『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
245話 シンプルな難問
何処からともなく生まれた拍手が、会場を包み込んでゆく……
つい数分前、正巳は最後の答弁を終えていた。最後の質問は、見知った顔――グルハ王国のアブドラ国王によるものだった。
アブドラの質問は『いつ開戦を決めたのか』と言う内容だったが、その質問には日本の東寺首相も頷いていた。首相自身も気になっていたのだろう。
それでも首相が自分で聞いてこなかったのは、日本という国としての立ち方から、あまり大々的に関わる――発言記録に残るのを、避けた為に違いない。
日本と言う国は過去、世界を巻き込んだ世界大戦に主体的に関わり、それに敗れた国だ。既に世紀を跨るほど時が経った今でも、その影響は大きく残っている。
勝戦国がまだ、"理性的"な戦後処理をする国だったから良かった。しかし、これがもしそうでなかったら、今頃今の形で"日本"と言う国があったかは分からない。
それこそ、国民が世界各地に散り、国家と言う体を保てなかった可能性すらある。
――必ず、勝たなくてはならない。
気を引き締めながらも、アブドラにはこう答えた。
「カイル氏と、ガムルスの民から要請を受けた時です」
実際は、何時と言う様な単純な話では無かったが……アブドラの質問の意図を考えた時、この答えで十分だった。その証拠に、質問したアブドラは渋い顔で頷くと座っていた。
そう、アブドラは自分がハゴロモへと訪れた時、既に宣戦布告するつもりだったのか――それを知りたかったのだ。
そして、それは日本の東寺首相も同じだったようで、同じく渋い顔をしていた。
――こうして最後の質問を終えた。
その前の質問には、『国際社会からの支援は必要としているのか』とか『軍隊も持たずにどう戦うんだ』とか『備蓄は足りているのか』等と言ったものが多かった。
一応、軍事的側面に於いての"実力"は、襲撃への対処映像でその一端を見せたと思うのだが……それでも、軍事大国ガムルスと生まれたばかりの弱小(と見える)国では、"後者が負ける"と言うのが大半の国の考えらしかった。
それ等質問が上がって来る度、サナとマムがムッとしていたが、正巳としてはこれら質問は全て、"喜ばしい事"だった。
――と言うのも、その内容が宣戦布告自体では無く、その先の事に焦点を当てた内容の為だった。これにより、目的であった"国際社会に対して正当性を訴える事"――が達成されたと確認が出来たのだ。
そんなこんなで質疑を終えた正巳達は再び、"仮"で用意された席へと戻っていた。
「これで、すべてのプログラムを終了します。全ての国家の繁栄と安寧を願い――」
司会者が閉会を宣言する間、マムからの案内を聞きながら予定を確認した。
「この後は世界各国の記者による取材があります。必ず仮面を付けて対応して下さい。――パパの顔を焼き付けられないのは非常に残念ですが、今後の行動のし易さを考えて……――」
どうやら、取材の際は仮面必須らしい。
正巳としても願ったりかなったりだったので、早速仮面は手に持っておいた。
「次に、ブラックが到着したタイミングでお伝えしますので、マムに付いて来てください」
……やはり、全翼機"ブラック"を寄こしていたらしい。まぁ、宣戦布告した後なのだ。
警戒するのは、当然とも言えるかも知れない。
ただ、このブラックという機体を持ち込む事で、制空権に関わる"抗議"を受ける気もするが……
正巳の心配を予測したのだろう、マムが言った。
「ちなみに、きちんと大統領名義で"許可"を得ているので、心配ありません」
……なんと、その辺りもきちんと対応していたらしい。流石と言うかなんというか、いつの間に手配したのだろうか。
マムに感心していた正巳だったが、司会者が挨拶を終えるのが見えた。
司会者が降壇すると、拍手がパラパラと生まれたが、正巳もそれに加わっていた。
「終わりなの?」
不思議そうにして言うサナに、頷きながら言った。
「そうだぞ。ほら、最後は拍手で終わるんだ」
「分かったなの!」
一生懸命拍手をし始めたサナを横目に、ミンやジロウに言った。
「この後取材が有るから、皆を連れて先に外で待っていてくれ。場所はマムが案内してくれるから、それに付いて行ってもらって……サナには、後ろにいて貰うけどな」
言いながら視線を向けると、其々が頷く。
本来であれば、カイルも一緒に対応した方が良いのだが、時間的関係からそういう訳にも行かない。
今回は、正巳が代表して対応する事になっていた。
その後拍手が収まって行くと、場内数か所に備えられた扉が開いた。
扉が開くと、パラパラと退場して人も見えたが、中には談笑している者もいた。
そして、その大半……少なくない数が、正巳に声を掛けようかどうしようかと迷った様な行動を取るも、結局は遠巻きに観察する事に落ち着かせていた。
「お疲れさまでした、国岡さん」
「東寺首相……」
先日拠点に来た時に、何故話さなかったのか――そう言われると思ったが、正巳の予想に反して言った。
「いえ、良いんです。支援したい内容ですから」
そう言った首相は、何処かスッキリした様子だった。しかし、それでも……
「ただ、少しくらいはヒントがあっても、構わなかったと思うんですがね」
そう言って、ハハハと笑った首相を見て"器が大きいな"と思った。
そんなこんなで、首相と話していた正巳だったが、そこに割り入って来た男がいた。
「我が友よ、やってくれたなぁ……我がいた間に、それとなく話しても良かったではないか!」
やはり、アブドラは独立の話しかしなかった事が、気に入らなかったらしい。少し興奮気味なアブドラを落ち着かせながら、言った。
「悪かったな。……だが、俺だけの話じゃないからな、次も同じことをするさ」
真っすぐ言う正巳に一瞬目を瞑って上を見たが、ため息を吐くと言った。
「ふむ、仕方ないな。許すわけじゃないが、同じ上に立つものとしての考えには同意する」
そして、少し恥ずかしげに仕切り直すと言った。
「まぁ、それはそれとしてだな……約束のネコを連れているから、後で受け取っておくのだぞ」
どうやら、以前受けた以来の"報酬"を持って来たらしい。いつの間にか、秘書ライラがアブドラの後ろに控えている。
そのライラが『私がご案内します』と言ったので、それに頷くとマムが応えた。
「私が対応しておきますね」
「ああ、頼むな」
正巳の言葉に頷いたマムは、スッとライラに近づくと報酬の受け取りの打合せを始めた。
その様子に、任せておいて大丈夫だと判断したのだろう、アブドラが言った。
「ふむ、それで今日はもう帰るのか?」
「のんびりしてられないからな」
正巳の言葉に、アブドラはそりゃあそうだなと頷く。
「うむ、落ち着いたら我を呼ぶが良いぞ」
「そうさせてもらうよ」
その後、横で話していた東寺首相とミン、テン、カイル達も話し終えたようだったので、サナ以外はマムに付いて行くようにと指示を出した。
サクヤは少し不満げだったが、一瞬だけ取材を受けて直ぐに向かうと言ったら、渋々だが従ってくれた。
気のせいか、ジロウの正巳に対しての態度が変わった気がしたが、一人前と認めてくれたのかも知れない。
こちらの話が終わったタイミングで、首相が言う。
「我々は先に失礼します。共同事業に関しては、今回の件での影響が考えられますので、その辺りはまた追ってご連絡を」
軽く手を交わした東寺首相が出口へと向かうのを見送ると、次はアブドラを見送る事となった。
マムは、アブドラ達から"報酬"を受け取る必要があったので、アブドラに付いて歩き始めた。
「何か困ったら言うんだぞ、我が友よ」
「そうだな、一番初めに頼る事にする」
サナ以外全員マムに付いて行くようにと、言っていたからだろう。マムの後に付いて行くマム達を見送った。
扉の向こうへと一同を見送った正巳は、マムから合図が来るのをサナと二人で待った。
――五分後。
『パパ、用意が整ったようなので向かって下さい』
マムの通信に反応して歩き出す。
「取材中、サナは周囲を確認しておいてくれ」
「分かったなの!」
「敵を捕まえても殺しちゃだめだぞ」
「大丈夫なの!」
「優しく動けないようにするんだぞ」
「……少し心配なの」
「……大丈夫だ、サナならやれる」
「きっと、多分なの」
サナと対処の確認をしていた正巳だったが、扉に着く頃には仮面を付けていた。
仮面を付けると、いつも通り組み込まれたシステムが起動して、仮面が顔を覆う。視界の端に矢印が出ると、マムのアナウンスが入った。
『パパ、こちらで取材が行われます』
通り過ぎる何人かに振り返られたが、気にせずに指示通りに移動する。
「よし、サナは周囲の索敵をしていてくれ」
すっかり、仕事モードに入っていたサナは頷くと、音も無く周囲の監視に入った。
正巳が移動したのは、会場を出てすぐ横の部屋だった。その部屋は、主に会見や会談に使われる部屋だったが、それ程長い時間取るつもりが無かった正巳は、立ったまま囲み取材を受ける事にした。
世界各国の記者達が集まっている中へ入って行くと、一斉に注目が集まるのを感じた。
視線が集まる中、入り口から少し入った場所まで歩いた正巳は、そこで止まった。
「お集まり頂きありがとうございます、私がハゴロモ代表の国岡正巳です。このまま質問を受けますので、質問があれば其々"一つ"質問をお願いします」
初め、その仮面に驚いてか固まっていたが、一人が一番前の場所を陣取ろうと動き出すと、一斉に動き始めた。その後、ポジション取りが終わった記者から、順番に質問に回答して行った。
初めの内は、何故かカメラのシャッターを切る記者が少なかったが、一人が撮り始めると一斉に取り始めた。その様子は、何となく"忘れていた"かのようだったが、同時に"驚いている"ようでもあった。
記者たちの質問は、どれも良く考えられた内容で、答えるのに数秒考える質問も少なくなかった。
そんな中、日本から来たと言う記者の質問は、非常にシンプル且つ答えるのが難しい質問だった。
その記者は、息を短く吸うと、少し上ずった声で言った。
「国を興す事になったきっかけを教えて下さい」
緊張した面持ちの記者に頷くと、どう答えたものかと悩んだ。しかし、少し時間をかけ過ぎたのか、記者が不安の表情を浮かべているのを見て言った。
「切っ掛けか……きっかけはだな――」
それは、考えたようで何も考えていない答えだったが、記者達が無言で筆を走らせるには十分すぎる"答え"だった。
記者からの最後の質問に答えた正巳は、マムからの『ブラックが到着、既に荷物も運び終えました』と言う通信に頷いた。
――始めるか、何もさせない戦争を。
つい数分前、正巳は最後の答弁を終えていた。最後の質問は、見知った顔――グルハ王国のアブドラ国王によるものだった。
アブドラの質問は『いつ開戦を決めたのか』と言う内容だったが、その質問には日本の東寺首相も頷いていた。首相自身も気になっていたのだろう。
それでも首相が自分で聞いてこなかったのは、日本という国としての立ち方から、あまり大々的に関わる――発言記録に残るのを、避けた為に違いない。
日本と言う国は過去、世界を巻き込んだ世界大戦に主体的に関わり、それに敗れた国だ。既に世紀を跨るほど時が経った今でも、その影響は大きく残っている。
勝戦国がまだ、"理性的"な戦後処理をする国だったから良かった。しかし、これがもしそうでなかったら、今頃今の形で"日本"と言う国があったかは分からない。
それこそ、国民が世界各地に散り、国家と言う体を保てなかった可能性すらある。
――必ず、勝たなくてはならない。
気を引き締めながらも、アブドラにはこう答えた。
「カイル氏と、ガムルスの民から要請を受けた時です」
実際は、何時と言う様な単純な話では無かったが……アブドラの質問の意図を考えた時、この答えで十分だった。その証拠に、質問したアブドラは渋い顔で頷くと座っていた。
そう、アブドラは自分がハゴロモへと訪れた時、既に宣戦布告するつもりだったのか――それを知りたかったのだ。
そして、それは日本の東寺首相も同じだったようで、同じく渋い顔をしていた。
――こうして最後の質問を終えた。
その前の質問には、『国際社会からの支援は必要としているのか』とか『軍隊も持たずにどう戦うんだ』とか『備蓄は足りているのか』等と言ったものが多かった。
一応、軍事的側面に於いての"実力"は、襲撃への対処映像でその一端を見せたと思うのだが……それでも、軍事大国ガムルスと生まれたばかりの弱小(と見える)国では、"後者が負ける"と言うのが大半の国の考えらしかった。
それ等質問が上がって来る度、サナとマムがムッとしていたが、正巳としてはこれら質問は全て、"喜ばしい事"だった。
――と言うのも、その内容が宣戦布告自体では無く、その先の事に焦点を当てた内容の為だった。これにより、目的であった"国際社会に対して正当性を訴える事"――が達成されたと確認が出来たのだ。
そんなこんなで質疑を終えた正巳達は再び、"仮"で用意された席へと戻っていた。
「これで、すべてのプログラムを終了します。全ての国家の繁栄と安寧を願い――」
司会者が閉会を宣言する間、マムからの案内を聞きながら予定を確認した。
「この後は世界各国の記者による取材があります。必ず仮面を付けて対応して下さい。――パパの顔を焼き付けられないのは非常に残念ですが、今後の行動のし易さを考えて……――」
どうやら、取材の際は仮面必須らしい。
正巳としても願ったりかなったりだったので、早速仮面は手に持っておいた。
「次に、ブラックが到着したタイミングでお伝えしますので、マムに付いて来てください」
……やはり、全翼機"ブラック"を寄こしていたらしい。まぁ、宣戦布告した後なのだ。
警戒するのは、当然とも言えるかも知れない。
ただ、このブラックという機体を持ち込む事で、制空権に関わる"抗議"を受ける気もするが……
正巳の心配を予測したのだろう、マムが言った。
「ちなみに、きちんと大統領名義で"許可"を得ているので、心配ありません」
……なんと、その辺りもきちんと対応していたらしい。流石と言うかなんというか、いつの間に手配したのだろうか。
マムに感心していた正巳だったが、司会者が挨拶を終えるのが見えた。
司会者が降壇すると、拍手がパラパラと生まれたが、正巳もそれに加わっていた。
「終わりなの?」
不思議そうにして言うサナに、頷きながら言った。
「そうだぞ。ほら、最後は拍手で終わるんだ」
「分かったなの!」
一生懸命拍手をし始めたサナを横目に、ミンやジロウに言った。
「この後取材が有るから、皆を連れて先に外で待っていてくれ。場所はマムが案内してくれるから、それに付いて行ってもらって……サナには、後ろにいて貰うけどな」
言いながら視線を向けると、其々が頷く。
本来であれば、カイルも一緒に対応した方が良いのだが、時間的関係からそういう訳にも行かない。
今回は、正巳が代表して対応する事になっていた。
その後拍手が収まって行くと、場内数か所に備えられた扉が開いた。
扉が開くと、パラパラと退場して人も見えたが、中には談笑している者もいた。
そして、その大半……少なくない数が、正巳に声を掛けようかどうしようかと迷った様な行動を取るも、結局は遠巻きに観察する事に落ち着かせていた。
「お疲れさまでした、国岡さん」
「東寺首相……」
先日拠点に来た時に、何故話さなかったのか――そう言われると思ったが、正巳の予想に反して言った。
「いえ、良いんです。支援したい内容ですから」
そう言った首相は、何処かスッキリした様子だった。しかし、それでも……
「ただ、少しくらいはヒントがあっても、構わなかったと思うんですがね」
そう言って、ハハハと笑った首相を見て"器が大きいな"と思った。
そんなこんなで、首相と話していた正巳だったが、そこに割り入って来た男がいた。
「我が友よ、やってくれたなぁ……我がいた間に、それとなく話しても良かったではないか!」
やはり、アブドラは独立の話しかしなかった事が、気に入らなかったらしい。少し興奮気味なアブドラを落ち着かせながら、言った。
「悪かったな。……だが、俺だけの話じゃないからな、次も同じことをするさ」
真っすぐ言う正巳に一瞬目を瞑って上を見たが、ため息を吐くと言った。
「ふむ、仕方ないな。許すわけじゃないが、同じ上に立つものとしての考えには同意する」
そして、少し恥ずかしげに仕切り直すと言った。
「まぁ、それはそれとしてだな……約束のネコを連れているから、後で受け取っておくのだぞ」
どうやら、以前受けた以来の"報酬"を持って来たらしい。いつの間にか、秘書ライラがアブドラの後ろに控えている。
そのライラが『私がご案内します』と言ったので、それに頷くとマムが応えた。
「私が対応しておきますね」
「ああ、頼むな」
正巳の言葉に頷いたマムは、スッとライラに近づくと報酬の受け取りの打合せを始めた。
その様子に、任せておいて大丈夫だと判断したのだろう、アブドラが言った。
「ふむ、それで今日はもう帰るのか?」
「のんびりしてられないからな」
正巳の言葉に、アブドラはそりゃあそうだなと頷く。
「うむ、落ち着いたら我を呼ぶが良いぞ」
「そうさせてもらうよ」
その後、横で話していた東寺首相とミン、テン、カイル達も話し終えたようだったので、サナ以外はマムに付いて行くようにと指示を出した。
サクヤは少し不満げだったが、一瞬だけ取材を受けて直ぐに向かうと言ったら、渋々だが従ってくれた。
気のせいか、ジロウの正巳に対しての態度が変わった気がしたが、一人前と認めてくれたのかも知れない。
こちらの話が終わったタイミングで、首相が言う。
「我々は先に失礼します。共同事業に関しては、今回の件での影響が考えられますので、その辺りはまた追ってご連絡を」
軽く手を交わした東寺首相が出口へと向かうのを見送ると、次はアブドラを見送る事となった。
マムは、アブドラ達から"報酬"を受け取る必要があったので、アブドラに付いて歩き始めた。
「何か困ったら言うんだぞ、我が友よ」
「そうだな、一番初めに頼る事にする」
サナ以外全員マムに付いて行くようにと、言っていたからだろう。マムの後に付いて行くマム達を見送った。
扉の向こうへと一同を見送った正巳は、マムから合図が来るのをサナと二人で待った。
――五分後。
『パパ、用意が整ったようなので向かって下さい』
マムの通信に反応して歩き出す。
「取材中、サナは周囲を確認しておいてくれ」
「分かったなの!」
「敵を捕まえても殺しちゃだめだぞ」
「大丈夫なの!」
「優しく動けないようにするんだぞ」
「……少し心配なの」
「……大丈夫だ、サナならやれる」
「きっと、多分なの」
サナと対処の確認をしていた正巳だったが、扉に着く頃には仮面を付けていた。
仮面を付けると、いつも通り組み込まれたシステムが起動して、仮面が顔を覆う。視界の端に矢印が出ると、マムのアナウンスが入った。
『パパ、こちらで取材が行われます』
通り過ぎる何人かに振り返られたが、気にせずに指示通りに移動する。
「よし、サナは周囲の索敵をしていてくれ」
すっかり、仕事モードに入っていたサナは頷くと、音も無く周囲の監視に入った。
正巳が移動したのは、会場を出てすぐ横の部屋だった。その部屋は、主に会見や会談に使われる部屋だったが、それ程長い時間取るつもりが無かった正巳は、立ったまま囲み取材を受ける事にした。
世界各国の記者達が集まっている中へ入って行くと、一斉に注目が集まるのを感じた。
視線が集まる中、入り口から少し入った場所まで歩いた正巳は、そこで止まった。
「お集まり頂きありがとうございます、私がハゴロモ代表の国岡正巳です。このまま質問を受けますので、質問があれば其々"一つ"質問をお願いします」
初め、その仮面に驚いてか固まっていたが、一人が一番前の場所を陣取ろうと動き出すと、一斉に動き始めた。その後、ポジション取りが終わった記者から、順番に質問に回答して行った。
初めの内は、何故かカメラのシャッターを切る記者が少なかったが、一人が撮り始めると一斉に取り始めた。その様子は、何となく"忘れていた"かのようだったが、同時に"驚いている"ようでもあった。
記者たちの質問は、どれも良く考えられた内容で、答えるのに数秒考える質問も少なくなかった。
そんな中、日本から来たと言う記者の質問は、非常にシンプル且つ答えるのが難しい質問だった。
その記者は、息を短く吸うと、少し上ずった声で言った。
「国を興す事になったきっかけを教えて下さい」
緊張した面持ちの記者に頷くと、どう答えたものかと悩んだ。しかし、少し時間をかけ過ぎたのか、記者が不安の表情を浮かべているのを見て言った。
「切っ掛けか……きっかけはだな――」
それは、考えたようで何も考えていない答えだったが、記者達が無言で筆を走らせるには十分すぎる"答え"だった。
記者からの最後の質問に答えた正巳は、マムからの『ブラックが到着、既に荷物も運び終えました』と言う通信に頷いた。
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