めおと湯けむり紀行

奥嶋光

戸倉上山田から始まる癒し《福寿草》

11月の終わり、私は三連休を取って妻と信州へ出掛けた。
その休みを取る為に11連勤をこなしたので私の体は痛みと疲れが溜まっていた。
早く温泉で疲れや凝りを癒したい、その思いから高速道路で信州へ向かう。
昼過ぎに小諸インターで降りた、妻が買い物をしたいと言うので一般道を走らせ店に寄りながら15時インに時間を合わせるように戸倉上山田温泉に向かった。

やっと着いた。その宿は戸倉上山田の温泉街から橋を渡り千曲川を越えたとこにひっそりと佇む黄色い宿。
厳密には新戸倉温泉というらしい、温泉街からかなり離れており住宅街に有るので静かな宿だと期待がもてる。
さっさとチェックインを済ませ支度をして風呂に向かった。
フロントロビーから大浴場に向かう外通路はなかなか趣きが有り冬場は寒さを感じるものの、以前来た時は夜は星が綺麗に見えたものだ。
服を脱いで大浴場に入ると立派な木材の湯屋造りの風呂が広がっていた。
お湯は薄緑色で硫黄(硫化水素)の匂いが微かにする。
これこれと思いながらシャワーで体を清めお湯に浸かろうとすると出入り口の横にサウナが有る。私はサウナの誘惑に駆られた。
今のご時世コロナで密はダメだ、避けましょうと洗脳のように言われ我慢してきたがサウナで思いっきり汗をかきたい!
そのサウナは2人用で今は誰もいない、独り占めできるぞ!待ちに待った温泉をそっちのけで私は体を拭いてサウナに入る事にした。
おぉ〜 久しぶりだな。サウナの匂いを嗅ぎながら嬉しい気持ちで目を閉じて汗が出るのを待つ。
私は修行僧のように耐え、結局砂時計(5分計と思われる)を3回転した。
10分が経過する頃には汗だくになっていた、久しぶりのサウナを貸し切り状態で満喫した私はシャワーで汗を流し露天風呂前の空きスペースに寝転んだ。
11月終わりの長野の風は寒いが今は丁度良い具合に体をクールダウンしてくれる。
ふと気づくと体の痛い部分は良くなっていた、しばらくして寒さを感じた私は中に戻る。
水道から水を出すとゴクゴクと飲んだ、美味い。そうして満を辞して源泉掛け流しの内風呂に入る。
汗が出てキュッと引き締まった体を温泉が優しく包んでくれる、肌がヌルヌルとして肌に良さそうだ。
内風呂に浸かりながら外の景色に目をやると有名なネオン看板を掛けてある山が見える。
何の山かは知らんが、城跡が有るらしい。
その山に陽が落ちつつある、良い景色だと思いお湯に浸かりながらボーっと見ていた。
段々と陽が落ちていくにつれ、山と宿の間の空に雲が流れてきた。
旅行の初日で気分の良い私には、落ちていく夕陽が『長野の温泉でゆっくりしていってよ!』『僕はもう行っちゃうけど、今度は月が相手するから、また明日!』と雲に乗せて伝えてきた気がした。

【名残り陽の 想いを運ぶ 流れ雲】

一句浮かんだ。暖まった私は部屋に戻る。夕食を心待ちにしながらビールを飲んだ。
【夕食】腹も減ってウキウキ気分で食事処に向かう。ここのスタッフには記憶に残る人がいた、熟女と言われる歳だと思うが綺麗にしていた。しかし髪型はバブリーなまんま時が止まっている、接客はクールな印象だった。
私達はきっと近くの戸倉上山田のスナック街から掛け持ちで来てるんだろうと勝手に思っていた。
私は【戸倉上山田の明菜】と名付けた。
嬉しい事に今回も彼女が接客してくれた、以前よりも愛想が良いと思った。
コロナのせいでマスク着用だったので顔が見えないのが残念だったが、もてなしてくれる気持ちは嬉しい程伝わってくる。
明菜から長野の地酒を頼んで夕飯に手を付ける、色々出てきて豪華だったがメインは牛鮑蟹の3本立てだった。
とにかく美味かった、夢中で食べた、酒も追加で頼んで進んだ。
ほろ酔い気分で部屋に戻ると日本シリーズの中継を付けた、デカいのが鷹にノーヒットに抑えられていた。
また負けてんのか、頑張れーと応援しながら観ていたが結局負けた。
すっかり食後の休憩が済んだ私は、水分補給をして風呂に向かった。
風呂に向かう外通路から空を見上げると星が出ていた、しかしまだこの時間では照明が邪魔して満点の星空とはいかなかった。
星を見ていたいが信州の夜は寒い。あっという間に体が冷えた、早く温泉で温まりたくなった。
源泉掛け流しの内風呂であったまった後に露天風呂に入った。露天風呂はジャグジーになっておりボタンを押すと泡がゴボゴボと出てくる。
私は贅沢な気分になりながら信州の夜風を感じていた。
【翌朝】昨夜風呂から出た私は部屋に戻るとすぐに寝た、朝までぐっすり寝たので真夜中の星空は見えなかった。
その朝信州は気持ちが良い程晴れていた、妻を起こして朝風呂に向かう。
浴槽に入ろうとすると昨日よりもっと緑色に濁っている事に気付いた、天候の具合で変わったのかな?そういえばここは女性に嬉しい美肌の湯らしい。
朝から温泉を満喫し私達はチェックアウトした、名残り惜しかったが今日はこれからまた違う温泉に行く。
あばよ福寿草、また来るからな!そう思いながら私は北へと車を走らせた。

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