『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
97話 休息 [資格]
胴上げされているアキラを見ながら、何となくやる事をやり切った気分になっていた。子供達にしても、目的が定まった為か、盛り上がっている。
恐らく、泊りでの”訓練”と云う事で、旅行気分なのだろう。
その旅行気分も、初日に粉々に砕かれると思うが……
何せ、ハク爺の訓練はスパルタだ。
始めは優しく丁寧に教えてくれるのだが、次第に『見て盗め』とか『想像しろ』だとか、終いには『感じるんだ!』とか言い始めて来る。
……まあ、それで何となく伝わるから、俺はハク爺の訓練に向いていたのだろう。
そんな様子を見ながらふと、自分の座るテーブルの上を見た。……俺の料理は当然だが、隣のサナまで一口も料理を食べていない事に気が付く。
「サナ、食べないのか?」
何かを我慢するかのように、膝の上で手をぎゅっと握りしめていたサナが、俺の言葉に反応した。
「おにいちゃ、サナはおにいちゃと一緒に行くなの」
……もしかすると、”サナも一緒にハク爺と訓練を受けに行く事になる”と思ったのかも知れない。それは、勘違いだ。
「サナ、別に皆がハク爺と行く訳じゃ無いんだ。 ……そうだろ?」
『そうだろ? ハクエン』と言うと、近くに来て聞いていたハクエンが、恥ずかしそうに出て来て、言った。
「はい、他の大半の子供が、ホテルの職員にお世話になる事になっています」
「ほらな……ほら?」
……『職員にお世話になる?』
「それは、どういう事だ?」
そう聞くと、ハクエンはしまった!という顔をしたが、直ぐに説明を始めた。
「実は、どうやって”自分に出来る事”で恩返しをするか、という話になった時に、そもそも”自分に出来る事”が無い子供が多い事に気付いたんです。それで……」
『それで……』と、説明をしたハクエンの話をまとめると、『其々が自分の出来る事を身に着ける為に頑張る』という結論になったらしい。
「……それは良いんだが、そもそもホテル側の承諾を得ないとだな――」
『承諾を得ないと、話が進まないぞ?』と言おうとしたのだが、またもや話を遮られた。
「それでしたら、問題ありません。ただ、こちらも”依頼”となりますが、宜しいでしょうか?」
そう言って、そこに立っていたのはザイだった。
「……ああ、頼めるか?」
そう”依頼”すると、ザイが『かしこまりました』と言って頭を下げた。
「それと、もう一つ……」
そう続けて、今井さんの方を見た。
「ふぅ、言うと思ったよ……正巳君、無茶だけはしないと約束してくれ」
今井さんの言葉に頷いて、ザイに続けた。
「……俺を”訓練”してくれ」
そう言った俺に対して、普段糸のような目を、大きく開いて見て来る。……何をしているのかと思った瞬間、首筋に”気配”を感じて、肘で払うような動作をした。
そんな俺の様子を見たザイが、一瞬口を開いたかと思ったら、再び考え込み、そして答えた。
「……分かりました」
そう言ったザイに、『ありがとう』と言おうとしたが、”依頼”であるのを思い出して、ただ頷くだけにした。
「それで、期間はどのくらいになる?」
俺の問いにザイが答える。
「はい、凡そ6ヶ月ほどで習得できるかと思います」
”習得”という言葉に、何となく違和感を感じたが、直後に会話に入って来た存在に阻まれて、確認する事が出来なかった。
そこには、デウが土下座していた。
……仮面を付けている。
「『私も、鍛えて下さい。私は、一度死んだ者です。それに、どうしても裏切ったあいつが許せないんです! お願いします!』」
そう言って、額を床に擦り付けている。
……仮面には、相互翻訳する機能が有る。
何の気なしに、仮面をつけたデウの耳に会話が聞こえてしまったのかも知れない。
それにしても、”裏切り”か……恐らく、デウが言っている”裏切り”は、上官による”裏切り”を指しているのだろう。
……後で話をする必要がありそうだ。
「……私では無く、神楽様に願われるべきかと」
そう言うとザイは、俺に促して来た。
……商売の基本を良く抑えている。
商売をする際は、”キーマン”を見つけ出すのが最初に行うべき事だ。
この場合、俺がその”キーマン”……金を出す人になる。
「お願いします、カグラ様!」
そう言って、俺に土下座しているデウに歩いて近寄った。
「おい、土下座は必要ないが、後で俺にも話を聞かせて貰うぞ?」
そう言うと、デウは一瞬戸惑ったが『分かりました』と言って来た。
……ここでは、子供達が見ている。
大人が土下座する様子など、子供の情操教育に良くないだろう。
……いや、これまでそれ以上の経験をして来たとしていても、これ迄はこれ迄。これから先は変わっていなくてはならないのだ。
「さあ、立て。俺と一緒に行くんだろう?」
そう言った俺を一瞬呆けた顔で見た後、『あ、ありがとうございます!』と言って、俺の事を持ち上げて、抱きしめて来た。
「……」
少しの間は我慢していたが、流石にゴツゴツした男に抱きしめられても、嬉しくとも何ともない。流石に、『下ろしてくれ』と言おうと思ったのだが……
「お兄ちゃんを離すなの!」
と言って、デウを締め上げる子供がいた。
「……大丈夫だ。ありがとうな、サナ」
そう言って、デウを締め上げていたサナにお礼を言ったのだが……
「大丈夫なの! サナも”くんれん”に行くなの!」
と、爆弾発言をした。
そんなサナに対して、『えっとな、さな……』と切り出したのだが、『ダメなの?』と言って、上目遣いで見つめて来た。
確かにさっき、そんな事を言っていたが……
「……そうだな、それじゃあザイから見て、”合格”だったら、一緒に行こう」
そう言って、ザイに目を向けた。……決して丸投げした訳ではない。
そんなやり取りを見ていたザイは、一つ『承知しました』と答えた。
そして、同じように目を閉じたのだが……
直後、体が震える様な悪寒が走った。
”悪寒”と言っても、脅威に感じるほどではないが……
「……ご、合格です」
……いつの間にか、半歩下がっていたザイが、そう言って来た。
「……まあ、良いか」
悪寒の原因は分からなかったが、ザイが『合格』と言ったのだ。大丈夫だろう。
『良いか』と言った瞬間、サナが『ヤッター』としがみ付いて来た。
そんなサナを少しの間撫でた後、そこに留まっていたザイに声を掛けた。
ザイに対して『見積書を出して貰えるか? 先に振り込む』と言っていた正巳は、悪寒が走った瞬間に構えた”ホテルマン達”と、臨戦態勢に入った一人の傭兵の様子に気付く事はなかった。
服の下で、冷や汗が止まらない傭兵は一人、『恐ろしいわっぱが居たもんじゃ』と呟いていた。
――
ザイと、金銭的な話を済ませた後、再びテーブルに戻った正巳は、マムが背もたれに腰掛けたまま”落ちている”のに気が付いた。
……恐らく、稼働限界時間を超えたのだろう。
既に、宴会が始まってから二時間以上経過している。
「……部屋に戻ったら話そうな」
そう言って、給仕の女性が持って来てくれた毛布を肩にかけておいた。
……マムが寒いと感じる事は無いが、こう言うのは気持ちなのだ。
マムに布をかけた後で、サナの方を見ると、ちょこんと座って、目の前の”料理”を食べ始めていた。……余程お腹が空いていたのか、物凄い勢いだ。
勢いよく食べているサナに、『足りなかったら、俺のも食べて良いぞ?』と言って、今日決まった事を一度整理する事にした。
【子供達】(820名)
・テン、アキラ、ハクエン含め約300名がハク爺と5ヶ月間の訓練。
・他の子供達は、ホテル職員から訓練……一般教養等だろうか。
・サナは俺と一緒に6か月間訓練へ行く……相当過酷だと思われる。
【デウ】
・俺と、サナと一緒に6か月間の訓練に行く。
【決まっていない】
・今井さん……恐らく、研究や開発に籠るのだろう。
・上原先輩……場合によっては、俺と来るか……
今井さんと上原先輩とは、この後一度話そうと思っていた。
そのタイミングで話をすれば良いだろう。
それより、今は”宴会”だ。
顔を上げると、サナに『好きな物を、程々に食べるんだぞ?』と言い、今井さんと先輩には『後で部屋で話しましょう』と言って、テーブルを立った。
折角、ここには共に戦った”友達”が居るのだ。
残りの時間は、ホテルマン達と飲む事にした。
……当然、子供達には『眠くなったら、会場後方の布団に入る様に!』と伝えておくのを忘れなかった。
その後、3時間余りに渡って飲み渡った正巳だったが、幾ら酒を飲んでも、全く酔っぱらう気配が無かった。……酒の入ったホテルマン達は、ほんの少しだけ口が緩くなり、ジュウとの思い出話を色々と話してくれた。
如何やら、亡くなった者達は、”退職”した事になっている様だったが、その事に関して俺が突っ込む事は無かった。一杯だけ、ザイにも付き合って貰った。
そんな風に、楽しく友たちと過ごしていた。
夜が頂点に達した頃、殆ど全ての子供達が寝てしまったのでお開きとなった。
結局、ただ一人”ユミル”だけが最後まで、その場に姿を現す事は無かった。
恐らく、泊りでの”訓練”と云う事で、旅行気分なのだろう。
その旅行気分も、初日に粉々に砕かれると思うが……
何せ、ハク爺の訓練はスパルタだ。
始めは優しく丁寧に教えてくれるのだが、次第に『見て盗め』とか『想像しろ』だとか、終いには『感じるんだ!』とか言い始めて来る。
……まあ、それで何となく伝わるから、俺はハク爺の訓練に向いていたのだろう。
そんな様子を見ながらふと、自分の座るテーブルの上を見た。……俺の料理は当然だが、隣のサナまで一口も料理を食べていない事に気が付く。
「サナ、食べないのか?」
何かを我慢するかのように、膝の上で手をぎゅっと握りしめていたサナが、俺の言葉に反応した。
「おにいちゃ、サナはおにいちゃと一緒に行くなの」
……もしかすると、”サナも一緒にハク爺と訓練を受けに行く事になる”と思ったのかも知れない。それは、勘違いだ。
「サナ、別に皆がハク爺と行く訳じゃ無いんだ。 ……そうだろ?」
『そうだろ? ハクエン』と言うと、近くに来て聞いていたハクエンが、恥ずかしそうに出て来て、言った。
「はい、他の大半の子供が、ホテルの職員にお世話になる事になっています」
「ほらな……ほら?」
……『職員にお世話になる?』
「それは、どういう事だ?」
そう聞くと、ハクエンはしまった!という顔をしたが、直ぐに説明を始めた。
「実は、どうやって”自分に出来る事”で恩返しをするか、という話になった時に、そもそも”自分に出来る事”が無い子供が多い事に気付いたんです。それで……」
『それで……』と、説明をしたハクエンの話をまとめると、『其々が自分の出来る事を身に着ける為に頑張る』という結論になったらしい。
「……それは良いんだが、そもそもホテル側の承諾を得ないとだな――」
『承諾を得ないと、話が進まないぞ?』と言おうとしたのだが、またもや話を遮られた。
「それでしたら、問題ありません。ただ、こちらも”依頼”となりますが、宜しいでしょうか?」
そう言って、そこに立っていたのはザイだった。
「……ああ、頼めるか?」
そう”依頼”すると、ザイが『かしこまりました』と言って頭を下げた。
「それと、もう一つ……」
そう続けて、今井さんの方を見た。
「ふぅ、言うと思ったよ……正巳君、無茶だけはしないと約束してくれ」
今井さんの言葉に頷いて、ザイに続けた。
「……俺を”訓練”してくれ」
そう言った俺に対して、普段糸のような目を、大きく開いて見て来る。……何をしているのかと思った瞬間、首筋に”気配”を感じて、肘で払うような動作をした。
そんな俺の様子を見たザイが、一瞬口を開いたかと思ったら、再び考え込み、そして答えた。
「……分かりました」
そう言ったザイに、『ありがとう』と言おうとしたが、”依頼”であるのを思い出して、ただ頷くだけにした。
「それで、期間はどのくらいになる?」
俺の問いにザイが答える。
「はい、凡そ6ヶ月ほどで習得できるかと思います」
”習得”という言葉に、何となく違和感を感じたが、直後に会話に入って来た存在に阻まれて、確認する事が出来なかった。
そこには、デウが土下座していた。
……仮面を付けている。
「『私も、鍛えて下さい。私は、一度死んだ者です。それに、どうしても裏切ったあいつが許せないんです! お願いします!』」
そう言って、額を床に擦り付けている。
……仮面には、相互翻訳する機能が有る。
何の気なしに、仮面をつけたデウの耳に会話が聞こえてしまったのかも知れない。
それにしても、”裏切り”か……恐らく、デウが言っている”裏切り”は、上官による”裏切り”を指しているのだろう。
……後で話をする必要がありそうだ。
「……私では無く、神楽様に願われるべきかと」
そう言うとザイは、俺に促して来た。
……商売の基本を良く抑えている。
商売をする際は、”キーマン”を見つけ出すのが最初に行うべき事だ。
この場合、俺がその”キーマン”……金を出す人になる。
「お願いします、カグラ様!」
そう言って、俺に土下座しているデウに歩いて近寄った。
「おい、土下座は必要ないが、後で俺にも話を聞かせて貰うぞ?」
そう言うと、デウは一瞬戸惑ったが『分かりました』と言って来た。
……ここでは、子供達が見ている。
大人が土下座する様子など、子供の情操教育に良くないだろう。
……いや、これまでそれ以上の経験をして来たとしていても、これ迄はこれ迄。これから先は変わっていなくてはならないのだ。
「さあ、立て。俺と一緒に行くんだろう?」
そう言った俺を一瞬呆けた顔で見た後、『あ、ありがとうございます!』と言って、俺の事を持ち上げて、抱きしめて来た。
「……」
少しの間は我慢していたが、流石にゴツゴツした男に抱きしめられても、嬉しくとも何ともない。流石に、『下ろしてくれ』と言おうと思ったのだが……
「お兄ちゃんを離すなの!」
と言って、デウを締め上げる子供がいた。
「……大丈夫だ。ありがとうな、サナ」
そう言って、デウを締め上げていたサナにお礼を言ったのだが……
「大丈夫なの! サナも”くんれん”に行くなの!」
と、爆弾発言をした。
そんなサナに対して、『えっとな、さな……』と切り出したのだが、『ダメなの?』と言って、上目遣いで見つめて来た。
確かにさっき、そんな事を言っていたが……
「……そうだな、それじゃあザイから見て、”合格”だったら、一緒に行こう」
そう言って、ザイに目を向けた。……決して丸投げした訳ではない。
そんなやり取りを見ていたザイは、一つ『承知しました』と答えた。
そして、同じように目を閉じたのだが……
直後、体が震える様な悪寒が走った。
”悪寒”と言っても、脅威に感じるほどではないが……
「……ご、合格です」
……いつの間にか、半歩下がっていたザイが、そう言って来た。
「……まあ、良いか」
悪寒の原因は分からなかったが、ザイが『合格』と言ったのだ。大丈夫だろう。
『良いか』と言った瞬間、サナが『ヤッター』としがみ付いて来た。
そんなサナを少しの間撫でた後、そこに留まっていたザイに声を掛けた。
ザイに対して『見積書を出して貰えるか? 先に振り込む』と言っていた正巳は、悪寒が走った瞬間に構えた”ホテルマン達”と、臨戦態勢に入った一人の傭兵の様子に気付く事はなかった。
服の下で、冷や汗が止まらない傭兵は一人、『恐ろしいわっぱが居たもんじゃ』と呟いていた。
――
ザイと、金銭的な話を済ませた後、再びテーブルに戻った正巳は、マムが背もたれに腰掛けたまま”落ちている”のに気が付いた。
……恐らく、稼働限界時間を超えたのだろう。
既に、宴会が始まってから二時間以上経過している。
「……部屋に戻ったら話そうな」
そう言って、給仕の女性が持って来てくれた毛布を肩にかけておいた。
……マムが寒いと感じる事は無いが、こう言うのは気持ちなのだ。
マムに布をかけた後で、サナの方を見ると、ちょこんと座って、目の前の”料理”を食べ始めていた。……余程お腹が空いていたのか、物凄い勢いだ。
勢いよく食べているサナに、『足りなかったら、俺のも食べて良いぞ?』と言って、今日決まった事を一度整理する事にした。
【子供達】(820名)
・テン、アキラ、ハクエン含め約300名がハク爺と5ヶ月間の訓練。
・他の子供達は、ホテル職員から訓練……一般教養等だろうか。
・サナは俺と一緒に6か月間訓練へ行く……相当過酷だと思われる。
【デウ】
・俺と、サナと一緒に6か月間の訓練に行く。
【決まっていない】
・今井さん……恐らく、研究や開発に籠るのだろう。
・上原先輩……場合によっては、俺と来るか……
今井さんと上原先輩とは、この後一度話そうと思っていた。
そのタイミングで話をすれば良いだろう。
それより、今は”宴会”だ。
顔を上げると、サナに『好きな物を、程々に食べるんだぞ?』と言い、今井さんと先輩には『後で部屋で話しましょう』と言って、テーブルを立った。
折角、ここには共に戦った”友達”が居るのだ。
残りの時間は、ホテルマン達と飲む事にした。
……当然、子供達には『眠くなったら、会場後方の布団に入る様に!』と伝えておくのを忘れなかった。
その後、3時間余りに渡って飲み渡った正巳だったが、幾ら酒を飲んでも、全く酔っぱらう気配が無かった。……酒の入ったホテルマン達は、ほんの少しだけ口が緩くなり、ジュウとの思い出話を色々と話してくれた。
如何やら、亡くなった者達は、”退職”した事になっている様だったが、その事に関して俺が突っ込む事は無かった。一杯だけ、ザイにも付き合って貰った。
そんな風に、楽しく友たちと過ごしていた。
夜が頂点に達した頃、殆ど全ての子供達が寝てしまったのでお開きとなった。
結局、ただ一人”ユミル”だけが最後まで、その場に姿を現す事は無かった。
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