『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
192話 護衛の正体
目の前まで来たアブドラに『ようこそ』と言った正巳は、その後ろに付き従って来た従者の様子に苦笑していた。
アブドラとライラは兎も角として、その他の従者たちは多少なり動揺しているのが見て取れる。原因は幾つか考えられるが、割と分かり易い反応をしているので原因を探すまでも無いだろう。
――アブドラの耳に付いている装置を見るに、どうやらミューが通訳用に機械を渡していたみたいだ。アブドラの護衛達も残らず付けている。
改めて周囲を確認したアブドラが言った。
「なるほどな、これが"大切"か……確かに"子供は国の宝"とは言うが、お前の場合はそう言った決まり文句以上の価値を置いているみたいだな」
何処か楽しそうな、それでいて安堵した様子のアブドラに言う。
「まあ、これ以上はそうそう無いだろうな」
「それでこそ我が友だ!」
正巳の言葉を聞いたアブドラは頷きながらそう言った後、後ろを振り返ると『これこそが、国のあるべき姿だと思う』と言っていた。
そんなアブドラに、ライラは『やはり継承式の演説で仰られていた"尊敬する手本"と言うのは正巳様の事でしたか』と返していた。
何となく、そのやり取りは正巳達に見せると言うよりも、連れて来た護衛――にしては一部恰幅の良すぎる者も居たが――に対して言って聞かせているように感じた。
二人のやり取りに多少疑問が残りはしたが、色々と事情もあるのだろう。
詮索するのは止めておく事にした。
それ迄歓声と拍手が続いていたが、正巳の様子を見ていたミューが手を上げた瞬間、押し寄せた波が引くようにして静まって行った。
完全に静まったタイミングで、改めて紹介した。
「改めて紹介しよう。グルハ王国アブドラ・ジ・グルハ国王だ。今回、日本に訪問に来ていたのだが、私と縁があった為寄って下さった。皆も"冒険王子"として馴染みがあると思うが、くれぐれも失礼が無いように!」
正巳が言ったタイミングで、子供達が揃って敬礼した。
子供達の敬礼は、護衛部の子供と給仕部の子供で其々違っていた。綺麗に頭を下げている子と、会釈をしつつ手を胸の前で折って礼を取る子だ。
礼の取り方は違うが、丁寧な仕草からは何度も練習をしている事が伝わって来た。そんな様子を見ていたアブドラ達一行は、何やら感心したように息を呑んでいたが、正巳がアブドラに促すと頷いて話し始めた。
――子供達は、皆がバンド型の通信端末を耳に近づけていた。恐らく、アブドラの言葉をマムの同時通訳によって聞いているのだろう。
「紹介を受けたアブドラである。我は、今日こうしてこの共生国家ハゴロモに最初の客として、正巳の友として来れた事を非常に嬉しく思う。更についでだからはっきりと言っておこうと思う――」
そこで一拍おいたアブドラに、何となく嫌な予感がした。それはアブドラの横に居た者達も同様らしかったが、流石に国王であるアブドラの話に割り込める者は居ないらしかった。
周囲の動揺を知ってか知らずか、口元を若干ニヤリとさせると言った。
「我は、決して日本のついでで来た訳では無い。元々ここに来るのが目的だったのだ。それに、我は確かに最近国王の座に就いた。しかし、それは全てここに居る正巳が理由だ。そもそも、この正巳――我が友と出合う事が無ければ、我が王として立つ事は無かっただろう!」
想像以上にぶっこんで来たアブドラに反応出来ずにいると、その様子を見ていたアブドラが口を開いた。
「最後に言うが……我は、確かに冒険が好きである!」
何を言うのかとドキドキしていたのもあって、アブドラの言葉に思わずズッコケそうになった正巳だったが、どうやらアブドラの言葉は前の内容よりも子供達に響いたらしかった。
力いっぱい『冒険王子ー!』と叫ぶ子供達に苦笑しながら、同じく苦笑と焦りを浮かべているアブドラの護衛達を見ていた。ライラは苦笑こそ浮かべていたが、焦った様子は無かった。
……アブドラの護衛達の気持ちが良く分かる。
自分の主人が、経済大国である国に訪問したその帰りに、大国側を"おまけ"呼ばわりしたのだ。それに加えて、まさか自分が国王の座を継ぐ事にした理由をこんな所で暴露――しかも、その理由が他の人にある等と聞く事になるとは、微塵も考えてもいなかっただろう。
場合によっては、極秘レベルの情報だ。
その後しばらくの間、何かのコンサートかの様に名前を呼ばれ、それにアブドラが応えると言う図が続いた。流石にいつまでもこのままでいる事は出来なかったので、ある程度落ち着いた所で言った。
「後で食事の時間がある。その時に時間を取ると良い」
どうやら、マムが正巳の言葉を伝えてくれたようで、直ぐに静かになった。
その様子を見ていたアブドラが、自分の護衛に何やら話している。
「おお、ほらな我が友はこういった面でも普通では無いだろう?」
アブドラの言葉を受け、周囲の護衛達……護衛なのか何となく怪しいが、その男達も何とも言えない表情をして『そうですな』とか、『なるほど……』と答えていた。
何となく気になったので、アブドラが護衛の男達と話している間にマムに確認をしておいた。確認した内容は、ライラ以外の護衛の"素性"だった。その結果は直ぐに聞く事が出来たが、何かリアクションをする前にアブドラがこちらに戻って来た。
「すまぬな、遅くなった」
言葉では謝りつつも、何処か満足気なアブドラを見て言った。
「良いんだ。大臣達から理解を得る事は重要だろうからな」
「……ふっ、やはり気付いていたか。一応、国外にはまだ出ていない筈の情報だったのだがな。やはり、我の判断は間違っていなかったな」
そう、アブドラの"護衛"として来ていた男達は、その半分が国政を司る大臣だったのだ。政府との交渉の際には、その姿が無かったが恐らく何処かで待機していたのだろう。
加えて、マムからは他の護衛達が、この拠点から三キロほど離れた場所で、キャンプを広げていると聞いていた。普通に考えて、二十人にも満たない人数で来るわけがないとは思ってはいたが、どうやら想像通り近くで待機していたらしい。
流石にそこまで指摘する事はしなかったが、何となくアブドラは察しているみたいだった。
「大丈夫なのか、ここまで沢山の"要人"を連れて来て」
純粋な正巳の疑問にアブドラが答える。
「大丈夫だ。国の方はバラキオス将軍――今は元帥だったな、に頼んである。それよりも、我の言葉に懐疑的な大臣どもを納得させる方が重要だと思ってな」
どうやら、バラキオス将軍は元帥になったらしい。
確か、アブドラの国では元帥は軍務大臣も兼任する立場にあった筈だが、これまでの流れから察するに『既に正巳と面識のあるバラキオスは連れて行く迄も無いだろう!』――とでも判断したのだろう。
他の大臣達には、何と言ったのかは分からない。
ただ、一つ言えるのは、どうやらアブドラの治世には必要だったらしいと言う事だ。別にこちらに、子供達に迷惑が掛からないのであれば、その程度は好きにして貰っても良いだろう。
正巳は頷くと言った。
「そうか、まあ必要であれば仕方ないのだろうな。それで、一応約束を果たそうと思っているんだが……それとも、先に夕食にするか?」
何でもない風に言った正巳だったが、アブドラは違った。
待ってましたと言うように、手をグッと握ると言った。
「よし、それでは早速条約の締結と、済ませる事を済ませてしまうとしよう!」
そう言ったのはアブドラだったが、正巳は首を傾げていた。
「……"済ませる事"か?」
正巳が考えていたのは、"約束"である条約の締結だけだ。
他に済ませるべき事が、何かあったとは思えないのだが……。
正巳の不思議そうな顔を見て、何故か嬉しそうにしたアブドラは言った。
「どうやら、我が友はその器に相応しいだけの"寛容さ"も、持ち合わせているらしいな。我が今回用意したのは、条約締結の提案と――前回の"依頼"に対しての報酬だ」
アブドラがそう宣言した瞬間、それ迄静かにしていた子供達が、再び沸き立つような歓声を上げていた。そんな子供達に交じって、今井さんや上原先輩も盛り上がっている様子を見た正巳は(あぁ、これは映画の影響だな)と思いながら、何となく俳優が歓声を受ける仕組みを理解したのだった。
少し待ってから落ち着かせた正巳は言った。
「分かった。それじゃあ、先に約束を果たそうか」
正巳の言葉を受け、再び歓声が鳴り響いた。
アブドラとライラは兎も角として、その他の従者たちは多少なり動揺しているのが見て取れる。原因は幾つか考えられるが、割と分かり易い反応をしているので原因を探すまでも無いだろう。
――アブドラの耳に付いている装置を見るに、どうやらミューが通訳用に機械を渡していたみたいだ。アブドラの護衛達も残らず付けている。
改めて周囲を確認したアブドラが言った。
「なるほどな、これが"大切"か……確かに"子供は国の宝"とは言うが、お前の場合はそう言った決まり文句以上の価値を置いているみたいだな」
何処か楽しそうな、それでいて安堵した様子のアブドラに言う。
「まあ、これ以上はそうそう無いだろうな」
「それでこそ我が友だ!」
正巳の言葉を聞いたアブドラは頷きながらそう言った後、後ろを振り返ると『これこそが、国のあるべき姿だと思う』と言っていた。
そんなアブドラに、ライラは『やはり継承式の演説で仰られていた"尊敬する手本"と言うのは正巳様の事でしたか』と返していた。
何となく、そのやり取りは正巳達に見せると言うよりも、連れて来た護衛――にしては一部恰幅の良すぎる者も居たが――に対して言って聞かせているように感じた。
二人のやり取りに多少疑問が残りはしたが、色々と事情もあるのだろう。
詮索するのは止めておく事にした。
それ迄歓声と拍手が続いていたが、正巳の様子を見ていたミューが手を上げた瞬間、押し寄せた波が引くようにして静まって行った。
完全に静まったタイミングで、改めて紹介した。
「改めて紹介しよう。グルハ王国アブドラ・ジ・グルハ国王だ。今回、日本に訪問に来ていたのだが、私と縁があった為寄って下さった。皆も"冒険王子"として馴染みがあると思うが、くれぐれも失礼が無いように!」
正巳が言ったタイミングで、子供達が揃って敬礼した。
子供達の敬礼は、護衛部の子供と給仕部の子供で其々違っていた。綺麗に頭を下げている子と、会釈をしつつ手を胸の前で折って礼を取る子だ。
礼の取り方は違うが、丁寧な仕草からは何度も練習をしている事が伝わって来た。そんな様子を見ていたアブドラ達一行は、何やら感心したように息を呑んでいたが、正巳がアブドラに促すと頷いて話し始めた。
――子供達は、皆がバンド型の通信端末を耳に近づけていた。恐らく、アブドラの言葉をマムの同時通訳によって聞いているのだろう。
「紹介を受けたアブドラである。我は、今日こうしてこの共生国家ハゴロモに最初の客として、正巳の友として来れた事を非常に嬉しく思う。更についでだからはっきりと言っておこうと思う――」
そこで一拍おいたアブドラに、何となく嫌な予感がした。それはアブドラの横に居た者達も同様らしかったが、流石に国王であるアブドラの話に割り込める者は居ないらしかった。
周囲の動揺を知ってか知らずか、口元を若干ニヤリとさせると言った。
「我は、決して日本のついでで来た訳では無い。元々ここに来るのが目的だったのだ。それに、我は確かに最近国王の座に就いた。しかし、それは全てここに居る正巳が理由だ。そもそも、この正巳――我が友と出合う事が無ければ、我が王として立つ事は無かっただろう!」
想像以上にぶっこんで来たアブドラに反応出来ずにいると、その様子を見ていたアブドラが口を開いた。
「最後に言うが……我は、確かに冒険が好きである!」
何を言うのかとドキドキしていたのもあって、アブドラの言葉に思わずズッコケそうになった正巳だったが、どうやらアブドラの言葉は前の内容よりも子供達に響いたらしかった。
力いっぱい『冒険王子ー!』と叫ぶ子供達に苦笑しながら、同じく苦笑と焦りを浮かべているアブドラの護衛達を見ていた。ライラは苦笑こそ浮かべていたが、焦った様子は無かった。
……アブドラの護衛達の気持ちが良く分かる。
自分の主人が、経済大国である国に訪問したその帰りに、大国側を"おまけ"呼ばわりしたのだ。それに加えて、まさか自分が国王の座を継ぐ事にした理由をこんな所で暴露――しかも、その理由が他の人にある等と聞く事になるとは、微塵も考えてもいなかっただろう。
場合によっては、極秘レベルの情報だ。
その後しばらくの間、何かのコンサートかの様に名前を呼ばれ、それにアブドラが応えると言う図が続いた。流石にいつまでもこのままでいる事は出来なかったので、ある程度落ち着いた所で言った。
「後で食事の時間がある。その時に時間を取ると良い」
どうやら、マムが正巳の言葉を伝えてくれたようで、直ぐに静かになった。
その様子を見ていたアブドラが、自分の護衛に何やら話している。
「おお、ほらな我が友はこういった面でも普通では無いだろう?」
アブドラの言葉を受け、周囲の護衛達……護衛なのか何となく怪しいが、その男達も何とも言えない表情をして『そうですな』とか、『なるほど……』と答えていた。
何となく気になったので、アブドラが護衛の男達と話している間にマムに確認をしておいた。確認した内容は、ライラ以外の護衛の"素性"だった。その結果は直ぐに聞く事が出来たが、何かリアクションをする前にアブドラがこちらに戻って来た。
「すまぬな、遅くなった」
言葉では謝りつつも、何処か満足気なアブドラを見て言った。
「良いんだ。大臣達から理解を得る事は重要だろうからな」
「……ふっ、やはり気付いていたか。一応、国外にはまだ出ていない筈の情報だったのだがな。やはり、我の判断は間違っていなかったな」
そう、アブドラの"護衛"として来ていた男達は、その半分が国政を司る大臣だったのだ。政府との交渉の際には、その姿が無かったが恐らく何処かで待機していたのだろう。
加えて、マムからは他の護衛達が、この拠点から三キロほど離れた場所で、キャンプを広げていると聞いていた。普通に考えて、二十人にも満たない人数で来るわけがないとは思ってはいたが、どうやら想像通り近くで待機していたらしい。
流石にそこまで指摘する事はしなかったが、何となくアブドラは察しているみたいだった。
「大丈夫なのか、ここまで沢山の"要人"を連れて来て」
純粋な正巳の疑問にアブドラが答える。
「大丈夫だ。国の方はバラキオス将軍――今は元帥だったな、に頼んである。それよりも、我の言葉に懐疑的な大臣どもを納得させる方が重要だと思ってな」
どうやら、バラキオス将軍は元帥になったらしい。
確か、アブドラの国では元帥は軍務大臣も兼任する立場にあった筈だが、これまでの流れから察するに『既に正巳と面識のあるバラキオスは連れて行く迄も無いだろう!』――とでも判断したのだろう。
他の大臣達には、何と言ったのかは分からない。
ただ、一つ言えるのは、どうやらアブドラの治世には必要だったらしいと言う事だ。別にこちらに、子供達に迷惑が掛からないのであれば、その程度は好きにして貰っても良いだろう。
正巳は頷くと言った。
「そうか、まあ必要であれば仕方ないのだろうな。それで、一応約束を果たそうと思っているんだが……それとも、先に夕食にするか?」
何でもない風に言った正巳だったが、アブドラは違った。
待ってましたと言うように、手をグッと握ると言った。
「よし、それでは早速条約の締結と、済ませる事を済ませてしまうとしよう!」
そう言ったのはアブドラだったが、正巳は首を傾げていた。
「……"済ませる事"か?」
正巳が考えていたのは、"約束"である条約の締結だけだ。
他に済ませるべき事が、何かあったとは思えないのだが……。
正巳の不思議そうな顔を見て、何故か嬉しそうにしたアブドラは言った。
「どうやら、我が友はその器に相応しいだけの"寛容さ"も、持ち合わせているらしいな。我が今回用意したのは、条約締結の提案と――前回の"依頼"に対しての報酬だ」
アブドラがそう宣言した瞬間、それ迄静かにしていた子供達が、再び沸き立つような歓声を上げていた。そんな子供達に交じって、今井さんや上原先輩も盛り上がっている様子を見た正巳は(あぁ、これは映画の影響だな)と思いながら、何となく俳優が歓声を受ける仕組みを理解したのだった。
少し待ってから落ち着かせた正巳は言った。
「分かった。それじゃあ、先に約束を果たそうか」
正巳の言葉を受け、再び歓声が鳴り響いた。
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