ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

スライムにまみれてたかも

 レベルアップによって体力や怪我は回復したが、精神的な疲れは未だに残っているので、私は引き続きヌルの観察をしながら休んでいた。


「あー、適合素材も見れるのか。どれどれ?」


 やはり私の血を取り込んで進化したのが多いだけあって適合素材は私が用意出来る物が多かった。


 毒に糸、魔力や骨肉、なんだこれ?臭いの強い物?こっちは汚れか。薬品何かもあるな。それに死体とかもか。まあ、この辺はゴブリンとかなら食わせても良いか。


 多岐に渡る適合素材は見ていて結構面白い。そこでふと進化した後にも適合素材は必要なのか?という疑問が浮かんだので実験してみる事にした。


 まず私は土魔法で簡単な器を幾つか作ると、その中に今作れるとびっきり凶悪な濃縮毒と極力弱く作った弱毒の二種類を用意してそれぞれ飲ませてみた。


 結果としてはどちらの毒も経験値を稼ぐ事が出来たのだが、両者を比べた感じでは濃縮毒の方がより多くの経験値が稼げていた。経験値が増えたのはクイーンとポイズン、それとノーマルスライムだ。


 当たり前だがポイズンの適合素材は毒、ノーマルに至っては基本なんでも食べる為経験値の量はポイズンに比べると低い。クイーンの適合素材はなんと私なので、私由来の物ならばなんでも経験値が上がるらしい。


 これ私が毒を精製しまくったらクイーンが量産出来るのでは?アカン。これ絶対帰ったら怒られ案件だ。い、今のうちにヌルの良い所を沢山見付けておかなければ!


 そう思い直した私は引き続き実験を継続する。


 今度の実験はヌルに【眷族使役】を使ってもらい、メディスンを二体出してもらった。


 そして今度は解毒薬を精製して器に入れ、残った一つにはアリシア特製の回復薬をいれてみる。


「さあ。食べて良いよ」


 私が許可を出すと二体のスライムはそれぞれ器に入った物を取り込み始める。ついでに言うとヌルの眷族は私の眷族でもあるのでちゃんと言う事は聞いてくれる。


 そうじゃなきゃスライムにまみれてたかも。あー、でもそれはそれで気持ち良さそう。


 そんな事を考えているとどうやら食事は無事終わった様だ。


 経験値の量はやはりそれぞれに違うが、中でもアリシアの回復薬は私の濃縮毒と同じくらい経験値が上がった。それと同時に二体のメディスンはそれぞれ【薬剤精製】のスキルで解毒薬と回復薬を作れる様になった。


 この事からメディスンには新しい薬を食べさせれば作れる様になる事がわかった。


 その二匹をクイーンへと戻し見てみると、経験値は二体のメディスンが稼いだ分が合算されて一体増えていた。


 ふむ。効率を考えるなら使役してそれぞれに食べさせるのが良さそうだな。でも手間を考えるとクイーンであるヌルに食べて貰った方が楽そうだ。少ない内ならまだしも多くなってきたら餌も結構な量になるだろうしね。


 念のためもう一度メディスンを一体出して貰うと、やはり出してもらった一体は解毒薬と回復薬の両方を作れる様になっていた。どうやらヌルと融合すると経験などはフィードバックされ同じ種の全ての個体に反映されるみたいだ。


 クイーンの恐ろしさは本体よりもこの数々の能力にあるのだろう。


 さて、メディスンの確認が終わった私は次にそれぞれのスライムのスキルを見てみる事にした。魔法系のスライムは、ノーマルのスキルにそれぞれの属性のボール系の初級魔法が使えるようだ。ポイズンは【毒精製】【毒液】そして【毒体当たり】で、アシッド、パラライズはこれの酸と麻痺バージョンだ。ヒールスライムはHPを回復するヒールと怪我を治すトリートが出来る。


 ドラッグスライムはメディスンと同じ様な感じだが、作れるのは幻覚剤や自白剤などの危ない薬だった。その他のスライムはこんな感じ。


 ・ブラッドスライム→【吸血】
 ・スレッドスライム→【糸精製】
 ・クリーンスライム→【清浄】
 ・スメルスライム→【悪臭】
 ・ミートスライム→【肉精製】
 ・ボーンスライム→【骨精製】


【吸血】は相手の傷口から血液を吸い取りHPを回復出来るスキルだ。しかも適合素材は血液なので攻撃、回復、経験値取得が全て同時に出来る凶悪な仕様となっている。感覚的にはヒルとかみたいなかんじだ。【糸精製】は糸を吐き出して相手の行動を阻害したり出来る。【清浄】は汚れを食べるクリーンスライムが食べた後を綺麗にするスキルだ。これは雑菌や細菌にも効くかも知れないから要検証が必要だ。


【悪臭】は本当にただ臭いだけなので今後何かに活用出来るか考えたい。【肉精製】【骨精製】は【薬剤精製】と同じ様に食べた事のある素材をアイテムとして作れるスキルだ。これらは良い物ほど時間が掛かる仕様になっているようだ。


 アイアンスライムだけはノーマルと特に変わりは無かったが、【体当たり】も体が鉄な分威力が高いだろう。スカルスライムも使えるスキルは変わり無いがその代わり【死神】というスキルが付いていた。これは自分よりもステータスが格下の相手に対して有効なスキルで、一定確率で即死の効果があるのだそうだ。


 と、今の所はこんな感じだ。


 ついでに言うと私も今回のレベルアップで新しいスキルを覚えた。それがこの【鬼火】と【鬼砲】それと【鬼力】の三つだ。


【鬼火】はMPでは無くて気力で出せる攻撃スキルで、分類は火属性の物理攻撃に分類される様だ。だから魔法が効かない相手にも通じる攻撃らしい。但し、威力も汎用性も炎魔法の方が上なので大して使えない。【鬼砲】は、鬼の気を貯め放つ攻撃の様だ。こちらはMPと気力の両方を使う物理兼魔法攻撃に分類される。こっちは【鬼火】と違って結構な威力が在り、溜め無しでも威力がそこそこ高く、力を溜めればかなりの威力にもなるので扱い易い良いスキルだ。ボール系の魔法の様に弾として撃つ事も、レーザーの様に撃つ事も出来るのでこれも使い込んで検証したい。そしてなんと言っても【鬼力】だ!これはレベル×2%知恵と運以外のステータスが上がるスキルなのだ!


 ふふふ。固定なら即座に強くなれるかも知れないが、その分後半になるとステに対して微妙になるからね。割合上昇なら強くなればなるほど効果が上がる!何よりも念願のステータスアップスキルだからね!超嬉しい!


【鬼火】は鬼種なら、誰もが持っている固有スキルらしい。【鬼砲】や【鬼力】は鬼人族や上位の鬼種が持っているスキルだそうだ。何よりも某Z戦士の様な攻撃に私のテンションも上がっている。閑話休題。


 全ての確認が終わった私は、ヌルに全てのスライムを動員してこの階層に散らばっているオーク達の死体回収を頼む。ついでにノーマルスライム達にはこの階層の中で好きな物を食べる様に命令し、私自身も【解体】スキルを使いながら死体回収をして回った。


 そんなお陰か好き勝手に補食を行ったノーマルスライムは倍の100体になり、その内の何体かはオーク達を食べスカルやボーンなどに進化し、戦いの余波で崩れた石を食べたスライムから、新しくストーンスライムに進化した個体が5体ほどいた。


 やべー。スライムの育成楽しい。全種類コンプしたい!!


 コンプ魂に火の着いた私は心の中でそう決意しながら、スライム軍団が集めてくれた目の前に山の様に積み重なった膨大な死体を眺める。


 うーむ。戦ってる時は必死だったから気にしなかったがこんなに倒してたのか~。しかもこれ、3分の1くらいはスライム達に餌としてあげたのにこの数かぁー。スキルあるとは言え一体ずつ【解体】するの面倒だな。


「あっ、そうだ!」


 山を見てどうしようか考えていると、そこでふとそう言えばと思い出した事を試してみる。


 実は前に空間魔法のレベルが上がった時に空間指定というものを覚えた。だが、覚えた時に速攻で使ってみたが、私にだけ見える線で出来た立方体が出現するだけだった。その線は例えて言えばパソコンなどで3Dモデリングを作っているような感じだった。


 縮小・拡大は自由、全ての線が繋がり立体で在れば形も好きなように変えられた。しかしそれだけだ。線で何かを出来る訳でも無く、取り囲んだ所で何かが起こる訳でも無かった。それも今度何が出来るのか研究しようと思ったが、それよりももっと面白い物が見付かってすっかり存在を忘れていたのだった。


 上手く行けば良いけど。


「空間指定」と唱えると、前と同じ様に線で出来た立方体が現れる。私はそれを死体の山を囲む様に調整すると、文字通り空間を指定して立方体を固定する。そして今度は「【解体】」と唱えると、私が予想した通り指定空間の中にあった全ての死体が【解体】スキルによってアイテムと魔石になり、【喰吸・魂】のスキルも合わさり私に吸収された。


 残念ながらスキルは何も上がらなかったけどね。今回の分は敏捷に全振りしとこう。


 そんなん中、ヌルと融合する為戻っていくスライムをボーッと眺めているとある事に気が付く、どうやら使役しているスライム達は何体かがステータスが微妙に違っていたのだ。


 何でだろう?これも帰ったら検証だな。


 そんな疑問を持ちながらも全ての融合が済むまでユッタリ休めた私は、最期の一体がヌルに融合すると早速次の階層へと続く階段へ向かうのだった。
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 その頃、ハクアが連れ去られた事で女神達の空間でも騒ぎが起きていた。


『どどど!どうしましょう!ハクアさんが見つからなぃー!ああ、こんな事なら先輩の忠告なんて無視して仕事せずにずっとハクアさん眺めてればよかったぁー』


『落ち着きなさいティリス。キャラが崩れてますよ。それに、ハクアなら大丈夫ですよ。ですよねティアマト様?』


「そうですね。幸い場所の特定も出来ていますし大丈夫でしょう」


 ハクアが連れ去られた事を知った女神達は、血走った目をしたティリスの先導の元必死にハクアを探し、澪達よりも早く居場所を特定していた。


 しかし、その場所は数多くある女神ですら容易に覗き見る事が出来ないダンジョンの奥深くだった。


 そもそも女神達も見えない場所はいくらでもある。それは、結界の中やダンジョンの中や魔族の領域等がそうだ。結界の中もダンジョンの中も個人の魔力や魔素などにより満たされているため女神の力が浸透しにくいのだ。魔族の領域などはそれに加え魔王の波動がある為、正攻法では女神は覗けない様になっている。


 今回のハクアの連れ去られたダンジョンは、普通のダンジョンをガダルが奪う形で改装した為、女神の力を持ってしても中を覗くのに苦労しているのだ。その証拠に何時もはクリアな映像を映し出す神台も、電波が悪いテレビの様にノイズと砂嵐の様になっている。


 そんな中でも必死にハクアを探しているティリス、心、ソウの姿は最早心配よりも執念と言っても良いかも知れなかった。因みに他の女神達は自分達の仕事をこなしつつ、やる事は終わったと言わんばかりに休憩しながら三人の事を眺めていた。


『そもそも先輩はハクアさんの事が心配じゃ無いんですか!?』


『それはまあ、良い娯楽ではありますからここで終わるのは勿体無いと思いますけど・・・・』


『もぉー!先輩がハクアさんにちゃんとしたチートを上げれば良かったんですよ!もしくは私に全部任せてくれれば』


『それをしたら結果は目に見えているでしょうに』


『もぉ~!それでも心配じゃないんですか!?』


「大丈夫ですよティリス。ハクアさんはやっとこの世界に順応してきましたからね。心やソウとの特訓でようやく本来の戦い方と、ここでの経験が融合してきましたから、そうそう負ける事はありませんよ」


『でも、相手はあのガダルですよ』


 実を言えば永い時を生きる魔族の中でガダルの生きてきた時間は短い。しかし、それでもその短い時間で今のあの強さを身に付けた者として、勇者を召喚する女神達も警戒していた魔族だった。


 やけに突っ掛かってくるティリスの顔を押し戻しながら、呆れた様に言うシルフィンにティリスはそれでも噛みつく。


『そもそも何で先輩はハクアさんにチートをあげなかったんですか!?』


『確かにそれは私も気になるわね?』


 ティリスの言葉に反応して、今まで黙って紅茶を飲んでいたイシスも追求して来た事に溜め息を吐きながらシルフィンは一枚の紙を取り出す。


『これが私がハクアにチートを与えなかった理由ですよ』


 生命力:SS
 精神力:SSS
 体力:A
 魔力:SS
 知力:SSS


 シルフィンが取り出した紙は、地球の人間を異世界に連れていく際に神々が参考にする人間の簡易な素質値表だった。これが高ければ高いほど異世界に行った際にレベルアップや鍛えた時の恩恵は大きくなる。そしてハクアの数値は一番低い体力でさえも平均を大きく上回るA。それ以外もあり得ないほどの高さだった。


 そもそも普通の人間なら高くてもどれか一つがB、それ以外は平均のCである事がほとんどだ。世界を救って貰う為に女神が自ら選ぶ候補者でさえ、Sが一つでも在れば天才と言っても良いにも関わらず・・・だ。それを知っているからこそ二人はこの素質を見て何も言えなかったのだ。


『ちょっと待って。魔力SSなんて内包魔力量だけではならないわよね?元から魔力を扱えていたの?』


『いえ、そんな事はありませんよ。貴女も知っている通りあの世界では魔力はそうそう扱えませんしね。因みに体力がAなのは体の欠陥があった為ですそれが無ければ少なくともSSだったでしょうね』


「水転流は気を使う物がほとんどとは言え、あの子の師匠は魔力も使っていましたからね。無意識にその事を感じていたのでしょう」


『ハクアさん・・・凄いです』


『これでわかりましたか?彼女にこれ以上のスキルなんて与えられなかったんですよ』


 異世界に行く場合、女神が力を渡す事が出来るのは才能とその者の魂の容量による。その二つが無ければ女神の力を受け取る事が出来ないからだ。そして女神の渡すスキルとは、自らの才能が足りないかった魂の容量を補う形で与えられる。だからこそ平凡だった少年・少女が異世界で無双などと言う事が出来るのだ。


 しかし、ハクアの場合は魂の容量こそあれど、女神の力をもはね除けてしまうほどの才能があった。その為、シルフィンが無理矢理スキルを渡せる限界が最初のスキル選択分だけだったのだ。むしろここまでの破格の才能を持ちながら、あれだけのスキルを授けられただけでもシルフィンは驚愕したほどだった。


 はっきり言ってしまえば、元からの才能が在ればチートスキルなどは後からでも手に入れられるこの世界では、ハクアの才能はそれ事態が既にチートだったのだ。


「まあ、あの子は才能の塊ですからね。澪さんやお嬢様、その他の才能のある方達に囲まれて居たからこそ自己評価は低いですがね」


『と、言う訳で恐らく大丈夫でしょう。私もこの仕事が終わればハクアのモニターを繋げる手伝いはするのでそれまで待っていなさい。それにあそこのダンジョンのコアはだいぶ古いですからね、ガダルの魔力を無理矢理使ったとしてもそうそう強いモンスターは呼び出せませんよ』


『そ、そうですか?』


「確かにそうですね。ハクアさんが生きているのはわかっていますし。監禁されているかもしくは何らかの意図があるのか。どちらにせよ私達には見守る事しか出来ませんしね」


『ええ。まあ、ドラゴンでも出てくれば流石に敵わないかも知れませんがその辺は大丈夫でしょう』


 そう締め括り仕事の続きを始めたシルフィンに何も言い返せず、ティリスはハクアを見付ける為に大人しく戻って行ったのだった。


(本当にハクアさん大丈夫なのかな?)
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「おう。オワタ」


 階段を登った先、一つ前と同じ様に入り口に貼ってある結界の手前で立ち止まり、目の前に見える光景を眺めながら私はそう呟いた。


 そんな私の目の前には何やらドロドロに溶けた皮膚を持つドラゴンが眠っていたのだった。



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