RIP!
破 葦鶴は緋色を知り、熒惑を見る。
────いつの間に……。
現在時刻は午後8時17分。普段のランカであれば入浴しているであろう時間だった。
いつの間に、と言うのは、前を歩くパトリシアが後ろに続くランカと武麟に、気づけばアルミ盆の上に皿、それにクッキーをのせて振舞っていたということに対しての素直な感想だ。
ご丁寧にロイヤルミルクティーまで用意している。
「驚きの甘さだな。メサイアが人類に向ける慈愛ってくらいに、甘い」
「……失敗しちゃったか?」
「いやこれはこれでアリさ」
「うん、ビターテイストのクッキーにあうし、実際これ単品でも大いにアリだと思うよ」
ランカは甘党であるためか、実のところこのロイヤルミルクティーが甘すぎるとは微塵も思わなかった。
しかし、
────しかしパッティーって、たまにだけれど自分に厳しいな……。
時たまストイックさを、それも強烈なものが見られる。
だからこその『変人可愛い』なのだが。
また幼少の頃ランカが見たパトリシア像に、「どうしてそこで間違えるのか」という謎めいている点がある。
────例えば、そうだな。
そう考えていると、どこからか視線を感じた。
隣に並んで歩くランカへ目を向ける武麟からのものではない。かと言ってパトリシアからの視線ではない。他の誰かという訳でもないはずなのだが、どうしても他の誰かからの視線に思えてならなかった。
「……? あっ、ど、どうしたの?」
「…………」
「あーね」
ポンと手を叩いて、納得のいったような声を出したパトリシアは、そのまま淡々と喋る。
「『ランカ、初めての雲下大陸解放戦が濃煙濃霧というのはなかなかに辛いよな』『それにあたし達の強み弱みを知らないで指揮とか、ほら、アレだし。ランカにはまず調整室から戦い方を見てもらおうと思ったけど、抑コレ何も見えねぇじゃねぇか』『てかさ、今もしかして調整室閉め切ってる感じか? こう、世界から完全に隔離、的な……』『今思ったんだが、霧の中の指揮とかどんなに強い人、ベテランでも難しいわボケ。ましてやランカは……あー、こういう言い方は避けたいところだったが、端的に言って素人なんだぞ。こんな試験出すVENDETTAの作問委員会はホント斃されて良し』『そう言えばあたし達、武器持ってないよな。いやまあ、使う機会なぞ年に数度と無いんだが』『後ろに何か、間違いなく何かがいる』『パトリシアに抱かれたい』……を同時に言おうとしたんだネ!」
「冷静に解析すんなっ! 護衛任務みたいなものだな、畜生! エイブラムスみてぇに普段から武器を、せめて閃光弾ぐらいは持っときゃよかったな!!」
「何してるんですか、逃げましょうよ! あと最後の言葉は否定しないんだ!?」
そうツッコミの言葉を言い終える前に。
「────パト」
「りょーかい」
短く、会話にもならない簡単な意思疎通。
するとパトリシアは、アルミ製の盆を濡れた雑巾を絞るようにして二度三度と捻じり、そして。
「……穿てッ!」
びゅう、と風が吹く。視界の大部分を支配する煙霧に穴があき、ずれた。それと同時に、足から震動を感じた。
ぞぶり、とモノに突き刺さる音。何かが噴き出す音。加えて裂帛。
────悲鳴って……えっ?
この演習場の壁と床は、金属製である。
それならば、何故そのような音が鳴るのか。
────それは……。
そこまで考えて、掠れた声漏らして慌てるランカ。
対して構えるはパトリシアと武麟。
パトリシアはだらんと右手を伸ばし、左腕を肘から折りたたんで手を胸の前に置いている。右足は前に出していて、これから駆けるような前傾姿勢だ。
武麟の方は対称的に、背筋を伸ばし、正面に対して体を斜めに向けながらも、真っ直ぐ見据えている。対応の高速化のため、両手ともに身体の近くに置いている。
重い音が聞こえてきた。
身体の内で反響する、それはまさに大砲の轟音。
軽い音も聞こえていた。
ねっとりと、水ではない何かが垂れる不快な音。
「あれは……。どういうことだ!?」
武麟が驚き、
「シミュレーションの、贋物ではないな」
パトリシアがそれを肯定する。
────まさか、ウソ……でしょ?
死のように冷たい、獣が肉を叩きつける音ともに、それが近付いてきた。
一般生として受けるシミュレーションに、こんな威圧感はなかった。
「これが、ヴァンキッシャー……ッ!?」
巨影。
霧の中を、仰ぎ見上げても先が見えない何かが現れた。
細長い脚。
黄色に輝く、爛々とした目。
金属の床板を溶かす気体を噴き出す『何か』。
足が竦む。
視界が白と黒の二元的な世界へと変化する。
手足二十指が内へと丸まる。背中を折り、腕が自然と身体を抱く。耳が正確に歯が鳴らす音を拾う。人工煙霧の細かな粒子ひとつひとつがナイフのように膚に突き立つ。全身を汗が這う。髪と服が共に膚に張り付く。言語を発することもできず、唇はただ歪むのみ。今にも零れ落ちんとばかりに飛び出しそうな目には涙を浮かべ、ついには視界が酷く歪む。顫動が、それはまるで凄惨な戦争のように、身体の隅々を蹂躙して駆け巡る。
まるで、嗚呼、井戸の底に突き落とされたようだ。冷たい水に浸かり、虫這う石積みの果てに見る暗夜に輝く上弦の月のように、半端な希望に照らされた黒洞洞たる絶望を思う。
怖い。
あの目が、鼻が、口が。
怖い。
あの手が、胴が、脚が、巨躯が。
助けて。
────助けて、助けて……!
「…………」
聞こえてきた音の連続。それは室温よりも遥かに低い。
見れば、吐かれた言葉の所有者はパトリシアだ。
「指揮者たる貴女の焦燥は隣の彼、乃至は彼女から生命を取り上げてしまうことになります。貴方がするべきことは一体何か。考えたのならきっと解を得られるでしょう」
「────ッ!!」
己は何を勘違いしていた。
────違うじゃないか。
冷たくなんかない。むしろ言葉からしてあたたかい母のような……。
鶴院ランカに、父母はいない。
所謂捨て子であったが、幼少の時分よりパトリシア・ガルベス・デ・ガンテの建てた孤児院で育ったのだ。
拾われる以前の記憶は微塵もない。
だからこそ、パトリシアに母の影を見るのだろう。
いつだったか、ある本にはこうあった。
詳しくは覚えていないが、その大意をまとめると、「死ねば恩は返せない。後悔すら残らず寂しく消え果てる。だから返せるうちに返せ」というものだ。
当然だと思う。
もし死なば、何もかもがそこまで。
積み重ねたものもゴミと化し、情念も何もあったものではないのだから。
────恩を返す時、それが今なんだ……!
一回、二度、三遍の深呼吸。
鼻の奥、肺、腹部。全身の毛穴の奥までもが冷え込み、しかし心臓は熱を持つ鉄を打つが如く。脳はいつか蒸発するのではと錯覚するまでに熱く。まるで興奮は冷めず、弦楽器を掻き鳴らして叫ぶような快楽すらある。
────指先が、震えている。
相手が自慢の視力を持ってしても煙霧でよく見えず、それ故に怖いというのもあるのかもしれない。
鳥肌が立つ。
だが肌を刺す冷気が立毛筋を狂わせているという訳ではないのだろう。
果たして、この喉の渇きに吊り上がった口角には、くだらないと一笑に付すものを持っているのだろうか。
「解を見つけたようですね」
女神のように美しき笑みを頬に湛え、
「……では落ち着いてタクトを振るが良い、我が指揮者よッ!」
次いで、正気の外にあるような呵呵と頤を解くパトリシア。
ほうと、ランカは肺を空にするほど息を吐き、そうして。
「……パッティー、武麟。まずは逃走から、逃げるところから始めようと思います。そして逃げながら聞くことがあります!」
「ッ! 了解! あたしが答える! だから、パト!」
「相分かった」
そう言うとランカの背後に現れたパトリシアは抱きかかえ、それと同時に二度右ステップをした。
「ひゃんっ!? あ、あれのタイプはっ? 見えてからで良……」
問うた瞬間、元居た場所に激音が響き、暴風が場内を駆け巡って人工の霧代わりの煙を殺した。
青ざめた女性がいた。
目元に巻かれた包帯。その両眼にあたる箇所は赤色の液が染み出ている。両腕は共に途中で切り落とされているのだろうか、金の装飾品で蓋をするようにしてその断面を隠されている。胸の谷間に輝く単眼。妊婦のように膨らんだ腹部から下の部分は蜘蛛となっている。人間的な体の下腹部、言い換えれば蜘蛛の頭に該当する部分には口があり、そこから煙を漏らす筒が見えた。背中には赤と黄と白の光輪三つが広げられている。巨大な円に小さな円が複数付いている謂わば数珠状の、そんな光輪だ。また蜘蛛でいう腹部に当たる箇所には光り輝くロケットランチャーのようなものが装備されている。
────あれが、ヴァンキッシャー……。
放たれた暴力的なエネルギーは膨れ上がり、一瞬の後、それは許容量を超えた風船が破裂するようにして微細な金属片を撒き散らす。
その時にやっとランカは、シミュレーションそれではない、真のヴァンキッシャーを知ったのだ。
脳内に鈍重な響きが打ち鳴らされる。肉をぐちゃぐちゃに掻き混ぜてしまうような、そんな轟音。それと共に裂帛のように鋭い悲鳴じみた音が、鼓膜を無慈悲に喰らいにやってくる。
ただ、怖かった。
先程奮った勇気が嘘のように萎れていく。
ランカは自分が情けなく思えて仕方が無かった。先程頑張ると決めたのに、もうこのザマだ。
緩和、或いは精神の平穏のためだろうか。真珠のような涙を流すランカはパトリシアの背に腕を回し、そこで手の平に滑りを覚えた。
「何、コレ……。…………ッ! 何……なのっ!?」
手の平に広がる赤色を見て、嗅いで、舐めて。そうしてついにまさかと思う。
手の平の朱とは、紅土色の液体。
手の平の朱とは、自身を害悪から掩蔽して身を守った女の背中から流れ出たもの。
つまり、右手だけで自分を抱き上げている彼女パトリシアが、その広いとは言えない背中から流している夥しい量の血のことである。
思考が止まった。
呼吸が止まった。
顫動も、動的静的感情さえも止まった。
この時、間違いなくランカは死んでいた。
何も感じず動けず、全く何も思えなかったのだから、この瞬間のランカは死者と同じだ。酸素の取り入れ方すら忘却し、唇の閉じ方までも不理解の状況におちいっていたのだから。
血液が歌い刻む軍歌は止んだ。視界の端には大口を開けて嗤う敵の影すら見えた。
どうして、
「どうして貴女は、パトリシアは! ……どうして他人のためにここまで体をっ! ボロボロに、どうしてボロボロにできるの……?」
言い終わる。
それと同時のことだった。
血染めの舌で唇をなぞるパトリシア・ガルベス・デ・ガンテは、自身の折れて飛び出た肋骨を投擲。ヴァンキッシャーの脚を貫き固定した。
「────、────」
振り向いた彼女は、彼女は一体何と言ったのだろう。
その言は耳を聾する金属音と怪物の声のデュエット、加えて乾燥で罅割れた頬に突き刺さる不快な余響の波に妨害されてしまった。
だが。
だが、ついに火は業火すら灼くに至った。身を縮ませて丸くなるランカの弱まったはずの火は、もはやマグマですら生ぬるい。
掛けられた言葉。それは新聞紙や薪、ガソリン或いはケロシンなぞ、遠く及ばない。
そう思えてならない、とんでもない何かだった。
「ランカ! 奴は憑依型かそれに近い存在!」
武麟が叫んだ。パトリシアに劣らず、末端まで冷えて固まった肉を火照らせるような強い叫びだ。すかさずランカは問う。
「何に憑依していますかっ?」
「一先ず! さっきの一撃から高火力砲搭載戦車、容姿からは自走ロケット砲と判断……うォ!?」
「どうしたんですか!?」
武麟が指さす先。そこは多連装ロケットランチャーの下だ。
「な────!?」
沼から這い出るように、膨らんだ人体の腹部と蜘蛛の腹部を裂いて現れるソイツら。
頭、肩、腹、膝。
その部位に黄色の目が光る人型で、突撃銃らしきものを持つ何か。
ハエトリグサのような頭のモノ。
卵のようにツルンとした頭のモノ。
さらには角のと大きさの比が一対一ほどの頭のモノ。
数にして三十を超えるそれらが、こちらへ銃口を向ける。
そして、パァンと放った。
「……アイツの腹から……武装したヴァンキッシャーが出てるだとッ!? 見聞きしたことねぇよああもうっ! 『強力な主砲を持ち、かつロケランをブッパできる超重戦車級歩兵戦闘車』ってことか畜生!!」
「…………ふむ」
喉奥から漏れたように低い声を出したのは、放たれる連続射撃を避け、時折足指で弾の軌道を逸らすパトリシア。並走する武麟は剥がれた、或いは剥がした床板を盾にしながら移動を続ける。
────一切攻撃しないのは、きっと自分の指示を待っているからだろう……。
そう察したランカは抱えられながら脳をフル回転させていると、気付いたときには円形演習場の入口の真反対に辿り着いていたらしい。
さて鶴院ランカは、どうする?
問うたのはパトリシア。答えを出し切れていないランカは、しかし一先ずはと答える。
「蜘蛛の方を『マザー』と、それ以外は『チルドレン』と呼びます! まずチルドレン・ヴァンキッシャーの無力化から始めます! 二人とも、カルディアに使用条件はありますか!? 頻繁にオンオフと切り替えできますかっ」
「私は、恐らくこの国家で最も治癒が上手だ。同時に、金銀銅を生み出して国を富ませるのは得意だが」
パトリシアは、即答。答えを聞いて、ランカは自身の焦りに気付く。
実は、皇帝・艦長には情報開示の義務がある。そのため、秘匿されていた情報であるカルディアだが、『それとなしに開示していたな、そういえば』と思い出せる程度には記憶にあった。
左口角を下げて顔を歪ませ、そして赤くするランカ。
恥ずかしがっているところに、そんなものは知らんとばかりに武麟は言った。
「自己という隣人で、簡単には発動できないようにロックしてるからよ……っと! ロック解除に三十秒ちょっと、四十秒近くはかかるっ。しかも、祷力を多く使う。あとは限界が来たら独りで立てないって程度と、そうだな。メリットは頻繁には切り替えが利かないが殲滅は得意ってことだなッ!」
「よしっ……わかりました! パトリシアはこのまま逃走を。武麟さんは『今だ』と叫んだら発動できるようお願いしますっ!」
「相分かった」
「了解! できるだけ注意をそらしておいてくれ!」
そう言って避難する武麟。ちょうど物陰となっているところに飛び込み、消えた。
「パッティー! あの私、射撃ができますから、だから……!」
パトリシアはただ首肯く。
すると床板を蹴りで剥がして、動けないでいるマザーに代わって働くチルドレンの移動を妨害する。それと同時に、時には前身したり時には後退したり、もしくは右へ左へと蛇行して避け始める。
────蛇行……。スラローム射撃か!
ランカの口は自然と「ああもうきっついなー!」と開きそうになる。
というのも、シミュレーションではあるが一度だけ、バイクに乗りながら対象の急所を狙うという訓練をしたことがある。
結果は失敗。
確かに、たった一度の挑戦で悪態をつくには早すぎるかもしれない。だが成功率は現時点ではゼロである。
昔の自分が遺した成績は変わらず、過去に刻まれた結果は変わらず。
権限を持つパトリシアなのだから、この成績を知っている可能性が高い。それでもやるというのは、実はサディストなんじゃなかろうかとランカは訝しむ。
しかし状況が状況。
オール・オア・ナッシング、やるしかあるまい。
思い、ベルトに提げていた黄の液体入りのボトルを、まずは一本引き抜く。
ソフトマターとさえ言える、そんな粘り気のある液体に満たされた瓶の底には穴がある。液体が漏れないというのは、それ自体の圧により沈められた金属板で穴を塞いでいるからだ。
そしてその底にある穴に人差し指をぐりぐりと挿し込み、体内の祷力を指先一点に集中させる。
ランカの目的は、
────まず、絶対に武麟にチルドレンを接近させず、そうして鎮圧すること……。
フィールド全体に散開してあらゆる角度から支配権、もといランカ達の殲滅により勝鬨をあげようとしているチルドレンを無力化する。
その際、できる限りは倒したいところなのだが、基本は武麟による行動不能のチルドレンを剿滅することを目的とする。
その後は三人でマザーに挑む。
自身の負担が小さいと良心が呵責する。
だが、何度もヴァンキッシャー討滅の経験があるであろう二人に賭けることこそ正しい判断と思い、この考えに至ったのだった。
────それでも、やはり。
やはりチルドレンの無力化の際、敵を減らすことができるのなら、言い換えると、敵を撃破できれば良いことだと思うランカ。
それなりの出来と言えるだろうと。『上々の出来』だとか『最高にイイ』と言えないのは、この戦闘に勝利できるかわからないからだ。
だが二人を疑っているわけではない。
────それでも、この世には滅多に『絶対』なんてものは存在しない。
心の中で呟き、目が眩むような理想を求る弱い自分を御する。
故に。
故に敵を減らしたい。
だがランカの体内貯蔵可能祷力量は多いとは言えない。よくて並程度だ。
だからコストパフォーマンスを考慮しながら、しかし一撃の強力化を諦めず。
「尋常式より加速式第二十位階! 同じく尋常式より物理強化化式第二十位階! 超、多重展開ッ!!」
古代文字が刻まれた赤と白の魔法円。
ポッ、ポッ、ポッと、ランカの右手人差し指の先に現れた。二つの魔法円は、稲妻走る一際大きな黄色の魔法円により跨がられる--多重展開により数を増やし、ついには薄桃色に煌めく柱のように連なった。
指先を輝かせるそれ。
叫びの通り、ランカは強化系の術式を発動したのだ。
それらはランカの使用可能限界である第百位階ではなく第二十位階なのだが、今では重複発動により性能は優に第百位階を上回っている。
量による最終的な質の向上。それはランカの得意分野だ。
見る人が見れば激高しているようにも思えるランカの鋭い目を見て、意図を理解したのであろう。パトリシアは、ただ首肯くのみだった。
「いくよ……!」
応、と言うや否やパトリシアは身体を捻り、ランカは鞭打つようにパトリシアの背面へ外旋させた腕を折り曲げる。
両者は恐ろしいまでに思考が一致していた。
今の二人はまさに一心同体である。それも、文字が意味する通りに。
攻撃において、より強くしよう、威力の底上げをしようと思考すると、そこにはやはり速度が必要となってくるという答えに行き着く。避けては通れない存在であるのだから。
では、こう問われたとしよう。『祷術を用いずに、換言すると肉体のみで速度を高めるには?』と。
すると『手段は当然ある』と答えられるはずだ。
今回行うのはその内で最もシンプルな方法。鞭打つように麻痺薬を装備した右手を振るうことだけだ。
さらにさらにとパトリシアは加えて思考する。
強い土台は力の伝導効率を大幅に上げる。
そのエネルギー伝達は、現在ランカの足に徹するパトリシアの役目だ。
今から行うのは所謂スラローム射撃というもの。スラロームとはつまり蛇行。曲がりくねりながらの移動をしながらの射撃である。
現状、それはまさに寒天の上を走るように不安定な状況。つまり、ランカのもとへと伝えたいエネルギーを、しかし不安定な足場で走るために使わねばならないということを示す。
だがそれでも、なんとかして『発生したエネルギーをランカへと送って力を供給』したいのだ。
一瞬よりも短い時間で思考したここまでは、ランカもパトリシアも一致していたのだ。
だがランカが呀然とするのは、ここからだった。
ランカの思考では「敵を自らが有利とする環境へ動かす」。
対するパトリシアの思考では「敵を動かすつもりはさらさらない。だから、今、余自らが此所この空中を支配する」というものだった。
「限定解放……日本式より、神足・第五十位階」
詠唱し、術式を足裏に展開する。
この術式は、単に、移動速度を異次元のモノへと高めるだけだ。
ランカは、驚いていた。
限りなく瞬間移動に近づいたこの術式を使用可能な者が存在するとは知らなかった。思いもしなかった。六世紀前に滅んだはずの術式だからである。
「限定解放……ペルシア式より、支配・第五十五位階ッ……!」
一瞬より少し長い時間、思考が止まっていたランカ。そのランカをよそに、パトリシアは祷力を足裏から流す。
これは、任意の空間そのものを〝支配〟し強固な土台とするというものだ。
これにより故に足の人差し指、或いは拇指球で弾丸に乗って走るというという行為が、根を伸ばした大樹のように、もしくはそれよりもはるかに安定したものとなる。
尤も、弾丸の奔流を見て、「よし、なら弾の上に乗って走ろう」などと発想し実際に行うという行為は、元々狂的なバランス感覚があり、尚且つそんな曲芸のようなものを人生を捧げて極めて一種の戦闘技術へと鍛え上げた、馬鹿げた時間の浪費者でないとできない異常な技術なのだが。
────同一射線上に三体重なっ……いや四体重なった! 今だッ!
ぐりん。
パトリシアが上体を反らして飛び交う弾丸を避ける。それと同時に、ヘッドバンキングの要領でランカをぶん回した。
届け、と叫ばれて走る神経毒。それは砲丸が放たれるが如く--、一閃。
「痺れてッ……〝弾丸よ、自由を奪え〟!」
黄の光。さながら稲妻が疾走したよう。
艦砲射撃のように重たくて厚い音を引き連れたその雷光が止んだ後。
残ったのは、チルドレンだったもの四つ。内三つポッカリと額に大きな風穴を開けられていた。最後尾にいた雑兵も痙攣し、血色の泡を吹いて倒れていた。もはや動くことは不可能であろう。
「次弾装填……完了、発射!」
再度。
鞭打つように振り回されたランカの指先より放たれる。次の瞬間にできあがったのは、息絶える蝉のように仰向けに僵れるチルドレン三体。
「次弾装填完了!」
そしてまた三体と朱を垂れ流すオブジェが生まれる。
────四体、四体、三体、四体ッ。
数は順調に減っていくが、
「次っ……。そろそろ麻痺・神経毒瓶が尽きそう! なので尽きたら接地炸裂の液状化爆薬に切り替える!」
「心得た」
ランカは数える。残り十体で、この少量。
ランカは考える。液状化爆薬は威力範囲ともに強力だが一回きりであり、その強力さ故に使用可能か否か状況に左右される。
チルドレンは散開したままで寄ってこない。それどころか寄せようにも寄せられない。無理に行えばマザーの射程、支配範囲に入るだろう。
────マザー……あれは、分類上は何のヴァンキッシャーなんだろ……?
ランカは気になる。
チルドレン剿滅後、調子づいて近寄った時に……。
あの時、天井や床の一部が溶けるのを見た。無理に接近するのは、あまりに危険と判断できる。
故に。
「後、実験的にマザーにも撃ってみる……あの金属を溶かした気体がまだ出るか、知らなきゃ……!」
聞く。
正直な話、このお願いは通らないだろうと……
「……喉元だ」
「……え」
残り麻痺薬が少ない。試したいことがある。
そんなワガママを宣う欠陥だらけの指揮官なのだから、愛想を尽かされただろうかと考えた。
────喉、がどうしたの……?
つい声に出して問うたランカ。
「下顎に開いた穴から気体が出るのを見た」
もしもの時は、私がいる。そう宣言をしたパトリシア。
杞憂。
すべては杞憂に過ぎなかったのだ。
思えば、孤児院にいた頃から自由が利いていた。だからと言ってこれからも甘えられる訳では無いのだが、よく考えればそれぐらいわかったはずなのだ。
「……ありがとう」
そう呟き、続いて「撃ちます!」と意思を表明した。
届けと、巫女が神に希うように呟く。
届けと、冷徹な権力者の如く命じる。
届けと、肉を引き摺る阿防羅刹のように叫ぶ。
「……ッ!?」
喉元向かって飛来した麻痺弾は、虚空に消えた。はじめから何も存在していなかったように。
「ああ--、異空間持ちか」
「異空間、持ち?」
そうとも、と応ずるパトリシア。
「……異界に接続した者のことだ。異界とは、謂わば所有者だけが使える宇宙空間みたいなもので、モノの出し入れが自由に利く」
尤も、マザー自身は気づいていないらしいがな。
そのパトリシアの言は、ランカに届いていなかった。
────馬鹿げている。
言葉からして、持ち運べる積載量無限の、ロールプレイングゲームでプレイヤーが使うポーチやアイテムボックスのようなものだと察せられる。
なら、どうすれば……?
金魚のように口を開いたり閉じたり、繰り返しながら効果時間が切れた各術式を重ね掛けしていると、ひとつアイディアが浮かんできた。
────異空間に関しては、もう諦めておこう。
対処のしようがないのだから。
ふと、打開策には及ばない、ただの思いつきが浮かんだ。敵を倒すための、ほんの思いつきだ。
それでもそれに賭けるしかなく、だがそれを行うにはまだまだ情報が足りない。
ならば不足分は聞いて知り、そうやって補おうと考え、ランカは問う。
「パトリシア。ここの壁床は『どこまで耐えられる』の……っ?」
「余が爪を立てれば穴が開き、或いはそこなマザー級の火砲まで……成程、つまり避難中の武麟を金属板で造る即席シェルターで守れるかと問うたわけか……いや、造らねばならないということか」
「さすがの理解力だねっ……と!」
言いながら撃ち抜くランカ。
理解と同時に行動に移すパトリシアは、まずはと呟き、
「目に頼れ。然らば汝らは踠き、苦しみ喚くことであろう」
金属板を蹴り砕いた。
それも、爪先で剥がして跳ね上げた板を、影から察するにたった一撃の蹴りで壊し尽くしたらしい。
砂ほどの大きさにまで粉砕したそれを、キックの風圧を用いて敵視界を略奪した。
「皇帝自らのサービスだ。血税大返却祭であるぞ、喜び咽び泣け」
『ガッ……ぐぐ、る、ぐうぐッ!?』
からからと、しかし目は笑わず。
血肉糞尿を垂れ流すチルドレンの亡骸をも投げ、文字通り鉄血の霧が作り上げられていたのだった。
「ヴァンキッシャーの視界が眩んだ! 今の内に!」
そう言うと、パトリシアが床に手の平を付けなぞる。するとそれに従って、金属板が剥がれていく。片膝を突き、左胸に手を当てて詠唱する武麟と自己という隣人アルター・エゴだろう赤毛の犬。必死故に、見る見るうちに彼女達の周りに鉄板は重ねられていった。
「強化します。……硬化式第三十位階、耐熱式第百位階!」
「付き合おう。……グランディ・フェリシジマ・エスペランサ。位階は六十……」
グランディ・フェリシジマ・エスペランサ/Grande y Felicísima Esperanza
祝福は至高にして偉大なり、希望はそれを浴びて
かつて雲上大陸が雲の下にあったころ、現在のスペイン=ポルトガル共同統治王国と、カタルーニャ自由国の前身にあたる、スペイン王国にて発明された術式だ。
基本的に術式とは複雑であり、容易に強さ弱さ便利性などを物差しで計ることはできない。
だが、一般には上位のものから格付けがされている。
この術式はその最高位である『至皇』級のものだ。
そんな伝説の術式を横で行っているとはつゆも知らず、ランカはただ必死で強化系の術式を掛けていく。
武麟達を覆い尽くしたそれらは硬く、また熱に強くなり、加えて幸運を呼び不運を蹴散らし、この世のものでは傷一つと付けられない半永久的な不滅が約束された。
そうして各種強化が施され、うっすらと虹色に輝いているドームができあがる。
くくと鼻を鳴らしたパトリシア。
「愚かな……いや、あるいは、鳴いてばかりの狗でしかないのか……」
見開いた目には、彼女の自己という隣人の一柱である双頭蛇が走り行く様が映っていた。
蛇はシュルルルと、手前で銃を構えていたチルドレンの一体目掛けて飛びかかった。
ぶちりと、目蓋を噛み破る。そのまま両眼窩に頭から突っ込む。眼球を脳まで押し込み、そしてぐじゅぐじゅと掻き混ぜる。互い違いに両眼窩を貫通する。鼻骨を砕きつつ次の標的に飛び移る。
わずか二秒にも満たぬ高度な殺害技術である。
そうして開きつつある煙霧の中、血飛沫で視界を再征服していく。
パトリシアは情報を共有しているため、何が起こっているかよくわかっている。
一方で赤黒い煙がより赤くなる様子を見るだけのランカには、なんとなくの推測を立てるのが精一杯だった。
想像すると苦味と酸味を一気に感じてしまいそうなので止めにした。
「じゃあ私からはコレ、せやぁっ!」
ランカは、ここで残りの麻痺薬を投げて使い切った。
ただでさえ臭くて痛い煙霧に弱い痺れを伴うものを追加されてしまったのだ。相手側としてはたまったものじゃあないな。
言い、呵呵と笑ったパトリシアは、背後に双頭蛇が戻ってきたのを確認すると、「今だ。遠慮も容赦もなく砕け」と。
それに対してランカは、「はい」と応える。返答を聞いたパトリシアは上へ上へ上空へと走る。そして、1秒とかからずに、床から計測しておよそ60メートル地点。そこにある冷えた金属の天井に、パトリシアは背中を密着させる。
「装填……〝ヘルメスの狂喜〟。発動術式は尋常式より……拡張式、加速式、強化式、燃焼式、放散式……」
ランカは、右手手の平をガバッと大きく開き、そしてその手首を、左手で握りしめる。
右手の人差し指には閃光爆弾、中指にはちょうど今宣告するように呟いたヘルメスの狂喜。そう書かれているラベルが貼られた液状化爆薬の瓶が装備されていた。
全身を流れる祷力の奔流。
皮膚表面には、祷力流通路でもある血管から浮き出ている、黒地に赤という奇妙な、いや、禍々しい光が放たれている。
未だ晴れぬ微細な金属片と血肉の煙霧の中、燦然と輝くその妖しげな光に目を向けながら。
しかし何の感慨もないのだろう、ただ黙して銃弾を贈り続けるチルドレン。
だが、
「……アぁ……あァ、全く以テ不快だ」
アの子だけナんだ。
「私ヲ斃シていイ存在はッ────」
ゴボゴボとしたその声は、水底の怨霊のような。
その声に合わせて、彼ら彼女らはどこから現れたのだろう、半身が霧のようになっている蜈蚣や馬大頭、猪や牛などによってそれらの求愛行動の悉くが食われていった。
それを冷淡に、不遜と同時に怒りを滲ませた顔をして脚を組んで見るはパトリシア。
一方で、ただ残りのチルドレンがいるところを結び、中心地点を探し出し、それよりもマザーに近いところに照準を合わせるはランカ。これまた何も思っていないと言わんばかりの顔つきだった。
総体の赫赫とした赤光と黒耀が、ただ一点に、手の平に収斂されてゆく。
「ぐ、あ、オォォオ……」
苦痛。
噛み締める歯は軋む音を響かせ、しかしその強き心はびくともせず。
忽ちに指と指の間に浮き出ていた血管が太くなり、手の平を闇が多い尽くした。
ぼうっと、左目からは自身の祷力が炎のようになって溢れ出た。
故に、
「ガぁっ……日本式より、心眼ッ!」
心眼。
それは、祷力に対する感覚を研ぎ澄ませ、視覚の使用なしに擬似的な視界を得ることができるという術式だ。先程より鮮明に見えるが、何故だろうか。自身を抱くパトリシアの腕が見えないのだ。
横目で胴部を見るも、見えず。背景の薄桃色と同化して不可視化されていた。
つまり、全く祷力を感じないのだ。
パトリシアは当然ヴァンキッシャーではなく、またアーティフィシャル・インテリジェンスの類でもないはずだと思考する。体温があるのだから、その二つは恐らくないだろう。
ならばだ。
ならば、生命が必要とする祷力が、隅々に行き渡るよう身体中に流れているはずだ。
────それとも特殊なカルディアか、人間でない何かか? ……まあ、どちらでも良いんだけれど。
今更育ての親が人間じゃない程度のこと、何ら問題ではない。
ランカにとって大切なのは、パトリシア・ガルベス・デ・ガンテとの名を持つこの存在が、現在に至るまでの自身の過去を形作り、そして愛情を注いでくれたということなのだ。
そんなことを考えてある程度の答え、別言すると、混乱した思考にケリをつけるための妥協点に行き着く。
それとほぼ同時。
カッと、右手首から指先の瓶まで断続的に淡青色の光る魔法円が現れる。
同時に瓶のコルクが飛ぶ。飛び出た中の液が重力に逆らい浮遊する。右手首に展開された魔法円から古代文字が剥がれていく。それらが一箇所に集まっていく。渦を巻き、瓶の口に集束されてゆく。
液状化爆薬と閃光爆弾、そこに加えられるは神の力--祷力。
それがじじじと音を立てて祷力塊が結晶されていく。パレットに置いたトリコロールが混ぜられ、それらが黒ずんだような色になって。
それは、やがて。
「……良い。実に良い、素敵じゃあないか。鶴院ランカ」
感嘆するパトリシア。
それも当然なのだ。人間ほどの大きさにまで祷力塊を育て上げるなど、一般生どころか所謂エリートでさえも困難なのだ。だがランカは一般生で、しかも端的に言って弱い。
なのにそれを可能としているのは、つまりだ。
埒外の精神力か……。
パトリシアはくつくつと、だが心の底から嬉しそうに笑う。
その嬌笑は、ランカには届いていないのだろう。
いるのは黙する女だ。
その女--ランカは、骨を軋ませ肉ごと砕いてでもいるような、そのような気持ちの悪い音を響かせながもら、巨大祷力塊をぐっと球状に圧縮する。
そうしてついに。
「〝ヘルメスよ、その狂喜を……謳え────ッ〟!!」
ゴルフボール大の赤黒い球は、青き光の軍勢を従えて駆け抜ける。
カンッ……。
そうして床に接吻した瞬間。
「────アア、全ク良イモノダ……」
世界は、色を喪失した。
◇
半球状の黒と赤、共にあるのは青の稲光。それらにより演習場が凄まじい熱を孕んでいたときのこと。
「黒峯さんは、どっちを買ったらパトリシアが喜ぶと思う?」
エイブラムス・ヴァーンは、両手に菓子パンを持って小春に問うていた。
片足立ちをして、また別の方の足の膝を曲げて片足で立つという、バレエのアティチュードをしながらだ。
対して小春は、戦車の形を模した乗用玩具に乗っていた。
詳細に記せば、ハッチの上に小春が乗り、砲身の先に買い物カゴを提げているという奇天烈な絵面だった。
「にゅ? ……あいつは生イーストとかの方が良いんじゃないのか?」
キテレツなぞ知らんなと、そんな振る舞いで質問に答える小春。それに続けて、ほれ、と言いモニターからSNS──Social Networking Service──アプリ〝BIG UP, the world〟を起動してエイブラムスに見せた。
「えーと、パトリシアの投稿……アレ? これって女帝パトリシア・ガルベス・デ・ガンテとしての公式アカウントの方じゃない!?」
「そう、あ、いや京不知夜民だけに公開してる方……じゃない……。本当に皇帝としてのアカウントだな……」
小春を見つめるエイブラムス。首肯く小春。モニターを見つめ、再度小春に目をやるエイブラムス。口元を押さえて俯く小春。
「『あー。イースト菌あああああああああああああんぷぉっ』」
「ぐっ……ん、ぶふぅぉっ! 裏声で読み上げるなあっはっははは!」
全世界に、謎めいた内容を投稿していたパトリシア。それを小春は真に迫る演技力で読み上げた。集中線すら見える勢いだ。
ゲラゲラと頤を解いているふたりを、見ちゃいけませんと、下級生の目に手を添えて避ける群衆は、この際見えないことにしよう。
「と……んふっ……んっんん! とにかくありがとう! 参考になったわ! んひっ、んひっははははゲホッごほんふひっ」
どういたしまして、と小春も笑いながら言いかけるも、しかしその言葉は絶たれた。
震動だった。
「この揺れ……これで何度目よ。さっきよりは弱いけど、これって地下からかしら?」
「演習にしては、おかしいな……」
「ランカちゃんは知らないけど、あの二人が本気を出すのは地上限定だしね」
「雲上大陸ですら耐久不可能なんだ……ましてや艦ではな……さっさとイースト菌買って戻ろう。そこのドライイーストで良いだろう……というか嫌な予感がする……」
そうね、と顎に手を当てて返すエイブラムス。
少しばかり黙りこんで、もう一度目を合わせる二人。
「黒峯さんは演習場! エイブラムスちゃんは艦内放送で混乱を食い止めるわ!」
「任されたし、任したぞ……!」
そのまま反対方向へと駆け出す。
その数秒後。
『真逆だっ!?』
解散場所にまた集まり、お互いの横を通って走り出した。
PostScriptum
言語。
これは人類史上最高の発明と、屡々言われる。
現在、古代語は大きく分けてある。
第一期古代語は、アドア王オルテンシアが普段使っていた言語を、通称〝ペルシア語〟という。
オルテンシアは知っての通り、神に祭り上げられた至高の王。ペルシア語は樹上世界イギリス帝国領イランでも使われているが、オルテンシアが使っていたペルシア語と違うらしい。らしいというのも、オルテンシアがペルシア語で話していたという記録は、アドアの枢機卿ヒュエーネの手記にのみ確認されていることで、また枢機卿のその手記にメモ程度に書かれていた当時のペルシア語の語彙と現在のペルシア語の語彙が少しく異なっていたのだ。
第二期古代語は、アドア王グリデモン・ウォースパイトが普段使っていた言語を、通称〝イギリス語〟という。
グリデモン・ウォースパイトは化学の王。政に関してだが、確かに統治能力はあったし、また自然環境の保全にも卓越した才を見せた。しかしこの女王は引きこもりがちだったのだ、化学の研究で。といってもその研究成果で救われた人も多いので、評価の際に減点となることは少ない。
そして--、
実は、これ以降に現れる王の詳細な記録は、全く残っていないのだ。まるで何者かに意図的に消されたように、ヒュエーネの編纂したアドア王国史の頁の、その大半が燃やされていたのだ。
第三期古代語は、アドア王カムイ・エル・ディアボロが普段使っていた言語を、通称〝中国語〟という。
第四期古代語は、アドア王カラミティ・チェウ・アウグスティナが普段使っていた言語を、通称〝フランス語〟という。
第五期古代語は、アドア王グラトニー・マギャスが普段使っていた言語を、通称〝アラビア語〟という。
第六期古代語は、アドア王ルクスリア・アウト・テンペランツィアが普段使っていた言語を、通称〝スペイン語〟という。
第七期古代語は、アドア王ナーズィタリーン・ターヴース・イェ・マンが普段使っていた言語を、通称〝ペルシア語〟という。
第八期古代語は、アドア王ミユ・アマギリが普段使っていた言語を、通称〝日本語〟という。
第九期古代語は、アドア王キク・アマギリが普段使っていた言語を、通称〝ロシア語〟という。
第十期古代語は、アドア王シズカ・アマギリが普段使っていた言語を、通称〝ドイツ語〟という。
第十一期古代語は、アドア代理王ヒュエーネが普段使っていた言語を、通称〝ポルトガル語〟という。
現在、ヒュエーネのアドア王国史からわかっているのはこの程度なのだ。
しかも、カムイ・エル・ディアボロは■■■■から人類を守り戦死、カラミティ・チェウ・アウグスティナ以下八柱の支配者も同じく、という程度で。
現在、アドア王国の歴史は、石や粘土板に刻まれたことや、黄金の像などから推測している。また樹上世界各地の神話や遺跡などもその推測の重要な材料とされている。
■■■■とは一体何か────。
【今回の登場人物の好きなゲームのジャンル】
鶴院ランカ……みんなしゅき(特にRPG)
パトリシア・ガルベス・デ・ガンテ……フリーホラーゲーム
安武麟……FPS
エイブラムス・ヴァーン……格ゲー
黒峯小春……実写バカゲー
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