『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

164話 実戦型VR

 数十メートル上空から如何にか"着地"した正巳は、その後『任務を守れませんでした』と項垂れるボス吉を励ましながら、怪しい発言をしていたマムを問い詰めていた。

 マムを吐かせたところ『パパの一番はマム作戦』なる計画を立てていたらしい。

 小さく『この計画は、セカンドが考えた事でして……』等と言っていたが、『第二人格が考えた事でも、マムには変わらないだろ?』と言うと、大人しくなった。

「それで、あの何と言ったか――機械達が電力不足だったというのは嘘なのか?」

 もし、マムがボス吉を嵌める為にした"偽の情報"だとしたら、あの"空飛ぶ機械"は、想像よりも遥かに優秀で有益と言う事になる。ある種の期待をしながら聞いたが――

「いえ、確かに電力が無くなる"報告"のタイミングはずらしましたが、完璧に"ギリギリ"でした。パパに『如何にかする』と約束して貰っているので、全く心配はしていませんが……現在の技術では"省エネでの半永久的な活動"が限界で、"高機能高出力での稼働には時間制限が付く"のが現状なんです」

 そう言って、マムが微笑んだ。

 これ迄の流れからすると、裏で何か企んでいたり、単に"約束"を急かしているだけの様にも取れる。しかし、目の前のマムは純粋に信じている様だった。

 正直に言うと、マムにした"約束"は今言われて思い出した。が、ここ迄期待されると流石に、如何にかしなくてはいけない気になって来る。それに、"約束を守る"と言うのは、手本となるべき俺が破ってはいけない事の一つだろう。

 まあ、そもそも手本と言う点に於いて、常に特殊な状況にある俺が"正しい"手本を示せているかは分からない。しかし、懸命にそうあろうとはしている。

「ああ、そうだな。電力――エネルギー問題については如何にかする」

 マムの頭を撫でながらそう答えると、隣で大きくなって抗議していたボス吉に声を掛けた。

「確かに任務は達成できなかったかも知れないがな、時には任務より優先するべき事もある」

 驚いた様な表情を向けて来る。

「よくやった」

 そう言って体を撫でると、小さく"変化"して足元にすり寄って来た。そんなボス吉を持ち上げて毛並みを整えていると、何やら慌てた今井さんがやって来た。

「さ、さあ、まだまだ僕のプレゼンは終わらないよっ!」

 ……いつから今井さんのプレゼン・・・・を受けている事になっていたのかは分からないが、確かにこの"拠点"は今井さんと先輩、それにマムによって完成まで持って来られたものだ。紹介と言う面では、正しいだろう。

 しかし、"プレゼン"は何かを提案したり提示したりと、基本的に売り込む目的で行う事が多いのだが……まあ、大方自慢の拠点さくひんを気に入って欲しいという事なのだろう。

 その後、急かされる形で再び車両に乗り込んだ正巳は、車両内で苦笑している先輩を見つけた。

「あっ、先輩はどうなるか知ってたんですね!」
「まぁ、そうだな」

 事もなげにそう言った先輩に対して、一言物申そうとしたのだが……続けて言った先輩の言葉を聞いて、逆に慰める事となった。

「俺の場合は、完成版じゃなくて"プロトタイプ"の実験台だったからな」
「実験台ですか……ま、まぁあれですね、怪我や事故が無くて良かったですね」

「怪我に事故か……何度か骨を折った筈なんだが、何故か直ぐに立てるようになるし、そもそも毎回の実験が事故の様なモノだったけどなぁ」

 悲壮な表情の先輩に同情しながら、動き出した車両から外を見た。

 拠点の入り口は、車両が行き違えるほど大きく開いている。その入り口は、やはり特殊な加工をしてあるのだろう。傍目から見ても頑丈な造りをしている様だった。

 先輩を華麗にスルーした今井さんが、興奮した様子で説明する。

「さあ、入り口を入ると周囲は一回りをコンクリート造りの壁が囲っている」

 今井さんが言う通り、入り口を入ると中にはコンクリート造りの建物があった。外壁を六角形のガラス防壁で覆っており、中にはコンクリート造りの建物が有るという具合だ。

 外壁と中の建物の間には空間があり、車一台程度なら悠々と通れる幅があった。

 それに、中は想像していたよりも明るかった。

「明るいですね」
「ああ、そうだね。外壁防御虫シールドインセクトは小さな機械達だからね。それこそ、好きに模様を壁に浮かべる事だって出来るんだ!」

 そう言うと、マムが『この通りです!』と言って、近くの壁に結晶の様な紋様を浮かべて見せた。そんなマムに対して『凄いな』と言いながら、(これなら子供達が暗くて困る事も無いな)と思った。

 その後、建物の周りを走りながら続きを聞いた。

「中は幾つかのセクターに分かれているんだ。ここは、多目的スペースとして区分しているから、普通のオフィスや部屋として使えるんだ!」

 『良いだろ?』と言う今井さんに対して聞く。

「オフィスですか?」

 すると、今井さんはミューとリルの方をチラリと見ながら言った。

「子供達はみんな"仕事"を持っているからね。みんなも自分の"仕事部屋"が欲しいだろう?」

 その言葉を聞いたミューとリルの二人が、キャッキャと喜んでいる。

「流石ですね……」
「ま、まあね!」

 腰に手を当て、胸を張って見せた後で『仕事とプライベートの場所を区切る意味合いもあるんだ』と言った今井さんに、思わず『あの技術の今井が、仕事とプライベートを"区切る"ですか……』と言ってしまった。

 今井は苦笑しながら、『流石に他人にまで強要なんてしないさ』と言っていたが、先輩が横から来て『同じ部署になったら別なんだろうな……』と呟いていた。どうやら、この半年間で相当に大変だったらしい。

「それで、この中には入れるんですか?」

 入り口から入ったとは言っても、外壁の中に入ったに過ぎない。まだ拠点の肝心な居住区については確認していないのだ。

「そうだね、それじゃあ――」

 今井さんがそう言って、続けようとした所でマムが割って入った。

「マスター! 時間が……いえ、先に地下を見て頂くのが良いかと思います。実際の居住エリアや重要な設備は全て地下にありますし!」

 ……時間が何だろう。
 時間ならまだまだある筈だけど。

 何となくマムの様子が気になったが、『う~ん、そうだね。ここはそんなに重要じゃないし、それじゃあ"入り口"までは知らせてくれるかい?』と言った今井さんの言葉で、それ処では無くなった。

「それでは、完璧な操作テクドライビングをお見せしますね!」

 マムがそう言った次の瞬間、エンジンの回転数が跳ね上がる音と共に、加速時の衝撃が襲って来た。危うくボス吉を落としそうになったが、ボス吉が器用に尻尾で腕に捕まっていた。

「お、おいこんな建物内でスピード出して大丈夫かっ!?」
「大丈夫です、パパ! 制御は完璧ですしほぼ直線なので!」

 マムがそう答えている最中も、ものすごいスピードで加速して行く。

「排ガスだってヤバいだろ?」
「大丈夫です! 現在電気に切り替えていますし、換気は完璧です!」

 『拠点内に毒ガスが散布されても、即時換気・無効化するだけの設備があります!』等と言っているが、今はそれ処では無い。近づいては遠ざかる壁に身を構えていた。

 その後、三度目の壁が迫った所で、ようやくスピードが落ちた。

「さあ、着きました! ここから下へはこのエレベーターで行けます」

 そう元気に言ったマムに対して反応できたのは、始終冷静だったユミルだけだった。


 ――5分後。

 左右に六つ設置されていたエレベーターの一つに乗ると、拠点の地下へと降りていた。エレベーターの中で、復活した今井さんが説明してくれたが……どうやらこのエレベーターは許可された人でないと使用する事が出来ないらしかった。

 所謂いわゆる"生体スキャン"という技術で、認証をしているらしい。

 他にも幾つか地下へ行く方法が有るらしいが、先輩の『また今度にしましょう!』という必死な説得で今回は見送られる事となった。

「ここが3階です!」

 マムがそう言って、エレベーターを止めた。

 パネルには今居る階層が表示されているが、何階まであるのかは表示されていなかった。恐らくセキュリティ面を考えての事なのだろうが、この分からない・・・・感じがアドベンチャーしていて良い。

地下・・一階と二階は見なくても良いのか?」

 間に二つ階層がある筈なのだが、飛ばして来ていた。

「はい。そちらは居住エリアですので、嫌でも今後周る・・事になるでしょう。今回は、優先度の高い設備を見て頂きます!」

 そう言ったタイミングで、目の前の扉が開いた。

「これは……」
「はい――」

「そうさ、これが新しい"訓練施設"だよ!」

 そう言って、今井さんが胸を張っている。

 そんな今井さんの横でマムが頬を膨らませるが、すかさずユミルがマムの手を握っていた。どうやら、ユミルは遺恨無くマムと打ち解けているらしい。

 そんな様子ほっこりしながら天井を見ると、雲梯うんていがあった。その雲梯は先へと続いており、其々のエレベーター毎に3ラインづつ出ていた。その雲梯は途中で交差しており、合流したり分岐したりしていた。

「なるほど、この上の遊具もトレーニングの一環という事ですか?」

「そうなんだ。実は色々調べてみて、訓練するのであればいっその事、このフロア全てを訓練エリアにしてしまえば良いと思ってね!」

 ……なるほど。

 より柔軟な訓練という点では、面白いかも知れない。しかし、雲梯で移動というのは……年齢制限を付けて、発育に影響のない年齢から解禁するのが良いだろう。

「それで、このフロアはいったいどうなってるんですか?」
「よし、それじゃあ僕が順を追って紹介してあげよう!」

 そう言った今井さんは、施設内を紹介して回ってくれた。

 かなりの広さがある為、途中で戻る事になったが……それにしても、見て回った一つ一つが恐ろしく"実戦的"だった。それも、其々鍛える能力毎に施設が特化しており、幼い子供向けには身体面でのトレーニングでは無く、反射や技術的な面を鍛える訓練設備が多かった。

 個人的には、VR技術を応用した訓練が気になった。

 このVR(バーチャルリアリティ)を使った訓練には数種類メニューがあったが、その一つが"状況別対処訓練セレクト"だった。

 どうやら、この"セレクト"という訓練は、丸い球型の機械に入って行うらしい。球型の機械の中は、全方位にセンサーが付いていて、下部分が丁度ランニングマシンの床の様になっていた。

 球型の機械――"クワンセル幻想現実観測機器"は、小型のヘルメットを装着して入るみたいだった。恐らく、この機械の中で歩くとVR内でも同じようにキャラクタが動くのだろう。

 マムは『この状況別対処訓練システム"セレクト"は、あらゆる状況を設定でき、設定した状況下で任務を達成する為の訓練を実践的に行う事が出来ます。実は、この技術を既に開発している国がありまして……丸々頂いて、更に改良を加えちゃいました。ウチの子は、数世代進んでますよ!』と言っていた。

 命に危険が無く、実践と同等の訓練が行えると言うならば、それは素晴らしいとは思う。しかし、本当の戦場にしかない感覚もある訳で……まあ、一先ず訓練として・・・・・は最高だろう。

 他にも、このフロア全体をVRマップとして訓練できるメニューも有るらしく、子供達と鬼ごっこをする感覚で遊べたら楽しそうだなと思った。

 実際にそれを言ったら、先輩に引かれてしまったが……

 兎も角、面白そうな設備が整っている事を知って、明日からの訓練が楽しみになった。

「さて、次のフロアを紹介して下さい!」
「ふふふ、正巳君も良い感じに乗って来たね!」

 満足してエレベーターに乗ったのだが、俺がテンションを上げているのを見て、今井さんも嬉しそうだった。そんな今井さんに対して『想像以上でしたからね』と言うと、今井さんだけでなく先輩もマムも嬉しそうにしていた。

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