ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

ユエさーん!?

「強くなろうとしたら逆に弱点が追加された件!」
「世の中って理不尽だよね」
「すっごい良い笑顔ですね! その一言だけで済まさないでくださいません!?」

 なんだよ。なんでなんだよ! 普通強くなるって弱点がなくなったり、強化される事を言うんじゃないの? なんで強くなる前段階で弱点追加されてんだYO! なんだこのクソアプデはーー!?

 保護者連中の微笑ましいものを見る笑顔を前に膝を折り地面を叩く。そんな私の頭をユエが撫でてくれる。

 どうやら今回ユエはアクアのポジションの収まるようだ。ありがたく甘えておく。

「クソゲー過ぎる……」
「現実とゲームを混同するのはよくないですよ」
「ド畜生!」
「弱点が追加された事は確かですが、ハクアさんの肉体的な枷が無くなったのも確かなので、結果的には強くなれますよ」

 どうやらステータスはアップしていないが、肉体の成長限界は上がったらしい。

 弱点によって危険度も上がったがな!

「クソ。……まあいいや。いつもの事だから」
「これをいつもの事で済ませられるハクちゃんの事好きだよ」
「そりゃどうも! それでどうすれば良いの」
「そうですね。ハクアさんは魂魄は分かりますか?」
「道教のか? ああそうか、あれも精神エネルギーの魂と生命エネルギーの魄だったな。となると……なるほど重要なのは出力よりもバランス感覚か」
「はい。そしてハクアさんがこれから覚えようとしている領域は、精神エネルギーが最重要となります」
「……それは、文字通り心が折れたら力が減衰するって事?」
「そうだよ。確固たる精神と強さがなければ、自分のパフォーマンスを維持する事すら出来ない領域。弱気になったり、自分でも気が付かない些細な心の揺らぎでも力が出せなくなるよ」
「うわぁ。ある意味本当の精神論」
「否定はしません。むしろその通りです」

 なるほどね。気と魔力、その両方を更に強める為にはどっちも精神エネルギーが土台になる訳か。

「まあでもハクちゃんの精神エネルギーに関しては私達は心配してないよ」
「なして?」
「だってハクちゃんの精神力とか神ですらドン引きするレベルだし」
「引かないでくださいません!?」

 ドン引きとか酷くない。

「さあ、遊んでいないで始めましょうか」
「遊んだ覚えはないんですけど!?」
「ではハクアさん目を瞑ってください」

 テアの言葉に従い目を閉じる。

「先程の続きです。魔力とはマナが変換されたものと言いましたが、その過程で精神エネルギーと結び付く事で魔力へと変換されます」
「ん? それって万物全ての物にも精神エネルギーがあるって事か?」
「ええ。動植物は勿論、鉱物や人の作った物にもある種の精神エネルギーが宿ってるのよ」
「私達生物とはまた少し違うけど、それはまあ考えなくても大丈夫」
「ふーん」
「ともかく、魔力とは精神エネルギーとマナの混合物が生物なら心臓、魔物なら魔石によって生み出されたものです。そしてほとんどの人間は知覚出来ていませんので、端的に言えば無意識下でその過程を行っているんですよ」
「魔法が使えない奴はそれが下手って事か」
「そうですね」

 ふむふむ。魔力が外からの力を変換するなら、どうして魔力を空になるまで使うと気絶するのかと思ったけど、それ精神エネルギーを知らない間に使い尽くしてたからか。納得。
 そしてよく今まで無事だったな私……。

「精神を落ち着けて大きく深呼吸して下さい。魔力を練り上げる時、自身の内側の魔力が集まる部分に集中してください」

 呼吸を落ち着け、テアの言葉通りに従う。

 すると──

「なんか、白い炎の塊? 太陽みたいのが見えるかな」
「ええ、それがハクアさんのイメージした魂であり、精神エネルギーです」
「イメージ?」
「人によってどう見えるかは違うんだよ。因みにだけど普通はこんなに簡単には見えないからね? ハクちゃんの場合は多少なりとも無意識に使っていた事、後はスキルの【照魔鏡】のおかげだね。あれは一種の観の目でもあるから」

 ほうほうそうなのか。

「しかしなんというか……」
「どうしました?」
「いや、なんつーか、太陽みたいに丸くてプロミネンスみたいにうねってるのがあるし、なんか大きくなったり小さくなったり脈打って見えるんだね。なんかいつ割れるかわかんない風船見てる感じでハラハラする」
「「「あ〜」」」
「あ〜、て何!?」

 私の言葉に保護者三人が揃ってそういえばみたいな反応をする。
 そんな私を無視してテアとおばあちゃんは何か小声で話し終わると、ゆっくりと近づいて来た。

「ハクアさんはそのまま集中していてください。では水龍王そちらは頼みました」
「ええ、任せてください」

 まずテアが私の背に手を当てる。するとその部分から熱を感じ、そのまま少しするとイメージの中の白い太陽は脈動を止め、大きさも一定で固定される。
 次におばあちゃんが同じように手を当てると、プロミネンスのようにうねっていたものが次第に無くなっていく。

「これで大丈夫ですね」
「なんだったの?」
「あれはハクアさんの鬼の力と竜の力です」
「なるほどなるほど、あの破裂しそうな力が鬼の力で、うねうねと表面を動き回って攻撃してるみたいだったのが竜の力と」
「ええ、そうです」
「……それダメじゃね!?」
「ウッカリしていましたが危ない所でした」
「ウッカリとかやめてくれません!?」

 あれ、私のイメージって事は、潜在意識下では鬼の力が爆発しそうになってて、竜の力は締め付けるように蝕んでたって事だよな!?

「さあ、気を取り直して続けましょう」
「ちくしょうちくしょう。絶対会得してあんな危険な状態から脱出してやるからな!」
「ええ、頑張ってください」
「ド畜生!」

 しかしどれほど叫んでもしょうがない。
 保護者連中からしたらどこまで行ってもこの悲壮感は伝わらないようだ。

「で、ここからどうすればいいの?」
「次はそこに魔力ではなく気力、生命エネルギーを集めて混ぜ合わせます。イメージはハクアさんの好きなように。そう、身体の力を抜いて呼吸を落ち着けて、ゆっくり……ゆっくりと、少しづつ混ぜ合わせ釣り合う部分を見付けなさい」

 言われた通り白い太陽に意識を集中し、そこに身体に満ちる気をゆっくりと集めていく。

 イメージするのは渦だ。

 太陽、つまり魔石を中心に身体全体からゆっくりと円を描きながら集まり、混ざり合うイメージを思い浮かべる。

 ゆっくり……ゆっくりと……

 呼吸を深く、身体から無駄な力を空気と一緒に吐き出す。

 体が熱い。

 私の中の魔石が熱を無限に生み出したかのように加熱する。

 熱く

 強く

 燃えるように

 暴れだしそうな力を必死に抑え込む。
 玉のような汗が額に浮かび上がり、止めどもなく頬を伝い落ちていく。

 数秒

 数十秒

 数分と時が経ちそれでも集中を解かずにひたすら集中し続ける。
 血管の一本から細胞の一つまで詳細にイメージして、ゆっくりゆっくりと配合を変え混ぜ合わせる。

 カチリ、カチリと歯車が段々と噛み合う音がする。そして遂にはガチン! と、歯車が完全に噛み合ったような音がイメージの中で鳴った。

「おぉ……」

 その瞬間、ブワリと身体の奥底から力が湧き上がるその感覚に思わず声が漏れる。

 それは今までずっと不安定だったものが噛み合った証拠。それが今、私の中で感覚として理解出来た。

「一度その感覚を理解すればもう大丈夫です」
「案外簡単だった?」
「それはハクちゃんだからだよ。【照魔鏡】なんてスキルが発現しただけの事はあるね。見えないもの、感覚でしか分からないものを掴み取る感覚がずば抜けてるよ」
「そうなんか?」
「ええ、ハクアさんに教えるに当たって、今、澪さんやお嬢様達にも咲葉が教えていますが、向こうは相当手こずっているようですよ」
「澪達が?」

 澪達が手こずる。その状況がなんだが想像出来なくて首を傾げていると、テアにちょいちょいと指で横を指されそちらに視線を向ける。

 するとそこには目を瞑りながらウンウン唸って集中しているユエが居た。

 どうやら私に続いてユエもソウに教えてもらい、同じように精神エネルギーを操る為の修行に入ったらしい。
 しかしユエは、まず自分の中にある精神エネルギーを見付ける段階から手こずっているようだ。

「あれが本来在るべき姿です。ハクアさんは一気に二段階から三段階は過程をすっ飛ばしているんですよ」
「うーむ。実感ねぇなぁ」

 しばらく眺めていると盛大に息を吐き出したユエが疲れた顔でやって来る。

「やっぱりあるじは凄い」
「ユエならすぐに出来るようになるよ」

 諦めた様子はないが多少気落ちしているユエの頭を撫でる。するとユエは猫のように目を細め喜びながら、フンっと気合いを入れ直す。

「さあ、ゆったりとしている時間も惜しいのでハクアさんはサクサクと次に行きましょうか」
「余韻ねぇな!」
「予定が詰まってますから」

 ニコリと笑顔で言われたはずの言葉にゾクリとしながら頷く。

「さて、それでは次に──」
「あっ、鬼の力試してみたい」
「鬼の力ですか?」
「うん」

 流れ的に次はマナの番だろうが、今の状態ならなんとなく行ける気がしてテアの言葉を遮って提案する。

 精神エネルギーを認識してわかった。
 今までどれ程不安定な状態で鬼の力を使っていたのか、それが理解出来た今、なんとなく私は出来る気がしたのだ。

「ふむ。まあ、良いでしょ」
「お、おう」

 少し考え込んだテアはとても良い笑顔で了承した。

 それがなんとも怖い。いや、気の所為気の所為。うん。大丈夫だよね?

「よーし。んじゃあ、やるか!」

 とりあえず初回だから右手の拳にだけ発動してみよう。そんな提案を素直に受け入れて、右手を前に左手で右手の手首を掴んで慎重に力を込める。

 やっぱり、今までと全然違う。

 今までよりも膨れ上がる力を感じながら、それとは逆に今までとは違う安定した力も感じる。

 今までの状態を例えるならば文字通り綱渡りだ。それに引き換え今の状態は、しっかりと大地に足を付けているような安心感を感じる。

 いける。

 そんな安心感を感じながら更に力を込めて、込めて……パァンと弾けた。

「ふえ?」

 えっ? 何が起こった? ぴちゃりと顔に掛かる自分の血そして目の前にはモザイク必至な自分の手がある──いや、無くなってる!?

「痛ってぇ!!」

 ええぇえ! 弾けたなんで!? 今までみたいにヤバい感じなかったよ!?

 痛みはある。しかし悲しいかなこんな状況に慣れてしまった私は、再生と回復に全力を傾ける事でなんとかなる事を理解してる。

 そう──私はだ。

「あるじ、血……手……ふぁ」
「ユエさーん!? ちょっ、しっかりしろ私は平気だから!!」

 私の様子を近くで見ていたユエは、弾けた手の所為で血塗れになっている。
 そして更には目の前にはモザイク必死な状態の腕だ。それを期せずして目の当たりにしたユエは、ショックから倒れてしまった。

 そんなユエを抱きとめた私はなにが起こったか理解出来てない状態で、ユエまで倒れて大パニックだ。

「と、言う訳でハクアさんにはまだ少し鬼の力は早いので次はマナの修行に移りましょう」
「冷静!? すいません。今軽く地獄絵図なんですけど!?」
「予想の範囲内でしたので」
「予想してたなら先に言ってくれません!?」

 しかも今気が付いたが保護者の三人は、飛び散った血が付かないようにしっかりと【結界】を使いガードしてやがった。

「きゅ〜」
「ユエーーー!!」

 こいつら本当に鬼や。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品