ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

「無理があるじゃろ?」

「はいはい、今開けるよ~」


 私は丁度よくやって来た来客の為にドアを開け、中に招き入れる。


 おっ!二組同時だったのか?本当に狙った様なタイミングだな?


「あ、そ・・・んな、トト!」


「おねえちゃん!」


「ミルリル!本当に、本当・・・に、ミルリルなの?」


「うん。お父さんと一緒にハクア様に助けて貰ったの」


「ハクア様に!?」


「まあ、借金全部背負ったからお金は減ったけどね?必要経費だよ」


 それもコルクルの資産でむしろプラスだけど。それは言わなくても良いんだよね?ね!?


《シルフィン:必至過ぎません!?》


 いや、だって今私の株価うなぎ登りっぽいし。抱き合う美少女達が熱っぽく見つめてくれて、アリシア達だって何か私に感動してるんだよ!?


《シルフィン:クズめ!?》


 お前それでも女神か!?この駄女神!?


 私が内心で女神と言い争う間も目の前の光景は進んでいき、感動的な場面が展開されていた。


《シルフィン:なんと言うか、ご都合主義な展開ですね》


 ご都合主義はお嫌い?


《シルフィン:良いんじゃないですか?現実なんてハッピーエンドが丁度良いですよ》


 同感。


「あの、ご主人様?結局どういう状況何ですか?」


「私も説明を聞きたいなハクア」


「そうですハクア様!どうやってミルリルを助けたんですか!?」


「そうよ。トトの事も!」


「とりあえず、ミミの弟のトトだけどそっちは私じゃ無いよ。こっち」


 そう言ってドアの向こうで所在なさげにしていた人物達を招き入れる。


「お前達はあの男の部下共!」


 現れたのはミミの言う通り、コルクルの元部下だったククスとその部下の女だった。


「タイム。ミミの弟を助けたのはそこの女だよ」


 そして私は事情を皆に話し始める。


 実はミミの弟の事はコルクルの屋敷に行く前にククスから聞いていた。コルクルがミミの暮らしていた場所を襲い、ミミ以外の者を殺していた時、トトは親により脱出させられていた。
 そしてそれを追ったのがこの女、リザだった。リザはコルクルの命令で追ったは良いが、いざ殺そうとした時どうしても出来なかった。だからトトを殺した事にして、今まで自分で匿っていた。


 何故ククスが知っていたのか、それは様子のおかしかったリザを問い詰め、トトの存在を知っていたからだった。そして今回の騒動が起き、私が月兎族のミミを仲間に加えたのを見て、このミミの弟の存在を私に報せてきた。と、言うことだ。


 私が話し終えるとミミがリザに向き直り「お前達が、私の仲間を殺した事は赦せない。でも、弟を助けてくれてありがとう」と、礼を言って再び弟を抱き締める。


 しかし、ミミがそうだからもしやと思ったけど、やっぱ弟でもウサミミなのね?しかも美少年。ショタ美少年のウサミミとかどこの層狙ってンの?あざといわ~。


《シルフィン:種族の外見にケチ付けるのは止めなさい》


 まあね~。


「あっ、そうだ。弟君もフロストと同じ所で良いなら引き取るよ」


「本当に!ですか?ハクア・・・様?」


「本人が望むならね?」


「良かった。良かったねトト」


「あの、おねえちゃん、僕・・・リザと一緒に居たい」


 そう言って、今までお互いに抱き締め合っていたトトが、ミミから離れリザの後ろに行く。


「・・・えっ?」


 あっ!ヤバイ。


「ミミ」


「な、何?ハクア・・サマ?」


「え~と、私もククスから聞いただけだからよく知らないんだが、あの二人はそういう仲らしい」


 うわ~。目が死んだ魚になってる。


「と、取り合えずここを出てすぐの所に客間があるから、そこでゆっくりと三人で話して来て、くれぐれも暴力行為は無しの方向でよろしく」


「・・・・・ハイ。・・・ワカリマシタ」


 その場の全員が出て行く姿を見送るが、後ろ姿は完全に幽鬼の様だった。


「良し。次行こう。ミルリルはちゃんと私が係わったし!」


「そ、そうですね。うわ~。ご主人様の活躍楽しみです」


「ご、ゴブ♪」


「無理があるじゃろ?」


 ですよね!?


「ま、まあ良いや。実はミルリルの事は、かなり前に助け出してたんだ」


「えっ?そ、そうなのミルリル?」


「ごめんなさい。本当なら直ぐにでもエルザに言いたかったんだけど」


「ごめん。私が止めてた。それで今までは!カーラ、彼女の所に身を隠して貰ってたんだ」


「何故今まで黙って?」


「コルクルに気が付かれたら困るから。私の調べでも、奴は無能の癖に危機管理だけは徹底してたから。万が一にもエルザの一番の動機が無くなって、そこからバレるのは防ぎたかった」


「確かに、ミルリルが無事だと分かれば、私もいつも通りとはいかずじっとなんかしていられなかったかも知れませんね」


「そう言う事。で、ミルリルを助けたのは、エルザと初めて話した四日後くらい何だよ」


「そんなに早く?!」


「うん。私は打ち合わせの後、直ぐにカーラにミルリル達の事を探して貰ったんだ。で、ミルリルの父親はその日の内に見付かって、カーラに手を回して貰ったんだけど、問題はミルリルの方だったんだ」


「問題ですか?」


「うん。ミルリルには買い手が付いててどうしても手が出せなかったんだ。しかも、その相手がまともな人間ならまだしも、あのハーベルマン伯爵だったんだよね」


「・・・・・ミルリル大丈夫なの?!」


「大丈夫だよエルザ。危ない所でハクア様に助けて貰ったから」


 そう、あの時後少しでも遅かったら、ミルリルはあのジジイに押し倒されていた。


 あの日、ミルリルの事が見付かったとカーラから連絡を受け、私はカーラの屋敷に向かった。そこで聞かされたのが本人が見付かったが、買い手が付いて流石のカーラでも、手が出せないと言う事だった。因みにハーベルマン伯爵に付いて聞いたのはこの時だ。


 その話しに私は「何とか出来ないか?」と、カーラに相談したが返答は芳しく無かった。何故ならその行いは非道では在る物の違法では無かったからだ。


 確かに通常奴隷ならば、何人もの人間を壊せば流石に罰せられる。しかし、性奴隷や戦闘奴隷、永続奴隷と呼ばれる者は、過去に償いきれないような大罪を犯したか、敗戦国の王族、それに与した者、またはミルリルの様に莫大な借金を背負った者がなる。その為、そもそも人権自体が無く所有物として扱われる。だからこそ、コルクルやハーベルマンは、こういった者を選んで買っていた。


 それを聞いた私は、ミルリルがハーベルマンの元へ出荷されるまでになるべく多くの情報を集めた。


「じゃあ、あの男の不正の証拠が欲しいと言ってきたのは・・・・」


「そう、ハーベルマンとコルクルの不正を見付ける為だったんだよね。まあ、その時は役にたたなかったけど」


 そして情報をかき集めてる最中、ハーベルマンが待ちきれずに予定より早くミルリルが出荷されたと知り、私は慌ててハーベルマンの屋敷に潜入した。予め屋敷の見取り図を用意してあったので、潜入自体は楽に出来た。そこから私は何とか誰にも見付からずに寝室まで行って、そこで見たのがベットに押し倒されて、ハーベルマンに馬乗りに覆い被さられるミルリルの姿だった。


 そこから先はまあ、あれだよね。簡単に言うと、ボコる、ボコる、脅迫、その後に石化だった。今頃は私が渡したコルクルとの不正の証拠を携え、ギルドの人間が石化を治すアイテムを持って、ハーベルマンの事を捕まえてる最中だろう。前から思ってたけど、石化って実際あるとコールドスリープみたいだよね?


《シルフィン:まあ、似てなくも無いですね。コールドスリープと違い一年で崩れますが》


 マジか!?


「いきなり現れた人が、突然あんな事してびっくりしちゃいましたけど・・・・」


「・・・・何したのハクア?」


「聞きたい♪」


 取り合えず思いっきり笑顔で聞いてみると、何故か全員の顔がひきつり、顔を青くして首を振る。


 (エレオノー!やぶ蛇にも程があるのじゃ!)


(ご、ごめん!)


 ふむ、小声で叫ぶとか器用な事を。


「まあ、兎に角そこで何とか助け出して、父親と同じくカーラに匿って貰って、父親は今後私に借金を返しながらカーラとやる予定の新事業を、ミルリルはミミやエルザと一緒にここでメイドの仕事をする予定だよ」 


「ミルリルも一緒に?」


「うん。ハクア様に今回の事は全部聞いた。でもそれはエルザのせいじゃ無いから、これからは何にも気にせずハクア様の所で一緒に頑張ろ?」


「うん・・・・うん!」


 ミルリルの言葉を聞いて泣きながら頷くエルザ。そしてミルリルはそのエルザを優しく抱き締める。


 うん。美少女が抱き合う姿は良い光景だな!


 エルザが泣き止む頃、ミミ達も話し合いを終え帰ってくる。


「え~と。どうなった」


「・・・・弟はリザさんと暮らすそうです。ええと、ミミです。改めてよろしくお願いします」


「うんわかった。ミミにも紹介しとく、一緒にメイドの仕事をするエルザとミルリルね。それと弟君はリザと一緒に、カーラの仕事を手伝ってもらう予定だから」


「そう・・・ですか。ハクア・・・様、弟の事お願いします」


「了解。何時でも好きな時に会いに行けば良いよ」


「はい」


 くっ!長かった!昨日ダンジョン行って、街に着いたら誘拐、朝方目覚めて、そこからはここまで強行軍、やっと、やっと本命に辿り着ける!!


 こうして私は長い騒動を終え、やっと本命の牛肉料理に辿り着くのだった。



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