『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
254話 悪の華
「僕らのとっておきさ!」
瞳を輝かせて言った今井に、これは不味いと口を開いた。
「そうでしたね、コロンブスの卵作戦でした。それで――」
言葉を継いだつもりだったが、それで止まる機械狂いでは無かった。
「そう、それで……これがその機体さ!」
その言葉と同時に、半透明のホログラムが浮かび上がる。それを見て、征士は目を丸くしていた。これまで何度か目にしている筈だが、じっくり見るのはこれが初めてだったらしい。
征士の反応が嬉しかったのだろう、今井が続ける。
「通称"エッグスター"さ、何故エッグかと言うとね……ほらっ!」
言いながら指をフリックすると、丸みを帯びた機体がクルクルと回転し……止まった時には楕円状の球――卵型となっていた。これがこの機体の由来であり、強度が頭抜けている理由でもある。
「なるほど、これがエッグな理由か~!」
征士の反応に気を良くしたのだろう、今井が話を続ける。
「ふふふ、これだけじゃないよ。他にも、情報収集に特化した子とか、単独移動であれば世界最高速の超小型船空機とか、後は疑似力場を応用した空中拠点の――」
口頭での説明のみであればまだ良かったが、ホログラムを操作し始めたので慌てた。こう言っては何だが、情報の公開に関しては仲間に対してもある程度"制限"しているのだ。
情報を制限する理由は、最悪な事態を避ける為だ。幾つかパターンがあるが……中でも不味いのは、外部の人間に『子供達が"重要な情報"を持っている』と思われる事だろう。
なお、もし本当に重要情報を持っていて、それが外部に漏れれば輪をかけて困る事になる。一人で収まる問題では無く、守るべき国民の安全を脅かす"全員の命"の問題になり兼ねないのだ。
「ちょっと、ちょっと良いですかね」
「正巳くん?」
真っすぐ向けられる瞳は、黒目が綺麗で輝いて見えた。その瞳に思わず言葉を止めそうになったが、ここで引き下がる訳には行かない。
「ええ、少し宜しいですか」
「どうしたんだい?」
「……こちらへ」
「うん?」
席を立つと、少し離れた所まで行って話をした。
「――と言う事で、親父と綾香には情報を制限して貰いたいんです」
今井さんに話したのは、危惧している問題をそのままだ。
「確かに、外部から見た時、狙いやすい所を狙うだろうからね……うん。僕も賛成だよ。それに悪かったね、ついつい暴走しちゃって……」
何処となく寂しそうな雰囲気を感じる。今井さんらしくも無くどうしたのかと思ったが、そう言えば、最近今井さんと二人っきりで話をする事が無かったと思い出した。
忙しかったから"仕方がない"と言えばそうなのだが、聞き相手が居なかったせいで、発散したい欲求が溜まっていたのかも知れない。
何となく申し訳なくなって言った。
「その、今夜にでも良ければ話を聞きますよ」
何も考えずに言った正巳だったが、それに対して顔を赤らめた今井は、小さく頷いていた。
「も、戻っていてくれたまえ……!」
水を飲んで来ると言うので、それに頷くと席に戻った。
二人で席を立って、何か言われるのではないかと思ったが、その辺りはマムが上手い事していたらしい。浮かんでいるホログラムを見た一同は、そこにくぎ付けだった。
「これは、今回の作戦でも使用されましたが、ナノマシンを包んだ"繭"です」
正巳が戻ったのを見て、マムが視線を向けてくる。
それに頷くと、知っている事を話した。
「そうだな、これは一見ただの"包み"だが、投下するか射出するかによって形状も変わるんだ」
これも、今井さんに熱弁された情報だったが、これは既に公になった情報であって、各国の諜報機関が情報を得ていると報告を受けている。ここで話しても、特に問題はないだろう。
マムが頭を出して来たので、撫でてやる。
恐らく、今井さんとの会話を拾って、そこから"話しても問題なさそうな情報"を選択したのだろう。このマシンは、"極小細機の繭"と言って、目標地点までナノマシンを運ぶ為の機体だ。
最大の武器となる"情報"を得つつ、時に工作する小さな先兵なのだ。それを知ってか知らずか、征士のみでなく綾香とユミルも興味を持ったらしい。
「凄いですね、これ外側の繭も機械で出来ているみたいですよ~」
「本当ですね。これだけ小さいと、対策を取るのが大変そうです」
「ほうほう、凄く小さいんだねぇ~」
ミューはともかく、綾香とユミルもここ数か月、拠点で籠りっきりだった。外で起こっていた事に多少なり興味があるのかも知れない。何処かで息抜きをさせないとなと思っていると、思わぬ処から不満が上がった。
「マムだけずるいなの!」
自分も撫でろと言う事らしい。仕方ないので、サナと一緒にミューの事も撫でておいた。何となく、ミューは撫でて欲しい訳では無さそうな気もしたが、まぁ良いだろう。
そんなこんなしていると、途中で戻って来た今井さんに何故か『浮気者ー!』と言われてしまった。浮気も何も、何の心当たりも無い話だったが……。
「それも良いですが、座ってください」
「それも良いってどういう――あ、水ありがとう」
マムが渡した水を飲む今井と、それをチラチラと見ながら何も言わない征士に、何を言っても勘違いしか生まないと判断した。
「話が逸れたが、指揮官を含めた"幹部"を早い段階で捕らえたんだ」
「ああ、そこまでは理解したよ」
何故か嬉しそうな征士だったが、それにも反応すること無く続けた。
「その後は掃討戦だった。折角それまでの悪習を変えよう、よい国になろうって言うのに、悪い芽を残すわけには行かないからな。それこそ徹底的に――」
「パパ!」
話の途中だったが、マムが口を挟んだ。
こういう時のマムの行動は、決まってこちらを想っての事だ。おそらく今回は、このまま話を続けた場合話す事になる"内容"と、ここに居るメンバーを考えて口を挟んだのだろう。しかし――
マムの静止に首を振って返す。
「いや、これは知っておくべきだろう。綾香も、ミューに親父も……」
ここでユミルと今井を外したのは、言うまでもなく何をして来たのか、これから何をする事になるのかを知っているからだ。二人とも、温い道を歩いてる訳ではない。
正巳の言葉に頷いたマムだったが、"唇の端を噛む"と言う一種の意思表示をしていた。それは、まぎれもなく正巳の痛みに寄り添うという、マムの意思表示だった。
マムの想いに感謝しながら、言った。
「改めてだが、俺が進むのは綺麗な道と言うわけには行かない。ここまでもそうだったし、これからもそうだと思う。だからこそ、俺のした事はそれとして、しっかり知っていて欲しい」
それ、すなわち"非情"で"非道"な事を含んでいた。
正巳の言葉に、最初に反応したのはミューだった。珍しくむっとした様子で言う。
「全部教えて欲しいです」
「え……っと?」
どうやら、脊椎反射的に口にした言葉だったらしい。
苦笑した正巳に、恥ずかしそうにミューが俯いている。
そんな様子を見てか、綾香も頷いた。
「私もミューちゃんと同じ意見です。それに、私がどの家の出だかを忘れたんですか?」
胸を張って見せる綾香だったが、直後手を伸ばしたユミルに抱きしめられていた。
「良い子です、綾香はえらい子です~」
「ちょっとやめてちょうだい、ユミル」
恥ずかしそうな綾香と、それに構わずスリスリを止めないユミル。こうしていると、見た目こそ違うものの不思議と姉妹に見えてくる。
二人の様子に苦笑していると、少しばかり考え込んでいた征士が言った。
「そうだね、私も知っておきたいかな」
「親父……」
なんだかんだ言っても、正巳自身心の何処かでつっかえていたのだろう。その言葉を聞いて、自然と息が漏れた。そんな正巳を見てか、征士は続けた。
「ただ、私も日本人――戦争や紛争から守られ、暴力とは無縁の世界に生きて来たんだ。ひょっとすると、それが行動に出てしまうかも知れない」
父は、言わば"無菌室"のような場所で育ったと言っても良いだろう。それこそ、子供たちのどの子よりも耐性がないかも知れない。
頷いた正巳に、『あぁ、でもな……』と征士が言う。
「これだけは覚えておいて欲しいんだ」
その表情は優しく、夢で見た顔そのままだった。
「何があろうと私の自慢の息子だ」
こみ上げてくるものを感じたが、どうにか抑えると頷いた。
「ああ、忘れないさ」
その後、若干湿っぽくなってしまったが、どうにか体裁を繕うと続きを話す事にした。明るい話題では無かったが、耳を傾けてくれている以上最後まで話すつもりだった。
口を開くと話し始めた。
「それで、"悪い芽"って言うのは、そのまま――将来"悪の華"を咲かせる可能性のある人々の事なんだ。そこには子供も老人も関係なくて……――」
瞳を輝かせて言った今井に、これは不味いと口を開いた。
「そうでしたね、コロンブスの卵作戦でした。それで――」
言葉を継いだつもりだったが、それで止まる機械狂いでは無かった。
「そう、それで……これがその機体さ!」
その言葉と同時に、半透明のホログラムが浮かび上がる。それを見て、征士は目を丸くしていた。これまで何度か目にしている筈だが、じっくり見るのはこれが初めてだったらしい。
征士の反応が嬉しかったのだろう、今井が続ける。
「通称"エッグスター"さ、何故エッグかと言うとね……ほらっ!」
言いながら指をフリックすると、丸みを帯びた機体がクルクルと回転し……止まった時には楕円状の球――卵型となっていた。これがこの機体の由来であり、強度が頭抜けている理由でもある。
「なるほど、これがエッグな理由か~!」
征士の反応に気を良くしたのだろう、今井が話を続ける。
「ふふふ、これだけじゃないよ。他にも、情報収集に特化した子とか、単独移動であれば世界最高速の超小型船空機とか、後は疑似力場を応用した空中拠点の――」
口頭での説明のみであればまだ良かったが、ホログラムを操作し始めたので慌てた。こう言っては何だが、情報の公開に関しては仲間に対してもある程度"制限"しているのだ。
情報を制限する理由は、最悪な事態を避ける為だ。幾つかパターンがあるが……中でも不味いのは、外部の人間に『子供達が"重要な情報"を持っている』と思われる事だろう。
なお、もし本当に重要情報を持っていて、それが外部に漏れれば輪をかけて困る事になる。一人で収まる問題では無く、守るべき国民の安全を脅かす"全員の命"の問題になり兼ねないのだ。
「ちょっと、ちょっと良いですかね」
「正巳くん?」
真っすぐ向けられる瞳は、黒目が綺麗で輝いて見えた。その瞳に思わず言葉を止めそうになったが、ここで引き下がる訳には行かない。
「ええ、少し宜しいですか」
「どうしたんだい?」
「……こちらへ」
「うん?」
席を立つと、少し離れた所まで行って話をした。
「――と言う事で、親父と綾香には情報を制限して貰いたいんです」
今井さんに話したのは、危惧している問題をそのままだ。
「確かに、外部から見た時、狙いやすい所を狙うだろうからね……うん。僕も賛成だよ。それに悪かったね、ついつい暴走しちゃって……」
何処となく寂しそうな雰囲気を感じる。今井さんらしくも無くどうしたのかと思ったが、そう言えば、最近今井さんと二人っきりで話をする事が無かったと思い出した。
忙しかったから"仕方がない"と言えばそうなのだが、聞き相手が居なかったせいで、発散したい欲求が溜まっていたのかも知れない。
何となく申し訳なくなって言った。
「その、今夜にでも良ければ話を聞きますよ」
何も考えずに言った正巳だったが、それに対して顔を赤らめた今井は、小さく頷いていた。
「も、戻っていてくれたまえ……!」
水を飲んで来ると言うので、それに頷くと席に戻った。
二人で席を立って、何か言われるのではないかと思ったが、その辺りはマムが上手い事していたらしい。浮かんでいるホログラムを見た一同は、そこにくぎ付けだった。
「これは、今回の作戦でも使用されましたが、ナノマシンを包んだ"繭"です」
正巳が戻ったのを見て、マムが視線を向けてくる。
それに頷くと、知っている事を話した。
「そうだな、これは一見ただの"包み"だが、投下するか射出するかによって形状も変わるんだ」
これも、今井さんに熱弁された情報だったが、これは既に公になった情報であって、各国の諜報機関が情報を得ていると報告を受けている。ここで話しても、特に問題はないだろう。
マムが頭を出して来たので、撫でてやる。
恐らく、今井さんとの会話を拾って、そこから"話しても問題なさそうな情報"を選択したのだろう。このマシンは、"極小細機の繭"と言って、目標地点までナノマシンを運ぶ為の機体だ。
最大の武器となる"情報"を得つつ、時に工作する小さな先兵なのだ。それを知ってか知らずか、征士のみでなく綾香とユミルも興味を持ったらしい。
「凄いですね、これ外側の繭も機械で出来ているみたいですよ~」
「本当ですね。これだけ小さいと、対策を取るのが大変そうです」
「ほうほう、凄く小さいんだねぇ~」
ミューはともかく、綾香とユミルもここ数か月、拠点で籠りっきりだった。外で起こっていた事に多少なり興味があるのかも知れない。何処かで息抜きをさせないとなと思っていると、思わぬ処から不満が上がった。
「マムだけずるいなの!」
自分も撫でろと言う事らしい。仕方ないので、サナと一緒にミューの事も撫でておいた。何となく、ミューは撫でて欲しい訳では無さそうな気もしたが、まぁ良いだろう。
そんなこんなしていると、途中で戻って来た今井さんに何故か『浮気者ー!』と言われてしまった。浮気も何も、何の心当たりも無い話だったが……。
「それも良いですが、座ってください」
「それも良いってどういう――あ、水ありがとう」
マムが渡した水を飲む今井と、それをチラチラと見ながら何も言わない征士に、何を言っても勘違いしか生まないと判断した。
「話が逸れたが、指揮官を含めた"幹部"を早い段階で捕らえたんだ」
「ああ、そこまでは理解したよ」
何故か嬉しそうな征士だったが、それにも反応すること無く続けた。
「その後は掃討戦だった。折角それまでの悪習を変えよう、よい国になろうって言うのに、悪い芽を残すわけには行かないからな。それこそ徹底的に――」
「パパ!」
話の途中だったが、マムが口を挟んだ。
こういう時のマムの行動は、決まってこちらを想っての事だ。おそらく今回は、このまま話を続けた場合話す事になる"内容"と、ここに居るメンバーを考えて口を挟んだのだろう。しかし――
マムの静止に首を振って返す。
「いや、これは知っておくべきだろう。綾香も、ミューに親父も……」
ここでユミルと今井を外したのは、言うまでもなく何をして来たのか、これから何をする事になるのかを知っているからだ。二人とも、温い道を歩いてる訳ではない。
正巳の言葉に頷いたマムだったが、"唇の端を噛む"と言う一種の意思表示をしていた。それは、まぎれもなく正巳の痛みに寄り添うという、マムの意思表示だった。
マムの想いに感謝しながら、言った。
「改めてだが、俺が進むのは綺麗な道と言うわけには行かない。ここまでもそうだったし、これからもそうだと思う。だからこそ、俺のした事はそれとして、しっかり知っていて欲しい」
それ、すなわち"非情"で"非道"な事を含んでいた。
正巳の言葉に、最初に反応したのはミューだった。珍しくむっとした様子で言う。
「全部教えて欲しいです」
「え……っと?」
どうやら、脊椎反射的に口にした言葉だったらしい。
苦笑した正巳に、恥ずかしそうにミューが俯いている。
そんな様子を見てか、綾香も頷いた。
「私もミューちゃんと同じ意見です。それに、私がどの家の出だかを忘れたんですか?」
胸を張って見せる綾香だったが、直後手を伸ばしたユミルに抱きしめられていた。
「良い子です、綾香はえらい子です~」
「ちょっとやめてちょうだい、ユミル」
恥ずかしそうな綾香と、それに構わずスリスリを止めないユミル。こうしていると、見た目こそ違うものの不思議と姉妹に見えてくる。
二人の様子に苦笑していると、少しばかり考え込んでいた征士が言った。
「そうだね、私も知っておきたいかな」
「親父……」
なんだかんだ言っても、正巳自身心の何処かでつっかえていたのだろう。その言葉を聞いて、自然と息が漏れた。そんな正巳を見てか、征士は続けた。
「ただ、私も日本人――戦争や紛争から守られ、暴力とは無縁の世界に生きて来たんだ。ひょっとすると、それが行動に出てしまうかも知れない」
父は、言わば"無菌室"のような場所で育ったと言っても良いだろう。それこそ、子供たちのどの子よりも耐性がないかも知れない。
頷いた正巳に、『あぁ、でもな……』と征士が言う。
「これだけは覚えておいて欲しいんだ」
その表情は優しく、夢で見た顔そのままだった。
「何があろうと私の自慢の息子だ」
こみ上げてくるものを感じたが、どうにか抑えると頷いた。
「ああ、忘れないさ」
その後、若干湿っぽくなってしまったが、どうにか体裁を繕うと続きを話す事にした。明るい話題では無かったが、耳を傾けてくれている以上最後まで話すつもりだった。
口を開くと話し始めた。
「それで、"悪い芽"って言うのは、そのまま――将来"悪の華"を咲かせる可能性のある人々の事なんだ。そこには子供も老人も関係なくて……――」
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