『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
237話 朝の報告
「よし、そろそろ時間だな。戻るか……」
そう言ってサナの手を引くと、満足げな様子で付いて来る。
「楽しかったなの!」
「そうだな、色々見て回る所があったな」
当初貨物室内のシェルターで過ごしていたのだが、途中でサナを連れて機内の探索に回ったのだ。
普通の飛行機に乗る事もそうそうないので、時間つぶし程度の感覚で出かけたのだが、これが中々良かったらしい。今度、機会があれば拠点に残っている子供達にも、経験させてあげたい。
因みに、カイルとジロウ、テンとミンとサクヤ達は、何事も無く機内のサービスと空の旅を楽しんでいたらしかった。途中でこっそりと様子を伺ったのだが、其々思いのままに寛いでいた。
そうなって来ると、可哀想なのはマムだったが……
「ふふふ、次の作品は"全米が泣く事間違いなし"ですね。その名も『再会した兄妹、禁断の出会いが生むハートフルストーリー』あとは、何処かで不足分の決め台詞を収録したい処ですね、ふふ……」
存外楽しんでいたらしいマムに声をかける。
「コケそうなコピーだな」
「あっ、おかえりなさいませ正巳様ぁお席温めておきましたぇ」
そう言って、座っていた席を立つと隣に移動している。どことなくしんなりとした仕草をしているマムを見て、ため息を吐いた。
「いや、温めるって……また変な所から情報を仕入れたな?」
そんな正巳に、若干不満げな様子でマムが言う。
「そんな事はありません。由緒正しい映画"お江戸のお市と火消しの佃五郎"の中で、命がけの火消しを終えた佃五郎を、お市が迎えた時にかけた言葉です。感動した佃五郎はお市に愛を誓い、二人は更に仲良く――」
どうやら、寂しかったらしい。マムがおかしくなる事は無いと思うが、これ以上変な拗らせ方をされると、この後に影響が出て来る。
「ありがとうな、大丈夫だよ。マムは誰かの真似なんかしなくても十分魅力的だ」
魅力的というのは少し違う気がしたが、正巳にとってマムは唯一無二だ。常に心を向けている存在である事も間違いないだろうし、頼りにもしている。
「ふふっ、これで全部のデータが揃いました」
満足げな表情をしているマムを見て(ろくでもない事を考えていないと良いが……)と思ったが、いつまでもその話をしていても仕方がない。席に着くと、サナを隣に座らせた。
一番窓際に座ったサナが、楽しそうに外を眺め始めたのを確認して言った。
「さて、もう三十分ほどで到着するが、何か報告はあるか?」
これは、毎日行っている朝の定時報告(緊急以外の事をまとめて受ける報告)だったが、どうやら何かしらの報告事項があったらしい。変な演技を止め、普段通りになったマムが頷いた。
「緊急度の高いものから報告します。先ず、並行して動かしていたダミー部隊ですが、ガムルスの戦闘機による攻撃がありました」
ダミー部隊、正巳達が移動する際のカモフラージュに使ったものだ。速さで考えると、一般旅客機など使わずに自分の所の戦闘機を使った方が早い。
しかし、戦闘機で目的地であるスイスへ向かうのには少々問題がある為、せめて行きだけは一般機で向かう事にしていたのだ。
どうやら、ガムルスも一応予測していたらしく、一般機の中にも潜入した工作員がいた。しかし、その数は一名(恐らくはそれなりの手練れだったのだろうが)だった。
確かに、普通に考えれば命を狙われている者が、のんきに一般機(しかも、貸し切りではない)に乗るなどとは考えないだろう。
諸々の結果として、正巳達が出発した後放たれたマム操縦による"ダミー部隊"に、まんまと引っ掛かったらしかった。マムの報告に、頷きながらも先を促す。
「そうか。それで、ダミー機体及び襲撃者はどうした?」
正巳の問いに頷いたマムが答える。
「ハゴロモの機体は、一機撃墜させ、他三機は帰還済みです。襲撃機は、操縦者を強制脱出させた後に拠点にて回収しました」
なるほど、撃墜させたと言うのは、敢えてそれを許したのだろう。幾つか理由は考えられるが、その大きな理由は"油断"と"侮り"を与える為に違いない。しかし、疑問が残る。
「それで、指令本部にはどんな報告を入れたんだ?」
そう、撃墜の通信をそのまま許したであろう事は想像がつく。しかし、その後三機を撃ち漏らし、あげく自国の戦闘機を奪われたのだ。
操縦者達の代わりに、マムが敵指令へと報告を入れた事は間違いないと思うが、問題なのはその内容だった。
正巳の疑問にマムが答える。
「ただ『任務完了、帰途に就く』――と」
その答えを聞いて、なるほどと唸る事になった。
「撃墜報告に次いで任務達成報告。そして、帰還通達か……上手い事やったな」
これで、多少の混乱と対策会議、対応の検討と捜索の実施不実施、それ等で時間が稼げるだろう。強制脱出させた操縦者に関しても、下は海だ。上手い事すれば生き残れるはずだ。
ガムルス兵が通常装備しているビーコン(GPS機能を持った戦略装備)は、マムによってその機能を制限されているだろうが、全てが終わったタイミングで拾いにでも行けばよい。
正巳に褒められたせいだろう。嬉しそうな顔をしているマムを見て、もう一つ聞いた。
「それで、襲撃して来た戦闘機を回収したのは?」
「それは、マスターが"欲しい"って言われたので!」
まぁ、予測できた――と言うよりは、それしかないだろうと思ってはいたが……どうやら、今井さんがおもちゃにする為に持って帰ったらしい。
(……まぁ、被害の手当てと考えれば良いか)
「他の報告も頼む」
正巳が促すと楽しそうにマムが口を開く。
前から思ってはいたが、マムは会話している最中は大抵が楽しそうだ。
「はい! 次は道尊寺重三――前国防大臣にて不届き者の代表ですが、"ホテル"によって身柄の拘束がされました。慣例通り"更生施設"へと送られるようですが、父子揃って同じ施設で過ごすと言う事です」
(……遂に捕まえたか)
「そうか、まさか親子で同じ施設に入れるとは思わなかったが、何か考えがあるんだろうな」
道尊寺重三、国内に於いて奴隷コミュニティのようなものを形成していた中心人物の一人だ。今井さんの両親が亡くなる原因ともなった男でもあり、個人的に良い感情を抱く事が全くない男でもある。
若干語気の強くなった正巳だったが、マムは冷静なまま答えた。
「どうやら、息子の診断で"親子関係の歪み"が遠因にあると診断されたらしく、その改善を図るようです。因みに、父親の重三も息子生方と同様に、"去勢"が施されるという事でした」
(……なるほど、更生施設と言うだけの事はあるな)
去勢された程度では、大した罰にはならないと思うが、それでも最初の罰としては妥当な所だろう。息子に性犯罪の余罪が腐るほどあったように、その父親はそれ以上にあるのだろうから……
段々と黒い感情が生まれ始めていたので、そこで一度一息つく事にした正巳は、隣に置かれていたグラスを口に付けた。グラスには、ワインらしきものが入れられていたが、酔う事のない正巳にとっては水も同然だ。
「……中々美味いな」
まろやかな口当たりと、のどを潤す滑らかな液体。一応、ハク爺や先輩に付き合って酒を飲む機会もあったが、その中でもこのワインは中々好きな方だ。
一息に飲んでしまった正巳に、マムが言った。
「もっと用意しましょうか?」
まるで自分が用意するとでも言うかのようなマムに、若干嫌な予感がした。
「いや大丈夫だ。それより、到着するまでの間に他の事を確認しておきたい」
「分かりました。次は、以前より進めている新拠点に関する内容ですが――……」
その後、マムによって報告が延々とされていった。
幾つか挙げると、新拠点の為に割いていたリソースを食糧生産工場増設へ回した件、核融合炉の小型化成功の件、最近発見した"新物質"について、"放射剥奪"を起こす装置の開発状況などについて聞いていた。
どうやら、放射剥奪――つまり、放射性物質を非放射性へと変異させる装置は、初期の設計ではとてつもなくでかくなっているらしく、それを現在改良して小さくしていると言う事だった。
"新物質"は、放射剥奪に使用する物質ではあったが、どうやらこれ自体を一つの"動力源"として活用する事を考えているらしかった。
話を聞いていても、表面的な内容しか理解できなかった為、他に報告が無い事を確認して言った。
「一つ間違えば危険な内容ばかりだと思うが、信用しているぞ。もし、今井さんが暴走しそうになっても、マムなら止めてくれると信用しているからな、安心だよ……」
あまりにも分かり易い予防線だったが、正巳の言葉を聞いたマムはフリーズしていた。
「マム?」
どうしたのかと心配になった正巳だったが、ゆっくりとそして、何故か合わせようとしない視線をさまよわせたマムが言った。
「……そのように善処していきたいと思う所存です」
明らかに何かやった後の反応だったが、重要なイベントの前に心を動揺させるのは勘弁願いたかった。その為、ため息を吐きながらも一言だけ言った。
「最悪国全体にとって、マイナスじゃなきゃ良いさ」
それ迄挙動不審だったが、正巳の言葉を聞いたマムは胸を張って応えた。
「大丈夫です。いづれ必要となる事ですので!」
マムの答えを聞いてそれが何なのか更に気になったが、今は意識外に置いておく事にした。
「ふぅ……そろそろ着陸だな」
「お兄ちゃん、山なの!」
見え始めた景色に反応しているサナに頷きながらも、機内アナウンスに従って、着陸の準備を始めていた。窓から見える山々は、サナと一緒に行った紛争地帯を思い起こさせた。
「全て済んだら、迎えに行かないとな……」
それは、その紛争地域で親を亡くした子供や、奴隷とされていた人々との約束だった。
一応、生きていけるだけの知識を与えて来たが、もし自立している状況でも尚一緒に来たいと言うのであれば、迎えるしかないだろう。
改めて気合いを入れ直した正巳は、高度を落としてして行く飛行機の中、瞑想に入っていた。
そう言ってサナの手を引くと、満足げな様子で付いて来る。
「楽しかったなの!」
「そうだな、色々見て回る所があったな」
当初貨物室内のシェルターで過ごしていたのだが、途中でサナを連れて機内の探索に回ったのだ。
普通の飛行機に乗る事もそうそうないので、時間つぶし程度の感覚で出かけたのだが、これが中々良かったらしい。今度、機会があれば拠点に残っている子供達にも、経験させてあげたい。
因みに、カイルとジロウ、テンとミンとサクヤ達は、何事も無く機内のサービスと空の旅を楽しんでいたらしかった。途中でこっそりと様子を伺ったのだが、其々思いのままに寛いでいた。
そうなって来ると、可哀想なのはマムだったが……
「ふふふ、次の作品は"全米が泣く事間違いなし"ですね。その名も『再会した兄妹、禁断の出会いが生むハートフルストーリー』あとは、何処かで不足分の決め台詞を収録したい処ですね、ふふ……」
存外楽しんでいたらしいマムに声をかける。
「コケそうなコピーだな」
「あっ、おかえりなさいませ正巳様ぁお席温めておきましたぇ」
そう言って、座っていた席を立つと隣に移動している。どことなくしんなりとした仕草をしているマムを見て、ため息を吐いた。
「いや、温めるって……また変な所から情報を仕入れたな?」
そんな正巳に、若干不満げな様子でマムが言う。
「そんな事はありません。由緒正しい映画"お江戸のお市と火消しの佃五郎"の中で、命がけの火消しを終えた佃五郎を、お市が迎えた時にかけた言葉です。感動した佃五郎はお市に愛を誓い、二人は更に仲良く――」
どうやら、寂しかったらしい。マムがおかしくなる事は無いと思うが、これ以上変な拗らせ方をされると、この後に影響が出て来る。
「ありがとうな、大丈夫だよ。マムは誰かの真似なんかしなくても十分魅力的だ」
魅力的というのは少し違う気がしたが、正巳にとってマムは唯一無二だ。常に心を向けている存在である事も間違いないだろうし、頼りにもしている。
「ふふっ、これで全部のデータが揃いました」
満足げな表情をしているマムを見て(ろくでもない事を考えていないと良いが……)と思ったが、いつまでもその話をしていても仕方がない。席に着くと、サナを隣に座らせた。
一番窓際に座ったサナが、楽しそうに外を眺め始めたのを確認して言った。
「さて、もう三十分ほどで到着するが、何か報告はあるか?」
これは、毎日行っている朝の定時報告(緊急以外の事をまとめて受ける報告)だったが、どうやら何かしらの報告事項があったらしい。変な演技を止め、普段通りになったマムが頷いた。
「緊急度の高いものから報告します。先ず、並行して動かしていたダミー部隊ですが、ガムルスの戦闘機による攻撃がありました」
ダミー部隊、正巳達が移動する際のカモフラージュに使ったものだ。速さで考えると、一般旅客機など使わずに自分の所の戦闘機を使った方が早い。
しかし、戦闘機で目的地であるスイスへ向かうのには少々問題がある為、せめて行きだけは一般機で向かう事にしていたのだ。
どうやら、ガムルスも一応予測していたらしく、一般機の中にも潜入した工作員がいた。しかし、その数は一名(恐らくはそれなりの手練れだったのだろうが)だった。
確かに、普通に考えれば命を狙われている者が、のんきに一般機(しかも、貸し切りではない)に乗るなどとは考えないだろう。
諸々の結果として、正巳達が出発した後放たれたマム操縦による"ダミー部隊"に、まんまと引っ掛かったらしかった。マムの報告に、頷きながらも先を促す。
「そうか。それで、ダミー機体及び襲撃者はどうした?」
正巳の問いに頷いたマムが答える。
「ハゴロモの機体は、一機撃墜させ、他三機は帰還済みです。襲撃機は、操縦者を強制脱出させた後に拠点にて回収しました」
なるほど、撃墜させたと言うのは、敢えてそれを許したのだろう。幾つか理由は考えられるが、その大きな理由は"油断"と"侮り"を与える為に違いない。しかし、疑問が残る。
「それで、指令本部にはどんな報告を入れたんだ?」
そう、撃墜の通信をそのまま許したであろう事は想像がつく。しかし、その後三機を撃ち漏らし、あげく自国の戦闘機を奪われたのだ。
操縦者達の代わりに、マムが敵指令へと報告を入れた事は間違いないと思うが、問題なのはその内容だった。
正巳の疑問にマムが答える。
「ただ『任務完了、帰途に就く』――と」
その答えを聞いて、なるほどと唸る事になった。
「撃墜報告に次いで任務達成報告。そして、帰還通達か……上手い事やったな」
これで、多少の混乱と対策会議、対応の検討と捜索の実施不実施、それ等で時間が稼げるだろう。強制脱出させた操縦者に関しても、下は海だ。上手い事すれば生き残れるはずだ。
ガムルス兵が通常装備しているビーコン(GPS機能を持った戦略装備)は、マムによってその機能を制限されているだろうが、全てが終わったタイミングで拾いにでも行けばよい。
正巳に褒められたせいだろう。嬉しそうな顔をしているマムを見て、もう一つ聞いた。
「それで、襲撃して来た戦闘機を回収したのは?」
「それは、マスターが"欲しい"って言われたので!」
まぁ、予測できた――と言うよりは、それしかないだろうと思ってはいたが……どうやら、今井さんがおもちゃにする為に持って帰ったらしい。
(……まぁ、被害の手当てと考えれば良いか)
「他の報告も頼む」
正巳が促すと楽しそうにマムが口を開く。
前から思ってはいたが、マムは会話している最中は大抵が楽しそうだ。
「はい! 次は道尊寺重三――前国防大臣にて不届き者の代表ですが、"ホテル"によって身柄の拘束がされました。慣例通り"更生施設"へと送られるようですが、父子揃って同じ施設で過ごすと言う事です」
(……遂に捕まえたか)
「そうか、まさか親子で同じ施設に入れるとは思わなかったが、何か考えがあるんだろうな」
道尊寺重三、国内に於いて奴隷コミュニティのようなものを形成していた中心人物の一人だ。今井さんの両親が亡くなる原因ともなった男でもあり、個人的に良い感情を抱く事が全くない男でもある。
若干語気の強くなった正巳だったが、マムは冷静なまま答えた。
「どうやら、息子の診断で"親子関係の歪み"が遠因にあると診断されたらしく、その改善を図るようです。因みに、父親の重三も息子生方と同様に、"去勢"が施されるという事でした」
(……なるほど、更生施設と言うだけの事はあるな)
去勢された程度では、大した罰にはならないと思うが、それでも最初の罰としては妥当な所だろう。息子に性犯罪の余罪が腐るほどあったように、その父親はそれ以上にあるのだろうから……
段々と黒い感情が生まれ始めていたので、そこで一度一息つく事にした正巳は、隣に置かれていたグラスを口に付けた。グラスには、ワインらしきものが入れられていたが、酔う事のない正巳にとっては水も同然だ。
「……中々美味いな」
まろやかな口当たりと、のどを潤す滑らかな液体。一応、ハク爺や先輩に付き合って酒を飲む機会もあったが、その中でもこのワインは中々好きな方だ。
一息に飲んでしまった正巳に、マムが言った。
「もっと用意しましょうか?」
まるで自分が用意するとでも言うかのようなマムに、若干嫌な予感がした。
「いや大丈夫だ。それより、到着するまでの間に他の事を確認しておきたい」
「分かりました。次は、以前より進めている新拠点に関する内容ですが――……」
その後、マムによって報告が延々とされていった。
幾つか挙げると、新拠点の為に割いていたリソースを食糧生産工場増設へ回した件、核融合炉の小型化成功の件、最近発見した"新物質"について、"放射剥奪"を起こす装置の開発状況などについて聞いていた。
どうやら、放射剥奪――つまり、放射性物質を非放射性へと変異させる装置は、初期の設計ではとてつもなくでかくなっているらしく、それを現在改良して小さくしていると言う事だった。
"新物質"は、放射剥奪に使用する物質ではあったが、どうやらこれ自体を一つの"動力源"として活用する事を考えているらしかった。
話を聞いていても、表面的な内容しか理解できなかった為、他に報告が無い事を確認して言った。
「一つ間違えば危険な内容ばかりだと思うが、信用しているぞ。もし、今井さんが暴走しそうになっても、マムなら止めてくれると信用しているからな、安心だよ……」
あまりにも分かり易い予防線だったが、正巳の言葉を聞いたマムはフリーズしていた。
「マム?」
どうしたのかと心配になった正巳だったが、ゆっくりとそして、何故か合わせようとしない視線をさまよわせたマムが言った。
「……そのように善処していきたいと思う所存です」
明らかに何かやった後の反応だったが、重要なイベントの前に心を動揺させるのは勘弁願いたかった。その為、ため息を吐きながらも一言だけ言った。
「最悪国全体にとって、マイナスじゃなきゃ良いさ」
それ迄挙動不審だったが、正巳の言葉を聞いたマムは胸を張って応えた。
「大丈夫です。いづれ必要となる事ですので!」
マムの答えを聞いてそれが何なのか更に気になったが、今は意識外に置いておく事にした。
「ふぅ……そろそろ着陸だな」
「お兄ちゃん、山なの!」
見え始めた景色に反応しているサナに頷きながらも、機内アナウンスに従って、着陸の準備を始めていた。窓から見える山々は、サナと一緒に行った紛争地帯を思い起こさせた。
「全て済んだら、迎えに行かないとな……」
それは、その紛争地域で親を亡くした子供や、奴隷とされていた人々との約束だった。
一応、生きていけるだけの知識を与えて来たが、もし自立している状況でも尚一緒に来たいと言うのであれば、迎えるしかないだろう。
改めて気合いを入れ直した正巳は、高度を落としてして行く飛行機の中、瞑想に入っていた。
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