『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
76話 帰還 [研究室]
研究室に向かっている途中、これから取り掛かる事について考えていた。
研究室では、マムがもう一本のロボットアームに加えて、3Dプリンターを組み立てている筈だ。
この3Dプリンターは、既存のモノをブラッシュアップし設計したモノで、”CPU”……人間で言う”脳みそ”はマムだ。
設計の段階では最高水準……いや、数世代先の性能で、ミクロン単位で正確にプリント出来、使用する資材毎に適切に処理を行うため、対応する資材に制限はない。
これを使って、プリントを行い、必要な部材を更に揃えて行く。
部材に関しては、これ以上ない位の……世界最高峰の物が揃えられるだろう。
後は、負傷して寝ている、上原君と二人の衛兵の治療だ。
治療に必要な技術は、既に得ている。
あとは、必要な化学薬品や必要な遺伝子情報だが、遺伝子情報に関しては細胞単位の雑多な状態で構わない。
遺伝子情報の内、目的の遺伝子……力が強い、治癒が早い等必要としている特徴を持つ遺伝子を”有用遺伝子”と言う。遺伝子操作を行う場合、この”有用遺伝子”が必須になるが、これを取り出す設備は、ホテルにある。
……何でここで遺伝子の話になるかと言うと、以前マムと上原君の治療方法について話しをした際、『生物において遺伝子を組み合わせる研究結果があり、実験データもある』と聞いたからだ。
そこで、元々考えていた、”治癒”の最先端と、学界でも半ば禁忌とされている生物の遺伝子操作を併せて、施術する事にしたのだ。
元より、”治癒”は元々持つ細胞に働きかける行為だ。その為、欠損した場合は、そのまま傷が塞がり、失われた機能は失われたままになる。
上原君は『腹部を数か所、左足及び左手首』を欠損している。このまま”治癒”をすると、下手をすると腹部の臓器を失う。それに、左足及び左手を失うのは確実だ。
これを回避するのであれば、欠損部位の移植が必要になる。
しかし、多くの場合移植時に拒絶反応が起こるのだ。
何故拒絶反応が起こるのかと言うと、異物が同化しようとしているからで、”異物”が体内を汚染、もしくは破壊するのを防ぐ生体反応だ。
これは、生物の持つ防衛機能としては当然の反応で、生命を守る生体反応なのだが……今回は、その防衛機能が邪魔なのだ。
そんな、防衛機能……拒絶反応を起こさなくするには、同化部位を操作して、拒絶反応を操作すれば良い。簡単な話、”自分と同じ存在”と認識させれば良いのだ。
……まあ、これが基本的な考え方なのだが。
……そんなに甘くない。
一部を変えただけで、元々違う部位をくっつけて、それまでと同様に動かせるはずは無いのだ。
……だから、”全部”を変えてしまう。
”受け入れる性質を持つ細胞”と言うか、”取り込む性質を持つ細胞”と言うか……
研究データと現象を確認した限り、”捕食して取り込む細胞”が近いかも知れない。
何はともあれ、受け入れる側が変わるのだ。
”変わる”と言うと、想像しにくいが、要は体の再構築だ。
方法は単純。
『変異薬』を注入した後で『情報』を取り込ませる。
『変異薬』と同時に『情報』を入れても良い。
取り込んだ変異薬が、生物の体全体に行き渡り、取り込んだ情報と細胞を結合する。この際、細胞全体が”拒絶しない状態”になっている。
この状態を利用して、欠損部位の移植を行うのだ。
……これが行おうとしている”治療”だが、研究データでは多くの場合、余りの苦痛に被験者が自殺したり、耐え切れずに廃人化したりしていた。
……少量ずつ適合させていく実験データがあり、投薬量に応じてLvが振られていたのだが……大半が、Lv5の投薬で死亡していた。
ただ、これは意識覚醒状態での結果であり、無意識下で行った実験では、”投薬直後”に死亡した例が無かった。
ただ、意識覚醒後にショック死する件例が多かったので、恐らく、無意識下では痛みを伝える信号が流れず、意識が覚醒した瞬間に”痛み”が伝わるのだろうが……
まぁ、上原君なら大丈夫だろう。
……それに、痛みの信号が流れる際に、もっと強い信号を流してしまえば……
まぁ、大丈夫だろう。
そこら辺は、マムに”いい感じの”信号が流れる様に調整してもらう予定だ。
と、ここまでは”実際に行おうとしている”治療に関しての事だ。
”行わない事に決めた”治療もある。
それは、欠損部位のクローンを作って移植する治療だ。
……よく知られているのは、ES細胞やiPS細胞だろう。
これらの技術を使って”拒絶のない部位”を作れば、拒絶反応のを起こさずに欠損部位の治療が出来る。
実際に、各国の研究機関から入手した研究成果を応用する事で、容易に出来るだろう。
それでは、なぜしないか。
それは単純な事で、設備が無いからだ。
……細胞を培養するには、完全な無菌室及び一定に保たれた湿度、温度などが最低条件だ。ここでは不可能なのだ。
それに、”元の体と同じ部位”を作るのでは、”元に戻るだけ”で、それほど旨味が……
折角、実験するに丁度良い材料が集まっているのだ。
実験せずにはいられない。
……最も、人体実験する為とは大ぴらに言える事ではないが。
――
研究室に戻ると、2本の腕が機敏に動いていた。
……腕は箱型の装置に付いているので、側から見ると箱から生えた腕がウニョウニョと動いているようにも見える。若干気持ち悪いが、その性能は確かなのだろう。
既に、3Dプリンターが組み上がっていて、その横には、巨大なパネルが設置されている。……恐らく”自立型パネル”だろう。
自立して移動するパネルで、小さな長方形のパネルが集合して出来て居る。移動の際は、形が変形し、箱型になったり、薄い板状になったりが可能だ。
他にも、幾つか出来上がったものがある。
仮面の様な物から、手袋、コート、腕時計の様な形のブレスレット。それに、中身の入った試験官やら注射器のセットされた簡易器具……
そんな、”完成品”を見ながら、話しかけた。
「マム、状況はどうだい?」
そう聞くと、尻尾の生えた幼女が嬉しそうに答える。
「マスター! 微調整が終わったので、マムの身体を作ろうかなと!」
「そっか、それは上々じゃないか」
『はい!』と答えるマムの様子を見ながら、本題に入った。
「それでね、今日は”治癒”をしたいんだ……この前話した時の方法で」
「ボス吉と同じ方法ですか。一応、被験者もいて、データも有るので可能ですが……宜しいのですか? その、パパに確認しなくても……」
「まだ正巳君は見つかっていないんだ……」
マムがしょんぼりとする。
「……ただ、さっき救出隊が出発したから、程なく見つかるはずだよ」
そう言うと、マムが一人呟き始めた。
「マムが近くに居れば……それに、パパが”道具”さえ持っていれば……」
……すっかり人間らしくなってしまった。
最近では、サナくんや他の子供達に対しての配慮も見える。
……それが”表面的”であったとしても、”成長”と言えるだろう。
「仕方ないさ、僕達は”今は”待つ事しか出来ない」
「そうですね、マスター……その為にも、救出隊には”死んでも”パパを見つけて貰わないといけませんね! はい!」
……僕と正巳君に対しては、根本的には変わっていないのかも知れない。元々、僕らに対しては、半ば全肯定。正巳君に対しては、親愛度というバロメーターがあれば200%、いや300%かも知れない。……要は、”絶対”なのだ。
……僕も、研究となると普通の人とは違った、少しユニークな判断をしてしまう事が有る。しかし、マムは根本的には0か1で判断する。半分づつ判断を分けるなど無い。
もし、正巳君に何かあったら、マムがどんな行動に出るのか、正巳君に続いて僕が居なくなったらどんな行動に出るか分からない。
マムにとっては、正巳君が無事帰って来ることが、全てに優先される事なのだろう……
「……それで、正巳君が帰って来た時に、如何なっていたら喜ぶと思う?」
「はい! マスター!」
はい!はい!と手を挙げて、はしゃいでいる……
「はい、マムくん!」
「マムの身体が出来ていると喜ぶと思うのです!」
ふふんっ!とばかりに、腰に手を当てて、得意げに答えるマム。
「……そうだね、それも喜ぶだろう」
「です! ……これでようやく、あの女狐にパパを盗られる事が無いのです……」
……女狐?
……それって、僕の事じゃないよね?
「ゴホン……マム、その狐さんは、誰の事だい?」
少し緊張しながら、恐る恐るマムに聞いた。
すると……
「はい! サナぁーの事です! ……普通の人間よりも丈夫なので、パパの側にいる可能性が高くなる気がするのです!」
サナくんか……少しホッとした。
が、確かに”今”は幼女でも、将来に渡って幼女な訳では無い……
「サナくんは被験体だし、子供達の中でも飛びぬけた量の投薬をされているからね……」
「痛みに対する耐性もですが、強い感情があると精神が壊れないようですが……」
そう、サナ達……大使館から救い出した子供達は被験者だ。
それに、最近知ったのだが、ネコ君は大使館に潜入した際に施術(人間に施術した場合は合成人間、人間以外に施術した場合は合成生物)していたらしい。マムの話では、ネコ君自身が望んだとの話だったが……
「それでだね、今日は正巳君の先輩と、二人の衛兵、ボス吉の治療をしようと思うんだ」
「はい! マムの身体の次にパパが喜ぶ事です!」
……その言い回しは、色々と問題だとは思う。
「そうだね。ただ、マムの身体と違って、人間の身体は動かしていないと、リハビリが必要なんだ。だから、先に取り掛かりたいんだけど、どうかな?」
風邪で寝込んでいた人間が、治ったその日に40キロ走れるわけでは無い。マムの身体は、出来た瞬間に100キロでも、200キロでも、壊れるまで走り続けるだろうが……
数舜考え込んだマムが、答える。
「……分かりました、マスター! その方が、”パパが喜びます”ね!」
うんうんと頷きながら、言うマムを見ながら、心の中で『正巳君、絶対に、無事で帰って来てくれ……放っておくと、その内人間社会を壊しにかかりそうだよ……』と不安になったのだった。
研究室では、マムがもう一本のロボットアームに加えて、3Dプリンターを組み立てている筈だ。
この3Dプリンターは、既存のモノをブラッシュアップし設計したモノで、”CPU”……人間で言う”脳みそ”はマムだ。
設計の段階では最高水準……いや、数世代先の性能で、ミクロン単位で正確にプリント出来、使用する資材毎に適切に処理を行うため、対応する資材に制限はない。
これを使って、プリントを行い、必要な部材を更に揃えて行く。
部材に関しては、これ以上ない位の……世界最高峰の物が揃えられるだろう。
後は、負傷して寝ている、上原君と二人の衛兵の治療だ。
治療に必要な技術は、既に得ている。
あとは、必要な化学薬品や必要な遺伝子情報だが、遺伝子情報に関しては細胞単位の雑多な状態で構わない。
遺伝子情報の内、目的の遺伝子……力が強い、治癒が早い等必要としている特徴を持つ遺伝子を”有用遺伝子”と言う。遺伝子操作を行う場合、この”有用遺伝子”が必須になるが、これを取り出す設備は、ホテルにある。
……何でここで遺伝子の話になるかと言うと、以前マムと上原君の治療方法について話しをした際、『生物において遺伝子を組み合わせる研究結果があり、実験データもある』と聞いたからだ。
そこで、元々考えていた、”治癒”の最先端と、学界でも半ば禁忌とされている生物の遺伝子操作を併せて、施術する事にしたのだ。
元より、”治癒”は元々持つ細胞に働きかける行為だ。その為、欠損した場合は、そのまま傷が塞がり、失われた機能は失われたままになる。
上原君は『腹部を数か所、左足及び左手首』を欠損している。このまま”治癒”をすると、下手をすると腹部の臓器を失う。それに、左足及び左手を失うのは確実だ。
これを回避するのであれば、欠損部位の移植が必要になる。
しかし、多くの場合移植時に拒絶反応が起こるのだ。
何故拒絶反応が起こるのかと言うと、異物が同化しようとしているからで、”異物”が体内を汚染、もしくは破壊するのを防ぐ生体反応だ。
これは、生物の持つ防衛機能としては当然の反応で、生命を守る生体反応なのだが……今回は、その防衛機能が邪魔なのだ。
そんな、防衛機能……拒絶反応を起こさなくするには、同化部位を操作して、拒絶反応を操作すれば良い。簡単な話、”自分と同じ存在”と認識させれば良いのだ。
……まあ、これが基本的な考え方なのだが。
……そんなに甘くない。
一部を変えただけで、元々違う部位をくっつけて、それまでと同様に動かせるはずは無いのだ。
……だから、”全部”を変えてしまう。
”受け入れる性質を持つ細胞”と言うか、”取り込む性質を持つ細胞”と言うか……
研究データと現象を確認した限り、”捕食して取り込む細胞”が近いかも知れない。
何はともあれ、受け入れる側が変わるのだ。
”変わる”と言うと、想像しにくいが、要は体の再構築だ。
方法は単純。
『変異薬』を注入した後で『情報』を取り込ませる。
『変異薬』と同時に『情報』を入れても良い。
取り込んだ変異薬が、生物の体全体に行き渡り、取り込んだ情報と細胞を結合する。この際、細胞全体が”拒絶しない状態”になっている。
この状態を利用して、欠損部位の移植を行うのだ。
……これが行おうとしている”治療”だが、研究データでは多くの場合、余りの苦痛に被験者が自殺したり、耐え切れずに廃人化したりしていた。
……少量ずつ適合させていく実験データがあり、投薬量に応じてLvが振られていたのだが……大半が、Lv5の投薬で死亡していた。
ただ、これは意識覚醒状態での結果であり、無意識下で行った実験では、”投薬直後”に死亡した例が無かった。
ただ、意識覚醒後にショック死する件例が多かったので、恐らく、無意識下では痛みを伝える信号が流れず、意識が覚醒した瞬間に”痛み”が伝わるのだろうが……
まぁ、上原君なら大丈夫だろう。
……それに、痛みの信号が流れる際に、もっと強い信号を流してしまえば……
まぁ、大丈夫だろう。
そこら辺は、マムに”いい感じの”信号が流れる様に調整してもらう予定だ。
と、ここまでは”実際に行おうとしている”治療に関しての事だ。
”行わない事に決めた”治療もある。
それは、欠損部位のクローンを作って移植する治療だ。
……よく知られているのは、ES細胞やiPS細胞だろう。
これらの技術を使って”拒絶のない部位”を作れば、拒絶反応のを起こさずに欠損部位の治療が出来る。
実際に、各国の研究機関から入手した研究成果を応用する事で、容易に出来るだろう。
それでは、なぜしないか。
それは単純な事で、設備が無いからだ。
……細胞を培養するには、完全な無菌室及び一定に保たれた湿度、温度などが最低条件だ。ここでは不可能なのだ。
それに、”元の体と同じ部位”を作るのでは、”元に戻るだけ”で、それほど旨味が……
折角、実験するに丁度良い材料が集まっているのだ。
実験せずにはいられない。
……最も、人体実験する為とは大ぴらに言える事ではないが。
――
研究室に戻ると、2本の腕が機敏に動いていた。
……腕は箱型の装置に付いているので、側から見ると箱から生えた腕がウニョウニョと動いているようにも見える。若干気持ち悪いが、その性能は確かなのだろう。
既に、3Dプリンターが組み上がっていて、その横には、巨大なパネルが設置されている。……恐らく”自立型パネル”だろう。
自立して移動するパネルで、小さな長方形のパネルが集合して出来て居る。移動の際は、形が変形し、箱型になったり、薄い板状になったりが可能だ。
他にも、幾つか出来上がったものがある。
仮面の様な物から、手袋、コート、腕時計の様な形のブレスレット。それに、中身の入った試験官やら注射器のセットされた簡易器具……
そんな、”完成品”を見ながら、話しかけた。
「マム、状況はどうだい?」
そう聞くと、尻尾の生えた幼女が嬉しそうに答える。
「マスター! 微調整が終わったので、マムの身体を作ろうかなと!」
「そっか、それは上々じゃないか」
『はい!』と答えるマムの様子を見ながら、本題に入った。
「それでね、今日は”治癒”をしたいんだ……この前話した時の方法で」
「ボス吉と同じ方法ですか。一応、被験者もいて、データも有るので可能ですが……宜しいのですか? その、パパに確認しなくても……」
「まだ正巳君は見つかっていないんだ……」
マムがしょんぼりとする。
「……ただ、さっき救出隊が出発したから、程なく見つかるはずだよ」
そう言うと、マムが一人呟き始めた。
「マムが近くに居れば……それに、パパが”道具”さえ持っていれば……」
……すっかり人間らしくなってしまった。
最近では、サナくんや他の子供達に対しての配慮も見える。
……それが”表面的”であったとしても、”成長”と言えるだろう。
「仕方ないさ、僕達は”今は”待つ事しか出来ない」
「そうですね、マスター……その為にも、救出隊には”死んでも”パパを見つけて貰わないといけませんね! はい!」
……僕と正巳君に対しては、根本的には変わっていないのかも知れない。元々、僕らに対しては、半ば全肯定。正巳君に対しては、親愛度というバロメーターがあれば200%、いや300%かも知れない。……要は、”絶対”なのだ。
……僕も、研究となると普通の人とは違った、少しユニークな判断をしてしまう事が有る。しかし、マムは根本的には0か1で判断する。半分づつ判断を分けるなど無い。
もし、正巳君に何かあったら、マムがどんな行動に出るのか、正巳君に続いて僕が居なくなったらどんな行動に出るか分からない。
マムにとっては、正巳君が無事帰って来ることが、全てに優先される事なのだろう……
「……それで、正巳君が帰って来た時に、如何なっていたら喜ぶと思う?」
「はい! マスター!」
はい!はい!と手を挙げて、はしゃいでいる……
「はい、マムくん!」
「マムの身体が出来ていると喜ぶと思うのです!」
ふふんっ!とばかりに、腰に手を当てて、得意げに答えるマム。
「……そうだね、それも喜ぶだろう」
「です! ……これでようやく、あの女狐にパパを盗られる事が無いのです……」
……女狐?
……それって、僕の事じゃないよね?
「ゴホン……マム、その狐さんは、誰の事だい?」
少し緊張しながら、恐る恐るマムに聞いた。
すると……
「はい! サナぁーの事です! ……普通の人間よりも丈夫なので、パパの側にいる可能性が高くなる気がするのです!」
サナくんか……少しホッとした。
が、確かに”今”は幼女でも、将来に渡って幼女な訳では無い……
「サナくんは被験体だし、子供達の中でも飛びぬけた量の投薬をされているからね……」
「痛みに対する耐性もですが、強い感情があると精神が壊れないようですが……」
そう、サナ達……大使館から救い出した子供達は被験者だ。
それに、最近知ったのだが、ネコ君は大使館に潜入した際に施術(人間に施術した場合は合成人間、人間以外に施術した場合は合成生物)していたらしい。マムの話では、ネコ君自身が望んだとの話だったが……
「それでだね、今日は正巳君の先輩と、二人の衛兵、ボス吉の治療をしようと思うんだ」
「はい! マムの身体の次にパパが喜ぶ事です!」
……その言い回しは、色々と問題だとは思う。
「そうだね。ただ、マムの身体と違って、人間の身体は動かしていないと、リハビリが必要なんだ。だから、先に取り掛かりたいんだけど、どうかな?」
風邪で寝込んでいた人間が、治ったその日に40キロ走れるわけでは無い。マムの身体は、出来た瞬間に100キロでも、200キロでも、壊れるまで走り続けるだろうが……
数舜考え込んだマムが、答える。
「……分かりました、マスター! その方が、”パパが喜びます”ね!」
うんうんと頷きながら、言うマムを見ながら、心の中で『正巳君、絶対に、無事で帰って来てくれ……放っておくと、その内人間社会を壊しにかかりそうだよ……』と不安になったのだった。
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