『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
182話 交渉 【帰還】
正巳が『ミンに証言して貰う』と言うと、それに反応を見せた首相は、どうやらミンの事を知っていて、その両親とは親しい中だったらしかった。
「ええ、現在は子供達を母国に送り届けに行っていますが、あと数日の内に戻って来ると思いますので、その時にでも時間を作りましょう」
正巳がそう言うと、信じられないと言った様子でしばらく質問をされた。
当然、そのままを伝えられない部分もあったが、質問に答えていく内に首相のホッとし始めていた表情が、再び厳しいものに変わっていた。
一通りの質問に答え終えた処で、首相が言った。
「あの国の大使館は国内から退去させる!」
どうやらお冠だったらしい。
それも当然だろう。親友だった者の子供で、ミン自身も知っているのに『人体実験を受けていた』等と聞かせれては、忍耐が持つはずが無い。
首相の隣に居た者達が『急には無理なので、順を追って……』と説得する様子を見ながら、どうやら某国関連ではようやく片が付きそうだなと思った。
ただ、この問題は国外に大使館を締めだせば終わるモノではなく、根源を絶たなくてはいけない問題だ。首相の様子を見ながら、何れはその問題にも取り掛かる必要がありそうだなと思っていた。
先輩へと視線を向けた正巳は、無意識にかかつては自分の腕だった――今は新たになった腕を擦っているのが見えた。
先輩の後ろに控えていたデウも、何か思う処があったとは思うが、静かに上原の肩に手を乗せると、苦笑する先輩と目を合わせて微笑んでいた。
いつか復讐をすると言っていた男の姿は既になく、そこには新たな居場所を見つけた男の姿があった。若干羨ましくも感じたが、そんな正巳の肩にも感じる手の感触に、小さく呟いた。
「ああ、分かってるさユミル」
そう応えると、ユミルも小さく返して来た。
「はい、正巳様」
その後、幾つかの取り決めをした上で、改めて内容に関して確認した。
結構長い事かかったのでサナの様子が気になったが、それを察したマムによって、サナが"映画"の鑑賞中だと知って少しばかり安心した。
……映画を見ていれば、無理に外に出ようとせず大人しくしているだろう。
交渉の中で、幾つか追加で要求をしたのだが、その殆どが盛り込まれる事になった。少し心配だったのは、一部の国会の議会を通さないといけない内容に関してだった。
そかし、首相にそれを聞くと『なに、そちらから得た議員の情報を使えばどうとでもなるだろう?』と言って、悪そうな笑みを浮かべていた。
何となく、一番悪いのは首相では無いかと思ったが、いつの世でも立場が違えば味方も変わるものだな、と思う事にした。少なくとも、こちらの敵ではない内はそれで良いのだろう。
お互いに納得した所で手を取り交わし、"交渉"を終えた。
交渉を終えた後、アブドラが『よし、面倒な事が終わったな!』と言ったものだから、思わず首相が『いや、下手すると我が国の危機だからな!』と通訳を介して突っ込んでいた。
どうやら、そのやり取りが緊張を解く事になったらしく、数分後にはすっかりプライベートの友人の様に話す男達が居た。
「そもそも、君が参加すると言うから最初から可笑しくなったんだよ。元々、部下に任せて情報だけ受け取ろうとしてたのになぁ」
――と首相。それに答えるのは、国王となったアブドラ。
「なに、礼には及ばないさ。我が参加しなくては、下手をすると"下手"をしていたかも知れないしなぁ。なに、我も鬼ではない。こうして間を取り持つ事で、今後は国際社会にも新しく変わる事をPRして行かないといけないのだよ」
どうやら、元々は政府として首相が対応する事なく、部下との交渉となる筈だったようだ。それがアブドラの仲介によって、政府としては首相と隣の男――外務大臣だろう――が出て来ざるを得なくなった。
全ては、マムの計画通りなのだろう。
忘れる前に、と先にデータを渡しながら言った。
「そもそも、今回はどうやってこの場を用意したんだ?」
こちらを見て来た二人に『まさか、アブドラが俺と首相の立ち合いをする――とは公表できないだろう?』と聞いた。
すると、頷いた首相は言った。
「実は、この後財務大臣含めた大臣級の閣僚で食事会が有るんだ。クク、奴らもまさか最後の晩餐だとは思わないだろう」
首相の言葉に苦笑いしながら、『そうか』と答えた。
どうやら、表向きは"国同士の交流"として訪れた事になっているらしい。
納得していた正巳だったが、そんな正巳を見ていたアブドラが言った。
「うむ、当然今夜は、お前の所に泊まる事になってるからな!」
そう言ったアブドラに思わず『冗談だろ?』と返した正巳だったが、『そうか、それ程嬉しいか!』と抱擁して来たアブドラを思わず張り倒そうと思ったが、首相の手前もあり止めておいた。
その後、『今夜は飲み明かそうぞ!』と言って楽しそうにしているアブドラと、『本当に仲の良いようで……』と苦笑する首相を部屋に残し、帰還する事にした。
部屋を出た後、マムが『極東にでも連れていきましょうか?』と言って来たので、苦笑しながら言った。
「一応、案内してやってくれ」
アブドラの顔を思い出しながら呟いた。
「……あれでも、苦労して来てくれたみたいだからな」
そう呟いた正巳に、疲れた様子の先輩が言った。
「おいおい、確かに"知って"はいたけど、本当にあの"アブドラ王子"と知合いなんだな」
どうやら、アブドラはマムによって、その半生が映像化されていたらしく、子供達にも"冒険家"として人気だという話だった。
疲れた様子の先輩を見ながら言った。
「先輩、一応今はアブドラ"国王"らしいです」
「ああ、そうだな……」
最早"どうでも良い"と言った様子の先輩に『後は、車に乗って帰るだけですよ』と言うと、開いた扉から外へ出た。
どうなるかと思った交渉だったが、思いの他スムーズに終えられ安堵していた。
駐車場に止まている車両に乗り込みながら、相変わらずの監視の視線を感じていた正巳だったが、それらに関しては来た時と変わらない視線だった為、大して気にはならなかった。
車両に乗り込んだ正巳は、抱き着いて来るサナと、サナがそれまで見ていたと思われる映画――何やらある国の王子が世界中の秘境を旅するという話らしい――を見て苦笑していた。
どうやらマムは、王子の事を子供達に気に入って欲しかったらしかった。その後、サナと帰りは映画の続きを見ると約束して、走り出した車両の中帰路に入っていた。
正巳は、最後までその視線――何かねっとりとした視線には気が付く事は無かった。
◇◆◇◆
男は、走り去って行く車両を見てその口元を歪めていた。
「俺の事を売ったようだが、残念ながらその情報は全て俺の手の中だぞ……そうだな、俺が政権を取る為に今回の件については利用させて貰おうか」
男は先程『これが受け取った情報だ……馬鹿な奴だよ、議会の承認を受けずに何か守られてると信じてた』と言って来た仲間の一人から受け取ったその装置を見ながら、呟いた。
「ふむ、技術力は惜しいものがあるな……よし、あいつ等に『略奪できるモノは全て持って来い』とでも言っておくか」
そう呟いた男だったが、チャイムが鳴ったのを確認して言った。
「なんだ?」
ドアの向こうに居たのは、ショートヘアの女性職員だった。
男は常に自分の事は、若い女性職員に対応させるようにしているのだ。
舐めまわすような視線を向けながら促すと、女性が言った。
「あの、会食の時間となりましたので……ご案内いたします」
怯えた様子の女性に満足しながら、『案内しろ』と言うとその装置を胸ポケットにしまい、女性の後に付いて歩き出した。
男は、この後自分が得る事になるであろう利益と、その先にある更なる欲望を満たす事を妄想しながら、新しい国王となった男にどう取り入ろうかと考え始めていた。
しばらく歩いた所で、会場に辿り着いた。
開かれて行く扉と共に、『防衛大臣、道尊寺重三様です』と言う紹介に合わせ、足を踏み出していた。その足取りは軽く、未来について何ら不安を感じさせないものだった。
――会食が始まった。
「ええ、現在は子供達を母国に送り届けに行っていますが、あと数日の内に戻って来ると思いますので、その時にでも時間を作りましょう」
正巳がそう言うと、信じられないと言った様子でしばらく質問をされた。
当然、そのままを伝えられない部分もあったが、質問に答えていく内に首相のホッとし始めていた表情が、再び厳しいものに変わっていた。
一通りの質問に答え終えた処で、首相が言った。
「あの国の大使館は国内から退去させる!」
どうやらお冠だったらしい。
それも当然だろう。親友だった者の子供で、ミン自身も知っているのに『人体実験を受けていた』等と聞かせれては、忍耐が持つはずが無い。
首相の隣に居た者達が『急には無理なので、順を追って……』と説得する様子を見ながら、どうやら某国関連ではようやく片が付きそうだなと思った。
ただ、この問題は国外に大使館を締めだせば終わるモノではなく、根源を絶たなくてはいけない問題だ。首相の様子を見ながら、何れはその問題にも取り掛かる必要がありそうだなと思っていた。
先輩へと視線を向けた正巳は、無意識にかかつては自分の腕だった――今は新たになった腕を擦っているのが見えた。
先輩の後ろに控えていたデウも、何か思う処があったとは思うが、静かに上原の肩に手を乗せると、苦笑する先輩と目を合わせて微笑んでいた。
いつか復讐をすると言っていた男の姿は既になく、そこには新たな居場所を見つけた男の姿があった。若干羨ましくも感じたが、そんな正巳の肩にも感じる手の感触に、小さく呟いた。
「ああ、分かってるさユミル」
そう応えると、ユミルも小さく返して来た。
「はい、正巳様」
その後、幾つかの取り決めをした上で、改めて内容に関して確認した。
結構長い事かかったのでサナの様子が気になったが、それを察したマムによって、サナが"映画"の鑑賞中だと知って少しばかり安心した。
……映画を見ていれば、無理に外に出ようとせず大人しくしているだろう。
交渉の中で、幾つか追加で要求をしたのだが、その殆どが盛り込まれる事になった。少し心配だったのは、一部の国会の議会を通さないといけない内容に関してだった。
そかし、首相にそれを聞くと『なに、そちらから得た議員の情報を使えばどうとでもなるだろう?』と言って、悪そうな笑みを浮かべていた。
何となく、一番悪いのは首相では無いかと思ったが、いつの世でも立場が違えば味方も変わるものだな、と思う事にした。少なくとも、こちらの敵ではない内はそれで良いのだろう。
お互いに納得した所で手を取り交わし、"交渉"を終えた。
交渉を終えた後、アブドラが『よし、面倒な事が終わったな!』と言ったものだから、思わず首相が『いや、下手すると我が国の危機だからな!』と通訳を介して突っ込んでいた。
どうやら、そのやり取りが緊張を解く事になったらしく、数分後にはすっかりプライベートの友人の様に話す男達が居た。
「そもそも、君が参加すると言うから最初から可笑しくなったんだよ。元々、部下に任せて情報だけ受け取ろうとしてたのになぁ」
――と首相。それに答えるのは、国王となったアブドラ。
「なに、礼には及ばないさ。我が参加しなくては、下手をすると"下手"をしていたかも知れないしなぁ。なに、我も鬼ではない。こうして間を取り持つ事で、今後は国際社会にも新しく変わる事をPRして行かないといけないのだよ」
どうやら、元々は政府として首相が対応する事なく、部下との交渉となる筈だったようだ。それがアブドラの仲介によって、政府としては首相と隣の男――外務大臣だろう――が出て来ざるを得なくなった。
全ては、マムの計画通りなのだろう。
忘れる前に、と先にデータを渡しながら言った。
「そもそも、今回はどうやってこの場を用意したんだ?」
こちらを見て来た二人に『まさか、アブドラが俺と首相の立ち合いをする――とは公表できないだろう?』と聞いた。
すると、頷いた首相は言った。
「実は、この後財務大臣含めた大臣級の閣僚で食事会が有るんだ。クク、奴らもまさか最後の晩餐だとは思わないだろう」
首相の言葉に苦笑いしながら、『そうか』と答えた。
どうやら、表向きは"国同士の交流"として訪れた事になっているらしい。
納得していた正巳だったが、そんな正巳を見ていたアブドラが言った。
「うむ、当然今夜は、お前の所に泊まる事になってるからな!」
そう言ったアブドラに思わず『冗談だろ?』と返した正巳だったが、『そうか、それ程嬉しいか!』と抱擁して来たアブドラを思わず張り倒そうと思ったが、首相の手前もあり止めておいた。
その後、『今夜は飲み明かそうぞ!』と言って楽しそうにしているアブドラと、『本当に仲の良いようで……』と苦笑する首相を部屋に残し、帰還する事にした。
部屋を出た後、マムが『極東にでも連れていきましょうか?』と言って来たので、苦笑しながら言った。
「一応、案内してやってくれ」
アブドラの顔を思い出しながら呟いた。
「……あれでも、苦労して来てくれたみたいだからな」
そう呟いた正巳に、疲れた様子の先輩が言った。
「おいおい、確かに"知って"はいたけど、本当にあの"アブドラ王子"と知合いなんだな」
どうやら、アブドラはマムによって、その半生が映像化されていたらしく、子供達にも"冒険家"として人気だという話だった。
疲れた様子の先輩を見ながら言った。
「先輩、一応今はアブドラ"国王"らしいです」
「ああ、そうだな……」
最早"どうでも良い"と言った様子の先輩に『後は、車に乗って帰るだけですよ』と言うと、開いた扉から外へ出た。
どうなるかと思った交渉だったが、思いの他スムーズに終えられ安堵していた。
駐車場に止まている車両に乗り込みながら、相変わらずの監視の視線を感じていた正巳だったが、それらに関しては来た時と変わらない視線だった為、大して気にはならなかった。
車両に乗り込んだ正巳は、抱き着いて来るサナと、サナがそれまで見ていたと思われる映画――何やらある国の王子が世界中の秘境を旅するという話らしい――を見て苦笑していた。
どうやらマムは、王子の事を子供達に気に入って欲しかったらしかった。その後、サナと帰りは映画の続きを見ると約束して、走り出した車両の中帰路に入っていた。
正巳は、最後までその視線――何かねっとりとした視線には気が付く事は無かった。
◇◆◇◆
男は、走り去って行く車両を見てその口元を歪めていた。
「俺の事を売ったようだが、残念ながらその情報は全て俺の手の中だぞ……そうだな、俺が政権を取る為に今回の件については利用させて貰おうか」
男は先程『これが受け取った情報だ……馬鹿な奴だよ、議会の承認を受けずに何か守られてると信じてた』と言って来た仲間の一人から受け取ったその装置を見ながら、呟いた。
「ふむ、技術力は惜しいものがあるな……よし、あいつ等に『略奪できるモノは全て持って来い』とでも言っておくか」
そう呟いた男だったが、チャイムが鳴ったのを確認して言った。
「なんだ?」
ドアの向こうに居たのは、ショートヘアの女性職員だった。
男は常に自分の事は、若い女性職員に対応させるようにしているのだ。
舐めまわすような視線を向けながら促すと、女性が言った。
「あの、会食の時間となりましたので……ご案内いたします」
怯えた様子の女性に満足しながら、『案内しろ』と言うとその装置を胸ポケットにしまい、女性の後に付いて歩き出した。
男は、この後自分が得る事になるであろう利益と、その先にある更なる欲望を満たす事を妄想しながら、新しい国王となった男にどう取り入ろうかと考え始めていた。
しばらく歩いた所で、会場に辿り着いた。
開かれて行く扉と共に、『防衛大臣、道尊寺重三様です』と言う紹介に合わせ、足を踏み出していた。その足取りは軽く、未来について何ら不安を感じさせないものだった。
――会食が始まった。
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