ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

「・・・君は本当に、無駄な所で無駄な才能を無駄に発揮するな」

 さて、貴族の騎士様にいきなりケンカを吹っ掛けられている訳だが、そろそろ午前中の事を思い出して思考を飛ばすのも限界何で、ちょっと整理してみようか?


 昼食を食べた私達はその足で訓練所までやって来た。


 そこには既に結構な数の騎士と、ジャック、メル達冒険者がお互い離れて訓練していた。


 これだけの人数居ても余裕在るとはやっぱり城ってでかいな。


 そんな感想を抱きつつ私達は其々で訓練を始めた。


 心が訓練を付けると言う話しだったが、今日の所は普段どんな訓練をしているのか、どれ程動けるのかを調べるらしい。他にも必要な物が揃ってない等とも言っていた。


 正直訓練に必要な物とかって言われると嫌な予感しかしないのだが?


 まあ、そんな訳で私達が城に居る間一緒に行動する事になったフーリィー、カークスも加え勝手に訓練を始めたのだった。


 因みにフーリィー達が私達と一緒に居る理由は一応私達の監視なのだが、実際はテアによる魔法講座や心による訓練があるからである。


 まあそんな訳で、アリシア、アクア、ミルリルは魔法の訓練を、エルザとミミを除いた他の全員が、いつの間にか合流していたジャック、メルと其々の副官を、加え其々で模擬戦や形稽古をしていた。


 エルザとミミが居ないのは、現在テアによるメイド講座を受けているからで在る。メイドとしての心構えから何から教えると言っていた。


 魔法講座の時よりも目がキラッキラしてたけどね?


 因みにミルリルがこっちに居る理由は、もう少し自衛の手段を身に付けたいから。と、言う事だった。


 ウチのメイドは凄い立派だよね?


 そんな中私は一人、紙と筆記用具を手に訓練していた。


 訓練所の訓練で紙と筆記用具?と、思うだろう。実際皆興味深そうに見ていた。


 私はそれらの視線を丸っと無視しながら、まず自分が使える魔法を片っ端から使ってみた。


 そして、その魔法を射つ際に現れる魔方陣を紙へと模写した。


 後で魔方陣の規則性や、効果、何処が何に対応してるのか調べよ~と。


 今までにも何度も見ている魔方陣なので時間は掛からず、自分の分が終わったから今度はアクアの強化魔法、瑠璃の弱体魔法の魔方陣もついでに描いておいた。


 そこまで終わってホクホクの私が次に行った訓練は、勿論土系魔法の訓練だ。


 魔法や呪文に付いても色々と聞いたからね。


 そんな訳で私は、魔法の訓練をしながら細部まで作り込んだ理想の我が家の模型を製作していた。


 この世界の建築様式はほとんどが四角い家なので作り易い。なので私はそれを半分にパカッと割れる様に作り細部の家具まで細かく作り込んだ。


「・・・君は本当に、無駄な所で無駄な才能を無駄に発揮するな」


「しょうがないですよ心さん。だってハーちゃんですから」


「あっ、この間取り前のお家に似てるニャ」


「これがご主人様の元のお家ですか?」


 そんな風に話しながら自分の部屋はこんな感じで。何て言う要望を聞き、更に細かく調整しながら模型を製作していると。


「ふん。良い身分だな。こんな所で遊んで居るだけで英雄扱いとは」


 と、そんな言葉を後ろから掛けられた。


 だがまあ、誰に言った言葉なのかわからないので取り敢えず無視する方向で。


「おい!聞いているのか!たかが平民上がりの冒険者如きが、このウィルザー男爵家の三男で在るサンドの事を無視する積もりか!」


 と、まだ何か言ってくるので、しょうがないから模型製作を一時中断して、声を掛けているらしい相手をキョロキョロと探す。


 全く、ちゃんと相手してやれよ。おや?私以外は全員何か叫んでる奴の事見てる?


「いや、確実にお前の事だからな?」


「ハクア、ほら、ちゃんと顔合わせてあげなよ?あそこまで言っても無視するから顔真っ赤になっちゃってるよ」


「ん?ああ、私に言ってたのか?てっきり勇者とか呼ばれて調子乗ってる的な奴にかと思った」


「貴様!何処まで私を愚ろーーー」


「そもそもさ?何で私なん?どう考えても澪に行くのが正しいだろ?外道の癖に勇者何て言われてんだから」


「おい、言うに事欠いて親友に外道とは随分な言い方だな?お前こそロクデナシの癖に」


「あん?」「何だ?」


「二人共止めないか、君達はどっちもどっちだろう?」


 そんな言い合いをしながら、互いにメンチを切り合いを澪としていると「無視をするな!」と、怒鳴られる。


「ああ、悪い。あまりにも影が薄くて忘れてた。それで何の用?え~と、サントさん?」


「サンドだ!サンド!濁点が足りていない!人の名前を間違えるな!」


「ああ、はいはい。で、そのサンダーさんが何の用?」


「くっ、この!誰の名前がそんな雷系の魔法だ!いい加減にしろ!魔族の討伐を手伝った位で褒賞等貰いおって!どうせ貴様など端で震えて居ただけだろう!ふん!あの女王の考えそうな事だ。大方見た目の良さで英雄に仕立て上げれば自分の求心に繋がると持ち上げられたのだろう?」


 ん?ああ、こいつアイギスのアンチか。てか、貴族とは言え男爵の三男とはまた微妙な。


 何か聞いててソッコー面倒になったので、私は再び理想のお家の模型製作に勤しむ。


 やっぱ、家の中に螺旋階段在るって何か良いよね?なんてーの?浪漫って言うか勝ち組って感じするよね!そう言えばコンロとかの代わりはあるけど、もうちょっと台所周りの物も充実させたい所だよね?魔方陣や魔石を研究して早めに充実させねば。ハンドミキサーとかも欲しいな。


「貴様聞いているのか!」


「止めなさい!サンド!ハクア様はあの戦いで先陣に立ち戦った功労者ですよ!それをこの様な場で糾弾してあまつさえアイギス様の事まで」


「ふん、少し実力が在るからと偉そうに副団長とは言え、平民上がりの女が私に偉そうにさしずするな!」


(なあ澪、カークス?何であいつヒラの癖にあそこまで言えるんだ?)


(知らん)


 役立たず。


(彼の曾祖父はこの国でもかなりの力を持って居るんですよ)


(男爵程度が?)


(いえ、曾祖父はもっと上です。彼の親が魔力が少なかった為、地盤を固める為の婚姻を豊かな土地を持つ男爵と結んだんです。ですが、魔力は少なくとも血筋ですからね。厄介な事に未だその言葉は影響力が在るんですよ)


(とは言え、既に降った家の人間でアレは無いだろ?)


(澪さまの言う通りなのですが、件の男爵家の豊かな土地はフープの財政にも響きますからね。それが今のこと状況だと)


(尚更強く出にくい。と、言う訳か)


(はい。あの家の家系の者は元々アイギス様を支持して居ませんからね。今でさえ食料の値段を吹っ掛けられている程です)


 実家ぐるみで面倒な。


「ふん!そもそも訓練所で訓練もせずに遊んでいるだけではないか。しかも、土魔法なんて何の役にも立たない物を」


 あん?今こいつ土魔法さんの事馬鹿にしたか?土魔法さんの汎用性舐めんなよ屑!私の事を何と言おうが別に構わんが、土魔法さんの事を悪く言うならそのケンカ買ってやんぞコラ!


 土魔法さんに対しての余りの物言いに、イラッと来て突っ掛かって行こうとしたら皆に止められる。


 止めないで!土魔法さんに対して土下座させちゃる!


 そんな私の様子に気が付かず、お貴族様の私への批判はまだまだ続いて居た。


 だが、私への批判がいきなり止まると、私の前に立ち抱き付きながら私を止めていたシィーに視線を向けていた。そして、私の目の前の馬鹿はこう言いはなった。


「そもそも、この人間の訓練所にエルフやドワーフなら未だしも、薄汚い家畜獣人など連れ込むとは何を考えているんだ!穢らわしい!お気に入りの性奴だとしても私の視界に入れないで欲しい物だな」


 その言葉を聞いたシィーの身体がビクッと震える。


 シィーが私に抱き付いていたから良くわかった。それは、シィーがこの世界であんな言葉を投げ掛けられるのが初めての事では無いと言う事が、何度も・・・何度も同じ言葉を投げ掛けられ、その言葉のナイフに何度も心を傷付けられたのだと、その私に気付かれたく無さそうな震えで伝わった。


 その時私が思い出したのは姉がシィーを初めて私の前へ連れて来た時の事だった。


 一番最初、シィーが家に来たのは姉に連れられてだった。最初から今の様になついてはくれなかった。何度も引っ掻れたし、呼んでも来ない何てのは当たり前、でも何と無くそれは人を怖がっているからだと言うのも分かった。


 それは私も同じだったから。


 だからこそ私は何度拒絶されても構い続けた。姉や瑠璃、澪達が私にしてくれた様に私もこの子を助けたかったから。


 そうしている内にだんだんとシィーは私を受け入れてくれた。だから私は以前の様にシィーの事を少し強めに抱き締める。そうするとシィーの少し強張った体から力が抜け、私の想いが伝わったのだと少し嬉しくなる。


 私の目の前の愚物は未だに私のシィーの事を悪し様に罵っている。騎士道がどうとか、貴族としての矜持がどうとか、如何に獣人が醜悪なのかと自らの醜悪さすら解らぬやからがほざいている。そして、それを遠巻きに見ている騎士団の連中の中に、目の前の愚物の様にニタニタとしている奴も何人か見付ける。


「ほう。随分と面白い事を言うな?国を見捨てて魔族から逃げ、いざ事が収まれば我が物顔で戻ってくる。更には何もしていない女を貶め貶すのがこの世界の騎士道と言うのか?だとしたら私の知っている物とは大分違うようだね?」


 思わず【威圧】が漏れるも、流石は腐っても騎士を名乗るだけ在るのか、少し顔をしかめるだけで倒れる事は無い。


「ふん。関係無いな!獣人などただの家畜!それを庇うとはやはり貴様も転生者とは言え魔物だな」


 成る程、褒賞の場で【鑑定士】のスキルで見られてるってヘルさんに言われたけど、こいつ等の一派だった訳か。隠した所でいずれバレそうだから放置したがこのタイミングで使うか。裏は・・・無さそうだな。


「はあ、別に関係無い。気に入らない奴は気に入らない。ましてや家族シィーを傷付けるなら尚更な」


「・・ご主人様」


「ふん。それが貴様の本性か?だとしたらこんな奴に褒賞を与えるなど、益々女王は何を考えている事やら」


 ・・・・イマイチ目的がわからんな?アイギスを落としたいなら他にも効果的な場面は在りそうなんだけど、どうも私達を足掛かりにアイギスを攻撃したいようだが効果薄いだろうに。まあ、シィーを標的にした時点で私が遠慮する必要は何処にも無いけどね。


 これは私がこの世界で勝手に決めたルールだ。


 相手が誰であろうと私は私の仲間を傷付ける奴は許さない。許す気が無い。アクアやクーはモンスターだし、この土地では人間では無いアリシアやコロ、エレオノだって風当たりは良くは無い。


 テアの話ではエルフやドワーフは獣人ほど迫害を受けている訳では無い。と言う話しだったけど、それでもコルクル達の様にエルフやドワーフを人とは違うと言う理由だけで害する奴はいる。そして何よりもミミがされた様に獣人を害する者は更に顕著だ。


 そんな訳で目の前のこの愚物を処刑する事は私の中で決定だった。そして、冒頭に戻る。


「はっ、守るべき物も守れない奴が騎士道を語るなよ愚物。厚顔過ぎて見ているこっちが恥ずかしい」


 私の言葉に騎士様(笑)は顔を真っ赤にして怒りに震えて居た。


 ね?挑発はしてるけど、今回私全く悪くなくない?


 〈ええ、珍しい事にそうですね〉


 解せぬ?



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