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ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

意外に器用だなこいつ

 もっとちゃんと準備をしてからこの階の攻略に挑むつもりが何故か飛び出してしまった私は、足元に転がるオークの死体を見ながら悪態をついた。


 いや、わかってる。何故かじゃなくて私はこいつを放って置けずに飛び出した。


 そんな私の目の前にはプルプルと震えながら警戒した様な空気を醸し出すスライム。認めよう。私はこいつを見て遠い昔の小娘を幻視していた。


 絶対的だった庇護者が居なくなり、全てに絶望して大切な物まで傷付け様とした恥知らず。でも、そんな小娘に周りの大切な人間達は手を差しのべ救ってくれた。ならばそんな小娘の・・・昔の自分の姿を重ねてしまった私がこいつを放って置く訳にはいかないのだ。


 恐らく、このフロアに突然現れたの匂いに引き寄せられたであろうオークが、こちらに向かって大勢押し寄せてきているのが分かるが今は無視だ。


 押し寄せて来る方に視線を向けていると、不意に私の袖をクイッと引かれた気がしてそちらに視線を戻す。すると、ビクッとしたスライムから伸びた触手がシュッと戻って行った。


 触手で引いたのか、意外に器用だなこいつ。


 どうやら助けた私に興味は有るようだ。私は出来るだけ刺激しないようそっと手を差しのべる。それはかつて私に生き方を教えてくれた人がしてくれたように。


 まあ、私はその前にぶっ飛ばされてガッツリ心を折られたけどな!!と、いかんいかん。せっかくこっちに興味を持ったのに何か感じ取ったのかまた震えとる。まっ、理解出来るがは知らんがそれでもな。


「私に付いてくればもしかしたらここで死ぬよりも酷い目に合うかも知れない・・・・。それでも私に付いて来るか?」


 私の手に伸ばそうとした触手がその言葉を聞いてまた戻って行く。どうやら言葉をちゃんと理解して私と共に行くのは危ないと思ったようだ。


 少しだけ残念な気もするが本人?(本スライム?)が決めた事なら私に異はない。


 そう思い手を引っ込めながら、とりあえずこいつから離れて安全を確保してからオークを迎え討つかと考えていると、私が手を引っ込めるよりも早くスライムが私に飛び付き頭の上に乗っかって来る。


 何故に頭の上!?いやいや、それよりも。


「お前、良いのか?」


 そう聞くと頭の上で器用にピョンピョンと跳ね。


 ▶スライムが貴方に契約を求めています。契約に応えますか?


 何と!?自分から契約を求めて来ましたよ。そんな機能もあったのか!?


 求められた契約に応えると名前を設定するかと聞かれる。


 うーむ。名前かぁ。どうしよう。


 こうしてる間にもオークは刻一刻と迫って来ている。しかし、ここで下手な名前を付けるとまた後で皆に色々と言われてしまう。スライム。ライムとかだと在り来たりとか単純と言われそう。なら、他には・・・もち?いやいや、心太、これもダメだ。寒天、ゼリー、うーん。もっとこう。そうだ!考えてみたらゴブリンやクー以外は初めてなんだから・・・・よし!決めた!


「お前の名前はヌルだ!」


 ヌルはドイツ語でゼロ。アクアにしてもユエ達にしてもマトモに育てて無いから、ゼロからの魔物育成って事で!


 ▶スライムの個体名をヌルに変更しました。


 スライム事ヌルに名前を付けるとなにやらズオッと魔力が吸われる。


 おう!?あれ?これから終わりの無いマラソン戦闘に挑むのにいきなりつまずいたよ!?てか、こんなに名付けで魔力取られた感覚するの初めて何だが?何だろうすごい進化するのかな?それともスライムだから?よくわからん!?


 などと混乱していると遂にオークの先頭集団が私の目に映り、こんな事を考えている場合で無いと気を引き閉め直す。


「ヌル!しっかり掴まって、掴まって?まあ良いや。頭の上から落ちるなよ!」


 私の言葉にまたもやピョンピョンと跳び跳ね「わかったぜ!」と、言いたげな様子で私の頭に吸い付く。


 新感覚!?てか、コミュニケーションどうしようかと思ったけど何と無くヌルの気持ちが分かるな。


 思ってみれば、最初の頃にアクアが言葉を喋って無いのに何と無くわかったのは【魔物調教】のスキルの影響だったのだろう。と、今さらながらに理解する私。


 さて、それじゃあたまには主人公ッポイバトルも行ける所を見せましょうかね!!だって最近は脇役ッポイ行動しかしてないからね!


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 飛行機などが無いはずのこの世界の遥か上空を凄まじい速度で進む物体があった。


 翼を生やす狼の様な形をしたそれの上には幾人かの人間の姿が見える。それらの発する怒気や殺気に、このエリアに生息する弱い鳥形の魔物は近づく前に逃げていくが、それでもたまに本能に従い襲いに行く魔物も居る。だが、それらの魔物もそのほとんどが近づく前に撃ち落とされ、何とか攻撃を潜り抜けた後台も問答無用で切り捨てられていた。


 そんな怒気を撒き散らす一行。澪達は澪の造り出した騎獣の背に乗りハクアの元を目指していた。


 騎獣の背に乗って居るのは澪にハクアの仲間達、それにミミを抜いたメイド組とリコリス、リリーネ親子だ。


 本来なら騎竜に乗り陸路で九日は掛かる道程を僅か三日で駆け抜ける強行軍。それをなす騎獣を操る澪は苛立ちを隠そうともせずにひたすら騎獣の操作に没頭する。


 そんな時、不意に横に居座るもう一人の幼馴染の瑠璃がいきなり顔をしかめさせたのを見て、思わず「どうした?」と訪ねる。


「いえ、今何やらハーちゃんがゼリーみたいな穢らわしい生き物と心を通わせた様な気がしまして・・・」


「・・・・相変わらずいやに具体的だな」


 そうは言いながらも、瑠璃のその内容を疑う様な発言を何の疑いも持たず納得する澪。


 それもその筈、地球に居た時から瑠璃は時々ハクアと離れる度にこうして謎の電波を受信してハクアの行動を正確に理解していたからだ。


 それにこの手の言動はつい先程も「何故か今、物凄くカメラを持って居ない事を悔しく思いました!」などと騒いでいた。


(まあ、内容はほとんどが誰かと仲良くなってるとか、今物凄く可愛い感じがするとかだったがな)


「しかし、ゼリーの様な生き物と言う事はスライムか?あいつは何故ここに来てゴブリンに並ぶ最弱モンスターをテイムしてるんだ?今のアイツなら仮にも鬼人の一種なんだ。もう少しマトモなのもテイム出来るだろうに」


「それはまあ、ハーちゃんですから」


 それを聞いて何も言えなくなる澪。しかも同時に二人の頭の中で妙にホクホク顔でドヤッたもう一人の幼馴染が「最弱のモンスターを最強にまで育てるって夢があるやん?」などと、とても良い顔でサムズアップしてるのが想像出来て、互いに顔を見合せ苦笑してしまう。


 そんな自分の知らないハクアの姿を知っている二人に、羨望の眼差しを送りながらアリシアが会話に入ってくる。


「ご主人様は本当に大丈夫何でしょうか?アクア達の話ではご主人様は今も一人で戦って居ると言うことはでしたが」


 契約によりスライムの感情がわかったハクアの様に、アクア達にも少しだがハクアの何と無くの様子が分かる。特にハクアと魂を共にしたヘルは強くその事を感じていた。


 しかし澪と瑠璃は、アリシアのその心配を何の気負いも無く「大丈夫だ」の、一言で済ましてしまう。


「確かに純粋な戦闘力は私や瑠璃の方が上だが、アイツは事突発的な状況に対する対応力は郡を抜いてるからな。戦っていると言う事はある意味で一番心配要らん状況だと言う事だ。それよりも・・」


「はい!問題はそんな事よりもこの招待状ですね」


 澪の言葉を引き継いだ瑠璃は今までの苦笑の表情が消え、ハイライトの消えた目で無表情に手紙を握り潰す。


 そしてその行為を見ていた。アリシア、ミルリル、シィー、リコリスも瑠璃と同じ様に顔から感情が消え去りハイライトの消えた目で同じく同意していた。


「安心しろこれは私達を釣り出す為の餌だ」


「でも、みーちゃん」


 澪の言葉に表情を戻し反論しようとするがそれを制して言葉を続ける。


「そもそもアイツには地球に居た頃に十数年掛けて男の間違った認識植え付けて洗脳教育したんだ。今さらそんな簡単に洗脳を掛け治せるほどアイツの精神はやわじゃない」


 などと、平然と言う澪に「それはそうですけど」と瑠璃が呟き。そんな二人を瑠璃と同じ様にハイライトを消していた面々が尊敬の眼差しで見詰めていた。


 尚、後ろでそんな現場を目撃した面々はそれぞれに、親友の新たな一面を面白がる者、自分の知らない母親の一面を見てショックを受けて居る者、当然の様に頷いて居る者、ドン引きしている者に分かれていた。誰がどの表情かは推して知るべきだろう。


 因みにクーは(だから主様はあんなに男に対して攻撃的なのか!?)と一人心の中でツッコミを入れていたが勿論そんな事は口にしない。


 自分の言葉に少し安心した瑠璃を見ながら澪は一人心の中で言葉を続ける。


(本当に問題なのはむしろあの事だろうな。話を聞いて予感はあったし今回の事でほぼ確信に変わった。恐らくあいつもその可能性には気が付いているだろうが・・・まあ、あいつが喋って居ないのならこれはまだ語るべきでは無いんだろう)


 そう一人で結論付けた澪は騎獣を操る事に再び集中するのだった。



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