綾辻には聴こえている

雪抹茶

男子も集まればかしましい。

綾辻 詠。その名前を耳しない日はない。
学校に一人はいると言われる 才色兼備、文武両道、性格良しの完璧な女子。腰くらいまである絹のように綺麗な黒髪。整った顔立ち、クラス委員長を勤めていることや、お淑やかな立ち振舞いは先輩後輩問わず皆のお姉さんと評されていた。

「綾辻って良いよなぁ…」

クラスメイトの古海が言葉を洩らすと、クラスの男子達がここぞとばかりに頷く。

「綾辻は細身だが、ああ見えて胸もある!」

また別の男子が言うと共に、一斉に目線が一ヶ所に集まる。
そんな不埒な視線の先には、廊下で女子たちと談笑する綾辻の姿があった。

「倉敷もそう思わないか?」

「そうだな、そう思うよ。」

「あり得ない程の反応だな。塩対応ならぬ、塩反応か!美人がいたら惚れるってものでしょ!」

塩味の俺の反応に古海が大袈裟に示してくる。…塩反応はないだろ…。

「悪いなんて思ってない。完璧な分どことなく落ち着かない。」

「成る程なぁ…。確かに高嶺の花だよな。」

 違う。確かに高嶺の花ではあるがそういう意味ではない。
 綾辻とはクラス委員長の仕事(古海に勝手に推薦された)の際に何度か会話をしたことがあった。その時の会話はまるで自分の考えをを読まれていると錯覚するほどに綾辻は的確に俺の思っていることと同じ言葉を発してくる。
 最初は偶然かと思っていたが、あまりも続いてしまう為、「君は人の心でも読めるのか?」なんて聞いてしまった。綾辻は「倉敷君は意外とジョークが上手いのね。」と微笑んでいた。それと同時に自分のアホさ加減に自分で呆れていた。
 それ以来、彼女を敬遠していた。別に自分の失態を思い出すのが恥ずかしいからではない。得体の知れない恐怖が生まれたからだ。
 しかし、男子一同は綾辻に関する話題や噂を嬉々として語っていた。

「そういえば、綾辻は大学生の彼氏がいるんじゃあなかったか?」

「俺は大手企業の御曹司の婚約者がいるって聞いたけど。」

「現国の教師とラブホテルに入っていく姿を見たって噂を聞いたぞ。」

どれも信憑性に欠けた話だった。噂が一人歩きしているようだ。

「俺はどの噂も信じていない!綾辻は高嶺の花だが、俺たちの妄想の肥やしになってもらおう。皆で夢を見ていよう!現実なんて幼気な僕らを傷つけるだけだ!」

古海がまたアホなことを高らかに言っていた。

「邪な男子高校生の間違えだろ。」

「うっさいわ! ゆき君!」

「おい。俺の下の名前を呼ぶな!」

倉敷 優希。読み方はくらしき ゆき。それが俺の名前。ゆうきでは無い。ゆきなのだ。
この名前のせいで小さい頃はからかわれることが多かった。そういったこともあり、あまり良い思い出が俺の名前には無い。…後で古海しばく。

「でも噂のどれかが本当だとしたら男の方は良いよな。あんな美人とイチャコラできるんだからよぉ!憎い!爆ぜろリア充!誰かハンカチ貸してっ!」

古海が涙を流していた。何なのコイツ?
そんななか、チャイムが鳴ると共に教師が入ってきた。それを皮切りに古海と周り男子達は各々の席に戻っていった。

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