『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
198話 世界を狙って?
正巳の部屋には、入って直ぐの場所に客間がある。
アブドラとライラを迎えたのはこの客間だったが、奥にはリビングやダイニング、寝室やシャワールームなど一般的な部屋がある。
しかし、当然お客様であるアブドラは客間で迎え、そこで話をする予定だった。
それなのに――今、正巳達はリビングに来ていた。
何故移動して来たのかと言うと、一息付いていた筈のアブドラが『折角だから、我が友の部屋を案内してもらおうじゃないか!』と言ったのが、その理由だ。
アブドラの言葉で見学ツアーが始まったのだが……
そもそもこの流れを作ったのは、正巳が呟いた一言が原因だった。
それも、別にアブドラに向けて言ったわけでは無かったのだが、無駄にタイミングがかみ合ったせいで、アブドラとライラの会話に対し、正巳が意見した形になったらしかった。
「む、我の家とは造りが異なるな。しかし……うむ。中々寛げそうだな!」
リビングには、かなり大きなソファーが置かれている。これは、打合せをする時に子供含めて全員が座れるようにと、大きなものを置いているのだ。
ソファーの他にも幾つかの家具が備え付けられているが、そのどれもが通常サイズの倍以上あるだろう。大きめの家具が多い事が、全体的にゆったりとした雰囲気を与えているのかも知れない。
(それにしても、歩き回るし色々な場所を見るな……)
部屋の中を興味深げに触って歩く様子を横目に、内心ヒヤヒヤしていた。
今の所問題無いが、この部屋には幾つか非常時に使用する仕掛けがある。何かの切っ掛けに余計な物を見つけられても面倒だ。
動揺を表に出さないように気を付けながら、誘導する事にした。
「それこそ、ここは友と語らうには良い場所だろうな」
言いながらソファの一つに座る。すると――
「うむ、そうだな。それでは、ここで語らおうではないか!」
正巳の正面にアブドラが座った。
……単純で助かる。
「アブドラは何が良い?」
立ち上がりながら聞くと、口元に笑みを浮かべながら言った。
「我が友に任せよう!」
「そうか、分かった……」
先程の宴会では、万が一にも子供達が口にしないように、アルコールを含んだ飲み物を出していなかった。しかし、アルコールを正しく用いれば、単に飲み物として以上の価値を発揮するのだ。
特に、重要な交渉や依頼をする際は。
「……コイツしかないよな」
今井さん特注の冷蔵庫――本人曰くカスタマイズできるらしい――を開けた正巳は、その上段に幾つかあったボトルの内一つを手にした。口当たりの柔らかいワインだ。
記憶している中アブドラは、濃いめの蒸留酒ばかり飲んでいた気がする。それを考えると、度数の高いモノを選んだほうが好みに合うのだろう。
しかし、今日は会食を重ね、その度に普段口にしないようなモノを食べた筈だ。
普段食べない物を胃に入れると、思いの他疲れる事がある。実際、正巳自身サラリーマンしていた頃は、付き合いで食べた珍しい外国料理で随分とやられたものだった。
何となく思い出して懐かしくなった正巳だったが、ボトルを片手に持つと反対の手でグラスを二つ持った。今回つまみが無いのが申し訳ないが、今度大量にストックしておく事にしよう。
リビングに戻ると、奇妙な光景に出会った。
アブドラが、足をかがめた状態でじりじりと近づき、ボス吉に対して片手を伸ばしている。その様子は恐る恐ると言った様子で、まるで未知の生物――若しくは地雷にでも触れるかのようだ。
何故か緊張した面持ちで近寄ろうとするアブドラ。それに対して、気付いている筈のボス吉は一向に反応していなかった。何なら、若干体を引いて面倒くさそうな感すらある。
「……何しているんだ?」
「ん?! いや……な?」
伸ばしていた手を宙で彷徨わせたアブドラは、そのまま額をカリカリと掻いていた。
「正巳様、お入れします」
「ああ、頼む」
ライラにボトルとグラスを渡すと、再び冷蔵庫に戻った。
別に、猫に素っ気ない対応をされるアブドラを見て、逃げて来た訳では無い。そう、ここには俺とアブドラ以外にもふたり居るのだ。ふたりの分も、用意しなくてはいけないのだ。
……決して、気まずくなった訳ではない。
「ライラには水で良いか」
これは推測だが、恐らくライラにアルコールを出しても、口にする事は無いだろう。
それが従者としての心構えなのか、単に飲めないのかは分からないが、少なくともライラがアルコールに口を付けているのを見た覚えがない。
「あとは……」
見回してみて、近くの収納から皿を取り出した。
ボス吉には何か別で飲み物を持って行く事はしない。と言うのも、これ迄の傾向からして、ボス吉は俺が飲んでいる物を飲みたがる筈だからだ。
どうなっているのか若干ヒヤヒヤしながら戻ると、想像の斜めを行っていた。
「……どうしてライラが――いや、ボス吉が良ければ良いんだ」
そこには、ライラの膝の上に乗ったボス吉が居た。何となく経緯が気になったが、面倒な事になりそうだったので止めておいた。
「これ、未開封の水な。それと、ボス吉は俺と同じ物で良いな?」
畏まって礼を言うライラに、気にするなと答えながらボス吉に聞いた。すると、それ迄ライラの膝の上に乗って居たボス吉が、一鳴きすると寄って来た。
……どうやら想像通りだったらしい。
「ほら、ゆっくり飲むんだぞ?」
底の浅い皿にワインを注ぐと、ソファの横に置いた。
早速飲み始めたボス吉だったが、その様子を見ていたアブドラが言った。
「もしや、報酬で望んだ"グランズキャット"は、こ奴のつがいとしてか?」
「ん――ああ、そうかも知れないな……いや、そうだな」
気を抜いていた為か、変な返答になった。
そもそも、報酬に関する一連の調整はマムのアドバイスによるモノなので、その辺りは何とも言えない。しかし、言われてみると確かに納得できる。
マムがボス吉の事を考えて、つがいになりそうな相手を探してあげた――そう考えると、マムはきちんと皆の事も考えていると考えているのかも知れない。
つい最近までは、何となく見境なく全て正巳の為に使おうとしていた節があった。しかし、今回の件を考慮すると、そこら辺のバランスが上手く取れるように"成長"したのかも知れない。
その後、ちょっとした談笑をしながら三杯目に手が届いた所で、本題に入る事にした。
「さて、首相に変な事を吹き込んでいたのは分かったが――」
アブドラの話で知ったのだが、今日の日本政府との交渉が不自然な程スムーズだったのには、裏の事情があったらしかった。
「なに、我は事実しか伝えていない。そうだろ?」
「そうだがな。それでも、言い方って言う物があるだろうが」
言い方――そう、なにも『数人で革命を武力鎮圧し、サイバー攻撃によって戦闘機や基地局の機能の全てを掌握した。下手をすればそのまま本国が占領されていた』などと、わざわざ危機感を煽る言い方をしなくても良かった筈だ。
アブドラから『これから会うのは、超一級の危険人物だ』と聞いた首相は、アブドラの国の将軍――バラキオスにわざわざ確認を取ったらしい。
すると、バラキオス将軍はアブドラと同じ――いや、更に増して常識離れした話をしたらしかった。確かに、バラキオスには本当に人間離れした部分を見せていた気がする。あの時、きちんと口止めして於くべきだったかも知れない。
「良いでは無いか、お陰でスムーズに交渉が済んだだろう?」
「……お陰で不要な手間が一つ入ったがな」
そう、本来スムーズに交渉に入る筈が余計な手間が掛かった。
別室で様子を確認していたらしく、アブドラも直ぐ思い至ったらしい。
「ああ、あの財務大臣の事か。あ奴からも色々貰ったな」
「賄賂か?」
交渉の世界では、どんな手を使ってでも最終的に目的を達成できれば勝ちだ。当然、気を引いたり断れないようにと、様々な手段で手を打って来る。賄賂もその中の一つだろう。しかし――
「ん? いや、別に贈り物を貰ったからと言って、何か配慮してやるつもりも無いな」
「そうか、可哀想にな……」
どうやら、アブドラは賄賂を"贈り物"と解釈する事で、一方的に受け取り返す必要のない物と位置付けたらしい。何となく、悪党とは言え余りの扱いに同情した。
「それこそだ、今回受けたという襲撃とその結果を公表すれば良いのではないか? さすれば、我らと同じく軽々しく手を出そうなどとは思わないだろうしな」
アブドラが言っているのは、今回某国が戦艦まで動かして襲撃したにもかかわらず、失敗に終わった事――それを公表し、軍事面での実力を示せという事だろう。
確かに、有効かもしれないが、有効でないかも知れない。下手に進んだ技術や、戦力を示せば要らぬ興味を引いてしまう可能性が有るのだ。
しかし、何方にせよいつか話知られる話だ。襲撃の件を公表するかしないかは、皆と相談して決める話ではあるが、それとは別でしなくてはいけない事がある。
腕を組みながらしみじみと『体感すれば、嫌でも従うしかないわな……』と呟いているアブドラに、なるべく何でもない風に言った。
「そうだな。実は、その事で頼みがあるんだ」
「我が友の頼みとあれば、我に出来る事であれば何でもしよう! 勿論、何か見返りを求めたりはしないからな、何でも言うが良い。我が困った時に助けてくれるであろうしな!」
……心の声が駄々洩れなのが可笑しいが、それでも協力的なのは嬉しい。
「助かるよ。それで、頼みなんだが――」
一応代わりの計画も用意しているが、一番良いのはここで協力を取り付ける事だ。
一拍間を置くと、言った。
「アブドラにはグルハ王国の国王として、我々ハゴロモを"国連"へ取り次いで欲しいんだ」
正巳の言葉を聞いたアブドラは、静かに目を閉じると口を開いた。
何となく、アブドラのその雰囲気から碌でもない事を言う気がしたが……その言葉を聞いた瞬間、衝動的に動く口を止める事ができなかった。
「世界を取りに来たか」
その顔は真剣だった。
アブドラとライラを迎えたのはこの客間だったが、奥にはリビングやダイニング、寝室やシャワールームなど一般的な部屋がある。
しかし、当然お客様であるアブドラは客間で迎え、そこで話をする予定だった。
それなのに――今、正巳達はリビングに来ていた。
何故移動して来たのかと言うと、一息付いていた筈のアブドラが『折角だから、我が友の部屋を案内してもらおうじゃないか!』と言ったのが、その理由だ。
アブドラの言葉で見学ツアーが始まったのだが……
そもそもこの流れを作ったのは、正巳が呟いた一言が原因だった。
それも、別にアブドラに向けて言ったわけでは無かったのだが、無駄にタイミングがかみ合ったせいで、アブドラとライラの会話に対し、正巳が意見した形になったらしかった。
「む、我の家とは造りが異なるな。しかし……うむ。中々寛げそうだな!」
リビングには、かなり大きなソファーが置かれている。これは、打合せをする時に子供含めて全員が座れるようにと、大きなものを置いているのだ。
ソファーの他にも幾つかの家具が備え付けられているが、そのどれもが通常サイズの倍以上あるだろう。大きめの家具が多い事が、全体的にゆったりとした雰囲気を与えているのかも知れない。
(それにしても、歩き回るし色々な場所を見るな……)
部屋の中を興味深げに触って歩く様子を横目に、内心ヒヤヒヤしていた。
今の所問題無いが、この部屋には幾つか非常時に使用する仕掛けがある。何かの切っ掛けに余計な物を見つけられても面倒だ。
動揺を表に出さないように気を付けながら、誘導する事にした。
「それこそ、ここは友と語らうには良い場所だろうな」
言いながらソファの一つに座る。すると――
「うむ、そうだな。それでは、ここで語らおうではないか!」
正巳の正面にアブドラが座った。
……単純で助かる。
「アブドラは何が良い?」
立ち上がりながら聞くと、口元に笑みを浮かべながら言った。
「我が友に任せよう!」
「そうか、分かった……」
先程の宴会では、万が一にも子供達が口にしないように、アルコールを含んだ飲み物を出していなかった。しかし、アルコールを正しく用いれば、単に飲み物として以上の価値を発揮するのだ。
特に、重要な交渉や依頼をする際は。
「……コイツしかないよな」
今井さん特注の冷蔵庫――本人曰くカスタマイズできるらしい――を開けた正巳は、その上段に幾つかあったボトルの内一つを手にした。口当たりの柔らかいワインだ。
記憶している中アブドラは、濃いめの蒸留酒ばかり飲んでいた気がする。それを考えると、度数の高いモノを選んだほうが好みに合うのだろう。
しかし、今日は会食を重ね、その度に普段口にしないようなモノを食べた筈だ。
普段食べない物を胃に入れると、思いの他疲れる事がある。実際、正巳自身サラリーマンしていた頃は、付き合いで食べた珍しい外国料理で随分とやられたものだった。
何となく思い出して懐かしくなった正巳だったが、ボトルを片手に持つと反対の手でグラスを二つ持った。今回つまみが無いのが申し訳ないが、今度大量にストックしておく事にしよう。
リビングに戻ると、奇妙な光景に出会った。
アブドラが、足をかがめた状態でじりじりと近づき、ボス吉に対して片手を伸ばしている。その様子は恐る恐ると言った様子で、まるで未知の生物――若しくは地雷にでも触れるかのようだ。
何故か緊張した面持ちで近寄ろうとするアブドラ。それに対して、気付いている筈のボス吉は一向に反応していなかった。何なら、若干体を引いて面倒くさそうな感すらある。
「……何しているんだ?」
「ん?! いや……な?」
伸ばしていた手を宙で彷徨わせたアブドラは、そのまま額をカリカリと掻いていた。
「正巳様、お入れします」
「ああ、頼む」
ライラにボトルとグラスを渡すと、再び冷蔵庫に戻った。
別に、猫に素っ気ない対応をされるアブドラを見て、逃げて来た訳では無い。そう、ここには俺とアブドラ以外にもふたり居るのだ。ふたりの分も、用意しなくてはいけないのだ。
……決して、気まずくなった訳ではない。
「ライラには水で良いか」
これは推測だが、恐らくライラにアルコールを出しても、口にする事は無いだろう。
それが従者としての心構えなのか、単に飲めないのかは分からないが、少なくともライラがアルコールに口を付けているのを見た覚えがない。
「あとは……」
見回してみて、近くの収納から皿を取り出した。
ボス吉には何か別で飲み物を持って行く事はしない。と言うのも、これ迄の傾向からして、ボス吉は俺が飲んでいる物を飲みたがる筈だからだ。
どうなっているのか若干ヒヤヒヤしながら戻ると、想像の斜めを行っていた。
「……どうしてライラが――いや、ボス吉が良ければ良いんだ」
そこには、ライラの膝の上に乗ったボス吉が居た。何となく経緯が気になったが、面倒な事になりそうだったので止めておいた。
「これ、未開封の水な。それと、ボス吉は俺と同じ物で良いな?」
畏まって礼を言うライラに、気にするなと答えながらボス吉に聞いた。すると、それ迄ライラの膝の上に乗って居たボス吉が、一鳴きすると寄って来た。
……どうやら想像通りだったらしい。
「ほら、ゆっくり飲むんだぞ?」
底の浅い皿にワインを注ぐと、ソファの横に置いた。
早速飲み始めたボス吉だったが、その様子を見ていたアブドラが言った。
「もしや、報酬で望んだ"グランズキャット"は、こ奴のつがいとしてか?」
「ん――ああ、そうかも知れないな……いや、そうだな」
気を抜いていた為か、変な返答になった。
そもそも、報酬に関する一連の調整はマムのアドバイスによるモノなので、その辺りは何とも言えない。しかし、言われてみると確かに納得できる。
マムがボス吉の事を考えて、つがいになりそうな相手を探してあげた――そう考えると、マムはきちんと皆の事も考えていると考えているのかも知れない。
つい最近までは、何となく見境なく全て正巳の為に使おうとしていた節があった。しかし、今回の件を考慮すると、そこら辺のバランスが上手く取れるように"成長"したのかも知れない。
その後、ちょっとした談笑をしながら三杯目に手が届いた所で、本題に入る事にした。
「さて、首相に変な事を吹き込んでいたのは分かったが――」
アブドラの話で知ったのだが、今日の日本政府との交渉が不自然な程スムーズだったのには、裏の事情があったらしかった。
「なに、我は事実しか伝えていない。そうだろ?」
「そうだがな。それでも、言い方って言う物があるだろうが」
言い方――そう、なにも『数人で革命を武力鎮圧し、サイバー攻撃によって戦闘機や基地局の機能の全てを掌握した。下手をすればそのまま本国が占領されていた』などと、わざわざ危機感を煽る言い方をしなくても良かった筈だ。
アブドラから『これから会うのは、超一級の危険人物だ』と聞いた首相は、アブドラの国の将軍――バラキオスにわざわざ確認を取ったらしい。
すると、バラキオス将軍はアブドラと同じ――いや、更に増して常識離れした話をしたらしかった。確かに、バラキオスには本当に人間離れした部分を見せていた気がする。あの時、きちんと口止めして於くべきだったかも知れない。
「良いでは無いか、お陰でスムーズに交渉が済んだだろう?」
「……お陰で不要な手間が一つ入ったがな」
そう、本来スムーズに交渉に入る筈が余計な手間が掛かった。
別室で様子を確認していたらしく、アブドラも直ぐ思い至ったらしい。
「ああ、あの財務大臣の事か。あ奴からも色々貰ったな」
「賄賂か?」
交渉の世界では、どんな手を使ってでも最終的に目的を達成できれば勝ちだ。当然、気を引いたり断れないようにと、様々な手段で手を打って来る。賄賂もその中の一つだろう。しかし――
「ん? いや、別に贈り物を貰ったからと言って、何か配慮してやるつもりも無いな」
「そうか、可哀想にな……」
どうやら、アブドラは賄賂を"贈り物"と解釈する事で、一方的に受け取り返す必要のない物と位置付けたらしい。何となく、悪党とは言え余りの扱いに同情した。
「それこそだ、今回受けたという襲撃とその結果を公表すれば良いのではないか? さすれば、我らと同じく軽々しく手を出そうなどとは思わないだろうしな」
アブドラが言っているのは、今回某国が戦艦まで動かして襲撃したにもかかわらず、失敗に終わった事――それを公表し、軍事面での実力を示せという事だろう。
確かに、有効かもしれないが、有効でないかも知れない。下手に進んだ技術や、戦力を示せば要らぬ興味を引いてしまう可能性が有るのだ。
しかし、何方にせよいつか話知られる話だ。襲撃の件を公表するかしないかは、皆と相談して決める話ではあるが、それとは別でしなくてはいけない事がある。
腕を組みながらしみじみと『体感すれば、嫌でも従うしかないわな……』と呟いているアブドラに、なるべく何でもない風に言った。
「そうだな。実は、その事で頼みがあるんだ」
「我が友の頼みとあれば、我に出来る事であれば何でもしよう! 勿論、何か見返りを求めたりはしないからな、何でも言うが良い。我が困った時に助けてくれるであろうしな!」
……心の声が駄々洩れなのが可笑しいが、それでも協力的なのは嬉しい。
「助かるよ。それで、頼みなんだが――」
一応代わりの計画も用意しているが、一番良いのはここで協力を取り付ける事だ。
一拍間を置くと、言った。
「アブドラにはグルハ王国の国王として、我々ハゴロモを"国連"へ取り次いで欲しいんだ」
正巳の言葉を聞いたアブドラは、静かに目を閉じると口を開いた。
何となく、アブドラのその雰囲気から碌でもない事を言う気がしたが……その言葉を聞いた瞬間、衝動的に動く口を止める事ができなかった。
「世界を取りに来たか」
その顔は真剣だった。
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