コンビニの重課金者になってコンビニ無双する

時雲

42話 名誉市民

 ヒトミの家を取り戻してから約三か月後、それ迄過疎化していたのが冗談だったかのように、正巳の住む地域は異様な賑わいを見せていた。

 駅を利用する人の数は20倍以上になり、近くまで臨時のバスが運行するようになった。大手タクシー会社は、この地域に支店を作り"長距離専門タクシー"と言うサービスも始めた。

 その地域を訪れている人々の目的は皆同じだ。

 それは――『コンビニに来る事』冗談かのような話だが、事実だ。

 毎日2,3万人が訪れている。

 ……全く、何処のテーマパークだよ!という話である。

 地域に住む住民の、約10倍以上が毎日訪れている。

 ……信じられない様な話だが、これには原因がある。

 それは、ヒトミのある発言と提案による事が原因だ。まだ、コンビニの基礎すら出来ていなかった時の事だ、ヒトミがこう言いだした。

「正巳さん、お店をするには人が少な過ぎませんか?」

 もっともな意見だったので頷いたのだが、続けて言った。

「沢山の人に知って貰って、皆に来て貰えると良いですよね」

 その通りなので頷くと、こう提案して来た。

「それじゃあ、広告をしましょう!」

 確かに有用な手だとは思ったが、広告と言うのをした事が無い為、少し考え込んでいた。すると、隣に控えていたファスが『私にお任せ下さい』と言ったので、ファスとヒトミに任せてみる事にした。

 ……その結果がこれである。

 どうやら、広告(俺はてっきりチラシでも作るのかと思ったが)として、各種新聞社から各種雑誌、各種情報媒体から取材を受け、記事を載せるという形を取ったらしい。

 その方法の一つが、ヒトミのテレビ出演だったらしいのだが……これが爆発的な人気を生んだみたいだった。ヒトミの元々の天然キャラと、出演した番組の相性が良かったらしく、一般の視聴者層に広く評判が良かったらしい。

 ヒトミは、"新しくオープンする国内最大級のコンビニ"で働く店員・・と言う立場だった為、どうやら"会える芸能人"的な認知のされ方をしたみたいだった。

 ヒトミがテレビに出演をしてから、瞬時に地域に訪れる人が増えた為、コンビニの建設を急ぐことになった。

 訪れたお客様を、そのまま放っておくのは勿体ないという事で、取り敢えず通常のサイズの店舗はオープンしたのだが、稼働率がとんでもない事になった。

 ファスに依頼してコンビニの店員を補充したのだが、来る客は皆がヒトミを目的としている為、毎日の大半の時間帯でヒトミが"レジ係"をしなくてはいけなくなったのだ。

 このままだと、ヒトミの健康状態に心配が出て来た為、来店する客に対しては『ヒトミが何時に来るか分からない』と言う形を取った。

 これがまた、プレミア的な価値を生む事になるのだが……一先ずヒトミの稼働率に関しては、調整が出来るようになった。

 コンビニの店員は、ファスが厳選した"プロの販売員"だった為か、皆が見目麗しかった。これ、が再びメディアで取り上げられる切っ掛けとなり、再び訪れる人が増加する原因となった。

 店舗自体は、設計の時点で増設可能な設計をしていた為、裏で工事を行い、タイミングを見てオープンをしていた。現在では、店舗の広さは通常の4倍ほどとなっている。

 つい先日、市長に呼び出しを受け『市に対する多大な功績を認め、名誉市民に称する』と言われた。どうやら、最初はヒトミに贈る予定だったらしいのだが、ヒトミの辞退とファスの推薦により正巳に贈られる事となったらしい。

 ――と、まあコンビニに関連しては、三カ月足らずの内にかなりの動きがあった。

 ヒトミのメディア露出をきっかけとした訪れる人の増加。コンビニオープンに際しての更なる人の増加と、店員の増強。コンビニの増築と、ヒトミ以外の店員への注目とそれに伴う訪れる人の増加。人の流入に関連した地域活性化への褒賞として、市長から"名誉市民"へと認定。

 ……これらが大まかな流れだ。

 他にも、ここ三カ月間で幾つかの出来事があった。

 先ず、住んでいる家に関しては、知らない内にかなりの改造――リフォームがされていた。正確には、"知らない内"では無いのだが、ファスに『許可』してから、気付かぬ内に彼方此方に手を入れられていた。

 ファス曰く『住宅の堅牢性向上とセキュリティの向上』らしいが、地下に部屋が増えていた事に関しては、質問しても『いざと言う時の備えでして……』としか返答が無かった。

 ヒトミの家も、無事国への売却が済んでいた。金額は約三千万円で、土地の売却金額としてはかなりの金額だと思う。今回ヒトミは、正巳が家を購入した金額約三億円に併せ三千万円、そして各種メディアへの出演報酬等で莫大な収入を得ていた。

 ただ、ヒトミは家に関する利益を受け取ろうとしなかったので、ファスに言って"ヒトミの口座"を開設させ、ヒトミ名義でお金を入金しておいた。

 途中で車も直って戻って来ていた。店主には、只直すだけでなく可能な限りのカスタマイズをお願いした為、期間は二カ月ほどかかった。

 費用的にも、購入金額を大きく超える額で、ついでに言えば"和解金"して受け取った費用の数倍だったが、ファスを通して請求して貰った。

 ……これが、ここ三カ月間の全体での出来事だ。

 先月店員の増員を行い、店舗も拡大した。これにより一旦落ち着いたかに思えたが、最近新たな問題が出て来ていた。

 それは、店舗の拡大による更なる店員不足だ。

 ……何となくデジャヴを感じていたが、恐らくこの流れは成長している時は、ひたすら繰り返しとなるのだろう。因みに、正巳自身が手伝いとしてレジをした事が有ったが、直後『あの男は誰だ!』と、恐ろしい事になった。

 何となく、人気アイドルのマネージャーが男性だった時、男性マネージャが攻撃されるのはこういう事なのか……と思いながら、表に出て仕事をするのは控える事にしていた。

 ◇◆

 店員不足をどう補うか考えながら、正巳は自分の店舗のホームページを作っていた。元々仕事にしていたサイト作りだったので、この際かなり凝ったモノにしようと設計したのだが……

 こんなに忙しくなるとは思っても居なかったので、作り始めてから三か月間経った今でも、まだ完成が見えていなかった。

「正巳さ~ん、何してるんですかぁ?」

 覗き込んで来たヒトミに言う。

「ああ、上がって来たのか」
「はい! 今日は危ないお客さんも居なかったので、何事も無くでした!」

 ……コンビニの店員をしていて『危ない客』って何だよ、と思うかも知れないが、つい先週『僕と結婚してくれないと死んでやるるっ!』と言うお客様がいたのだ。

 瞬時に取り押さえられたのだが、ファスの派遣した店員の一人"セナさん"に拘束されながら、何故か嬉しそうにしていた。

 苦笑いしながら『それは良かった』と言うと、折角なのでヒトミも含めて相談する事にした。作成途中のサイトのコードを見ながら『ふへぇ~何ですかこれ、全然どうなっているのか分からないです~』と言っているヒトミに、取り敢えずソファに座るように言って話し始めた。

 ……後ろに控えているファスは、これ迄何度言っても座ろうとしなかったので、いつも通りに後ろで聞いてもらう事にした。

「今回の店舗拡大に併せての"人員拡充"なんだが、少し悩んでいるんだ」
「"悩んでる"ですか?」

 正巳の言葉に疑問を返すヒトミだが、ヒトミの疑問も当然の事だろう。つい先週までは、"店舗拡大毎に人員を増強して行く"と言う事になっていたのだから。

「ああ、先週の事が有るからな。もし今後、ヒトミや店員の誰かが危険な目に合う様な事があれば問題だし、その様な事が起こらないようにしなくてはと思ってな」

 そう、そもそもこれだけの人が来て、注目が集まっている中、リスクを増やすような事をして行くのが、果たして正しいのかと思ったのだ。

「……そうすると、どうするんですか?」

 ヒトミが首を傾けて聞いて来る。

「そうだな……人を減らしはしないが、増やさない方向で行きたいと思ってるんだ」

 正巳自身クビにされるという経験をして、自身と同じような経験を従業員にはさせたくないと思っている。もし今後、今居る人が不要になったとしてもクビにする事はしない。

 どういう事か分からない、と言う風なヒトミに続ける。

「機械の導入だよ」
「機械、ですか?」

「ああ、レジの自動化、若しくはキャッシュレス化。他にも、防犯カメラに頼った"防犯"ではなく、完全な"先払い制"による商品の購入……そんな事を考えてる」

 正巳が考えている事を説明すると、ヒトミは目を輝かせて言った。

「凄い! 未来ですね、未来!」

 ……実は、そう未来・・と言うほど進んだ内容でも無いのだが、楽しそうなので黙って置く事にして、ヒトミに言った。

「まぁそうだな。それで、実はエリアをローテーションさせて、新しい形に入れ替える準備は既にヒノキから提案されてるんだ」

 ローテーションは、店舗の営業を止めない為の方法だ。準備自体も、ヒノキが進めてくれているらしく、直ぐにでも実施出来る。

 ただ、ヒトミの了承を取らずに実施するのは良くないと思っていたので、ヒトミの意見を聞いてから進める事にしていたのだ。

 正巳の言葉を聞いたヒトミは、不思議そうに言った。

「良いんじゃないですか?」

 すんなりと同意したヒトミに何処か拍子抜けしながら、確認した。

「良いのか?」
「はい、そもそも正巳さんがオーナーなので、好きにすると良いと思います!」

 もっともな事を言われ、少し面食らいながらも言った。

「そうか……そうだな。それじゃあ、そういう事で――」

 後ろで控えている筈のファスに『頼むな』と言おうとしたのだが、そこにファスの姿は無かった。どうやら、ファスは途中であった来客の対応をしている様だった。

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