『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
210話 革命軍と同盟
カイルから、祖国を壊してくれ(ガムルスの政権を打倒してくれ)と頼まれた正巳は、その願いに対して問いを以って返していた。
「その正当性はどこにある?」
正巳にとって、願ったり叶ったりな内容では有った。
しかし、内容が内容なだけに慎重になる必要がある。
カイルが示す内容が、単に"報復"としてであればそれ迄だろう。国際連合の集まりの場では、正巳(マム)の用意した資料を以って訴えかける事になる。
しかし、ここで世界世論の大多数から支持を得られそうな、"正当性"を持った理由を持ち出せれば、一気に国際社会がこちらに傾く一つの切っ掛けになる。
自分の言葉で何かが変わるかも知れない――そう察したのか『はい』と答えてから、少し考えをまとめるような素振りをした後に口を開いた。
「我が祖国では、人間が同じ人間――それも立場の弱い者を人間ではなく、まるでモノかのように扱っている者達がいます。お察しの通り、それは現政権を動かしている政権幹部達、そして何より軍事部の幹部達です」
カイルが話し始めたその内容を聞いていた正巳は、ふと途中で閃いた事があった。それを伝えようと、マムへ視線を動かしたのだが――
流石、こちらの意図を読んでいたらしく既に行動に移していた。マムに片目を閉じて"よくやった"と合図すると、嬉しそうに口元をほころばせていた。
「――そして、これらの元凶は政府の体制にあるのです。現体制が続く限り、私の祖国には決して平等は無く、一定の支配層を満足させる為だけに、常に国民が消費され続ける事になります。そして今、間違いなくその途上にあります」
確かにカイルの言う通り、今はその途上なのかも知れない。そして、既に現状が最悪な状態なのだ。これ以上独裁化が進めば、地上で最も"地獄に近い"と言うしかない国になるだろう。
「如何でしょうか。国民全てが搾取される為に生き、搾取されつくした後はゴミの様に捨てられる。――果たして、この様な事が人間のする事として許されても良いのでしょうか!」
カイルの演説に力がこもって来た処で、正巳が口を開いた。
これ以上ヒートアップすると、要らない処で感情の波を作る事になる。
今ここで必要なのは、素材となる情報であって、熱量の籠った演説では無いのだ。それに、熱量ある演説が必要なのは今ではない。
冷たい様だが、危険な事に手を付けている時は常に冷静に冷静を加える必要がある。それこそ、自分一人の問題ではない時は、尚更クールにだ。
「なるほどな、お前の言う事はもっともだ。その内容であれば、国際社会も首を横には振らないだろうな。それ処か、問題提起として十分な役割を果たすに違いない」
正巳がそう言うと、一瞬呆気に取られていたカイルがハッして言った。
「もしかして、国際の場で何かされるつもりで?」
「……まあ、そういう事だ」
問題の国"ガムルス"に関しては、多くの国が疎ましく思っていると調べは付いている。
その理由は、他国の過激派組織に武器類を密売していたり、各国の要人の襲撃事件の裏にこの国の影があったりと様々だが、これまで世界中に問題の種を植えてきた国なのだ。
今回、ガムルスについて問題提起すれば、便乗する国が複数あるに違いない。ただ、通常であれば歓迎すべきことに違いないのだろうが、今回に限ってはこれが問題となる。
何故なら、同盟を組んで戦争を起こしたとして、全てが終わった後の戦後処理――土地の権利や、その他諸々の取扱に関して多少の問題が残るのだ。別に、ハゴロモでガムルスを支配しようとかそういう事じゃない。
全て終わった後、元々の目的であったミンやテン、そしてカイルや今回保護した面々の内"故郷に帰りたい"と言った人々の為に、その居場所を確保する必要があるのだ。
そこで、国際社会をバックに付けた上で、実際に交戦するのはガムルスとハゴロモの二国だけでなくてはならない――という構図を作り上げる必要がある。
……まあ、恐らくは何処かで多少の譲歩をする必要が出て来るとは思うが、その大部分は現在の形を壊さないように注意する必要がある。
何となく、マムは『これで国土を確保できます!』とか考えて良そうな気がするが……早々にその気が無い事は共有して置こう。
正巳が『国際社会で――』と言ったあと、カイルたちは興奮した様子でこちらの言葉の続きを待っていた。そんな様子を横目で確認した正巳は、内心苦笑しながら口を開いた。
「そうだな、まぁこれは元々予定されていた事だが――」
そう前振りすると、自分達"ハゴロモ"が近日中に国連総会に出席し、そこで独立宣言をする予定だと言う事を話した。勿論、独立は(書面上)果たされており、それを公示するのが今回の趣旨であると言う事も忘れずに伝えておいた。
「――と言う事で、その場は用意されているんだ。それで、ここからが本題でな。今回の件に関わって来る事なんだが……」
カイル、そしてミン、テン……と視線を動かした正巳は、言った。
「俺達と同盟を組まないか?」
正巳の言葉を聞いたカイルは、一瞬言葉の意味が理解できなかったらしく、口を開けたまま呆気に取られていた。しかし、数秒してからミンが言った言葉で我に返ったようだった。
「正巳様、それは……余りにもこちらに都合が良すぎるかと……」
ミンの言葉にカイルが続く。
「そ、そうです! 『雇わないか』とか『配下に加われ』なら納得が行きますが、"同盟"と言うのは少々こちらにとって居心地が……」
少々警戒心が強すぎる気がするが……外交とは、常に自国の利益を最優先で考えて行動する物なのだ。長い間外交の世界に身を置いていた身として、違和感を禁じえないのだろう。
「ふっ、『居心地が悪い』か。いや、何も偽善的に手を貸す訳では無い。そもそも、俺は二つの計画を選択肢として持っていたんだ」
正巳の言葉に、ミンが反応する。
「"選択肢"と"計画"ですか?」
(そう言えば、これはまだ共有していない話だった)
――そう思いだした正巳は、事に至る経緯を一度共有しておく事にした。
「そうだ。これは、お前達が帰ってくる前の事なんだがな……実は、この拠点を某国――つまり、ガムルスの軍兵によって襲撃をされたんだ」
まだ一週間も経っていない話だ。視界の端でハクエンとサナが頷いている。
「実害はほぼ無いが、問題の襲撃者達はこの国の治安部によって捕らえられている筈だ。まぁ、協力者の手で既に解放されているかも知れないがな……」
襲撃を受けたのは、政府との交渉に出向いた帰りだった正巳達と、子供達が残っていた拠点の二ヶ所でだった。当然、それぞれ撃退した訳だが……後から確認した所、拠点に近い海岸には戦艦が襲来していたらしい。
それまで黙って話を聞いていたハク爺が、口を挟んだ。
「それで、どうするつもりだ?」
いい年にも拘らず、良い覇気を放つ。
「当然、降りかかる火の粉は払う。それに、家族がこんな目に遭って尚、黙っていろと言うのは無理な相談だしな」
そう言って視線を向けると、ミンは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった。
「……なるほど、それで――」
カイルが促す様に相槌を取るので、それに頷きながら言った。
「ああ、それで俺は二つの選択肢を用意したんだ」
そこで息を吸うと、全員が集中しているのが分かる。
「一つは、国際社会による"制裁"を促す事」
これは、何方かと言うと穏便な方法だ。そしてもう一方。こちらを選択すれば、全員が逃れられない"死"と"責任"を背負う事になる。
正巳は、その責任を背負う"覚悟"を持っているが、皆はどうだろうか――そんな考えが浮かんでくるが、それも一瞬の事だった。
「そして、もう一つは――」
――その後、正巳の口を以って話された内容を聞いた面々は、一部の慎重なメンバーを除き全員が後者に賛同していた。慎重な行動を選択したのは、ミンとユミル、そしてハクエンだった。
どうやら、ミンとしては穏便に済む事を望んでいたらしかったが、ユミルとハクエンに関しては、単純に『打って出ずとも自滅すると思う』と言う事だった。
そんな二人も、囚われている民の事も気遣っているらしく、最終的には『救出を優先した戦闘であれば』と納得していた。
「それでは、改めて聞こうか」
一同が落ち着いて来た処で、カイルに対して正巳は問うていた。
「……はい、私が責任を持つ代表としてお答えします」
――どうやら、先程保護した面々の中で話し合いで正式にカイルを"代表"として据える事にしたらしかった。途中で"ミンを"と言う話も上がっていたので、『ミンは俺の家族だ』と釘を刺しておいた。
「我らハゴロモと同盟を組まないか」
背筋を伸ばしたカイルは応えた。
「謹んで――我ら革命軍は、カイル・デルハルンの名に於いて――お受けします」
カイルの宣言と共に、その部屋にいた面々から歓声が上がった。
「「うぉおおおおぉおお!」」
何故か、ハク爺の連れて来たジロウとサクヤも盛り上がっていたが、何となくハク爺の連れて来た家族らしい気がして、少し微笑ましかった。
しばらくして、興奮が落ち着いて来たのを見計らうとカイルに言った。
「そうだ。カイルには独立宣言の後、さっきの演説をして貰うからよろしく頼むぞ」
すると、想定外だったらしく慌てていた。
「え、ちょ、そんな! 私はそんな場所で何かを話す事など……」
「大丈夫だ。さっきの調子で頼む。俺だって緊張するんだからな」
丁度、同じ緊張を分け合う仲間が欲しかった。
一応アブドラも出席するらしいが、どうにもあの男は慣れ過ぎていてちっとも安心出来ない。だが、カイルであれば程よく同じ緊張を分け合う仲間として、良い働きをしてくれるだろう。
内心、少しばかりの拠り所が出来て喜んでいた正巳は、そのまま集まりを解散する事にした。
「それでは、これで会議を終わりにする! 各自十分に休息をとるように。加えて、何か必要があれば直ぐに言ってくれ。もう俺達は同盟の元、意思を共にする仲間だからな!」
正巳の号令に礼を執った一同は、そのままユミルとミューに案内される形で解散し始めた。どうやら、サナは今井さんに呼ばれたらしく上原先輩と共に研究室に向かうらしかった。
先輩と今井さんに、今回の件に関して相談しなかった事の謝罪をしようとした所、既にマムによって概要の説明がされていたらしく『『ハゴロモとしての総意だ』よ』と言われてしまった。
本当に頭が下がる。
一応、ガムルスの国民であったもう一人の男デウ(今は上原先輩の護衛をしているが、かつてはガムルスの衛兵だった)に話しかけたが、どうやらデウにとっては故郷は既に失われたモノと言う認識だったらしく、『何ら問題ありません』と言う事だった。
いつか、デウが自分の"生まれ故郷"としてガムルスの地を踏めるようにも、どうにかしなくてはならないだろう。デウの場合、事が少し複雑なのでそう単純ではないかも知れないが、それでも……
心の中で描いた理想を実現する為、今一度心の中で誓った。
――未来を守る力を付ける。
「その正当性はどこにある?」
正巳にとって、願ったり叶ったりな内容では有った。
しかし、内容が内容なだけに慎重になる必要がある。
カイルが示す内容が、単に"報復"としてであればそれ迄だろう。国際連合の集まりの場では、正巳(マム)の用意した資料を以って訴えかける事になる。
しかし、ここで世界世論の大多数から支持を得られそうな、"正当性"を持った理由を持ち出せれば、一気に国際社会がこちらに傾く一つの切っ掛けになる。
自分の言葉で何かが変わるかも知れない――そう察したのか『はい』と答えてから、少し考えをまとめるような素振りをした後に口を開いた。
「我が祖国では、人間が同じ人間――それも立場の弱い者を人間ではなく、まるでモノかのように扱っている者達がいます。お察しの通り、それは現政権を動かしている政権幹部達、そして何より軍事部の幹部達です」
カイルが話し始めたその内容を聞いていた正巳は、ふと途中で閃いた事があった。それを伝えようと、マムへ視線を動かしたのだが――
流石、こちらの意図を読んでいたらしく既に行動に移していた。マムに片目を閉じて"よくやった"と合図すると、嬉しそうに口元をほころばせていた。
「――そして、これらの元凶は政府の体制にあるのです。現体制が続く限り、私の祖国には決して平等は無く、一定の支配層を満足させる為だけに、常に国民が消費され続ける事になります。そして今、間違いなくその途上にあります」
確かにカイルの言う通り、今はその途上なのかも知れない。そして、既に現状が最悪な状態なのだ。これ以上独裁化が進めば、地上で最も"地獄に近い"と言うしかない国になるだろう。
「如何でしょうか。国民全てが搾取される為に生き、搾取されつくした後はゴミの様に捨てられる。――果たして、この様な事が人間のする事として許されても良いのでしょうか!」
カイルの演説に力がこもって来た処で、正巳が口を開いた。
これ以上ヒートアップすると、要らない処で感情の波を作る事になる。
今ここで必要なのは、素材となる情報であって、熱量の籠った演説では無いのだ。それに、熱量ある演説が必要なのは今ではない。
冷たい様だが、危険な事に手を付けている時は常に冷静に冷静を加える必要がある。それこそ、自分一人の問題ではない時は、尚更クールにだ。
「なるほどな、お前の言う事はもっともだ。その内容であれば、国際社会も首を横には振らないだろうな。それ処か、問題提起として十分な役割を果たすに違いない」
正巳がそう言うと、一瞬呆気に取られていたカイルがハッして言った。
「もしかして、国際の場で何かされるつもりで?」
「……まあ、そういう事だ」
問題の国"ガムルス"に関しては、多くの国が疎ましく思っていると調べは付いている。
その理由は、他国の過激派組織に武器類を密売していたり、各国の要人の襲撃事件の裏にこの国の影があったりと様々だが、これまで世界中に問題の種を植えてきた国なのだ。
今回、ガムルスについて問題提起すれば、便乗する国が複数あるに違いない。ただ、通常であれば歓迎すべきことに違いないのだろうが、今回に限ってはこれが問題となる。
何故なら、同盟を組んで戦争を起こしたとして、全てが終わった後の戦後処理――土地の権利や、その他諸々の取扱に関して多少の問題が残るのだ。別に、ハゴロモでガムルスを支配しようとかそういう事じゃない。
全て終わった後、元々の目的であったミンやテン、そしてカイルや今回保護した面々の内"故郷に帰りたい"と言った人々の為に、その居場所を確保する必要があるのだ。
そこで、国際社会をバックに付けた上で、実際に交戦するのはガムルスとハゴロモの二国だけでなくてはならない――という構図を作り上げる必要がある。
……まあ、恐らくは何処かで多少の譲歩をする必要が出て来るとは思うが、その大部分は現在の形を壊さないように注意する必要がある。
何となく、マムは『これで国土を確保できます!』とか考えて良そうな気がするが……早々にその気が無い事は共有して置こう。
正巳が『国際社会で――』と言ったあと、カイルたちは興奮した様子でこちらの言葉の続きを待っていた。そんな様子を横目で確認した正巳は、内心苦笑しながら口を開いた。
「そうだな、まぁこれは元々予定されていた事だが――」
そう前振りすると、自分達"ハゴロモ"が近日中に国連総会に出席し、そこで独立宣言をする予定だと言う事を話した。勿論、独立は(書面上)果たされており、それを公示するのが今回の趣旨であると言う事も忘れずに伝えておいた。
「――と言う事で、その場は用意されているんだ。それで、ここからが本題でな。今回の件に関わって来る事なんだが……」
カイル、そしてミン、テン……と視線を動かした正巳は、言った。
「俺達と同盟を組まないか?」
正巳の言葉を聞いたカイルは、一瞬言葉の意味が理解できなかったらしく、口を開けたまま呆気に取られていた。しかし、数秒してからミンが言った言葉で我に返ったようだった。
「正巳様、それは……余りにもこちらに都合が良すぎるかと……」
ミンの言葉にカイルが続く。
「そ、そうです! 『雇わないか』とか『配下に加われ』なら納得が行きますが、"同盟"と言うのは少々こちらにとって居心地が……」
少々警戒心が強すぎる気がするが……外交とは、常に自国の利益を最優先で考えて行動する物なのだ。長い間外交の世界に身を置いていた身として、違和感を禁じえないのだろう。
「ふっ、『居心地が悪い』か。いや、何も偽善的に手を貸す訳では無い。そもそも、俺は二つの計画を選択肢として持っていたんだ」
正巳の言葉に、ミンが反応する。
「"選択肢"と"計画"ですか?」
(そう言えば、これはまだ共有していない話だった)
――そう思いだした正巳は、事に至る経緯を一度共有しておく事にした。
「そうだ。これは、お前達が帰ってくる前の事なんだがな……実は、この拠点を某国――つまり、ガムルスの軍兵によって襲撃をされたんだ」
まだ一週間も経っていない話だ。視界の端でハクエンとサナが頷いている。
「実害はほぼ無いが、問題の襲撃者達はこの国の治安部によって捕らえられている筈だ。まぁ、協力者の手で既に解放されているかも知れないがな……」
襲撃を受けたのは、政府との交渉に出向いた帰りだった正巳達と、子供達が残っていた拠点の二ヶ所でだった。当然、それぞれ撃退した訳だが……後から確認した所、拠点に近い海岸には戦艦が襲来していたらしい。
それまで黙って話を聞いていたハク爺が、口を挟んだ。
「それで、どうするつもりだ?」
いい年にも拘らず、良い覇気を放つ。
「当然、降りかかる火の粉は払う。それに、家族がこんな目に遭って尚、黙っていろと言うのは無理な相談だしな」
そう言って視線を向けると、ミンは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった。
「……なるほど、それで――」
カイルが促す様に相槌を取るので、それに頷きながら言った。
「ああ、それで俺は二つの選択肢を用意したんだ」
そこで息を吸うと、全員が集中しているのが分かる。
「一つは、国際社会による"制裁"を促す事」
これは、何方かと言うと穏便な方法だ。そしてもう一方。こちらを選択すれば、全員が逃れられない"死"と"責任"を背負う事になる。
正巳は、その責任を背負う"覚悟"を持っているが、皆はどうだろうか――そんな考えが浮かんでくるが、それも一瞬の事だった。
「そして、もう一つは――」
――その後、正巳の口を以って話された内容を聞いた面々は、一部の慎重なメンバーを除き全員が後者に賛同していた。慎重な行動を選択したのは、ミンとユミル、そしてハクエンだった。
どうやら、ミンとしては穏便に済む事を望んでいたらしかったが、ユミルとハクエンに関しては、単純に『打って出ずとも自滅すると思う』と言う事だった。
そんな二人も、囚われている民の事も気遣っているらしく、最終的には『救出を優先した戦闘であれば』と納得していた。
「それでは、改めて聞こうか」
一同が落ち着いて来た処で、カイルに対して正巳は問うていた。
「……はい、私が責任を持つ代表としてお答えします」
――どうやら、先程保護した面々の中で話し合いで正式にカイルを"代表"として据える事にしたらしかった。途中で"ミンを"と言う話も上がっていたので、『ミンは俺の家族だ』と釘を刺しておいた。
「我らハゴロモと同盟を組まないか」
背筋を伸ばしたカイルは応えた。
「謹んで――我ら革命軍は、カイル・デルハルンの名に於いて――お受けします」
カイルの宣言と共に、その部屋にいた面々から歓声が上がった。
「「うぉおおおおぉおお!」」
何故か、ハク爺の連れて来たジロウとサクヤも盛り上がっていたが、何となくハク爺の連れて来た家族らしい気がして、少し微笑ましかった。
しばらくして、興奮が落ち着いて来たのを見計らうとカイルに言った。
「そうだ。カイルには独立宣言の後、さっきの演説をして貰うからよろしく頼むぞ」
すると、想定外だったらしく慌てていた。
「え、ちょ、そんな! 私はそんな場所で何かを話す事など……」
「大丈夫だ。さっきの調子で頼む。俺だって緊張するんだからな」
丁度、同じ緊張を分け合う仲間が欲しかった。
一応アブドラも出席するらしいが、どうにもあの男は慣れ過ぎていてちっとも安心出来ない。だが、カイルであれば程よく同じ緊張を分け合う仲間として、良い働きをしてくれるだろう。
内心、少しばかりの拠り所が出来て喜んでいた正巳は、そのまま集まりを解散する事にした。
「それでは、これで会議を終わりにする! 各自十分に休息をとるように。加えて、何か必要があれば直ぐに言ってくれ。もう俺達は同盟の元、意思を共にする仲間だからな!」
正巳の号令に礼を執った一同は、そのままユミルとミューに案内される形で解散し始めた。どうやら、サナは今井さんに呼ばれたらしく上原先輩と共に研究室に向かうらしかった。
先輩と今井さんに、今回の件に関して相談しなかった事の謝罪をしようとした所、既にマムによって概要の説明がされていたらしく『『ハゴロモとしての総意だ』よ』と言われてしまった。
本当に頭が下がる。
一応、ガムルスの国民であったもう一人の男デウ(今は上原先輩の護衛をしているが、かつてはガムルスの衛兵だった)に話しかけたが、どうやらデウにとっては故郷は既に失われたモノと言う認識だったらしく、『何ら問題ありません』と言う事だった。
いつか、デウが自分の"生まれ故郷"としてガムルスの地を踏めるようにも、どうにかしなくてはならないだろう。デウの場合、事が少し複雑なのでそう単純ではないかも知れないが、それでも……
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