コンビニの重課金者になってコンビニ無双する

時雲

37話 お肉一切れで仲直り

 ヒトミが元に戻るまでの間、ファスから一通りの説明を受けていた。にゃん太は、お腹いっぱいご飯を食べたからか、バックの中でぐっすりと眠っていた。

「本来は通常の登録を行うのですが、今回は途中での変更――上書き登録となりましたので、今後所有権を上書きする事は難しくなりました。更に、ヒトミ様も一部情報が上書き前の情報として残っています。とは言っても、ヒトミ様に関しては何の心配もありませんので……――」

 その後も色々と詳しく説明をしてくれたが、まとめると"心配はない"と言う事だった。問題が無ければ登録方法等は特に気にしないので、頷いた正巳は言った。

「それじゃあ、この後はどうするんだ?」

 話では、これからは一緒にいて護衛するという話だったが、何となくそうも行かないのでは無いかと思ったのだ。そんな正巳の言葉を聞いたファスが答えた。

「正式な登録が済んだので、晴れて今日より――」

 途中まで明るく言ったファスだったが、途中でミヤが入って来た。

「それは無理です!」
「どういう事だ?」

 ムッとした様子でファスが言うと、ミヤが説明をしてくれた。

「捕えた男達の件で報告が残ってますし、何より先程の"登録"に関する報告もしなくてはいけません。少なくとも今日中に戻るという事は出来ません」

 ミヤの言葉を聞いたファスは、一瞬『私が一言言えば済む……』と言いかけたが、ミヤの『専属になるという事は、その主人の品格にも関わるのですよ』と言う言葉を聞いて口をつぐんだ。

 そして、ミヤに背を向けこちらを見ると言った。

「申し訳ありません。即刻用事を済ませて来ますので、少々お待ち下さい」

 ファスの少し悔しそうな顔を見ながら言った。

「ああ、分かった。俺達は明日ヒトミの荷物を積んだら、その足で俺の家まで戻ろうと思ってる。もし来るのであれば、向こうの家に来てくれ」

 正巳がそう言うと、ファスは嬉しそうだった。

「必ず参上します」

 その後、休んでいたらしいヒトミも戻って来てしばらくは、ヒトミの質問タイムとなった。ヒトミには、『それなりのお金が宝くじで当たって、ファスとミヤはその護衛だ』と話しておいた。

 正直、どんな反応をするか少し心配していたが、『よかったぁ~正巳さんが酷い目に会っていなくて良かったですよ~』と言って座り込んでいた。そんなヒトミを見て(態度を変えないってだけで、これほど嬉しいんだな)と思った。

 正巳がヒトミと話している間、ファスとミヤは少し言い合いの様な事をしていたが、その内容も中々興味深かった。


「全く、こういった種類の報告は、全てお前が済ませてくれれば良いだろうに」

「そうは行きませんよ、今までは護衛の完了報告のみでしたけど、これからはそれ以外の事が多くなるんですから。それに、ファスはこれ迄余りにも依頼が偏り過ぎていたんです」

「何を言ってるんだ、お前が次から次へと仕事を入れるから、あちこちに出向く事になったんだろう。そもそも、毎回紛争地域の司令官とか、カルテルの首領の護衛とか……幾ら期間を設定した上だとしても詰め込み過ぎなんだよ」

「はぃい? それは貴方が初めての仕事で『人と関わらなくて良いサバサバした依頼が良い』って言うから、私があなたの適性に合わせて見繕ってあげたんでしょう?」

「何を言っているんだ、それはお前が初めて行った先に、あんなお転婆問題児お嬢様を選んだからだろう? 俺がどれだけ心を砕く事になったか、満足させるためにどれだけ犠牲を払ったか……」

「そんなんで、よく専属になろうと思いましたね!」

「何を言っているんだ、俺は前から探してはいたんだよ。何より、正巳様は俺が守るのが一番安全だ。それに、専属に必要なスキルは全て履修して来たさ、全て許可を得られるレベルでな」

「何を言ってるんですかぁ? そりゃあファーストである貴方を"基礎"なんかで落とす事は、会社の評価制度を否定する事になるんですから、そりゃあ許可を出すしかないでしょう!?」


 ……ファスは、トップレベルのコンシェルジュではあるらしいが、その実績は『成果のみで積み上げて来た』と言う事らしい。

 その内容は、主に"交渉"や"護衛"、その他"指名依頼"だったらしく、接客的な内容は殆どなかったみたいだ。その為、"専属"(執事的なイメージだろうか)に必要なスキルは短期間に詰め込んで来たと言う事だった。

 どの様にして、その"成果"が"評価"されているのかは分からないが、恐らく普通以上の成果を出しているのだろう。

 途中で正巳が聞いている事に気が付いたファスは、頭を下げて『申し訳ありません。"専属"としては未熟ですが、全力で任に当たらせていただきますので……』と言った。

 何となく、所々でコンシェルジュと言うよりは"傭兵"っぽいなと思ったり、対応が接客業的では無いなと思ってはいたが、それは単純に"経験が少なかったから"らしかった。

 若干ヒートアップしていたミヤも、少し恥ずかしそうにして言った。

「申し訳ありません。お恥ずかしい所をお見せしました」

 そんなミヤに、笑いながら言った。

「いや、別に気にはしてないさ。それにこれから長い付き合いになるんだったら、最初取り繕ってても直ぐにぎこちなくなるだろ?」

 そう言った正巳の言葉を受けてファスが言った。

「ありがとうございます。ただ、飽くまでも我々はコンシェルジュですので、正巳様にはそのように扱って頂ければ……」

 そう言ったファスの顔を見て言う。

「それじゃあ、依頼として出させて貰うが、今後は『正巳』って呼んでくれ」

 正巳が言った言葉を聞いて『それは……』と難しい顔をしていたが、やがて言った。

「……承知しました。それでは、業務外の時はそのように」

 これ以上は妥協して貰えなそうだったので、今はこれで満足しておく事にした。途中でヒトミが不思議そうな顔をしていたが、正巳達が話し終えた後で言った。

「ふぇ~なんか良いですね! 私も"ヒトミン"って呼んで下さい!」

 そう言って、目を輝かせていたヒトミにため息を付くと、『お前はヒトミ何だから、"ヒトミ"で良いだろ?』と言った。

 そんな正巳に、『だって、なんか皆仲良さそうですよ~』と言ってるヒトミに適当に相槌を打ちながら、『一度戻りますので』と言って残念そうにしている、ファスとミヤの二人を見送る事にした。

 宿の女将さんは、残念そうに『あらぁ次は是非ご宿泊下さいね』と言っていた。どうやら、ファスとミヤの事も気に入ったらしかった。

 その後、出発する前にミヤと話していた。

「先程お渡ししたカード・・・は、既に登録されているのでお使いになれます。専用の装着用具が有るので、必ず何時でも身に付けて下さい。それと、後ほど土地の交渉相手に関する情報をお送りしますので、そちらもご確認ください」

 ミヤに頷いた正巳は、ヘリを起動し始めたファスを見て、少し(カッコ良いな)と思った。横に居たヒトミも同じように目を向けていたので、『凄いよな』と言ったのだが……

「はい、凄いと思います。私も昔車の洗車をしたことが有ったんですが……ここ迄綺麗なのを見ると、どうやら毎日掃除をしているみたいですね!」

 と言って、彼方此方見ていた。

 どうやら、ヒトミにとってはその清掃のされ具合の方が、気になったらしかった。

 心の中で『そこじゃないだろっ!』と突っ込みながら、浮上し始めた機体を見送った。浮き上がった機体は、直ぐに上昇して行き指先程の大きさになってしまった。

「……行っちゃったな」
「……そうですね」

 見えなくなるまで見送っていた二人だったが、不意に鳴った『"グゥ……"』という音に、部屋に戻る事にした。鳴ったのは正巳のお腹だったが、ヒトミもお腹が空いていたらしかった。

 部屋に戻った正巳は、部屋の前で鍵を開ける途中でデジャヴを感じた。

「なぁ、これはにゃん太かな?」

 正巳がそう言うと、ヒトミが扉に耳を付けてから言った。

「間違いないです!」
「そうか、にゃん太寝てたのになぁ」

 あれ程ぐっすりと眠っていたにもかかわらず、どうやらにゃん太は起きたらしかった。

 その後、『カリカリ』言っている扉を開けると、これまたデジャヴを感じる"にゃん太のよじ登り"を見つめながら、ヒトミと笑った。

「甘えんぼだな」
「そうですね、正巳さんみたいですね!」

 そう弄って来たヒトミに何か言い返そうかとも思ったが、にゃん太がトテトテと歩いたり、途中でコロンと転がったりしている様子を見てどうでもよくなった。

「……そうだなぁ、俺とにゃん太は似てるなぁ」

 そう言いながらにゃん太を撫でていると、ヒトミが口をぷくっとさせて言った。

「むー、私だけ仲間外れは嫌です!」

 そう言って怒っているヒトミに、『それじゃあ、どうすれば良いんだよ……』と言ったのだが、その後のヒトミの言葉に対して、突っ込みたくなるのを抑えるのが大変だった。

 ヒトミは人差し指を立てるとこう言った。

「私も、にゃん太と同じ"甘えんぼ"です!」

「ぷっ、そ、そうだなぁ皆で一緒で"甘えんぼ"だなぁ……っくく、ぷっぷぁっはっはっは、結局ヒトミも同じ"甘えんぼ"だもんな~はっはっはっはッ――」

 ……結局、盛大に突っ込んでいた。

 その後、頬を少し赤くしたヒトミが、夕食が来た事を知らせるまでの間笑い続けていた。少し笑い過ぎたせいで、ヒトミはその後しばらく口を利いてくれなかった。

 ヒトミは、夕食に出たお肉を一切れあげると、ようやく許してくれた。

 夕食は、とんかつメインの御膳だった。

 その後、早めに風呂に入った正巳は、旅館の女将の勧めで近くの山のふもとにある公園まで来ていた。その公園は、周囲より少し高い位置にあった。

 しばらくすると星が見え始めた。星は、小さなものから大きなものまで様々なものがある。ただ変わらないのは、どの星も輝いているという事だった。

 ……ここしばらく、ゆっくりと星を眺める機会など無かった為か、夢中でその輝きを見つめていた。その後、星を見ていた筈がいつの間にか、仕事を辞めてからの事を思い返していた。

 辛い事もあったが、楽しい事もあったし、新たに得た事もあった。

 ここ一週間足らずの様々な出来事を思い出しながら、ふと横を見た正巳だったが……同じくこちらに顔を向けたヒトミと目が合った。

 ヒトミが何を考えているかは分からなかったが、何となく、同じ事を考えているのではないかなと思った。その瞳には、無数の輝きが映っていた。

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