『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
99話 支度 [ロウ]
『共通認識として居た事を今井が知らなかった』という事実を知った正巳とマムは、二人揃って頭を抱えていた。
そんな様子を見て、不思議そうにしていた今井だったが、確認するように口を開いた。
「えっと、ロウ君は車の中に居たんだよね?」
正巳が頷きながら答える。
「はい。俺が別荘の中に入った時は、そうでした」
「それで、放火された時、ロウ君の乗っていた車も燃やされたんだよね?」
マムが頷く。
「はい、マスター。車の温度計は、確かに燃焼時の温度を示していました」
「それで、ロウ君は車の中で亡くなったんだよね?」
今井さんが『ニュースで、車の中にも焼死体って流れてたし……』と呟いている。
「……マム、ニュースの焼死体って何だ?」
俺が知らない情報が出て来たので、マムに確認した。
すると……
「はい、パパ! 警察の調査資料によると、"170cm後半と見られる男性の焼死体を車両内から発見"と有ります。こちらが、ニュース番組で流れているようですね」
「それで、その死体は……」
「はい、恐らく銃殺されたうちの一人かと思われます」
マムの返事を聞いて、気分が悪くなる。
「そんな小細工の為に死体を……」
その後、マムに警察の調査資料に関して詳しく聞いたが、俺の目の前で撃ち殺された一人の死体で間違いないだろう。
そう確信したのは、マムが『"頭部は、損傷が激しく損壊が著しい"と有ります』と言った時だった。恐らく、頭部の損壊が激しいのは、『高温で焼かれたから』ではなく、『拳銃で損壊していたから』だろう。
俺とマムの会話を、静かに聞いていた今井さんだったが、途中でその不自然さに気付いたようだった。
「えっと、正巳君? ロウ君は、死んだんじゃ無いのかい?」
そう言って、不思議そうにしている今井さんに、説明する事にした。
「マムから説明があったと思いますが、ロウの乗っていた車の体調管理システムからは、ある瞬間に反応が消えました」
俺がそう言うと、今井さんは頷く。
「うん。それはマムから聞いたね」
「それでは、その反応がいつから消えていたか、聞きました?」
そう言うと、今井さんは『うん?』と、考え始めた。
そして……
「いや、聞いてないね。車が燃えたタイミングかと思ってたけど……」
そう言ってから気付いたようで、『もしかして……』と呟いている。
「そうです。ロウの反応が消えたのは、車が燃える前です。もしかすると、車から攫われたのかも知れませんが、その可能性は――」
「その可能性は、薄いだろうね。流石に、寝る時に車の鍵を閉めたはずだし、少しでも暴れれば音が少なからず漏れるだろう。……それじゃあ、ロウ君は生きているのかい?」
そう言って、こちらを見る。
……今井さんの様子と、話している内容から、ロウが"仲間"で、生きていて"嬉しい"と思っている事が分かる。今井さんにとって、一度"仲間"と認識された人は、ある程度の事が有っても"仲間"で居続ける様だ。
……危うさが有る。
何処か、祈るような表情を浮かべている今井さんに言った。
「……ロウは、恐らく生きているかと思います。そして、恐らく敵でしょう。……初めからそうであったように」
俺が言った言葉を、今井さんは反芻するように、唇の上で繰り返している。
「初めからそうであったように、生きていて、敵……?」
数秒経ってから、今井さんが帰って来た。
「……正巳君。君と、マムの共通認識を教えてくれ給え」
一先ず、内容は理解したらしい。
……納得はしていない様だが。
「分かりました」
今井さんには、説得よりも、情報の開示と認識の開示が効果的だろう。
状況と情報から、解を導き出す筈だ。
「最初に、俺はロウには"マム"と言う存在を教えていません」
「どういう事だい? マムが案内したり、指示したりした時にロウ君も居た筈だが……?」
そう、確かに居た。
俺達が、大使館から逃げ出すにはマムの力が必要不可欠だった。
マムは、今井さん達の乗るトラックをリモート操作していた。
「はい。確かに、マムがイヤホンから話すのを見ていましたし、聞いてもいました。しかし、ロウには言っていなかった事が有ります――」
俺の言葉に、今井さんが疑問符を浮かべている。
「それは、マムが人工知能であると云う事です」
そう、ロウは最後の最後、俺とサナが別荘に入った時までマムが凄腕のハッカーだと思っていた。つまり、マムが人工知能では無く、人間だと思っていたのだ。
「それって……」
「はい。別荘を徹底的に焼いたのも、俺を始末するだけでなく、別荘の"地下に居る"と思っていたハッカーを同時に始末しようとした結果だと思われます」
恐らくだが、俺が適当に答えた際に、"別荘の地下にハッカーが居る"と思い込んだのだろう。
「それで、車の体調管理システム何かも気にせずに……」
「そうですね。ハッカーさえ死んでしまえば、反応がいつ消えたかなんて知り様が無いですから。あとは、死体を用意して、車ごと燃やしてしまえば――」
「僕はニュースかなんかで『死んだ』と思い込む訳か」
俺とマムの共通認識は『ロウは生きている』と言う事と、『別荘の場所を知らせたのはロウ』と言う事だ。流石に、今の情報のみでロウが裏切ったと断定は出来ない。
しかし、その他のあらゆる情報を見ても、ほぼ全ての情報が"クロ"と言っている。唯一"クロ"と言っていない情報も、何処かで会う機会が有れば"クロ"と断定される。
……ロウが生きていれば、"クロ"で確定なのだ。
それなりに衝撃的な話だったようで、今井さんはしばらく言葉を失っていた。
そんな様子を見ながら、時刻を確認すると、既に日を跨いで一時間以上が経とうとしていた。……これ以上遅くなると、先輩達も寝てしまうだろう。
「今井さん、先輩達と話をしたいんですが」
『宜しいですか?』と聞くと、今井さんは我に返ったようだった。
「ああ、そうだね。デウ君にも話を聞いておきたいな。それで僕も結論を出すよ」
……先ほど結論を出したと思っていたのだが、どうやら未だ受け入れられていない様だった。
「分かりました。……マム、先輩達が起きてるか分かるか?」
「はい、パパ。上原さんとデウの二人が"会話"している音が拾えるので、まだ起きているかと思います。……こちらのパネルに表示しましょうか?」
パネルに表示……テレビ電話か。
「そうだな。やってくれ」
先輩達の部屋に行こうと思っていたのだが、こうして話せるのであれば問題ない。
その後少し経って、マムの『繋げますね』と言う言葉と共に、映像が表示された。
「『お、凄いな、何の機械も使わずに繋がるのか……この技術を応用して商品化すれば、それだけで莫大な利益が上げられるな……』」
パネルに、映し出されている先輩がそんな事を言っている。
……映像は綺麗なのだが、音が軽くハウリングしている。
……何と言うか、普段の先輩はもう少し低い声だ。
「……パパ、音声も調整しました!」
俺が、微妙に音を気にしたのを察したのか、マムが報告してくる。
そんなマムに『流石だな』と返してから、先輩に話しかけた。
「それで、先輩。デウの様子はどうですか?」
俺がそう聞くと、パネルの中の先輩が『ほら、こっち来いって。さっき迄、"兄に恥ずかしくない人生を送るんだ!"とか何とか言ていたじゃないか』等と言って、デウを呼び出している。
そんな様子を見て、俺は今井さんに話しかけた。
「……今井さん。デウが居るので、ロウについて聞いてみたらどうですか?」
そう言うと、今井さんは『そうだね……』と言って、一つ質問をした。
「デウ君。ロウ君には、兄弟がいたかい?」
今井さんがそう聞くと、パネルの向こうのデウは不思議そうな顔をして答えた。
「はい。確かに、デウには兄弟がいますが……?」
今井さんの質問を聞いていた正巳は、その意図が分かった。
確かに、現状確認できる情報では今井さんの質問が一つの判断基準になるだろう。
デウの答えを聞いた今井さんが、続けて質問した。
「それで、そのデウの兄弟はあの時いたかい?」
今井さんの言う"あの時"とは、デウと仲間の衛兵達が"上官に打たれた時"の事を言っているのだろう。……今井さんは少々焦っているのか、説明が足りていない。
補足しようとしたのだが、必要かった様だ。
デウが口を開いた。
「いえ、デウの兄は私の兄でもあります……それにあの場には居ませんでした」
そう言って、俯いたデウに先輩が何やら声を掛けている。
「……そうか、お前が話していた"兄"って言うのは、そいつの兄でもあったんだな」
「ええ、兄は、住んでいた一帯の兄でしたので。当然、他にも沢山弟がいますよ」
……『一帯の兄』か。
「つまり、デウ君やロウ君の兄は、血のつながりのある兄弟では無かったんだね……それで、その"兄"は今どこに居るんだい?」
「はい。私達"貧民街"の子供は、皆自分の親を知りません。ですので、兄がみんなの親でありました。……兄は、他のエリアとの勢力争いの際に亡くなりました」
……それなら?
「ちょっと良いか?」
そう言って、話しに入った。
「は、はい! 何でしょうか!」
……力が入り過ぎだ。
「ああ、いやな……デウは、俺が大使館で部屋に入った時に"上官"と一緒に居ただろう?」
「……あ、はい。そうですね、確かに私はあいつの横にいました」
デウが、拳を握っている。
「その時に、俺とデウと他に二人が部屋に入った」
「……はい。確かにそうでした。あの時は……私とリウとキウ、それにデウが居ました」
思い出しながら肯定を返して来る。
「それで、撃たれなかったロウを除いて、お前意外の二人の衛兵は亡くなった。この衛兵はどういった者達だったんだ?」
既に、ロウの兄弟は一人もいなかったと明言されている。
しかし、知らないだけでロウの兄弟だった可能性もある。
「あの場に居たデウ以外の二人……リウとキウは、二人とも娼館から捨てられた"落ち子"です。二人とも別の地区から逃げて来て、"兄"に拾われました」
「それじゃあ、ロウと"兄弟"である可能性は?」
「それは有りません。ロウの場合少し特殊で、"妾の子"と呼ばれていた富裕層落ちでしたから」
……そうだったのか。
俺とデウの会話を聞いていた今井さんだったが、考えがまとまったようだった。
「これでロウ君……いや、ロウの言っていた『俺の兄弟を宜しくお願いします』と云うのは嘘だったと分かった。あの時は、兄弟想いの良い子だと思ったんだけどね」
『僕の目は節穴だったみたいだよ』と言って、今井さんが空笑いをする。
そんな様子を見て、言った。
「俺もそうです。まさかロウが裏切り者だとは思いませんでした。ただ、俺には子供達の"直感"とマムの"可能性"を聞いていたので、信じ切らなかっただけですよ」
……もし、サナがロウの事を『好きじゃない』と言わなかったら。
……もし、マムが『信用できない』という趣旨の事を言わなかったら。
恐らく、俺はロウの裏切りに気付いていなかっただろう。
……まあ、まだ裏切っていない可能性も残ってはいるが。
俺は、今井さんの肩をそっと抱きしめた。
が、直後『おい、俺達は向こう向いていた方が良いんじゃないか?』とか『私は、何も問題ないと思いますよ? あなたは少し過剰に反応し過ぎなのですよ』とか『はぁ?! 俺はだな、何も正巳達がここでイチャイチャするとは言ってないさ。だがな、マナーとして……』
そんな声が、それなりの音量で流れて来たので、恥ずかしくなって手を退けた。
「ま、まあ、アレですね」
「う、うん、アレだね」
正巳と今井は、意味もなく部屋中に視線を散らした後に、言った。
「「そう、子供達!」」
余りにもタイミングがピッタリと合ってしまい、それはそれで恥ずかしくなったのだが……そんな俺と今井さんの事を微笑まし気に見た先輩が言った『分かりました。そういう事にしましょうか』という言葉で、一先ずの余裕が生まれた。
その"余裕"がある間に、今井さんの様子を伺った。
『今日まで死んだと思っていた"仲間"が、実は"裏切り者"で生きている可能性が高い』と知った今井さんの心の状態が心配だったが、少なくとも今は問題なさそうだ。
ただ、心の問題は直ぐに表に出るわけでは無い。
何処かでリフレッシュできる機会を用意する必要があるだろう。
……リフレッシュと言ったら、好きな事をするのが一番だ。そう考えてみて、丁度良いリフレッシュがある事に気が付いた。
俺達が居ない6ヶ月の間、好きに予算を使って貰って"研究開発"をして貰う。
リフレッシュになって、更には俺達全体の為にもなる。
(これしかない)そう思った正巳は、そこに居た今井さんと先輩に相談する事にした。
そんな様子を見て、不思議そうにしていた今井だったが、確認するように口を開いた。
「えっと、ロウ君は車の中に居たんだよね?」
正巳が頷きながら答える。
「はい。俺が別荘の中に入った時は、そうでした」
「それで、放火された時、ロウ君の乗っていた車も燃やされたんだよね?」
マムが頷く。
「はい、マスター。車の温度計は、確かに燃焼時の温度を示していました」
「それで、ロウ君は車の中で亡くなったんだよね?」
今井さんが『ニュースで、車の中にも焼死体って流れてたし……』と呟いている。
「……マム、ニュースの焼死体って何だ?」
俺が知らない情報が出て来たので、マムに確認した。
すると……
「はい、パパ! 警察の調査資料によると、"170cm後半と見られる男性の焼死体を車両内から発見"と有ります。こちらが、ニュース番組で流れているようですね」
「それで、その死体は……」
「はい、恐らく銃殺されたうちの一人かと思われます」
マムの返事を聞いて、気分が悪くなる。
「そんな小細工の為に死体を……」
その後、マムに警察の調査資料に関して詳しく聞いたが、俺の目の前で撃ち殺された一人の死体で間違いないだろう。
そう確信したのは、マムが『"頭部は、損傷が激しく損壊が著しい"と有ります』と言った時だった。恐らく、頭部の損壊が激しいのは、『高温で焼かれたから』ではなく、『拳銃で損壊していたから』だろう。
俺とマムの会話を、静かに聞いていた今井さんだったが、途中でその不自然さに気付いたようだった。
「えっと、正巳君? ロウ君は、死んだんじゃ無いのかい?」
そう言って、不思議そうにしている今井さんに、説明する事にした。
「マムから説明があったと思いますが、ロウの乗っていた車の体調管理システムからは、ある瞬間に反応が消えました」
俺がそう言うと、今井さんは頷く。
「うん。それはマムから聞いたね」
「それでは、その反応がいつから消えていたか、聞きました?」
そう言うと、今井さんは『うん?』と、考え始めた。
そして……
「いや、聞いてないね。車が燃えたタイミングかと思ってたけど……」
そう言ってから気付いたようで、『もしかして……』と呟いている。
「そうです。ロウの反応が消えたのは、車が燃える前です。もしかすると、車から攫われたのかも知れませんが、その可能性は――」
「その可能性は、薄いだろうね。流石に、寝る時に車の鍵を閉めたはずだし、少しでも暴れれば音が少なからず漏れるだろう。……それじゃあ、ロウ君は生きているのかい?」
そう言って、こちらを見る。
……今井さんの様子と、話している内容から、ロウが"仲間"で、生きていて"嬉しい"と思っている事が分かる。今井さんにとって、一度"仲間"と認識された人は、ある程度の事が有っても"仲間"で居続ける様だ。
……危うさが有る。
何処か、祈るような表情を浮かべている今井さんに言った。
「……ロウは、恐らく生きているかと思います。そして、恐らく敵でしょう。……初めからそうであったように」
俺が言った言葉を、今井さんは反芻するように、唇の上で繰り返している。
「初めからそうであったように、生きていて、敵……?」
数秒経ってから、今井さんが帰って来た。
「……正巳君。君と、マムの共通認識を教えてくれ給え」
一先ず、内容は理解したらしい。
……納得はしていない様だが。
「分かりました」
今井さんには、説得よりも、情報の開示と認識の開示が効果的だろう。
状況と情報から、解を導き出す筈だ。
「最初に、俺はロウには"マム"と言う存在を教えていません」
「どういう事だい? マムが案内したり、指示したりした時にロウ君も居た筈だが……?」
そう、確かに居た。
俺達が、大使館から逃げ出すにはマムの力が必要不可欠だった。
マムは、今井さん達の乗るトラックをリモート操作していた。
「はい。確かに、マムがイヤホンから話すのを見ていましたし、聞いてもいました。しかし、ロウには言っていなかった事が有ります――」
俺の言葉に、今井さんが疑問符を浮かべている。
「それは、マムが人工知能であると云う事です」
そう、ロウは最後の最後、俺とサナが別荘に入った時までマムが凄腕のハッカーだと思っていた。つまり、マムが人工知能では無く、人間だと思っていたのだ。
「それって……」
「はい。別荘を徹底的に焼いたのも、俺を始末するだけでなく、別荘の"地下に居る"と思っていたハッカーを同時に始末しようとした結果だと思われます」
恐らくだが、俺が適当に答えた際に、"別荘の地下にハッカーが居る"と思い込んだのだろう。
「それで、車の体調管理システム何かも気にせずに……」
「そうですね。ハッカーさえ死んでしまえば、反応がいつ消えたかなんて知り様が無いですから。あとは、死体を用意して、車ごと燃やしてしまえば――」
「僕はニュースかなんかで『死んだ』と思い込む訳か」
俺とマムの共通認識は『ロウは生きている』と言う事と、『別荘の場所を知らせたのはロウ』と言う事だ。流石に、今の情報のみでロウが裏切ったと断定は出来ない。
しかし、その他のあらゆる情報を見ても、ほぼ全ての情報が"クロ"と言っている。唯一"クロ"と言っていない情報も、何処かで会う機会が有れば"クロ"と断定される。
……ロウが生きていれば、"クロ"で確定なのだ。
それなりに衝撃的な話だったようで、今井さんはしばらく言葉を失っていた。
そんな様子を見ながら、時刻を確認すると、既に日を跨いで一時間以上が経とうとしていた。……これ以上遅くなると、先輩達も寝てしまうだろう。
「今井さん、先輩達と話をしたいんですが」
『宜しいですか?』と聞くと、今井さんは我に返ったようだった。
「ああ、そうだね。デウ君にも話を聞いておきたいな。それで僕も結論を出すよ」
……先ほど結論を出したと思っていたのだが、どうやら未だ受け入れられていない様だった。
「分かりました。……マム、先輩達が起きてるか分かるか?」
「はい、パパ。上原さんとデウの二人が"会話"している音が拾えるので、まだ起きているかと思います。……こちらのパネルに表示しましょうか?」
パネルに表示……テレビ電話か。
「そうだな。やってくれ」
先輩達の部屋に行こうと思っていたのだが、こうして話せるのであれば問題ない。
その後少し経って、マムの『繋げますね』と言う言葉と共に、映像が表示された。
「『お、凄いな、何の機械も使わずに繋がるのか……この技術を応用して商品化すれば、それだけで莫大な利益が上げられるな……』」
パネルに、映し出されている先輩がそんな事を言っている。
……映像は綺麗なのだが、音が軽くハウリングしている。
……何と言うか、普段の先輩はもう少し低い声だ。
「……パパ、音声も調整しました!」
俺が、微妙に音を気にしたのを察したのか、マムが報告してくる。
そんなマムに『流石だな』と返してから、先輩に話しかけた。
「それで、先輩。デウの様子はどうですか?」
俺がそう聞くと、パネルの中の先輩が『ほら、こっち来いって。さっき迄、"兄に恥ずかしくない人生を送るんだ!"とか何とか言ていたじゃないか』等と言って、デウを呼び出している。
そんな様子を見て、俺は今井さんに話しかけた。
「……今井さん。デウが居るので、ロウについて聞いてみたらどうですか?」
そう言うと、今井さんは『そうだね……』と言って、一つ質問をした。
「デウ君。ロウ君には、兄弟がいたかい?」
今井さんがそう聞くと、パネルの向こうのデウは不思議そうな顔をして答えた。
「はい。確かに、デウには兄弟がいますが……?」
今井さんの質問を聞いていた正巳は、その意図が分かった。
確かに、現状確認できる情報では今井さんの質問が一つの判断基準になるだろう。
デウの答えを聞いた今井さんが、続けて質問した。
「それで、そのデウの兄弟はあの時いたかい?」
今井さんの言う"あの時"とは、デウと仲間の衛兵達が"上官に打たれた時"の事を言っているのだろう。……今井さんは少々焦っているのか、説明が足りていない。
補足しようとしたのだが、必要かった様だ。
デウが口を開いた。
「いえ、デウの兄は私の兄でもあります……それにあの場には居ませんでした」
そう言って、俯いたデウに先輩が何やら声を掛けている。
「……そうか、お前が話していた"兄"って言うのは、そいつの兄でもあったんだな」
「ええ、兄は、住んでいた一帯の兄でしたので。当然、他にも沢山弟がいますよ」
……『一帯の兄』か。
「つまり、デウ君やロウ君の兄は、血のつながりのある兄弟では無かったんだね……それで、その"兄"は今どこに居るんだい?」
「はい。私達"貧民街"の子供は、皆自分の親を知りません。ですので、兄がみんなの親でありました。……兄は、他のエリアとの勢力争いの際に亡くなりました」
……それなら?
「ちょっと良いか?」
そう言って、話しに入った。
「は、はい! 何でしょうか!」
……力が入り過ぎだ。
「ああ、いやな……デウは、俺が大使館で部屋に入った時に"上官"と一緒に居ただろう?」
「……あ、はい。そうですね、確かに私はあいつの横にいました」
デウが、拳を握っている。
「その時に、俺とデウと他に二人が部屋に入った」
「……はい。確かにそうでした。あの時は……私とリウとキウ、それにデウが居ました」
思い出しながら肯定を返して来る。
「それで、撃たれなかったロウを除いて、お前意外の二人の衛兵は亡くなった。この衛兵はどういった者達だったんだ?」
既に、ロウの兄弟は一人もいなかったと明言されている。
しかし、知らないだけでロウの兄弟だった可能性もある。
「あの場に居たデウ以外の二人……リウとキウは、二人とも娼館から捨てられた"落ち子"です。二人とも別の地区から逃げて来て、"兄"に拾われました」
「それじゃあ、ロウと"兄弟"である可能性は?」
「それは有りません。ロウの場合少し特殊で、"妾の子"と呼ばれていた富裕層落ちでしたから」
……そうだったのか。
俺とデウの会話を聞いていた今井さんだったが、考えがまとまったようだった。
「これでロウ君……いや、ロウの言っていた『俺の兄弟を宜しくお願いします』と云うのは嘘だったと分かった。あの時は、兄弟想いの良い子だと思ったんだけどね」
『僕の目は節穴だったみたいだよ』と言って、今井さんが空笑いをする。
そんな様子を見て、言った。
「俺もそうです。まさかロウが裏切り者だとは思いませんでした。ただ、俺には子供達の"直感"とマムの"可能性"を聞いていたので、信じ切らなかっただけですよ」
……もし、サナがロウの事を『好きじゃない』と言わなかったら。
……もし、マムが『信用できない』という趣旨の事を言わなかったら。
恐らく、俺はロウの裏切りに気付いていなかっただろう。
……まあ、まだ裏切っていない可能性も残ってはいるが。
俺は、今井さんの肩をそっと抱きしめた。
が、直後『おい、俺達は向こう向いていた方が良いんじゃないか?』とか『私は、何も問題ないと思いますよ? あなたは少し過剰に反応し過ぎなのですよ』とか『はぁ?! 俺はだな、何も正巳達がここでイチャイチャするとは言ってないさ。だがな、マナーとして……』
そんな声が、それなりの音量で流れて来たので、恥ずかしくなって手を退けた。
「ま、まあ、アレですね」
「う、うん、アレだね」
正巳と今井は、意味もなく部屋中に視線を散らした後に、言った。
「「そう、子供達!」」
余りにもタイミングがピッタリと合ってしまい、それはそれで恥ずかしくなったのだが……そんな俺と今井さんの事を微笑まし気に見た先輩が言った『分かりました。そういう事にしましょうか』という言葉で、一先ずの余裕が生まれた。
その"余裕"がある間に、今井さんの様子を伺った。
『今日まで死んだと思っていた"仲間"が、実は"裏切り者"で生きている可能性が高い』と知った今井さんの心の状態が心配だったが、少なくとも今は問題なさそうだ。
ただ、心の問題は直ぐに表に出るわけでは無い。
何処かでリフレッシュできる機会を用意する必要があるだろう。
……リフレッシュと言ったら、好きな事をするのが一番だ。そう考えてみて、丁度良いリフレッシュがある事に気が付いた。
俺達が居ない6ヶ月の間、好きに予算を使って貰って"研究開発"をして貰う。
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