ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~
すまん。敵を見習ってくれ
ここまでのランニングと、ちょっとした運動で温まった身体慣らす様に、肩を回しながら黒オーガに向けて数歩進み出る。
ステータスは物理特化型で高いのが3000。普通のオーガは高くて2000くらいだから、それに比べると大分高いな。
亜種、それも鬼人へと至る直前の個体だからしょうがないか。本来なら極端に耐性の低い魔法で攻めるべきなんだけど、それだと一人でやる意味も何も無いからな。
前に進み出た私へと黒オーガの殺気が集中する。
どうやら私の事を殺すべき相手と認識した様だ。
オーガは本来ゴブリン、ホブゴブリンと同様そこまで賢くは無い。それでも決して馬鹿と言う訳では無い。
その証拠に前へと進み出た私に殺気を漲らせながらも、後ろに居るメンバーにもちゃんと気を張っている。
それに比べうちの自称最高戦力様はすっかりと呆けている様子だ。
すまん。敵を見習ってくれ。
「ガァルァ!」
私の隙を突く様に声を上げながら一足飛びで距離を詰め、その大きな身体と体重を活かした攻撃を繰り出す。
まるで大きなハンマーでも振り下ろす様な拳の一撃を後ろに軽く飛んで躱し、着地と同時に身を屈めるとバネの様に力を溜めて、今度はこちらが一気に距離を詰め、前傾姿勢になった事で下がった顔面にハイキックを見舞う。
しかし黒オーガの反応速度を持ってすればこの程度の攻撃はガード出来る様だ。
殴ったのとは反対の腕を掲げ私の蹴りを受け止めると、私の足を掴みに掛かる。だが、私とてそんな簡単に捕まる訳じゃない。
素早く足を引くと、同時にその手を上へと跳ね上げ、ガラ空きになった脇腹へと【崩拳】を放つ。
ズザザッと音を立てながら、地面に引きずった様な後を残し離れて行く黒オーガ。
ふむ。ぶっ飛ばすつもりでやったがダメージはあんまりねぇなぁー。しかも飛んで無いし。
ステータスだけじゃ無くて単純に外皮が滅茶苦茶硬い。まっ、素のままの状態ならこんなものか。
それよりも……、普通に戦えてるよ私! ちょっと前なら簡単にクビり殺されるレベルの奴に、身体強化系スキル使わず戦えるとか……私も強くなったもんだよ。うんうん。
〈確かに、最初に比べてマスターの戦闘力は飛躍的に上昇していますね。それに内容の濃い戦闘に、女神様方の修業の効果でステータス以上のパフォーマンスも発揮しています〉
ありがとう! にしても、鬼族ってマジで私以外は強いんだな。鬼としては下っ端の筈のオーガですらこのレベルか。
鬼は一般的に低鬼、中鬼、高鬼、亜神鬼、鬼神と格が別れている。
ここに当て嵌めると、オーガや弱い鬼人は低鬼となり鬼の中では最弱なのだそうだ。
その他にも鬼になると魔力以外にも鬼力が宿り、魔法が得意で無くなる代わりに鬼術と呼ばれる物が使える様になる。鬼術が得意な鬼の中にはオリジナルの強力な鬼術を持つ鬼も居る。
因みに私は亜神鬼レベルだが、ステータスは低鬼である。そしてまだ鬼術は【鬼砲】と【黒炎】に変化した【鬼火】しか憶えていない。泣いていいかな?
〈諦めて下さい〉
見捨てられましたよ!
黒オーガは私が攻撃を当てた箇所を手で払うと、今度は構えを取って【鬼気】を解放する。
「ひっ……!?」
「う……あ……」
「も……もうダメだ」
「ネ、ネロさん。早く逃げて下さい!」
うわぁ……。自称英雄パーティーは諦めたり怖がったりするだけで、私の事を心配出来てるのはカイル君だけだよ。
因みにエイラは黙って私を見詰めている。
恐らくは先程見せた魔法の技術力から、奥の手を隠している余裕があるとでも思っているのだろう。
ドッ! と、音を置き去りにして瞬きの間に詰め寄る黒オーガ。
速い……が、グロスやガタルに比べればまだまだ遅い。
──でも、だからこそ私も余裕を持って教える事が出来る。
豪腕から次々に繰り出される、死を予感させる様な攻撃を紙一重で避けながら二人へと語り掛ける。
「カイル君、それにエイラも。カイル君はこれから変わるかも知れないが今しばらくは後衛だ。だからこそ最初に覚えるべき技術は回避の方法」
突然始まった私の授業に二人が目を丸くする。
そんな状況では無いが、実践の中だからこそ教えられる物もあるのだ。
「方法は幾つかある。一つは純粋な回避、相手の攻撃を正しく見極めて避ける手段。そして──」
迫り来る攻撃の嵐に一歩踏み込み、私の頭を粉砕するべく繰り出された一撃に、下からそっと手を触れ力を上へと完全に逃がすと、足を払い、勢いで流れた体勢を浮かし死に体にすると、背中を思い切り下から蹴り上げる。
当然ただそれだけで終わる訳が無い。
蹴り上げられた黒オーガは体勢を整えようとするが、空中で何かに上から下へと衝撃を加えられた身体は、くの字に折れ曲がり重力に従って落下する。
不意の一撃。
透明な【結界】は、薄暗い洞窟の中では更に見えずらい。
そんな物を不意打ちで腹部に食らった黒オーガは、流石にダメージまでは通らなくても、身体が一瞬硬直しその動きを止める。
そのまま地面に背中から落下した黒オーガへと追撃の一撃を放ち、地面を放射状に砕く程の衝撃を与えた私は、嫌な予感に従いその場を飛び退く。
その直後、直前まで私の頭のあった位置に光の線が走る。
どうやら【鬼砲】を口から放った様だ。
あのタイミングで外れるとは思わなかったのか、黒オーガの目には私への明らかな増悪と殺意の入り交じった色が浮かぶ。
「二つ目が今の様に攻撃を受け流す方法だ。お前らにはこの二つの技術を徹底的に覚えてもらう。そして大事なのは常に思考を止めない事」
再び起き上がった黒オーガの暴風の様な死を撒き散らす攻撃を時に捌き、時に避けながら言葉を続ける。
「相手の動き、状況、こちらの手札によって常に変化する戦闘の流れを把握しろ。スキルも技術も魔法でさえも使い方は一つはじゃない」
黒オーガの一撃を受け流し、今度は全員に見えやすく【結界】を使って顎をかち上げる。
だが、黒オーガはその一撃に耐えると私を掴みに掛かる。
しかしその時には既に私はそこに居ない。
無詠唱でファイアーアローを黒オーガの顔面に向けて放つ。だが黒オーガはその攻撃の軌道を読み寸前で回避を試みる──が、私は回避の瞬間に目の前で矢を爆発させ、爆風で黒オーガの顔を焼く。
「グギャァア!」
思わず両手で顔を覆い苦しむ黒オーガにウォーターボールを放ち、その後すぐにサンダーボールを撃ち込む。
水に濡れた事により電撃の通りが良くなった黒オーガは、表皮を黒ずませプスプスと音を立てながら膝を突く。
身体に掛かっているのが塩水なら尚更効いただろう。
水魔法は魔力を多少多く使うが、そうする事で塩水や砂糖水の様に性質を変化出来る事が分かった。これによって私の料理の幅が更に拡がり便利になったのは言うまでも無い。閑話休題。
「持てる手札を使い、試し、思考して有効な手段を模索する。戦うにしても逃げるにしても常に諦めず最後の瞬間まで考え続ける事を止めるな。まあ、つまりはイキるだけイキっておいて腰を抜かしてる、そいつ等みたいになるなって事だね」
カイル君達の方を見ながら言うと、アベル達はサッと顔を逸らして歯噛みする。
どうやら少しは自覚があったみたいだ。
「あっ!」
エイラの視線の先には今まさに立ち上がった黒オーガが居る。そしてその胸元には宝石の様な赤黒い結晶が浮かび上がっている。
「さて、最後にもう一度レクチャーだ。本来なら相手に実力を出させずに倒すのが理想的な展開だが、今はまあ、授業として見せる必要があるからこのままだ。オーガレベルの鬼種から持つ鬼珠は、個体毎に違う能力を有する。その中で一番ポピュラーなのが装甲型だ」
因みに竜種なら竜珠、精霊種や神族なんかにも似た様な物があるらしい。
「そしてここまでで言いたい事は決して相手を侮るなという事だ。強敵なら当然相手も切り札を備えている。例えゴブリンだって罠や数を揃えれば強者を簡単に屠る事さえある。そうなれば待っているのはそこの馬鹿共の様な一方的な蹂躙だ。さっきも言った事だが相手を侮らず、さりとて適わない物として諦める事無く死ぬ一瞬まで考えろ。分かった?」
「はい!」
カイル君は大きな声で返事をする。エイラも黙ったまま、それでも目は真剣に頷いている。アベル達も俯いたままではあるが視線を寄越し、悔しそうにこちらを見ている。
まっ、エグゼリアに頼まれたからここまでやったが、これで直らないなら私の知る所じゃ無いな。これ以上はどうにもならん。
「グオォォオ!」
雄叫びを上げる黒オーガ。
その胸の鬼珠が光を放ち全身を硬質な鎧が包み込んで行く。
さて、こっちもそろそろ終わらせるか。
私は【竜装鬼】を発動すると腰を落とし力を溜め、更に右手には【鬼角鎧】を纏わせる。
すると向こうも同時に鎧の形勢が終わり真っ直ぐに突進を開始する。
身体を強化しているとは言え、あの体格から生まれるパワーに体重が乗った突進など、私が喰らえば大ダメージは免れないだろう。
だがしかし、その突進はスピードが乗り切る直前でビタリと止まる。
何故なら黒オーガの全身には、戦いながら私が仕込んでいた糸が隈無く巻き付けていたからだ。
巣。私のもう一つの結界とも言える構築陣地だ。
至る所に張り巡らせいた糸が、魔力を流した事で強度を増し黒オーガを縫い付ける。
長時間の拘束など当然出来ないが数秒の拘束が出来れば十分だ。
悪いな。元からマトモに戦う気は無いんだわ。
如何に堅牢な鎧に護られていようと、無防備に晒された胴体ならば今の私なら何とか貫ける。
「はぁぁあ!」
全ての力を右腕一本に掻き集めた私の一撃は、黒オーガの胴体を貫き戦闘は終了した。
ふぅ……。うん、これなら戦えるな。
でも、今回も失敗かぁ……。
ガダル戦でも使ったこの攻撃。あの時は神力だったが、もっと言えばこの世界での強敵との戦いで、全ての力を振り絞って出していたこの一撃だが、心曰くまだ先があるらしい。
右手に集めた力をインパクトの瞬間打撃に乗せる。言葉にすればそれだけだが刹那のレベルで合わせる事が出来れば威力は増大するのだそうだ。
心には「狙って出来る物では無いが、君の魔力操作は頭がおかしいレベルだから出来る筈」と、言われた。
いや、出来ると言われるのも効果のデカい技も嬉しいんだけどね。もう少し言い方……。
それでもオーガなどと言う強敵を一人で倒せた実感を噛み締め、【解体】スキルを使いながら黒オーガの取り込みと素材の回収をする。
いやー、【解体】スキルってやっぱり超便利。
『シルフィン:何気に貴女が喜ぶスキルって、地味な恩恵の物が多いですよね』
面倒なの嫌いだからね。
「お疲れさん」
「うむ。譲ってくれてサンキューね。お礼に素材は後で分けてやるよ」
「お前の手柄だから別に良いんだが?」
「まっ、今回はチームだからな。これくらいの素材なら快く渡す位の度量あるぞ?」
「これくらいね。なら有難く貰うか。良い装備が作れそうだと思ってたんだ」
確かにあの表皮の硬さなら結構な品質の物が作れそうだ。コロに渡したら喜ぶかな? うん。決して最近私の事を見る時の目が怖いから貢ごうとしている訳では無いぞ。
〈……そうですね〉
反応が辛い……。
戦闘が終わると肉壁として括り付けられていた女性達を解放して治療を施す。
ヒストリアも手伝おうとしたが、この後の事も考えてMP回復薬ことマナポーションを渡して、自分の回復に務めるよう言っておいた。
最初こそ不満そうにしていたが、私の治療を見ると目を見開き食い入る様に見ていた事から向上心はあるようだ。
さて……と。
アベル達を含めた全員の治療を終えた私は、未だに警戒心を解かずに居てくれたダグラスと目線を合わせ頷くと──。
「そろそろ出て来いよ。居るのは分かってるぞ覗き見野郎」
誰も居ない様に見える壁に向かって話し掛けた私へとアベル達の視線が集まる。
隣りに居るダグラスは既に剣を抜き臨戦態勢だ。
「おや……、バレていましたか」
そんなこちらを馬鹿にする様な言葉と共に、頭までローブを被った男が顔にニヤついた笑みを貼り付けながら、壁から滲み出る様に姿を表したのだった。
ステータスは物理特化型で高いのが3000。普通のオーガは高くて2000くらいだから、それに比べると大分高いな。
亜種、それも鬼人へと至る直前の個体だからしょうがないか。本来なら極端に耐性の低い魔法で攻めるべきなんだけど、それだと一人でやる意味も何も無いからな。
前に進み出た私へと黒オーガの殺気が集中する。
どうやら私の事を殺すべき相手と認識した様だ。
オーガは本来ゴブリン、ホブゴブリンと同様そこまで賢くは無い。それでも決して馬鹿と言う訳では無い。
その証拠に前へと進み出た私に殺気を漲らせながらも、後ろに居るメンバーにもちゃんと気を張っている。
それに比べうちの自称最高戦力様はすっかりと呆けている様子だ。
すまん。敵を見習ってくれ。
「ガァルァ!」
私の隙を突く様に声を上げながら一足飛びで距離を詰め、その大きな身体と体重を活かした攻撃を繰り出す。
まるで大きなハンマーでも振り下ろす様な拳の一撃を後ろに軽く飛んで躱し、着地と同時に身を屈めるとバネの様に力を溜めて、今度はこちらが一気に距離を詰め、前傾姿勢になった事で下がった顔面にハイキックを見舞う。
しかし黒オーガの反応速度を持ってすればこの程度の攻撃はガード出来る様だ。
殴ったのとは反対の腕を掲げ私の蹴りを受け止めると、私の足を掴みに掛かる。だが、私とてそんな簡単に捕まる訳じゃない。
素早く足を引くと、同時にその手を上へと跳ね上げ、ガラ空きになった脇腹へと【崩拳】を放つ。
ズザザッと音を立てながら、地面に引きずった様な後を残し離れて行く黒オーガ。
ふむ。ぶっ飛ばすつもりでやったがダメージはあんまりねぇなぁー。しかも飛んで無いし。
ステータスだけじゃ無くて単純に外皮が滅茶苦茶硬い。まっ、素のままの状態ならこんなものか。
それよりも……、普通に戦えてるよ私! ちょっと前なら簡単にクビり殺されるレベルの奴に、身体強化系スキル使わず戦えるとか……私も強くなったもんだよ。うんうん。
〈確かに、最初に比べてマスターの戦闘力は飛躍的に上昇していますね。それに内容の濃い戦闘に、女神様方の修業の効果でステータス以上のパフォーマンスも発揮しています〉
ありがとう! にしても、鬼族ってマジで私以外は強いんだな。鬼としては下っ端の筈のオーガですらこのレベルか。
鬼は一般的に低鬼、中鬼、高鬼、亜神鬼、鬼神と格が別れている。
ここに当て嵌めると、オーガや弱い鬼人は低鬼となり鬼の中では最弱なのだそうだ。
その他にも鬼になると魔力以外にも鬼力が宿り、魔法が得意で無くなる代わりに鬼術と呼ばれる物が使える様になる。鬼術が得意な鬼の中にはオリジナルの強力な鬼術を持つ鬼も居る。
因みに私は亜神鬼レベルだが、ステータスは低鬼である。そしてまだ鬼術は【鬼砲】と【黒炎】に変化した【鬼火】しか憶えていない。泣いていいかな?
〈諦めて下さい〉
見捨てられましたよ!
黒オーガは私が攻撃を当てた箇所を手で払うと、今度は構えを取って【鬼気】を解放する。
「ひっ……!?」
「う……あ……」
「も……もうダメだ」
「ネ、ネロさん。早く逃げて下さい!」
うわぁ……。自称英雄パーティーは諦めたり怖がったりするだけで、私の事を心配出来てるのはカイル君だけだよ。
因みにエイラは黙って私を見詰めている。
恐らくは先程見せた魔法の技術力から、奥の手を隠している余裕があるとでも思っているのだろう。
ドッ! と、音を置き去りにして瞬きの間に詰め寄る黒オーガ。
速い……が、グロスやガタルに比べればまだまだ遅い。
──でも、だからこそ私も余裕を持って教える事が出来る。
豪腕から次々に繰り出される、死を予感させる様な攻撃を紙一重で避けながら二人へと語り掛ける。
「カイル君、それにエイラも。カイル君はこれから変わるかも知れないが今しばらくは後衛だ。だからこそ最初に覚えるべき技術は回避の方法」
突然始まった私の授業に二人が目を丸くする。
そんな状況では無いが、実践の中だからこそ教えられる物もあるのだ。
「方法は幾つかある。一つは純粋な回避、相手の攻撃を正しく見極めて避ける手段。そして──」
迫り来る攻撃の嵐に一歩踏み込み、私の頭を粉砕するべく繰り出された一撃に、下からそっと手を触れ力を上へと完全に逃がすと、足を払い、勢いで流れた体勢を浮かし死に体にすると、背中を思い切り下から蹴り上げる。
当然ただそれだけで終わる訳が無い。
蹴り上げられた黒オーガは体勢を整えようとするが、空中で何かに上から下へと衝撃を加えられた身体は、くの字に折れ曲がり重力に従って落下する。
不意の一撃。
透明な【結界】は、薄暗い洞窟の中では更に見えずらい。
そんな物を不意打ちで腹部に食らった黒オーガは、流石にダメージまでは通らなくても、身体が一瞬硬直しその動きを止める。
そのまま地面に背中から落下した黒オーガへと追撃の一撃を放ち、地面を放射状に砕く程の衝撃を与えた私は、嫌な予感に従いその場を飛び退く。
その直後、直前まで私の頭のあった位置に光の線が走る。
どうやら【鬼砲】を口から放った様だ。
あのタイミングで外れるとは思わなかったのか、黒オーガの目には私への明らかな増悪と殺意の入り交じった色が浮かぶ。
「二つ目が今の様に攻撃を受け流す方法だ。お前らにはこの二つの技術を徹底的に覚えてもらう。そして大事なのは常に思考を止めない事」
再び起き上がった黒オーガの暴風の様な死を撒き散らす攻撃を時に捌き、時に避けながら言葉を続ける。
「相手の動き、状況、こちらの手札によって常に変化する戦闘の流れを把握しろ。スキルも技術も魔法でさえも使い方は一つはじゃない」
黒オーガの一撃を受け流し、今度は全員に見えやすく【結界】を使って顎をかち上げる。
だが、黒オーガはその一撃に耐えると私を掴みに掛かる。
しかしその時には既に私はそこに居ない。
無詠唱でファイアーアローを黒オーガの顔面に向けて放つ。だが黒オーガはその攻撃の軌道を読み寸前で回避を試みる──が、私は回避の瞬間に目の前で矢を爆発させ、爆風で黒オーガの顔を焼く。
「グギャァア!」
思わず両手で顔を覆い苦しむ黒オーガにウォーターボールを放ち、その後すぐにサンダーボールを撃ち込む。
水に濡れた事により電撃の通りが良くなった黒オーガは、表皮を黒ずませプスプスと音を立てながら膝を突く。
身体に掛かっているのが塩水なら尚更効いただろう。
水魔法は魔力を多少多く使うが、そうする事で塩水や砂糖水の様に性質を変化出来る事が分かった。これによって私の料理の幅が更に拡がり便利になったのは言うまでも無い。閑話休題。
「持てる手札を使い、試し、思考して有効な手段を模索する。戦うにしても逃げるにしても常に諦めず最後の瞬間まで考え続ける事を止めるな。まあ、つまりはイキるだけイキっておいて腰を抜かしてる、そいつ等みたいになるなって事だね」
カイル君達の方を見ながら言うと、アベル達はサッと顔を逸らして歯噛みする。
どうやら少しは自覚があったみたいだ。
「あっ!」
エイラの視線の先には今まさに立ち上がった黒オーガが居る。そしてその胸元には宝石の様な赤黒い結晶が浮かび上がっている。
「さて、最後にもう一度レクチャーだ。本来なら相手に実力を出させずに倒すのが理想的な展開だが、今はまあ、授業として見せる必要があるからこのままだ。オーガレベルの鬼種から持つ鬼珠は、個体毎に違う能力を有する。その中で一番ポピュラーなのが装甲型だ」
因みに竜種なら竜珠、精霊種や神族なんかにも似た様な物があるらしい。
「そしてここまでで言いたい事は決して相手を侮るなという事だ。強敵なら当然相手も切り札を備えている。例えゴブリンだって罠や数を揃えれば強者を簡単に屠る事さえある。そうなれば待っているのはそこの馬鹿共の様な一方的な蹂躙だ。さっきも言った事だが相手を侮らず、さりとて適わない物として諦める事無く死ぬ一瞬まで考えろ。分かった?」
「はい!」
カイル君は大きな声で返事をする。エイラも黙ったまま、それでも目は真剣に頷いている。アベル達も俯いたままではあるが視線を寄越し、悔しそうにこちらを見ている。
まっ、エグゼリアに頼まれたからここまでやったが、これで直らないなら私の知る所じゃ無いな。これ以上はどうにもならん。
「グオォォオ!」
雄叫びを上げる黒オーガ。
その胸の鬼珠が光を放ち全身を硬質な鎧が包み込んで行く。
さて、こっちもそろそろ終わらせるか。
私は【竜装鬼】を発動すると腰を落とし力を溜め、更に右手には【鬼角鎧】を纏わせる。
すると向こうも同時に鎧の形勢が終わり真っ直ぐに突進を開始する。
身体を強化しているとは言え、あの体格から生まれるパワーに体重が乗った突進など、私が喰らえば大ダメージは免れないだろう。
だがしかし、その突進はスピードが乗り切る直前でビタリと止まる。
何故なら黒オーガの全身には、戦いながら私が仕込んでいた糸が隈無く巻き付けていたからだ。
巣。私のもう一つの結界とも言える構築陣地だ。
至る所に張り巡らせいた糸が、魔力を流した事で強度を増し黒オーガを縫い付ける。
長時間の拘束など当然出来ないが数秒の拘束が出来れば十分だ。
悪いな。元からマトモに戦う気は無いんだわ。
如何に堅牢な鎧に護られていようと、無防備に晒された胴体ならば今の私なら何とか貫ける。
「はぁぁあ!」
全ての力を右腕一本に掻き集めた私の一撃は、黒オーガの胴体を貫き戦闘は終了した。
ふぅ……。うん、これなら戦えるな。
でも、今回も失敗かぁ……。
ガダル戦でも使ったこの攻撃。あの時は神力だったが、もっと言えばこの世界での強敵との戦いで、全ての力を振り絞って出していたこの一撃だが、心曰くまだ先があるらしい。
右手に集めた力をインパクトの瞬間打撃に乗せる。言葉にすればそれだけだが刹那のレベルで合わせる事が出来れば威力は増大するのだそうだ。
心には「狙って出来る物では無いが、君の魔力操作は頭がおかしいレベルだから出来る筈」と、言われた。
いや、出来ると言われるのも効果のデカい技も嬉しいんだけどね。もう少し言い方……。
それでもオーガなどと言う強敵を一人で倒せた実感を噛み締め、【解体】スキルを使いながら黒オーガの取り込みと素材の回収をする。
いやー、【解体】スキルってやっぱり超便利。
『シルフィン:何気に貴女が喜ぶスキルって、地味な恩恵の物が多いですよね』
面倒なの嫌いだからね。
「お疲れさん」
「うむ。譲ってくれてサンキューね。お礼に素材は後で分けてやるよ」
「お前の手柄だから別に良いんだが?」
「まっ、今回はチームだからな。これくらいの素材なら快く渡す位の度量あるぞ?」
「これくらいね。なら有難く貰うか。良い装備が作れそうだと思ってたんだ」
確かにあの表皮の硬さなら結構な品質の物が作れそうだ。コロに渡したら喜ぶかな? うん。決して最近私の事を見る時の目が怖いから貢ごうとしている訳では無いぞ。
〈……そうですね〉
反応が辛い……。
戦闘が終わると肉壁として括り付けられていた女性達を解放して治療を施す。
ヒストリアも手伝おうとしたが、この後の事も考えてMP回復薬ことマナポーションを渡して、自分の回復に務めるよう言っておいた。
最初こそ不満そうにしていたが、私の治療を見ると目を見開き食い入る様に見ていた事から向上心はあるようだ。
さて……と。
アベル達を含めた全員の治療を終えた私は、未だに警戒心を解かずに居てくれたダグラスと目線を合わせ頷くと──。
「そろそろ出て来いよ。居るのは分かってるぞ覗き見野郎」
誰も居ない様に見える壁に向かって話し掛けた私へとアベル達の視線が集まる。
隣りに居るダグラスは既に剣を抜き臨戦態勢だ。
「おや……、バレていましたか」
そんなこちらを馬鹿にする様な言葉と共に、頭までローブを被った男が顔にニヤついた笑みを貼り付けながら、壁から滲み出る様に姿を表したのだった。
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