チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

最悪なこと

「どうして、そんな情報が……?」

「テラー、見せられる?」

「はいはーいっと、リアルタイムじゃなくてごめんねー」


 いいながら、テラーさんは何が板のような物を取り出す。あ……なんだっけそれ……えっと……。


「水晶板……でしたっけ?」

「そうそう」

「でも水晶板って、ステータスを見るためのものじゃないんですか?」

「そんなもんじゃないよ」


 テラーさんは水晶板を軽く指でなぞり、魔方陣を描く。それが淡く光ったかと思うと、板の向こうに何かの映像が揺れている。


「水晶板は、見たい現実を映してくれる。ただし、過去、あるいは連続的な反動がないものに限るけどね」


 水晶板の奥には、クラーミルの城が映る。その窓から顔を覗かせているのは、ブリスだった。
 窓の外にはたくさんの国民がいて、その悪魔の声に耳を傾けている。


『国民のみなさん! 落ち着いて聞いてください。我らが国王、ロイン・クラーミル様と、女王、レイナ・クラーミル様は、我々の国に侵入したマルティネス帝国の姫、マルティネス・アリアが所属するパーティーに殺されてしまったのです!』

「そんな、違う!」

「分かってる」


 思わず声を荒らげた僕の肩を掴み、ジュノンさんは椅子に座らせる。……僕らが二人を殺すなんて、そんなの、絶対絶対ありえない。


『恐らく、かの戦争の仕返しとでも言うつもりなのでしょう。私が駆けつけたときにはもう、お二人の命はありませんでした……』


 ……よくこんな嘘を堂々とつけるものだ。ふつふつと沸き上がる怒りをぐっと押さえつけて、次の言葉も聞く。


『しかし! 我々クラーミル国民が、マルティネスごときに屈するわけにはいかない! ロイン様もレイナ様も、戦うことを拒んだからこそ殺された! 今こそ武器を取り、お二人の無念を晴らそうではないですか!』

「あんまりだ!」

「ウタくん」

「そんなことしたって、他の誰かが傷つくだけじゃないか!」

「……ウタくん」

「それなのに、なんでこんな」

「ヤナギハラ・ウタ」


 刺すようなジュノンさんの声に、思わずビクリとしてそちらに目をやる。鋭い目付きで僕を見るジュノンさん。しかし、その口から放たれた言葉は、決して間違っているものではなかった。


「……そもそも、私たちの警告を押しきって二人と行動を共にして、こんな事態を巻き起こしたのは……誰?」

「……それ、は」

「そこんとこ、よく考えて行動してよね」


 ……そもそも、僕が、ジュノンさんの警告を素直に受け入れていれば、少なくとも、クラーミルとマルティネスの戦争の可能性……というのは出てこなかっただろう。


「……まぁでも、ウタくんが遺跡に行かなかったら、ロインとレイナは確実に殺されてたわけだけど、ね」


 まぁそういう状況ってことよ。そうジュノンさんは言うと、いつの間に淹れていたのか、カップに入ったブラックのコーヒーを啜る。


「……あの、ところで、なんですけど」

「ん?」

「ここって……どこなんですか?」

「え、来たことあるでしょ? 私の家」


 何言ってるのといった感じで、ドロウさんが言う。……あぁ、言われてみれば、壁一面の漫画とか、見覚えあるなぁ。……そうか、ドロウさんの……。確かドロウさんが住んでいたのは、ミネドールとクラーミルにまたがってる山の中……。ということは、


「ここは……ミネドール?」

「そうだよ?」


 ……これから、どうすればいいのだろうか。状況は最悪。何の策もなくクラーミルにいけば、即座に殺されて終わりだろう。だからといって、マルティネスに戻るわけにもいかない。ハンレル……なにより、ここからだと遠い。クラーミルかマルティネスを経由することになるし、あまり意味がない。
 ミネドールは……微妙なラインだ。サラさんは味方してくれそうだけど、ミネドール自体は中立な立場。むやみにクラーミルと敵対するわけにもいかないだろう。


「…………」


 考え込む僕を横目で見て、ジュノンさんはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……リーダーは、パーティーの行動を決める権利がある。その行動に対する責任を負う義務も」

「……はい」

「ウタくんは……どうしたいの?」


 どう、したいか……?
 僕は……どうしたいんだ?


「あとで話すけど、今私たちは、この件に少なからず関わらざるを得なくなってるんだよね。ウタくんが選択する行動によって、私たちの行動も変わる。
 ……どうしたいの?」

「…………」


 分からない。どうすることが正解なのか、自分にとっての一番なのか、分からない。何がよくて、何が悪いことなのか、分からない。
 そんな僕を見かねたのか、ジュノンさんはこんなことを言う。


「自惚れないでよ?」

「え」

「ウタくんがどんな選択をしたところで、私たちは私たちに都合がいいように行動するだけ。その選択に振り回されることなんてない。
 もしUnfinishedが敵になるなら、戦うだけ。みんながやりにくいなら、私が殺るよ」

「…………」

「これでも、『リーダーである』って責任を持ってるんだよ、私も」


 今なら、分かる。
 この言葉が、ジュノンさんの優しさだってことくらい、僕にも分かる。


「……僕は、」

「…………」


 僕は、アイリーンさん、テラーさん、おさくさん、ドロウさんを見て、ジュノンさんを見て……しっかりと、その目を見て、言った。


「マルティネスとクラーミルの戦争を、止めたいです」

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