良く使う為の回路だったのか」

「そうだ。だから体が力に耐えられても力が暴れていた訳だ」

『なるほど……種族特有の回路。それは盲点でしたね』

「お前でも分からなかったのか?」

「鬼人の中でも回路を意識している者は少ない。無意識に形成される物だからな。感覚的には気の運用と変わらないから理解出来ない事が多い」

 鬼神の言葉を聞きながら力を巡らせる。

 確かに感覚としては気を巡らせる時と変わりがないそれは、回路が形成される瞬間を知らなければ意識出来ないだろう。

「これなら獄門鬼相手でもなんとか戦えるはずだ」

 確かにこれならなんとかなりそうも。

 そんな事を考えていると、鬼神が更に何かを言いたげな顔をしているのに気が付いた。

「どうしたの?」

「いや、ものは相談なんだが」

「ん?」

「あの獄門鬼。強くしても良い──ガハッ!?」

 たわけた事を口にした鬼神は私のアッパーカットを喰らい、弧を描きながら空中を飛び、頭から地面に落ちたのだった。

 いや、これ私悪くないよ?

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