明日から本気出す ~そう思いつつ眠ったら百年たってました~

今中初祢

01 明日から本気出す


 「ウカ・ハーバリア! 貴方、このテストは一体何ですか!?」


 王国立アミリアス学園の職員室に突如響いた怒鳴り声。
 声の主、魔法学担当のラズリ先生は顔を真っ赤にし、一枚の紙を握っているがその紙は握られている部分がくしゃくしゃになってしまっている。相当お怒りのようだ。
 そしてその紙を凝視する亜麻色の髪色をした少女――ウカはへらりと笑って言った。


 「おやおやこれは綺麗な白紙ですね~」


 「えぇ、本当に見事な白紙ですよ。で、何故白紙なのですかっ!?」


 「何故って面倒臭いからですかね~?」


 疑問系のウカに学園一怖いと恐れられているラズリ先生でさえも怒りを通り越し呆れ果ててしまった。

 そしてそんな二人のやり取りを眺める教師達は「またか……」と言った顔でその様子を見物していた。


 ウカは学園一の問題児と言われる生徒だ。
 なにせ筆記テストはほぼ白紙。
 何故退学にならないのか……それはウカが特待生である事も関係しているが時たま真面目にテストを解いたかと思えば全て満点。魔法の才能は学園の生徒の中で飛び抜けており、学園の教師よりも強いのだ。学園の方針、それは将来有望な魔導師を育て上げること。態度が悪いと言ってもウカの実力は本物。そんなウカを学園側は簡単に退学になど出来なかった。


 「私は貴方の本気が見てみたいですよ」


 ラズリ先生が赤メガネをクイッと上げてそう言えば、ウカが「うーん」と小さく唸った後、またへらりと笑って言った。


 「じゃあ、明日から本気出しま~す」

 
「…………一体何回その台詞を聞けばいいんですか? 私は?」


 頭を抱えるラズリ先生。
 そんな先生には目もくれずウカは職員室を飛び出した。


 ウカは気分屋である。
 長い話は好きじゃないし、お説教なんてもっと嫌いだ。
 けれど先生以外にもウカにお説教をする人物が居た。
 それは…………
 


 「ウカ! また先生に呼び出されたんですって!」


 聞き慣れたソプラノの声がした。
 ウカは「げっ」と思わず声を零し、振り向く。
 するとそこには幼馴染のミルシィの姿があった。

 ふわりと桃色のツインテールを揺らしながらミルシィはウカの元へと駆け寄ってくる。眉間にはシワが寄り、明らかに怒っている様子だ。


 「ミルシィ。 やっほー」


 「……ウカ。貴方、またテストを白紙で出したのね」


 「えー 何で分かったのー?」


 「直ぐに呼び出された時点で察したわ」


 テストが終わった後ウカは直ぐに先生に呼び出されていた。
 それでミルシィはウカが今回も白紙を出したのだと察したらしい。
 

 「おぉー さすがミルシィ。先生達のこともちゃんと見てますなー」


 ぱちぱちと手を叩くウカ。
 呑気な彼女にミルシィが大きなため息を吐いた。


 「ウカ。話を逸らさないでちょうだい。私は貴方のことを心配して言っているのよ。このままじゃ進級できなくなちっちゃう。私はウカと一緒に卒業したいの」


 「そこら辺は大丈夫ー 私、こう見えて何でも出来ちゃう子だからねー 進級も卒業もちゃんとしますよー」


 【何でも出来ちゃう子】
 確かにウカはそうだとミルシィ自身も思っている。
 なにせ先に魔導師に憧れ魔法の練習を必死で頑張っていたミルシィよりも先にウカは容易く魔法が使えるようになってしまった。それにテストだってウカが真面目に受ければミルシィよりも高得点をたたき出してしまう。


 けれど、心配なものは心配なのだ。

 記憶が定かである時からずっと二人は一緒だった。
 魔導師にならないかと誘い、この学園に通わないかと誘ったのはミルシィだ。
 だからこそミルシィは焦っていた。
 自分の夢に付き合わせてしまっただろうウカをこんな所で立ち止まらせてはいけないと。
 そして願わくばこれからも一緒に居たいと思っている。


 だからこそミルシィはウカに口煩く言っているのだ。


 「ねぇ、ウカ……ウカは魔導師に本当になりたいと思ってる……?」


 少し震えた声でミルシィが尋ねた。
 

 「……ウカちゃん的にはですねー どうでもいいかなーって感じですねー」



 淡々とした口調で言うウカに、ミルシィが拳を握り締めた。
 そして


 「私だけ……か。そう思ってるのって……」


 「ん? 何か言ったー?」


 「…………何でもない。気にしないで」


 笑顔を向けるミルシィだったがその笑顔は何処か悲しそうだった。
 目尻には確かに涙が溜まっていて、水色の瞳が揺れている。


 「ごめん、用事あったから行くね」


 そう言うとミルシィはウカに背を向け行ってしまった。
 どんどん遠くなっていくミルシィの後ろ姿を少し見つめた後、ウカも背中を向け歩き出す。


 「ミルシィ、何だか悲しそうだったなぁ……」





***



 
 家に帰宅したウカは直ぐにベッドに横になった。

 街から少し離れた小さな村にウカは住んでいる。
 その家は唯一のウカの居場所だ。
 とは言っても家族は居ない。
 母親は物心着いた頃から居なかった。
 父親は五年前に亡くなってしまった。

 一方近所に住むミルシィは沢山の家族が居る。
 花が咲いたかのようなキラキラしたミルシィの笑顔がウカは好きだった。
 自分には無い何かを持っているミルシィが羨ましかった。
 しかし、さっきのミルシィにはそのキラキラが全く感じられなかった。

 いつしかウカは自分には無くてミルシィにはある何かが気になるようになった。
 だから魔導師にならないかと誘われた時も誘いに乗った。
 学園に誘われた時もそうだ。
 けれど分からなかった。
 自分には無くてミルシィにあるものが。


 「……学校だるいなー 行きたくないなー」


 そんな事を思いつつ眠りに着いたウカ。
 翌日は学校を休んだ。
 そしてまた一日、二日、一週間休み続けた。
 いつもならミルシィが引っ張り出してでもウカを連れていく所だがミルシィが来る気配は無かった。


 学園を休み出して十日がたった。
 カーテンから射し込む光と子供達の騒ぎ声で目を覚ましたウカは機嫌が悪かった。

 前までは「元気だなー」ぐらいだった子供達の声が今では耳障りで仕方なかった。

 ぐっすりと眠りに着くためにはどうしたらいいだろう?

 そう思ったウカはある作戦を決行する事にした。
 それは「守りの結界」という魔法。
 守りの結界は対象のものをドーム型の結界が包み込み、音、振動、衝撃から守ってくれる魔法だ。
 昔本で見たのを思い出したのだ。


 早速守りの結界の魔法を使ってみる。
 すると容易く出来てしまった。
 思わずウカが微笑む。


 「さすがウカちゃん。やれば出来る子ですなー」


 かなり難しめの魔法だと思っていたが容易く出来てしまい満足げのウカ。
 結界の中は思っていた以上にポカポカで、睡魔が襲ってきた。
 瞼を閉じ、明日からは学校に行こう……そう思った後
 

 「明日から本気出す」


 そう呟いてウカは眠りに着いた。


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