『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

230話 ガムルスの切り札

 正巳は、集まったメンバーを前に説明していた。

 始まる迄に若干ハプニングがあったが、これから話す内容は人命に係わる内容なのだ。ちょっとしたハプニングになど、取るに足らない些細な問題だ。

「さて、軽く説明しましたが……我々が宣戦布告した後、ガムルスへ講じる策は大きく分けて三つあります。その内、一つ目は"国際社会からの圧力"です」

 言葉を一度切ると、其々の表情を見る。

 大きく頷いている者、顎を手で擦りながらもその視線で先を促している者、小刻みに頷いて同意を示している者、そもそも初めから従う姿勢の者……どうやら、皆が同意しているみたいだ。

「既にご存知の通り、二日後の国連総会では先ず我々"ハゴロモ"が独立宣言を行います。そして、その後でガムルスの糾弾を行う訳ですが、ここで重要になるのが"証拠の提示"と"スピーチ"です」

 言いながら、カイルとテン、ミンへと視線を向ける。

 正巳の視線にカイルは頷き、テンはミンへと心配そうな目を向け……

 其々反応をしていたが、最初に口を開いたのはミンだった。

「お約束の通り、私はその証人として責任を果たします」

 ミンに頼んでいるのは、被害を受けた本人としての証言だ。証言する際、精神的負担が掛かるであろう事は間違いないので、テンにはそのフォローを頼んである。

「ああ、よろしく頼む」
「いえ、故郷を助けて貰うのですから、お礼を言うのは――」

 ミンが首を振って言うので、改めて釘をさしておく。

「結果的にそうなるだけだ。俺達"ハゴロモ"へちょっかいを出したのは向こうで、それに対しての報復と自己防衛をするだけなんだからな。それに今回、革命軍と同盟を結んだのもそれに都合が良かっただけで……ともかく、そういう事だ」

 途中から何となく、向けられる視線が生暖かい物である事に気付いた正巳は、短くまとめた。その後、カイルが何か余計な事を言いだしそうな気配があったので、早々に次の話へと移った。

「つぎ、ガムルスに講じる二つ目の策は、"社会基盤インフラの掌握"です。これは、主に水道や電気通信など一般生活に必要な"社会システム"の掌握の事であり、国力を基盤から低下させる為に重要な一手です」

 正巳の言葉に其々が息をのむが……それもそうだろう。社会基盤《インフラ》とは、人間で言い換えれば臓器肺、肝臓、心臓の様なものだ。

 その社会基盤インフラを掌握すると言う事は、国としての生命を握る様なモノなのだ。

 もし、掌握された状態からどうにかしようとした場合、管理権限の奪取か新たな手段による社会基盤インフラの再構築が必要になる。

 しかも、通信システムを内蔵していた場合、再びマムにより再掌握される事になる。そうならない為には、完全なアナログ形式での社会基盤インフラの構築をする必要があるのだが……

 それこそ、便利な機械システムを捨て、一見して"技術を退化させる"ような事など、言うのは簡単でも実際に行うのは困難を極めるに違いない。

 正巳の言葉に反対こそしないまでも、質問はあった。

「それは、私共の祖国の国民を完全に絶やすと言う事でしょうか……」

 質問して来たのは、カイルと共に参加している革命軍の一人で、普段あまり発言しない男だった。

 男の心配そうに揺れる瞳を見ながら答える。

「いや、そのつもりは無い」
「しかし、基盤となる全てを抑えられるという事は――」

 男が続けようとした所で、ハク爺の右腕であるジロウが口を挟む。

「悪いな、その前に聞きたいんだがな。そもそも、その"掌握"ってのはどうやるんだ? そもそもの話、それが出来ないと話にもならないと思うんだがな!」

 ジロウがそう言った処で、隣のサクヤが『黙る。弟はジロウと違って優秀。何でもできる』などと言い始めた。サクヤからの評価がなぜ高いのかは疑問だったが、ジロウの疑問はもっともだろう。

 頷きながら今井さんに視線を向けると、(任せるよ)と返事があった。

「そうですね。確かに、一番重要で且つ疑問に思う事かも知れませんね」

 そこで、マムがそっと手を肩に乗せて来たので、その必要はないと首を振った。ここで、マムにその正体を明かして貰うのも手だが、やはりマムの事を知っているのは必要最低限で良いと思う。

「既に住んで貰っている皆さんは、体感して知っていると思いますが、ここは技術の結晶とも言える拠点です。それこそ、世界最先端の技術が集められています」

 一部、ハク爺やユミル等には既にマムの存在は知られている。その面々にも、ここで正巳が話しに触れる事で、その意図をくみ取って貰えるだろう。

「その最先端技術の中には、対象のシステムを掌握する力を持つ――「素晴らしい存在」……素晴らしい存在も居るんです」

 途中、マムがこっそりと耳打ちして来たので、仕方なくその通り装飾した。

 言い終えて、"システム"としての話であるのに、まるで誰か実在する"人"の話をしているかのような話になっていた事に気が付いた。不味いかなとも思ったが、どうやら問題なさそうだ。

「……なるほど、それ程・・・信頼するシステムなんだな」
「確かに、素晴らしい技術だとは思っていましたが、それ程のシステムが……」

 其々、正巳の言葉を"丁寧に扱うだけの理由があるモノ"だと理解したらしい。

 実際、その価値処かそれ以上の――疑似人格を持つAIでありシステム制御を完全に支配する――価値が有るのだが……まぁ、結果良ければ全て良しだろう。

 マムの事を知っているメンバーの事を見ると、どうやら正巳の考え――(最低限の所でマムの存在は抑える)を理解してもらえたらしい。

 今井さんも頷くと言う。

「そうさ、僕と正巳君が開発した子だからね。大船に乗った気で任せてくれ給え!」

 今井さんの言葉に先輩が苦笑しているが、どうやら他の皆にはその言葉で十分だったらしい。ほっとしている面々を確認しながら、途中だった話を続けた。

「それで、確か国民に影響が出るのでは無いかと言う事だったか」

 正巳の言葉に、心配そうな顔で男が頷く。

「はい。例え、国に対して策を講じたとしても、その影響を始めに受けるのは国民です。増して、あの国の上層部は国民を体の良い奴隷か何かのように扱っているので……」

 なるほど、つまりは国に対してダメージを与えようとすれば、その影響を受けるのは国民だと言う訳だ。大丈夫、それは十分に分かっているし、この話が合ってこその後の話なのだ。

「そうだな。その辺りは十分に理解しているつもりだ。だから、国民生活に直接影響の出ない部分――例えば、工業生産の内軍事製品の生産ラインを停止させるとか、から手を付けようと思っている。後は、通信網の一部停止か」

 正巳の言葉を受け、まだ若干の不安げな表情をした男は言う。

「その場合、間接的に国民への影響――締め付け政策が酷くなると思われるのですが……」

 なるほど、この男は元教師だった筈だ。
 過去の歴史から見た、悪政の流れ・・を示してるのだろう。

「その通りだ。時間が進めば進むほど、状況は悪化するだろう」

 一拍間を置く。

「だからこそ、宣戦布告から終戦まで時間をかける訳に行かない」

 正巳の言葉に、それ迄静かにしていたハク爺が言った。

「うむ、それじゃあどうする? 短時間での決着を目指すとなると、どの手段もかなり力技になると思うが……ワシらで攻め込んで、首都制圧でもするか?」

 ハク爺の言う方法は、王道だろう。

 答えずに少しの間様子を見ていると、其々議論が始まっていた。

「いや、その場合やはり国民への被害が考えられるだろう」
「だがな、嫌でも被害は出るんだ。短期決戦で終えた方が少ないんじゃないか?」
「いやいや、そもそもの話。問題である奴らを排除すれば良いはずだろうが」
「そんな事言ってもなぁ、そんなピンポイントでの排除は不可能だろ!」

 ……やはり、想像していた通り意見が分かれている。

 聞いているとチラホラとマムによる情報の蓄積と解析、これにより解決できる問題が有るように思えた。しかし、始まったは良いがまとまりそうにない議論を見て、言った。

「さて、ここで今日集まって貰った本題に入ります」

 正巳がそう言うと、それ迄白熱していた話も(恐らく、議論した所で結論が出るものではないと理解していたのだろう)一気に収束した。

 再び静かになった中、言った。

「開戦後、我々が策を講じる度、ガムルス支配層による対応がある事は予想できます。そして、そのガムルスを封じて行けば、最終的にどうなるか――それは」

 正巳が今井に目を向けると、今井が言葉を引き継ぐ。

「国民を人質に取った交渉を持ちかけて来るだろう」

 今井の言葉に固まっていたメンバーだったが、その理由を理解したらしい。

 唇を噛んでいたカイルが、ぽつりと言った。

「それは、革命軍私たちが理由でしょうか?」

 カイルの言った言葉に対し、直ぐには答えなかったが小さく頷いた。

「あぁ、同国民革命軍と同盟を組んでいる相手俺達に対しては、最高の切り札だからな」

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