コンビニの重課金者になってコンビニ無双する

時雲

36話 登録と尋問

 正巳が『やってくれ!』と言うと同時に、ファスが動いた。

「承知しました――"音声コマンド"、"ナンバー0001ファースト"、"認証権限ファースト"、"限界値認証"、"前データへの上書き"、"アクセス制限本人"――正巳様!」

 早口でまくし立てるように"入力"していたファスだったが、正巳に合図して来た。それに対して『分かった!』と応じた正巳は、得体のしれない液体の中に手を突っ込んだ。

 すると、先程ヒトミが手を入れた時と違い、手を固定するような拘束具がアタッシュケースのから伸びて来た。

 反応出来なかった正巳だったが、手が拘束されると同時に、何かチクリとするのを感じた。痛みを感じて目を向けると、手首に小さな針のようなモノが刺さっていた。

「大丈夫です。即効性の麻酔薬です」
「……麻酔?」

 ファスの言葉に不思議に思っていた正巳だったが、未だに拘束されたままの手を見ていると、何故麻酔薬が必要だったのか理解出来た。

 液体の中で開いた正巳の手――其々五本の指先に、細い針のようなモノが刺さっていた。見ていると、其々の針はツゥ―っと赤く先端から根本まで赤く染まり、血液を採っている事が分かった。

「……生体認証の"登録"って、ここまでやるのか?」
「いえ、本来使われる事のない機能です。それこそ、我々が失態を犯さない限りは……」

 どうやら、流石にここ迄はしないらしい。

 見た目に反して痛みは無かったので、余裕が出て来た正巳は、ふとヒトミとミヤが居ない事に気が付いた。何となく、ヒトミのした事に関係している事は分かったが、聞いてみる事にした。

「なぁ、二人は何処に行った?」

 すると、一呼吸してファスが言った。

「……恐らく、ミヤが"調査"をしているかと思います」
「"調査"って、何処で何をしてるんだ?」

 何となく不安になった正巳は、そう聞いたのだが――
 ファスの視線と、ドアの前で"カリカリ"と掻いているにゃん太の姿を見つけた。

 それ迄気が付かなかったが、そう言えば部屋の中から何やら小さな悲鳴や、話し声が聞こえてくる気がする。まさかないとは思ったが、覚悟を決めて聞いた。

「ファス、あの中では何が行われているんだ?」

 正巳の言葉を受けたファスは、少し目を伏せていたが言った。

「一つの規定がありまして、その中には"危険分子の排除と尋問"と言うモノがあります。今回の"所有者以外の者による不正契約"に関しては、中でも重大な分類に位置していまして……」

 ファスの説明を要約すると、『ヒトミが危険人物か尋問している』と言う事だった。慌てた正巳だったが、登録が終わらない事には動く事が出来ない。

 その後、数分してようやく『"告知――登録が正常に終わりました。これより、認識証カードの発行と治療を……――"』

 どうやら終わったらしかった。

 拘束が外れて行くのを確認した正巳は、未だに指先に刺さったままだった針を、手を引き抜く事で外した。そして、ファスの制止するのも聞かず、にゃん太を下がらせると扉を開いた。

 開いた扉の向こうには――

 頬を染め、視線を何処か呆けさせた状態のヒトミが居た。そんな様子に唖然としていた正巳だったが、椅子の上に足を乗せた女性――ミヤが正巳に気が付かづに言った。

「さぁ、貴方の企んでいる事、悪いと思いながらしてしまった事を、洗いざらい吐いてしまいなさい! 今までの事、そしてこれからしようとしていた事その全てです!」

 そう言ったミヤは、ヒトミの顎の下の方から頬、うなじへと指を滑らせていた。そんなミヤの指に、うっとりとした表情を浮かべていたヒトミが言った。

「……はぁい、私は正巳さんが昨日、みゃん太とお風呂に入っているのを少し覗いていました。少しイケナイとは思いましたが、おあいこだと思ったので……それと、正巳さんが女将さんの事をじっと見ている事に――」

 言葉を失っていた正巳だったが、自分の話が出て来て我に返った。

「目を覚ませ、ヒトミ!」

 そう言って部屋に入って行くと、ヒトミの頬を両手で挟むようにして叩いた。

『"ぺシッ!"』

 未だに呆けた表情をしているヒトミを見て、少し弱すぎたかも知れないと思った正巳だったが、ミヤに止められた。

「あの、正巳様……薬の効力が切れるまでは、何をしても戻りませんので」

「それじゃあ――」

「効果が切れれば、元に戻りますので心配ありません。それと、この尋問はプライベートな内容も含みますので、基本的には同姓が行う事となっていまして……」

 背筋を正したくなる様な、怖い笑顔を向けて来たミヤに『あ、ああ済まないな』と言った正巳は、大人しく外で待っていたファスの元へと戻って行った。

 視線を合わせようとしないファスを見た正巳は、言った。

「……何で止めてくれなかったんだ」

 正巳が何と言うか分かっていたかの様に、間を置かずに頭を下げたファスは小さく『申し訳ありません』と言った。

 その様子を見てため息を付いていた正巳だったが、ファスに『指先を……』と言われ、自分の指から血が滴っている事に、そこで初めて気が付いたのだった。

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