『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
231話 一つ目の案
『国民を人質に取るだろう』
――これは、飽くまでも予想だ。
当然だが、外れた方が良いに決まっている。
しかし、マムにのシミュレーションによると、高確率での予想結果が出ている。これは、ガムルスの指導者層を"行動予測"したもので、シミュレートの精度自体も正巳の信頼しているところだ。
ともかく、その予測した結果を共有した正巳だったが……
どうやら、カイル及び革命軍の面々は、国民が人質に取られる理由に自分達が大きく関係していると知って、ショックを受けたらしかった。
普通に考えると、そもそも根本からして可笑しい――普通は自国民を人質にするなどと言う発想が出るはずがないだろう――が……
それでも、革命軍の目的が"国民の救済"である事と、ガムルス国内では既に実質的奴隷制度が敷かれている事を考えれば、それが当然の流れであるかのように思えてしまう。
難しい顔をしている面々を見ながら、口を開いた。
「先に話した通り、これは、ガムルスのあらゆる"手"を封じて行った"先"に予想される事です。ですから、今直ぐにどうこうと言う話ではありません」
そう、これは飽くまで締め付けをして行った先に、高確率で起こるであろう事だ。正巳の言葉を受けて、革命軍の男が言う。
「それと言う事は、この先そうならない手段を選ぶのですか?」
すがるような表情で言ってくるが、視点が少し違う。
「いや、そういう訳ではない」
「それでは……」
暗い表情へと変わって行くのを見て、慌てて説明した。
「手段をどうこうと言う"予防"をするのではなく、そうならない為の解決をするんだ」
そう言った正巳はそこで言葉を止めると、全員の注目が集まるのを待って言った。
「これは"戦略の柱"と言える内容だが、ここで同盟としての方針を定めたい」
「方針と言うと?」
カイルの言葉に答えながらも、全体に言う。
「開戦後の方針の事だが、勿論前提としての最終目的は、政権の奪還及び健全化だろう。しかし、先程から話している通り、その過程に於いてある意味"被害者"とも言える国民が、意図せずして害される可能性がある」
……もし無事事が済んでも、その後に国民の屍が広がるような事があってはならないだろう。
其々が頷いているのを確認する。
「それでだ、今回同盟としての方針案を二つ考えた」
正巳がそう言ってマムへ視線をやると、マムが頷く。
「一つ目の案は、開戦後国民を最優先で保護する事だ。これは、戦闘行為を行わずにあらゆる手段で国民を保護すると言う事だ。周辺国の協力と、それに伴う幾つかの必要が出て来るだろう」
正巳が言い終えると、ジロウが質問して来た。
「なあ、その場合面倒が腐るほどあると思うんだけどな、中でも"都心"の奴らはどうするんだ?」
流石、良い視点を持っている。
「そうだな、確かに都心はより保護するのが難しいだろうな。それに関しては、今はまだ用意できていないが……専用の機体がある」
正巳自身、実際に目にしたわけではない為、何となく曖昧な言い方になる。それを感じ取ったのか、ジロウが眉をひそめながら疑問を口にした。
「機体?」
ジロウの言葉に説明しようとした正巳だったが、実際に見てもらう事にした。
「ああ、これがその機体だ――マム」
正巳の言葉に、背後で用意していたマムがその全容を表示した。
空中に投影されたのは、大型の移動型収容機体だった。正巳自身初めて見るが、その外観は大きな亀の甲羅と言う感じであり、何となく未確認生命体が乗っていそうな外観をしていた。
「僕から説明させて貰うね」
今井さんが喜色を浮かべて立ち上がったので、苦笑しながら『ほどほどにお願いします』と言うと、まるでため込んでいたエネルギーを吐き出すかのようにして説明を始めた。
「これはね、便宜上"大型保護機"と呼ぶけど、正式には"飛行式住環境保護機体"と言うんだ。その名の通り、本来は海中であったり空中であったりを中心に生活を保護する目的で設計されているんだ」
……なるほど。
「それでだね、海中は深海八千メートルまでは耐久を確保できて、上空に於いては宇宙空間での使用も考慮しているんだ。耐久面に於いては、火山地帯での移動も計算されていて、マグマの中でも十数分であれば影響が出ないようになっているんだ!」
……なるほど、確かに凄いが今必要な説明だろうか。
「今井部長。あの、それで今回の作戦に影響する点は……?」
流石先輩、上手い事軌道修正に入ってくれた。
「あぁそうだったね。外殻は戦車の装甲の十倍以上――爆撃を受けても問題ない強度だね。これを確保しているし、移動する際は高高度を移動できるんだ。一度に乗る人数は五百人を想定しているけれど、多少狭くても良いなら七百人は乗るね」
大型の旅客機が、確か八百席の座席を提供していた筈だから、それに比べると少し小さいくらいだろうか。それでも、性能とその有益性を考えると素晴らしいものがある。
「それでだね、この機体の良い所は、後から機能を追加して行けるところで――……」
その後、少しの間今井さんのプレゼンテーションが続いたが、切りの良い所で入った。
「――と言う事で、一つ目の案である"国民の保護"を優先させる場合、この機体を使う事になる。しかし、生憎まだこれから生産する事になる為、一機生産するのには早くても一か月ほど掛かると言う事なんだ」
そう言って、今井さんに『そうですよね?』と言うと、少しむくれた様子で頷いていた。
恐らく今井さんは、まだまだ説明したい事ああったのだろう。しかし、それに付き合っていると、それこそ時間がいくらあっても足りなくなる。
今井さんには後でフォローを入れる事にして続けようとすると、ハク爺が言った。
「ふむ、と言う事はワシらはその期間、難しい立ち位置に居る事になるのかのぅ」
ハク爺の言葉に、サクヤが言う。
「む、父さんが大人しくするなんて珍しい」
「何じゃと、ワシは別に――」
抗議しようとしたハク爺にジロウが言う。
「何言ってんだよ、この前なんか後続部隊と合流するまでは攻勢には出ない』って言ったのに、気がついたら一人で突っ込んでいたじゃねえか」
ジロウの言葉を受け、ハク爺は何かを言おうとしていたが結局口をへの字にして俯いていた。ハク爺の事だ、恐らく『状況は変わるんじゃ』とか言う事だろう。
咳ばらいをして言う。
「ともかくだ。生産が終わるまでにひと月、最低でもこの期間は派手に動けない事になる。それに、短期間での実施を考えると、最低でも十機は欲しい処だろう……」
「それは、つまり約一年は派手に動けないって事か?」
ジロウの言葉に何となくハク爺が重なる。
なんだかんだ言っても、似ていると思う。
「そういう事になるな。ただ、生産速度自体は上がるだろうから、一年とはならないだろうが……まぁ少なくとも半年は難しい立ち回りが必要だろうな」
正巳がそう言うと、主に実践担当のメンバーは嫌そうな顔をしていた。
「裏でチマチマ……面倒」
「何方かと言うと、高い戦闘力による制圧が得意だからな」
サクヤとジロウの呟きに、ハク爺が頭を掻く。
「うむ、もう少しバランスよく教えるべきだたかのぅ」
ハク爺に苦笑した後、ユミルへと視線をやった。プロで傭兵をやっていたユミルの事だ、どんな反応をするのか気になったのだが……
「得手不得手ありませんので、必要であれば何なりと」
流石ユミルだ、何でもござれらしい。
「そうだな。まぁもう一方の案も――」
全体に向けて、『もう一方の案も有るから、それも併せて検討して欲しい』――そう言おうとした正巳だったが、そこで声を上げた者がいた。
――これは、飽くまでも予想だ。
当然だが、外れた方が良いに決まっている。
しかし、マムにのシミュレーションによると、高確率での予想結果が出ている。これは、ガムルスの指導者層を"行動予測"したもので、シミュレートの精度自体も正巳の信頼しているところだ。
ともかく、その予測した結果を共有した正巳だったが……
どうやら、カイル及び革命軍の面々は、国民が人質に取られる理由に自分達が大きく関係していると知って、ショックを受けたらしかった。
普通に考えると、そもそも根本からして可笑しい――普通は自国民を人質にするなどと言う発想が出るはずがないだろう――が……
それでも、革命軍の目的が"国民の救済"である事と、ガムルス国内では既に実質的奴隷制度が敷かれている事を考えれば、それが当然の流れであるかのように思えてしまう。
難しい顔をしている面々を見ながら、口を開いた。
「先に話した通り、これは、ガムルスのあらゆる"手"を封じて行った"先"に予想される事です。ですから、今直ぐにどうこうと言う話ではありません」
そう、これは飽くまで締め付けをして行った先に、高確率で起こるであろう事だ。正巳の言葉を受けて、革命軍の男が言う。
「それと言う事は、この先そうならない手段を選ぶのですか?」
すがるような表情で言ってくるが、視点が少し違う。
「いや、そういう訳ではない」
「それでは……」
暗い表情へと変わって行くのを見て、慌てて説明した。
「手段をどうこうと言う"予防"をするのではなく、そうならない為の解決をするんだ」
そう言った正巳はそこで言葉を止めると、全員の注目が集まるのを待って言った。
「これは"戦略の柱"と言える内容だが、ここで同盟としての方針を定めたい」
「方針と言うと?」
カイルの言葉に答えながらも、全体に言う。
「開戦後の方針の事だが、勿論前提としての最終目的は、政権の奪還及び健全化だろう。しかし、先程から話している通り、その過程に於いてある意味"被害者"とも言える国民が、意図せずして害される可能性がある」
……もし無事事が済んでも、その後に国民の屍が広がるような事があってはならないだろう。
其々が頷いているのを確認する。
「それでだ、今回同盟としての方針案を二つ考えた」
正巳がそう言ってマムへ視線をやると、マムが頷く。
「一つ目の案は、開戦後国民を最優先で保護する事だ。これは、戦闘行為を行わずにあらゆる手段で国民を保護すると言う事だ。周辺国の協力と、それに伴う幾つかの必要が出て来るだろう」
正巳が言い終えると、ジロウが質問して来た。
「なあ、その場合面倒が腐るほどあると思うんだけどな、中でも"都心"の奴らはどうするんだ?」
流石、良い視点を持っている。
「そうだな、確かに都心はより保護するのが難しいだろうな。それに関しては、今はまだ用意できていないが……専用の機体がある」
正巳自身、実際に目にしたわけではない為、何となく曖昧な言い方になる。それを感じ取ったのか、ジロウが眉をひそめながら疑問を口にした。
「機体?」
ジロウの言葉に説明しようとした正巳だったが、実際に見てもらう事にした。
「ああ、これがその機体だ――マム」
正巳の言葉に、背後で用意していたマムがその全容を表示した。
空中に投影されたのは、大型の移動型収容機体だった。正巳自身初めて見るが、その外観は大きな亀の甲羅と言う感じであり、何となく未確認生命体が乗っていそうな外観をしていた。
「僕から説明させて貰うね」
今井さんが喜色を浮かべて立ち上がったので、苦笑しながら『ほどほどにお願いします』と言うと、まるでため込んでいたエネルギーを吐き出すかのようにして説明を始めた。
「これはね、便宜上"大型保護機"と呼ぶけど、正式には"飛行式住環境保護機体"と言うんだ。その名の通り、本来は海中であったり空中であったりを中心に生活を保護する目的で設計されているんだ」
……なるほど。
「それでだね、海中は深海八千メートルまでは耐久を確保できて、上空に於いては宇宙空間での使用も考慮しているんだ。耐久面に於いては、火山地帯での移動も計算されていて、マグマの中でも十数分であれば影響が出ないようになっているんだ!」
……なるほど、確かに凄いが今必要な説明だろうか。
「今井部長。あの、それで今回の作戦に影響する点は……?」
流石先輩、上手い事軌道修正に入ってくれた。
「あぁそうだったね。外殻は戦車の装甲の十倍以上――爆撃を受けても問題ない強度だね。これを確保しているし、移動する際は高高度を移動できるんだ。一度に乗る人数は五百人を想定しているけれど、多少狭くても良いなら七百人は乗るね」
大型の旅客機が、確か八百席の座席を提供していた筈だから、それに比べると少し小さいくらいだろうか。それでも、性能とその有益性を考えると素晴らしいものがある。
「それでだね、この機体の良い所は、後から機能を追加して行けるところで――……」
その後、少しの間今井さんのプレゼンテーションが続いたが、切りの良い所で入った。
「――と言う事で、一つ目の案である"国民の保護"を優先させる場合、この機体を使う事になる。しかし、生憎まだこれから生産する事になる為、一機生産するのには早くても一か月ほど掛かると言う事なんだ」
そう言って、今井さんに『そうですよね?』と言うと、少しむくれた様子で頷いていた。
恐らく今井さんは、まだまだ説明したい事ああったのだろう。しかし、それに付き合っていると、それこそ時間がいくらあっても足りなくなる。
今井さんには後でフォローを入れる事にして続けようとすると、ハク爺が言った。
「ふむ、と言う事はワシらはその期間、難しい立ち位置に居る事になるのかのぅ」
ハク爺の言葉に、サクヤが言う。
「む、父さんが大人しくするなんて珍しい」
「何じゃと、ワシは別に――」
抗議しようとしたハク爺にジロウが言う。
「何言ってんだよ、この前なんか後続部隊と合流するまでは攻勢には出ない』って言ったのに、気がついたら一人で突っ込んでいたじゃねえか」
ジロウの言葉を受け、ハク爺は何かを言おうとしていたが結局口をへの字にして俯いていた。ハク爺の事だ、恐らく『状況は変わるんじゃ』とか言う事だろう。
咳ばらいをして言う。
「ともかくだ。生産が終わるまでにひと月、最低でもこの期間は派手に動けない事になる。それに、短期間での実施を考えると、最低でも十機は欲しい処だろう……」
「それは、つまり約一年は派手に動けないって事か?」
ジロウの言葉に何となくハク爺が重なる。
なんだかんだ言っても、似ていると思う。
「そういう事になるな。ただ、生産速度自体は上がるだろうから、一年とはならないだろうが……まぁ少なくとも半年は難しい立ち回りが必要だろうな」
正巳がそう言うと、主に実践担当のメンバーは嫌そうな顔をしていた。
「裏でチマチマ……面倒」
「何方かと言うと、高い戦闘力による制圧が得意だからな」
サクヤとジロウの呟きに、ハク爺が頭を掻く。
「うむ、もう少しバランスよく教えるべきだたかのぅ」
ハク爺に苦笑した後、ユミルへと視線をやった。プロで傭兵をやっていたユミルの事だ、どんな反応をするのか気になったのだが……
「得手不得手ありませんので、必要であれば何なりと」
流石ユミルだ、何でもござれらしい。
「そうだな。まぁもう一方の案も――」
全体に向けて、『もう一方の案も有るから、それも併せて検討して欲しい』――そう言おうとした正巳だったが、そこで声を上げた者がいた。
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