コンビニの重課金者になってコンビニ無双する

時雲

40話 建築家ヒノキ

 翌朝、目が覚めると美味しそうな匂いがして来た。

 頭に引っ付いているにゃん太を引きはがしながらリビングへと入ると、そこには少し寝ぐせの残っているヒトミの姿があった。

「……おはよう、早起きだな」

 正巳の声にビクッとしたヒトミだったが、正巳の顔を見て言った。

「ふふっ、正巳さん寝癖凄いです」
「なっ、まぁこれはあれだ、ファッションだよ」

 正巳の言葉に『センス無いです~』と言っているヒトミに適当に返しながら顔を洗うと、ヒトミが沸かしてくれていたお湯を水と混ぜて少し冷まし、タオルを漬けて"温かタオル"にした。

 タオルをヒトミの頭に乗せながら、テーブルに着くと朝食にした。

 朝ご飯は、ベーコンエッグと昨日の残りの鍋だった。

 ヒトミは正巳のタオルで、自分の寝癖がまだ残っていた事に気が付いたらしく、少し恥ずかしそうにしていたが、気にした様子の無い正巳を見て普段の調子に戻っていた。

 朝食後、片付けを済ませた正巳は、メールが来ている事に気が付いた。

 メールには、ファスと業者が一時間後に到着すると書いてあった。

 ファスからの連絡を受けた正巳は、何処で打合せをしようかと部屋を見回したが、テーブルの上を片付ける他なさそうだった。

 ……それ程散らかってはいないのだが、買い物に行って帰って来た際の色々な物が、まだ残ったままだったのだ。その後、時間いっぱいを使って部屋の中を中心に玄関までを綺麗にした正巳達は、疲れ切った中ファス達を迎え入れていた。

「正巳様、お側を離れてしまい申し訳ありませんでした。本日より、お側でお仕えいたします」

 そう言って礼をするファスに、ぎこちないながらも『よろしく頼む』と返した正巳は、その横に居る人物に目を向けた。

「ファス、そちらの方は?」

 正巳が視線を向けた先には、ふわりとした黒髪に黒淵の丸い眼鏡を掛けた人がいた。

「失礼しました。こちら、海棠檜カイドウヒノキと言いまして、私が懇意にしている建築家です。今回は、この者に設計と施工の管理を任せようと思っています」

 ファスがそう言うと、それ迄静かに後ろに控えていた男(恐らく男と思われる)が、おずおずと前に出て来て言った。

「わたし、"ヒノキ"と言います。ファースト様に拾って頂いた身ですが、精一杯働かせて頂きます! ……それで、今回は要件の確定と設計コンセプトを考えて来たのですが――」

 そう言って、脇に抱えた大きな鞄を広げようとしたので、慌てて中に案内する事にした。『玄関では何ですから、中で話しましょう』と言った正巳に、ヒノキは『あ、すみません……』と言って縮こまっていた。

 この人が、今回の設計及び施工の監督をすると言う事に、少し心配になった正巳だったが、それを見透かしてかファスが耳打ちして来た。

「大丈夫です、この者は普段はこのように"ふにゃふにゃ"としていますが、仕事となると別人の様になりますので……」

 ファスの言葉に少しばかり疑問を持った正巳だったが、今回はファスを信じる事にした。ファスに『分かった』と頷くと、テーブルに着いた正巳は早速切り出す事にした。

「それじゃあ、初めに頼んだ"コンビニセット"とやらの説明を頼めるか?」

 正巳の言葉に頷いたファスは、何処から取り出したのか資料を広げると言った。

「これは、取扱可能な商品一覧になります。今回は、この商品一覧の中から取り扱う商品を選んで頂き、それと伏せて正巳様のご要望――店舗内の設備など――をお聞きします。その結果を踏まえ、ヒノキに予め用意して来た"店舗提案"を幾つかさせて頂く。この様な流れとなります」

 ファスの言葉を聞いて、楽しくなって来た正巳だったが、先に口を開いたのはヒトミだった。

「これ、石鹸だけで240種類も有るんですか?!」

 ヒトミが持っていたのは分厚い冊子だったが、どうやらそれは商品目録だったらしい。ヒトミの言葉に『それはほんの一部ですが、今回はピックアップして"コンビニ用"の目録を用意いたしました』と答えたファスに、思わず口走っていた。

「……全部欲しいな」

 自分で言ってみて、流石にそれはやりすぎ・・・・だと思った為『何れ』と付け加えたのだが、ファスは兎も角としてヒノキは話を聞いていないようだった。

「なるほど、"全部"となると、管理と店舗の広さが問題ですね。それに"コンビニ"という面を考えると、品出しや内側の導線を考えて……そうなると、倉庫は地上よりも地下に造った方が……――」

 何やら考え始めたが、邪魔をするのは悪いのでファスに聞く事にした。

「今日要望を聞いて、設計に取り入れるという話だったが、結構時間かかるのか?」

 そう、問題は設計までにどれくらい時間が掛かるかなのだ。今日修正を始めて、一か月も二ヶ月も時間が掛かる様では困った事になる。そんな心配をしていたのだが……

「いえ、恐らく大抵の事は網羅できる状態で、設計を済ませている筈なので今日持ち帰って……そうですね、明日明後日中には修正案が上がって来ると思います。後は、現地を確認して要件に合うかどうかを調べて場合によっては修正を加えますが、問題ないでしょう」

 ファスの言葉を聞いた正巳は、驚きもあったが感心していた。

 ……正巳自身、ウェブサイトの作成を仕事にしていた為、基本設計から施工までは中々苦労するのだ。それこそ、途中で要件(必要とされる機能)が加わりでもしたら、修正や見直しは笑い事ではないほど大変な作業になる。

 それが、たった数週間――いや、数日で如何にかすると言うのだから、驚かざるを得ない。少し見直して見ると、それ迄ぶつぶつと呟いていたヒノキが言った。

「……先ずは港に倉庫を持って、そこから運んだ物を備蓄しておく倉庫を近くに建て、それでもって店舗内には品物が自動で――あ、すみません。えっとですね、わたしとしてはこちらのタイプが良いと思うのですが……」

 何やら、呟いていた内容が気になった――そもそも、港に倉庫とか何の商売を始めるつもりなのだろうか――が、差し出して来た図面を先に確認する事にした。

 その図面を見ると、何やら細かいメモや説明が書かれていたが、コンセプトはとても分かり易かった。図面の端の方、メモに書かれている言葉を読みながら頷いた。

「うん、"拡張可能な多品目取扱店舗コンビニ"か、良いじゃないか!」

 正巳の言葉を聞いたヒノキは、口を半分開いてぽかんとしていたが、直ぐに我に返って『やった、ファースト様の"大切な人"に喜んでもらえたぁ!』と言って、ファスに抱き着いていた。

 外見は似ても似つかない二人だが、何となく親子のようだなと思った。

 どうやら、ヒトミも同じような感想を抱いたらしい。
 自分の頬っぺたを両手で触って、緩んだ顔を誤魔化していた。

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